右手めて)” の例文
総裁宮以下の諸官に一礼した箕浦は、世話役の出す白木の四方を引き寄せて、短刀を右手めてに取った。忽ち雷のような声が響き渡った。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
くうを斬ると編笠の侍は、右手めての鉄扇に力をくれて、旅川周馬の顔をハタキつけた。こうなっては孫兵衛も、大事をとっていられない。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「御免なさいな。」となお笑いながら平気なもので、お夏は下に居て片袖のたもとを添えて左手ゆんでを膝に置いて、右手めてで蔵人のそびらでた。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう思いながらも、彼は、さすがに自分の卑怯ひきょうを恥じた。そうして口にくわえた太刀を、右手めてにとって、おもむろに血をぬぐった。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
驚きたる武男がつづいて走りいだせる時、清人はすでに六七間の距離に迫りて、右手めては上がり、短銃響き、細長なる一人はどうと倒れぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
右京殿が御下城の折に駕籠訴を致しましたのは、料理店立花屋源太郎でございます。さて源太郎は隙をうかゞって右手めてに願書を捧げ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
快活くわいくわつなる水兵すいへい一群いちぐんその周圍まわり取卷とりまいて、『やあ、可愛かあひらしい少年せうねんだ、乃公おれにもせ/\。』と立騷たちさわぐ、櫻木大佐さくらぎたいさ右手めてげて
然れども右手めてに籠を持ち、左手ゆんでにて蕨を採るゆえに、小虫を払う時は蕨を採る事能わず。故に時々は籠を手より離して、地上に置く事あり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
殊に仁王門におうもんを這入って右手めての、五重の塔、経堂きょうどう、ぬれ仏、弁天山べんてんやまにかけての一区劃くかくは、宵の内からほとんど人通りがなかった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうして投げた次の瞬間には、左手ゆんでに握っていた送り石を、すでに右手めてが受け取っていた。するともうそれも投げられていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
右手めてなる岸の全景は、空想のセミラミスや築き起しゝ、唯だ是れ一大苑囿ゑんいうの波上に浮べる如くなり。その水に接する處には許多あまたの洞窟あり。
という瞬間に、宙乗りの人物は、右手めてを横にグッと伸ばすと、戸波博士をヤッと抱きあげた。博士の両足は、地上を離れた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は昼眩ひるまばゆき新調の三枚襲さんまいがさねを着飾りてその最もちんと為る里昂リヨン製の白の透織すかしおり絹領巻きぬえりまき右手めて引摳ひきつくろひ、左に宮の酌を受けながら
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
右手めてささぐる袖の光をしるべに、暗きをすりぬけてエレーンはわが部屋を出る。右に折れると兄の住居すまい、左を突き当れば今宵の客の寝所である。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抜いた矢を右手めてに、傷口を検めていた釘抜藤吉、つぎに、七転八倒を思わせる伊兵衛の死相を凝視みつめながら、何思ったか急にからから笑い出した。
我はわがひらける右手めての指によりて、かの鑰を持つもののわが額にきざめる文字たゞ六となれるをしりぬ 一三三—一三五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
二抱ふたかかへもある赤松の、幹両股ふたまたになりたる処に、一匹の黒猿昇りゐて、左手ゆんでに黒木の弓を持ち、右手めてに青竹の矢を採りて、なほ二の矢をつがへんとせしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
闇をすかして、相手をうかがう、雪之丞の細っそりした右手めてはいつか、帯の間にはいって、懐剣の柄にかかっていた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
右近うこんの馬場を右手めてに見て、何れ昔は花園はなぞのの里、霜枯しもがれし野草のぐさを心ある身に踏みしだきて、太秦うづまさわたり辿たどり行けば、峰岡寺みねをかでらの五輪の塔、ゆふべの空に形のみ見ゆ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
庭づたいに小歌が先へ立て行くを、婢は竹筒のような台の洋燈らんぷに、俗に玉火屋ぎょくほやというのを懸けたのを右手めてに持て潛りぬけ、奥まった一室の障子をあければ
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
綸を拇指と示指の間に受け、船底にかき込まるるを防ぎ、右手めてに玉網の柄を執りて、介錯かいしゃくの用意全く成れり。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
左腕を斬って放たれ乍らも右手めて一つで咄嗟とっさに抜き払ったその一刀が、ぐさりと千之介の腰車こしぐるまに喰い入った。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
と同時に、刀を突き立てたまま右手めてをがくがく震わせ、左手を、蒲団の上へ突いて、俯向きながら、髪の毛を、びりびり震わしていた。人々は、固唾を飲んだ。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
天皇を兵庫の御道筋おみちすじまで御迎え申し上げたその時の有様を形にしたもので、おそれ多くも鳳輦ほうれんの方に向い、右手めて手綱たづなたたいて、勢い切ったこま足掻あがきを留めつつ
左手ゆんでの弓を押す力と、右手めての弦をひき絞る力とで、見る見る血潮は彼のほおに上り、腕の筋肉までが隆起して震えた。背こそ低いが、彼ももはや三十歳のさかりだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
