あれ)” の例文
「一体あれは将来何になるつもりなんでせう。私はそんなことは関はないんですが、いつまであゝやつてゐたつて仕方がないでせう。」
夏ちかきころ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
あれが修業に出た時分は、旦那さんも私もやはり東京に居た頃で、丁度一年ばかり一緒に暮したが……あの頃は、お前、まだ彼が鼻洟はな
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「さればにてさふらふ別段べつだんこれまをしてきみすゝたてまつるほどのものもさふらはねど不圖ふと思附おもひつきたるは飼鳥かひどりさふらふあれあそばして御覽候ごらんさふらへ」といふ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかし日暮しの時には、先生は少し首をかたむけて、いやあれは以太利じゃない、どうも以太利では聞いた事がないように思うと云われた。
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしは、初めに虚偽いつわりを申しました。ほんとうに罪深い女でございます。あれに悪い手本を見せたのは、このわたしでございます。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
小僧「だからあれはいけないと云うので、危険けんのんな奴ですよ、強請言ねだりごとばかり云ってましたから、お嬢さんが勾引かどわかされるといけませんぜ」
「さらばぢや、ステツィコ! カテリーナに坊やを見棄てるなと言つて呉れい! お前たち、忠義な家来たちもあれを見棄てないで呉れ!」
あれはペンキだからなかなか取れやしない。新聞というものは当局者という字と無責任という字を無暗と一緒に使いたがるものだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「それにしても可哀そうな女です。あれ自身も思い設けない結果になってしまって——。」と、芳村はまだ女の心持をあわれんでいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あれや是と思出が幻のやうに胸に閃く。彼は其を心につかまへて置いて、じツと見詰めて見るだけのゆとりとてもなかツた……、閃めき行くまヽだ。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
あれはあの悲鳴を聞いた時には、今少しで気絶しそうでしたよ、先生。ちょっと舵を動かしてやれば、あの男は我々の味方になりましょう。」
あれもそれ中途ちうと盲目めくらつたんだから、それまでにはたらいて身體からだ成熟できてるしおめえもつてるとほりあんで仕事しごと出來できるしするもんだから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もう一、二年経つとあれと一緒にする筈になっているんです。そういう者がありながら、そんな不埒なことをするような良次郎じゃございません。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あれ叡山えいざんです。彼が比良です。彼処あすこう少し湖水に出っぱった所に青黒あおぐろいものが見えましょう——彼が唐崎からさきの松です」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ここでまだかえらない男の上を案じている主人に番頭が「使いに出すと永いのがあれの癖で」と讒訴を上げているのは
「面倒な駆引は抜きにして、早速承りますが、手前どもの八五郎という男——鈴売りに身をやつして参ったはずでございますが、あれはどうなりました」
主人「それは随分今でも好い口が出て急にくれろというならあれのためだから僕の不便を忍んで遣らないとは限らん。 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
聞こゆるのはこういう声だけだった、「ああ、あれは帰ってこないが!」ただ時々遠くに馬車の音がするきりだった。
『それはジルベールから来た手紙で明かです。あれは私だけを頼りにしています。自分を救い出すものは私よりほかにいないと信じています。この手紙です』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
千代ちいちやんあれなん学校がくかう御朋友おともだち随分ずゐぶん乱暴らんばう連中れんぢうだなアとあきれて見送みおく良之助りやうのすけより低頭うつむくお千代ちよ赧然はなじろめり
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あれが一人の母のことは彼さへ居ねば我夫にも話して扶助たすくるに厭は云はせまじく、また厭といふやうな分らぬことを云ひも仕ますまいなれば掛念はなけれど
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「あるだろう、無いことはない、私の考えでは、あれがお前さんをかまわないと思うが、そうじゃないかね」
藍微塵の衣服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「だんないわい、虫が好くのや、あれが喫むのでなうて、腹の虫が喫むのや。線香を食うたり、壁土や泥土ごろたかぢる子があるもんやが、それと同じこつちや。病や。」
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
目に見ゆるものそのままが成仏じょうぶつの姿で、人間の職業などに何の甲乙があろう。それもよくあれもよい。今の自分の境遇を一番いいとも思わぬがまた悪いとも思わぬ。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かれはその瞬間に一足飛びにかれはかれ自身の、まだ弱りきれない遠い世のあれの引続いた感情を見た。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
『そうら、あれは屹度昌作さんよ。』と、靜子は今しも川上の瀬の中に立つてゐる一人の人を指さした。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
