)” の例文
そとで、たこのうなりごえがする。まどけると、あかるくむ。絹糸きぬいとよりもほそいくものいとが、へやのなかにかかってひかっている。
ある少年の正月の日記 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わざと、しょくともさずにある。すすきの穂の影が、縁や、そこここにうごいている。ひさしからし入る月は燈火ともしびよりは遥かに明るかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから彼女は、自分の住んでた家のこと、日のさない自分の室のこと、などを話した。彼女はそんなものを喜んで思い起こした。
吃驚びっくりしたようにあたりを見ながら、夢に、菖蒲あやめの花を三本、つぼみなるを手に提げて、暗い処に立ってると、あかるくなって、太陽した。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
壁紙を張つた壁や絨毯じゆうたんを敷いた床を見せて、明るい空色の更紗木綿さらさもめんの窓掛の間にし込んだとき、寢室は美しい小さな部屋に見えた。
お吉の指さす方、ドブ板の上には、向う側の家の戸口からあかりを浴びて、あけに染んだ、もう一人の娘が倒れているではありませんか。
それは円天井のついた大きな部屋で、石を畳んだ床はべとべとしていて、明りは片隅にあるたった一つの窓からしかし込まない。
泣いて泣いて泣きました。納屋の小さな窓からし込んで来る黄いろな光をながめながら、一日一杯眼をこすつて泣いてゐました。
自分じぶん蒲團ふとんそばまでさそされたやうに、雨戸あまど閾際しきゐぎはまで與吉よきちいてはたふしてたり、くすぐつてたりしてさわがした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すかして見ると春の日影は一面にし込んで、射し込んだまま、がれずるみちを失ったような感じである。中には何も盛らぬがいい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひのきのあたらしい浴室である。高いれんじ窓からたそがれのうすしこんで、立ちのぼる湯気の中に数条すうじょうしまを織り出している。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
複雑なものが彼らの胸中に去来していたにちがいないのに、彼らはむしろうつろな表情をしていた。横から朝の陽がしているのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
この炬火は、風に消されないように三方に舗石しきいしを立てた一種のかごの中に置かれて、その光はすべて旗の上にすようになっていた。
街路とおりには晩春の午後のが明るくして、町はひっそりとしていた。そこここの塀越しに枝を張っている嫩葉わかばにも風がなかった。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
なにしろ流沙河りゅうさがで最も深い谷底で、上からの光もほとんどして来ない有様ゆえ、悟浄も眼の慣れるまでは見定めにくかったが、やがて
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
時間は過ぎて行き、庭の方に朝のして来た。あたりの家々からも物音や人声がして、その日は外界はいつもと変りない姿であった。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
文政ぶんせい元年秋の事でここ八ヶ嶽の中腹の笹の平と呼ばれている陽当りのよい大谿谷には真昼の光が赭々あかあかと今一杯にし込んでいる。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
枕頭まくらもと喚覚よびさます下女の声に見果てぬ夢を驚かされて、文三が狼狽うろたえた顔を振揚げて向うを見れば、はや障子には朝日影が斜めにしている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
太陽はやがて沈もうとしていて、すでに西岸の松の樹の影がちょうど碇泊所のあたりにしかけて、甲板の上に模様をなして落ちていた。
よわよわしい真紅色の光線が、格子形こうしがたにはめてある窓ガラスを通してしこんで、あたりの一きわ目立つものを十分はっきりとさせていた。
婦人席で多くの婦人の中に立っていながら、此の女性の背後だけには、ほの/″\と明るい後光が、しているように思われた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
エジツが薄気味悪がるのも道理、昼さへ光のさぬ闇の底に更に深い泉が湧いて居る。其れを轆轤仕掛ろくろじかけ釣瓶つるべで汲むのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
『これほどあなたが立派りっぱ修行しゅぎょうんでいるとはおもわなかった。あなたのからだからは丁度ちょうどかみさまのように光明ひかりします……。』
しかし、そういう物の一つも見えない水平線の彼方に、ぽっとあらわれて来た一縷いちるの光線に似たうす光が、あるいはそれかとも梶は思った。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
尚だ洋燈も灯さずにあツて、母親は暗い臺所で何かモゾクサうごいてゐた。向ふの家の臺所から火光がしてゐて、其が奈何にも奥深く見えた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
されば東京の都市に夕日がそうが射すまいが、富士の山が見えようが見えまいがそんな事に頓着するものは一人もない。
窓からして来ている灰色な光線は、どうかすると暗い部屋の内部なか牢獄ろうごくのように見せた。周囲が冷い石でかこわれていることもその一つである。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それ故、私はしばらく庭の中に立つて何處といふあてもない、松の木と苔と、ななめにした京都どくとくの寒々とした薄い冬の日ざしを眺めた。
