山麓さんろく)” の例文
恵那山の谷の雪が溶けはじめた季節を迎えて、山麓さんろくにある馬籠の宿場も活気づいた。伊勢参りは出発する。中津川商人はやって来る。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こうして、なお、直接攻撃の部署ぶしょもそれぞれ決めた上、大将佐々さっさ成政は、城の正面、坪井山をうしろに、その山麓さんろくを、本陣とさだめて
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外山はつり橋から五、六町も行けばすぐふもとについて、山麓さんろくには凍岩こおりいわ摺子岩すりこいわがあり、山上のながめは日光第一といわれているが——
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
木枯しの吹く冬の山麓さんろくに、孤独に寄り合ってる五軒の家。「何に世渡る」という言葉の中に、句の主題している情感がよく現われている。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
かのヘルモン山麓さんろくの悪鬼にかれた子供の父親のごとく、「我信ず、信仰なき我を助け給え」と即時に叫ぶことにあります(九の二四)。
渡れば喜十六の山麓さんろくにて、十町ばかり登りて須巻すまきたきの湯有りと教へらるるままに、つひ其処そこまで往きて、ひる近き頃宿に帰りぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
騎馬隊のはげしい突撃を避けるため、李陵は車をてて、山麓さんろくの疎林の中に戦闘の場所を移し入れた。林間からの猛射はすこぶる効を奏した。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
クルック・タグの山麓さんろくには、海面下千フィートの深地がある。かつての鹹湖かんこは今は大部分涸渇こかつして、塩床のけわしい砂礫地されきちである。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
六月にはいってから、二十分の散歩を許されるようになった菜穂子は、気分のいい日などには、よく山麓さんろくの牧場の方まで一人でぶらつきに行った。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
かくして、ようやく陸に近づき来たり、川に沿って山麓さんろくに達し、さらに渓間をさかのぼりて、山上の薬師堂の前なる林中を往来するとのことである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
山麓さんろくのそこ、ここからも竜燈りゅうとうのような灯がともりだした。天の星は碧く紫にきらめいているが、竜燈は赤く華やかだ。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
山麓さんろく荒小屋あれごやに発見されたる怪屍体」という見出しで、「昨十九日午前八時、×大学生××は××山麓さんろくの荒れ小屋の中において休息せんとしたところ、 ...
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
藁葬こうそうという悲しくも悲しき事を取行とりおこなわせ玉わんとて、なかの兄と二人してみずから遺骸いがいきて山麓さんろくに至りたまえるに、なわ絶えて又如何いかんともするあたわず
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
瓢簟形ひようたんがたあるひ前方後圓ぜんぱうこうゑん古墳こふんであるとすれば、その山頂さんてう古墳こふん山麓さんろく横穴よこあなと、如何いかなる關係くわんけいいうするであらうか。
信州浅間あさま山麓さんろくの村では、この盆竈ぼんがまの行事をカマッコというそうだが、これにも物前ものまえすなわち成女期に近づいた女たちが率先して、米と少しのぜに持寄もちよ
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
同教授どうきようじゆ計算けいさんによると、火口かこうから打出うちだされてから山麓さんろくあるひ海面かいめん到達とうたつして靜止せいしするまでの平均へいきんはやさは、毎秒まいびよう二十米以上にじゆうめーとるいじようであつて、最大さいだい毎秒まいびよう百五十米ひやくごじゆうめーとるにもおよ
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
龍田山麓さんろくにある、廃屋のような避病舎へ、蒲団ふとんやバケツなどリヤカーにつんで、鷲尾が附添つきそっていった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
山麓さんろくから頂上ちようじようまでのあひだにいろ/\模樣もようかはつたいくつかの森林帶しんりんたいがかさなつてゐるわけです このように土地とち高低こうていによつてあらはれる森林帶しんりんたいのことを『垂直的森林帶すいちよくてきしんりんたい
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
終堆石しゅうたいせきつるの切れた半弓を掛けたように、針葉樹帯の上に、鮮明にかっているのみならず、そこから流下した堆石は、累々として、山麓さんろくに土堤を高く築いている。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
下館までの道の半ばは、筑波の山麓さんろくに沿っている。晴れてはいたが風の強い日で、殆んど真向から、それこそ正真正銘の筑波おろしが、膚を切るように吹きつけて来た。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その昔、南朝の遺臣、足助次郎重範の一族が、段々山麓さんろくから山づたいに逃れ、此処ここに落ちのびて臥薪嘗胆がしんしょうたん、樵夫や百姓に身をやつして生活の基礎を築いたのが起源とされている。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
和銅年中より百年に及ぶまで稲荷山麓さんろくに住み、耕田採薪した山神で、面竜のごとく、顔光ありて夜を照らす事昼に似たり、弘法大師に約して長くこの地を守る、大師その顔を写して
それから、その辺の人家のラジオに耳を傾けながら、情勢次第によっては更に川上にさかのぼってゆくのだ。長い堤をずんずん行くと、人家もまばらになり、田の面や山麓さんろくおぼろに見えて来る。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
山麓さんろくの絶景 二里ばかり山を降って来ますと、雪山のふもとまばらに生えて居る小木の間に、黄、赤、紫、薄桃色等いろいろな名の知れぬ美しい花が毛氈もうせんを敷きつめたように生えて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
車漸く進みゆくに霧晴る。夕日ゆうひ木梢こずえに残りて、またここかしこなる断崖だんがいの白き処を照せり。忽にじ一道いちどうありて、近き山の麓より立てり。幅きわめて広く、山麓さんろくの人家三つ四つが程を占めたり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