雪江さんがったから、私もって其跟そのあといて今度は椽側へ出た。雪江さんは私よりせいが低い。ふッくりした束髪で、リボンの色は——あれは樺色というのか知ら。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あれは勝手気狂いで借金取りが来たり都合の悪い事が出来ると気狂いになるが、当り前はまともなので実に困った人です。気狂いと思ってなかなか油断はなりません。金を
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
私が顔向けなりませんよ——まア御覧なネ、あの手を引き合つて、うれしさうに笑つて、——男でも女でもあれが一生の極楽世界と云ふもんですよ——羨ましいとは思ひませんかネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そしてその挨拶あいさつなかに、「ちやうちやんも御丈夫ごぢやうぶですか。」「はア、しかあれにも困りきります。」とふやうな問答もんだふから、用件は案外に早く蘿月らげつの前に提出される事になつたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「出て行つたかい! あれは?」さすがに何処となく恩愛の情が纏はつてゐる声だつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
一体村田は長州に行て如何いかにも怖いと云うことを知て、そうして攘夷の仮面めんかぶっわざとりきんで居るのだろうか、本心からあんな馬鹿を気遣きづかいはあるまい、どうもあれの気が知れない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あれは私をおびやかす——始終々々しよつちゆう/\あれは死ぬと云つて、でなければ私を殺すと云って、私をおどす。そして私は時々あれが咽喉に大きな傷を拵へてるのや、むくんだ紫色の顏になつてる夢を見る。
嗚呼ああの騎兵がツイそばを通る時、何故なぜおれは声を立てて呼ばなかったろう? よしあれが敵であったにしろ、まだ其方がましであったものを。なんの高が一二時間せめさいなまれるまでの事だ。
父君の昔に越えて幸福な道を踏んでもそれが不当とも思えない偉さがあれにある
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
一度は僕も自分の癖見ひがみだろうかと思いましたが、合憎あいにく想起おもいおこすは十二の時、庭で父から問いつめられた事で、あれおもい、これを思えば、最早もはや自分の身の秘密を疑がうことは出来ないのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
なにかなしいのでせう!』とあいちやんがグリフォンにたづねました、グリフォンは以前まへほとんどおなじやうな言葉ことばで、『それはみんあれ空想くうさうだ、なにかなしんでるのではない、ねえ。おでよ!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「いやいや、あれこそは、行く末の国持つお人よ。おそろしいお方ではある」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからしたはうへかけて、カリフォルニヤがい坂道さかみちを、断間たえまなく鋼索鉄道ケーブルカー往来わうらいするのがえる。地震ぢしんときけたのが彼処あすこ近頃ちかごろてかけた市庁しちやうあれと、甲板かんぱんうへ評定ひやうぢやうとり/″\すこぶやかましい。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
千島ちしま事抔ことなどうはさしあへるを耳にしては、それあれかうと話してきかせたく鼻はうごめきぬ、洋杖ステツキにて足をかれし其人そのひとにまで、此方こなたよりゑみを作りて会釈ゑしやくしたり、何処いづくとさしてあゆみたるにあらず
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
何時ものあれが来たらば、私は家にゐないとお云ひ。あれは私を
山間秘話 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
竜華寺やあれと俥に揺られ来て行き過ぐる見ればこは鉄舟寺
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
素的すてきだ。——それであれはその後どうですか」
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
あれは何ちふとこだかね?」
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
きけば半兵衞も懇篤ねんごろに教へける中にはるはなして一段高き所につぼ三ツならべたり寶澤ゆびさし彼壺は何といふ藥種の入ありやとたづねければ半兵衞のいふやうあれこそ斑猫はんめう砒霜石ひさうせきと云ふ物なるが大毒藥だいどくやくなれば心して斯はとほくに離したりときいきもふとき寶澤はわざと顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あれを慥かに視た。
凍雲 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
目標もくひょうあれなのだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
わたしはあれ母親ははでございます……母親ははでも面会が出来ないと仰しゃるんですか? それはまた何故……あれは何処におりますでしょうか。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
われわすれてばら/\とあとへ遁帰にげかへつたが、けばれいのがるであらう、たところされるまでも二とはあれまたはせぬ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あれは前橋の斯う云う身の上のお方だと承知致しまして、のお方なればって、奥さまも御退屈ですから何卒どうぞ入らしって下さいまし
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)