京洛日記 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
翌朝あくるあさ日覚めると明け放った欞子窓れんじまどから春といってもないほどなあったかい朝日が座敷のすみまでし込んで、牛込の高台が朝靄あさもやの中に一眸ひとめに見渡された。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
お日さまの光が、ますますあかるくしてきました。やがて、夜のおそろしさもえました。手足のかじかみも、いまでは感じなくなったようです。
両三日来夜になると雷様かみなりさま太鼓たいこをたゝき、夕雲ゆうぐもの間から稲妻いなずまがパッとしたりして居たが、五時過ぎ到頭大雷雨だいらいうになり、一時間ばかりしてれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
銀座の雪の上へ家の入口の灯の明りが末広がりに扇の形をしてして居ると云ふのであるが、だの家とは内容の異つたカフエエの灯であることで
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ほとんど路面と平行にしている中を、人だの車だのがみんな半面に紅い色を浴びて、恐ろしく長い影をきながら通る。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
上野の八百善やおぜんへ行ったのでした。料亭も、その時始めてはいったのでした。樹が繁っていますから月はよく見えなくて、葉隠れに光がすだけです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そういう蚊帳の外に稲妻が閃々せんせんす。蚊帳の中の人は暢気のんきにそれを見ている、といったような情景が想像される。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
崖にす日光は日に日に弱って油を焦がすようだった蝉の音も次第に消えて行くと夏もやがて暮れ初めて草土手を吹く風はいとど堪えがたく悲哀かなしみを誘う。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
ほとんど何処からも日のし込んで来ないくらい、木立が密生して枝と枝との入りまじっているところもあった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
風が少しずつ静かになっていって薄明るい暁方あけがたの光が、泥壁の破れめからしこんできても、鷲尾は坐ったまま、まだあらぬところを凝視みつめていた。——
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
窓の下はまだ朝霧が立ちこめていたが、いも畑の向方むこう側にあたる栗林の上にはもう水々しい光がして、栗拾いに駈けてゆく子供たちの影があざやかだった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
自分は驚いて、振り向いて見ると、霧をこめておぼろな電気燈の光が斜めにして大男の影を幻のように映していた。たちまち霧のうちに消えてしまった。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あくもいいお天気てんきで、お日様ひさまあお牛蒡ごぼうにきらきらしてきました。そこで母鳥ははどり子供達こどもたちをぞろぞろ水際みずぎわれてて、ポシャンとみました。
その詩の大意は、自分は今、くらい、どん底をいまわっている。けれども絶望はしていない。どこかわからぬところから、ぼんやり光がして来ている。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もうしますと、日羅にちらからだから光明こうみょうがかっとしました。そして太子たいしひたいからはしろひかりがきらりとしました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そのうちに、明るい日の光が、あけ放した窓からし込んで来ました。また、遠くで遊んでいる子供達の楽しそうな声も、それと一しょに、聞えて来ました。
鴎外の花園町の家の傍に私の知人が住んでいて、自分の書斎と相面する鴎外の書斎の裏窓に燈火あかりの消えるまで競争して勉強するツモリで毎晩夜を更かした。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
奥深い部屋の隅に、春にもなれば春の陽光がす。新しい時代に対して目を覆っている前田弥平氏の目の底にも、新しい時代の世相の影が映らずにはいなかった。
仮装観桜会 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
この日は空がよく晴れていて、天平雲は望むことは出来なかったが、松林の緑を透してしこむ夕日に、塔が紫色に映えて、裳層の陰翳も一入ひとしお深く仰ぎみられた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼は又、その家の周囲まはりかんばしいにほひを放ついろいろの草花を植えた。彼の部屋の、書卓テーブルゑてある窓へ、葡萄棚ぶだうだなの葉蔭をれる月の光がちら/\とし込んだ。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
父の棺輿はしばし堤の若草の上にたたずんで、寂寞せきばくとしてこの橋を眺める。橋はまた巨鯨の白骨のような姿で寂寞として見返す。はだらはだらにし下ろす春陽の下で。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「おお、かあさんや、」とおとうさんがった。「あすこに、綺麗きれいとりが、こえいているよ。がぽかぽかとして、なにもかも、肉桂にくけいのようなあま香気かおりがする。」