右手めてはのたりのたりといかにも長閑のどか海原うなばら左手ゆんではこんもりと樹木じゅもくしげったおかつづき、どうても三浦みうら南海岸みなみかいがんをもうすこしきれいにしたような景色けしきでございます。
この化物と、矢庭に右手めてに持ったる提灯を投げ捨てて、小僧の襟髪掴んで曳とばかりに投出すと、かたえのドンドンの中へ真逆まっさかさまに転げ墜ちて、ザンブと響く水音
河童小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しゅねがわくはおんてんよりたまえ、なんじ右手めてもてたまえるこの葡萄園ぶどうぞの見守みまもらせたまえ、おとなたまえ。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
頭の少しはげた、でっぷりとふとった客は「ウン」と言ったぎり黄金縁きんぶちめがねの中で細い目をぱちつかして、鼻下びかのまっ黒なひげを右手めてでひねくりながら考えている。
疲労 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
やみに透して向うの様子を見ると、鉄門は開かれ、右手めての石段の上に四五人の男が迂路々々うろうろしている。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
その扇には、吹けば飛ぶ吹かずば飛ばぬ奥のさとの千本林を右手めてに見て、ひいろろ川に架けた腐れぬ橋を渡って会いにきてほしいというような文句の歌が書かれてあった。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
海に突き出して一つの城廓のやうにやかた右手めてに見える。点々たる星の空の下にクツキリと四角に浮き出すその家の広間の中は、煌々くわう/\としてどの位明るいのかと想はれる。
又右手には嬢次少年が、真面目な顔をしてじっと正面を見ながら立っているが、服装はモーニング式の乗馬服で、右手めてに山高帽を持ち左手ゆんでに手袋と鞭を握り締めている。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、振りあげた右手めては宙に止まり、叫びかけた呪いもくちてついた。というのは、老人の頸を押えた左の手先に、何ともたとえようのない不気味な冷さを感じたからである。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
『さァ、何方どつち何方どつち?』とつぶやいて、功能こうのうためすために右手めてつた一かけすこめました、するとあいちやんはたちまち、其顎そのあごしたしたゝたれたのにがついて、不圖ふとると
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
会津から佐沼への路は、第一日程は大野原を経て日橋川を渡り、猪苗代湖を右手めてに見て、其湖の北方なる猪苗代城にとどまるのが、急いでも急がいでも行軍上至当の頃合であった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
右手めてにナイフを立ててもって居たと見え、仆れる時に無惨にもそのきっさきが胸にささったらしく、右の胸から血がほとばしり、ナイフは着物にもつれて身体にひっかかって居る。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
こほりをば引外ひッぱづして右手めて附入つけいりまする手練しゅれん切先きっさき、それを撥反はねかへすチッバルト。
美奈子は裏の庭園で、切つて来た美しい白百合の花を、右手めてに持ちながら、懐しい人にでも会ふやうな心持で、墓地の中の小道を幾度も折れながら、父母の墓の方へ近づいて行つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
勘次かんじ始終しよつちう手拭てぬぐひもついた右手めてひぢかゝへるやうにして伏目ふしめあるいた。みちうてせまほりあさみづかれはなたれた。がら/\にすさんだ狼把草たうこぎやゑぐがぽつ/\とみづひたつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私が何とも云わぬ先に手巾ハンケチの繃帯をはずし、血みどろになって居る傷口をおよそ一分間ばかり眺めて居たが、突然その右手めてを私の右の腿にかけ、犬がかみつくような風に、傷口に唇をあてて
犬神 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
繃帯ほうたいして右手めてくびから釣って、左の手で不精鎌ぶしょうがまを持って麦畑の草など親分が掻いて居るのを見たのは二月もあとの事だった。喧嘩の仲入なかいりに駈けつけた隣の婆さんは、側杖そばづえって右の手を痛めた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
梅子は左手ゆんでを加へて篠田の右手めてを抱きつ、一語も無くて身を其上に投げぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
あるいマストのように渚に突立って、くろみゆく水平線のこんもりふくれた背を、瞬きを忘れて見詰め、或は又、右手めて太郎岬たろうみさきの林を染めているかすかあかねに、少女のような感傷を覚えたり、さては疲れ果て
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
彼の感得せし水晶の珠数はかけて今なほ襟にあり、護身刀まもりがたなの袋の緒は常にとき右手めてに引着けたり、法華経八軸は暫らくも身辺を離れず、而して大凡悩大業獣に向ふこと莫逆ばくぎやくの朋友に対するが如し。
仰ぎ見れば、彼ワットはガウンを着て椅子いすに腰を掛け、大きなくつをはいて、左の足を後ろに引き、右の足を前に出し、紙をひざにのべ、左手ゆんでにその端をおさえ、右手めてにはコンパスを握っている。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
つめいよよ張りて堪へたる右手めてひぢ矢頃はよろしひようとはなしつ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と、威しの出刃、右手めてにかざして、詰め掛くるに。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
右手めてに雷光閃かし、善き前兆を現はしき。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
自主じしゆ」のつるぎ右手めてに持ち
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)