たへ)” の例文
△春近く悦びの心あふれていかにせばやめざましく勇ましく、いざ歌はん、春の歌を、朗かな響き煙るが如くいとたへに楽など弾かむ。
〔編輯余話〕 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
また天堂のたへなる調しらべが、下なる諸〻の天にてはいとうや/\しく響くなるに、この天にてはいかなればもだすやを告げよ。 五八—六〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
さる人はかしこくとも、さるわざは賢からじ。こがね六三ななのたからのつかさなり。土にうもれては霊泉れいせんたたへ、不浄を除き、たへなるこゑかくせり。
せしが縁と成て其後毎夜まいよ呼込ではもませけるにいと上手なれば政太夫も至極しごくに歡び療治をさせける處城富は稽古けいこを聞感にたへて居る樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
われは毛髮さかしまちて、卓と柩との皆獨樂こまの如く旋轉するを覺え、身邊忽ち常闇とこやみとなりて、頭の内には只だしくたへなる音樂の響きを聞きつ。
思へば六とせそのかみに、たへ御法みのりををさめんと、わが故郷ふるさとを後にして、深雪みゆきの山に旅寝たびねして、ボウダの国に入りにしが、今また雪の山に来て
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
若者わかものおもはずはしました。るがうち波間なみまはなれ、大空おほぞら海原うなばらたへなるひかり滿ち、老人らうじん若者わかもの恍惚くわうこつとして此景色このけしきうたれてました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
その姿のたへにも美しい事は、散りしく桜の花の色さへ消えようずると思はれたが、隠者の翁は遍身へんしんに汗を流いて、降魔の呪文を読みかけ読みかけ
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
世には斯かる氣高けだかき美しき女子をなごも有るもの哉と心ひそかに駭きしが、雲をとゞめ雲を𢌞めぐらたへなる舞の手振てぶりを見もて行くうち、むねあやしう轟き、心何となく安からざる如く
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
四幕目、誘惑いざないの魔の岩屋にて、目くるめく遊仙窟の舞台、たへなる楽の音につれて現れ出し時、君は、明き灯の下に、あまた居並び、横りたる妖女の頭に立ち給ひき。
舞姫 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
めづらしき歌ごゑ殊にたへなるは、秀才泣菫氏が近作、「公孫樹下にたちて」と題せる一篇なるべし。
泣菫氏が近業一篇を読みて (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
たちま盤上ばんじやうたままろばすがごとひゞき、ピアノにかみ宿やどるかとうたがはるゝ、そのたへなる調しらべにつれてうたいだしたる一曲ひとふしは、これぞ當時たうじ巴里パリー交際かうさい境裡じやうり大流行だいりうかうの『きくくに乙女おとめ
貫一は心陰こころひそかに女の成効を祝し、かつ雅之たる者のこれが為に如何いかさいはひならんかを想ひて、あたかもたへなる楽のの計らず洩聞もれきこえけんやうに、かる己をも忘れんとしつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「親分は——その日の所作に、坂屋のおたへが、新作の『江口』を踊るといふ話を聽いたでせう」
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
たゞ山深やまふかしづが、もすれば、伐木ばつぼくこだまにあらぬ、あやしく、ゆかしくかすかに、ころりん、から/\、とたへなる楽器がくきかなづるがごときをく——其時そのときは、もりえだ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
竟に其のたへなる宇宙の大合唱を意識しないでゐるのだ、と。
何時いつもいつも、梵音ぼんのんたへに深くして、おほどかなるは
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
又は歌謠のいみじきを、又は舞踊のたへなるを
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
なほたへにしだれつつ噴水ふきあげ吐息といきしたたり
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「自然」のわざはたへながら
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
たへなる香をも浮ぶるや
信姫 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
空清し、照日てるひたへなり。
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
たへひかりにせずや
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
創造のたへなる力。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
鬼貫の娘おたへ
俳諧師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
みじかしとくらこゝろ如何いかばかり長閑のどけかるらんころ落花らくくわの三ぐわつじんちればぞさそあさあらしにには吹雪ふゞきのしろたへ流石さすがそでさむからでてふうらの麗朗うら/\とせしあまあがり露椽先ぬれゑんさき飼猫かひねこのたまかるきて首玉くびたましぼばなゆるものは侍女こしもとのお八重やへとてとし優子ゆうこに一おとれどおとらずけぬ愛敬あいけう片靨かたゑくぼれゆゑする目元めもとのしほの莞爾につこりとして
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かくいひ終れる時、尊き聖なる宮人みやびと等、天上の歌の調しらべたへに、「われら神を讚美す」と歌ひ、諸〻の球に響きわたらしむ 一一二—一一四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
たへは、うしろ向きになつて硝子戸に顔をおしつけたぎりで、降りる停車場を気をつけてゐたのである、お蝶に云ひつけられたまゝに——。「悪いの?」
お蝶の訪れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
其の絵のたへなるをでて乞要こひもとむるもの一二前後ついでをあらそへば、只花鳥山水はふにまかせてあたへ、鯉魚りぎよの絵は一三あながちに惜しみて、人ごとたわぶれていふ。
この時我は、その奇しくたへなる世界を背にして、狹き尼寺の垣の内に籠らんとし給ふ御心こそ知られねと云はんと欲せしが、姫の思ひ給はん程のおぼつかなくてもだしつ。
金絲のぬひはくをした上衣うはぎきらめかして大買人おほあきんどもあれば、おもさうな荷物を脊負しよつてゆく人足にんそくもある、香料かうれうたへなるかほりり/\生温なまぬくい風につれてはなを打つ、兒童こども極樂ごくらくへでもつた氣になつて
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
大勢の手で抱き起されたおたへは、最早頼み少ない姿です。
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
何時いつもいつも、梵音ぼんのんたへに深くして、おほどかなるは
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
息づきぬ、野にたへにまどろみつつ。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
たへづるやたへのみのりの花の庭に
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「わが心の中にものいふ戀は」と彼はこのときうたひいづるに、そのうるはしさ今猶耳に殘るばかりにたへなりき 一一二—一一四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
私も行きたく思ふのであるが、どうかすると今の私は、あのおたへさんに新しく、怪しく胸が戦く不気味な危惧を覚ゆるので、辛うじて秘かに控へてゐるのである。
海棠の家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
こは尋常よのつねの歌にあらず。この童の歌ふは、目の前に見え、耳のほとりに聞ゆるが儘なりき。母上も我も亦曲中の人となりぬ。さるに其歌には韻脚あり、其調はいとたへなり。童の歌ひけるやう。
たへ氣高けだか眼差まなざしも、世の煩累わづらひに倦みしごと
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ものなべてさはたへをみなざし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「おたへには配偶つれあひはないのか」
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
たへたへ玉のいさごの河原かははら
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
さて最も先に現はれし者のなかにオザンナ響きぬ、こはいとたへなりければ、我は爾後そののち再び聞かんと願はざることたえてなかりき 二八—三〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
たへは?」と娘の母は私にたづねた。私は、猫のやうにおびえて母の蔭に縮こまつてしまつた。
海棠の家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
たへ気高けだか眼差まなざしも、世の煩累わづらひみしごと
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
そのなかにたへにしづかに
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
東の碧玉あをだまたへなる色は、第一の圓にいたるまで晴れたる空ののどけき姿にあつまりて 一三—一五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
威力あるもとめのみつぎ、あるはまたあてたへなる
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
たへ公、出て来い、さあ、出て来い!」
鎧の挿話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
雲雀またたへにうかびぬ。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)