さわやかな山麓さんろくの秋の空気を深々と吸い、ときどき湖のほとりの路を逍遥しょうようしたり、二階の部屋のベッドの上に身を横たえつつ富士の姿を窓越しにながめたりするだけで、既に十分満足であった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
山麓さんろくから低い山にかけて東北には栗の木が多い。栗の木は材の堅いくせに育ちが早く、いくらってもいつのまにか又林になる。そして秋にはうまい栗の実をとりきれないほど沢山ならせる。
山の秋 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
当日とうじつひつぎむらて、山麓さんろく墓地ぼちへさしかかろうとすると、このとき、どこからあらわれたものか、たくさんの乞食こじきや、浮浪児ふろうじれつをつくって、ひつぎあとについてきたので、一どうがびっくりしました。
万の死 (新字新仮名) / 小川未明(著)
鬱蒼うっそうとした其処ここの杉柏さんぱくの梢からは、烟霧えんむのような翠嵐すいらんが起って、細い雨が明い日光にすかられた。思いもかけない山麓さんろくの傾斜面にせた田畑があったり、厚い薮畳やぶだたみの蔭に、人家があったりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
封筒はホテルのもので、A山麓さんろくSホテルと名前が刷ってあった。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
八月三日 富士山麓さんろく山中湖畔草廬そうろ
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
城の山麓さんろくは、市川の本流と支流とが三方をめぐっている。しかも、西北も西南も、狼山おおかみやまや太平山のけんに囲まれ、近寄るすべはないのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この人は先祖代々御嶽の山麓さんろくに住み、王滝川のほとりに散在するあちこちの山村から御嶽裏山へかけての地方じかたの世話を一手に引き受けて
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
山麓さんろくには、紅白こうはくだんだらのまくり、天幕テントり、高等官休憩所かうとうくわんきうけいじよ新聞記者席しんぶんきしやせき參觀人席さんくわんにんせきなど區別くべつしてある。べつ喫茶所きつさじよまうけてある。宛然まるで園遊會場えんいうくわいぢやうだ。
ヒマラヤ山麓さんろくの村に、身のたけ四十フィートの怪物が現れ、土地の住民はもとより、全印度人の間に大評判になっていた。
広茫こうぼうたる平原の向うに、地平をぬいて富士が見える。その山麓さんろくの小家の周囲を、夏の羽蟻はありが飛んでるのである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
先ほどから汽缶車が急にあえぎ出しているので、明はっとO駅に近づいた事に気がついた。O村はこの山麓さんろくに家も畑も林もすべてが傾きながら立っているのだ。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
十勝岳とかちだけ近頃ちかごろまで死火山しかざんかんがへられてゐた火山かざんひとつであるが、大正十五年たいしようじゆうごねん突然とつぜん噴火ふんかをなし、雪融ゆきどけのため氾濫はんらんおこし、山麓さんろく村落そんらく生靈せいれい流亡りゆうばうせしめたことは
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
山麓さんろくの宿舎に入って、私はさっきから気になって仕方のなかったことを、白木にたずねたのであった。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鷹ノ巣山は鬼ヶ城山塊の一つで、なだらかな丘陵をなし、松と杉が蔽い茂っている、八郎兵衛は先頭をはしりながら、山麓さんろくいちめんに焚火たきびの煙と、右往左往する人の群を認めた。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また登山とざんをする場合ばあひには、平原へいげんから山麓さんろく山腹さんぷくへかゝり、それからやま頂上ちようじようくまでのあひだには、植物しよくぶつ姿すがたがいろ/\にかはつていつて、たかやまであればいたゞちかくには、がおのづとなくなつて
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
そのふもとを汽車が通っていることは、丁度ちょうど富士山のすそを、御殿場ごてんばから佐野(今は「裾野すその」駅)、三島、沼津と、まわって行くようで、しかも東海道が古くからの宿駅であるように、シャスタ山麓さんろくの村落も
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
浅間の山麓さんろくにあるこの町々はねむりから覚めた時だ。朝餐あさげの煙は何となく湿った空気の中に登りつつある。鶏の声も遠近おちこちに聞える。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
峰から峰をつづる火も、沢にひそむ伏陣の火も夜はチラチラ望まれる。特に、山麓さんろくの木津川べりへ近々と陣した一角では、終夜
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山頂さんてうのが主墳しゆふんで、山麓さんろくのが殉死者じゆんししやはうむつたのではるまいかといふ、うした疑問ぎもんをもしやうぜられるのである。
午後、その山麓さんろくの療養所にいて、菜穂子が患者の一人として或病棟の二階の一室に収容されるのを見届けると、日の暮れる前に、圭介と母は急いで帰って行った。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ヴェスヴィオの山麓さんろくにあつたシラキュラニウムのまち泥流でいりゆうのためにうづめられたが、このごろ開掘かいくつせられてある。天明てんめい淺間噴火あさまふんかける泥流でいりゆう被害ひがいまへべたとほりである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
それは約十キロばかり東へいった、山麓さんろく附近を目がけて下りてくるようだ。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
富士山ふじさんはほとんど海面かいめんからそびえつてゐるとてもよいのですが、しかし、やまによつてはじめから土臺どだいたかいところでは、山麓さんろく草原くさはらがなく、ふもとからすぐに喬木きようぼくはやしることも出來できませうし
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
以後牢人ろうにんしていた本多正信が、郎党十名ほど連れて、家康を伊賀山麓さんろくに迎え、そこから、先導せんどうに立って、道案内に努めてくれた一事である。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)