およ)” の例文
予は病に余儀なくせられて、毎夜半およそ一時間がほど、床上に枯坐するならひなりき。その夜もいつもの頃、目覚めて床上に兀坐こつざしぬ。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
およそ外交問題ほど国民の元気を煥発するものはあらざる也。之なければ放縦懶惰安逸虚礼等に流れて、覚束おぼつかなき運命に陥るものなり。
杜はふとじしおよそこうした活溌な運動には経験のないお千に、この危かしい橋渡りをやらせるのにかなり骨を折らねばならなかった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
むさゝびからぬがきツ/\といつてむねへ、やがおよ小山こやまほどあらうと気取けどられるのがむねすほどにちかづいてて、うしいた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
およ二夜三日にやさんにちあいだに、エレキトルの処は申すに及ばず、図も写して読合よみあわせまで出来て仕舞しまって、紙数かみかずは凡そ百五、六十枚もあったと思う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
およそそう云う趣意を以て二人を説き付けて、しばらく妙子を世間の眼から遠ざけ、妊娠の事実をなるたけ誰にも知られないようにしよう。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
工業学校を出てからおよそ三年の間、この炭坑で正直一途に小頭こがしらの仕事を勤めて来たお蔭で、今では地の底の暗黒にスッカリ慣れ切って
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
道明寺は河内志紀郡にあって、大阪城の東南およそ五里、奈良より堺に通ずる街道と、紀州より山城に通ずる街道との交叉の要地である。
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
本当だよ、嘘だと思ったら見て御覧、我々なら大抵まあその人の眼つきを見りゃ、腹で何思ってるか位、およその見当はつくじゃないか。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
およそ事物の供給は、皆その需用あるに根ざす、いやしくもその需用にして存するからしめん乎、供給決してこれに応ずることあらざるなり。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
ロセツの申出はついにおこなわれざりしかども、彼が日本人に信ぜられたるその信用しんようを利用して利をはかるに抜目ぬけめなかりしはおよそこのたぐいなり。
が、罠は到るところに用意されておりました。ふすまの蔭、縁の闇、およそ物のくまのあるところには、ことごとく人を配置したといってもいいほどで——
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「我は復活なり、生命なり、我を信ずる者は死ぬとも生きん。およそ生きて我を信ずる者は永遠に死なざるべし。汝これを信ずるか」
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
「我は復活よみがえりなり、生命いのちなり、我を信ずる者は死ぬとも生きん。およそ生きて我を信ずる者は、永遠とこしえに死なざるべし。なんじこれを信ずるか。」
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
およそ失望は落胆を生み落胆は愚痴を生む。「叔母の言艸いいぐさ愛想尽あいそづかしと聞取ッたのは全く此方こちら僻耳ひがみみで、或は愚痴で有ッたかも知れん」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
およそ高利の術たるや、渇者かつしやに水を売るなり。渇のはなはだしへ難き者に至りては、決してその肉をきてこれを換ふるを辞せざるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
多少知名な人人の遺骨で改葬すべき子孫の無い物は特に墓標が設けられて居る。これおよそ五ちやう程も続くのであるが案外に不気味で無い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
およそ何がはかないと云っても、浮世の人の胸の奥底に潜んだまま長い長い年月を重ねてついにその人の冷たい亡骸なきがらと共に葬られてしまって
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
平野の打続く衛の風景とはおよことかわった・山勝ちのこうの都に、侘しい三年の月日を送った後、太子は遥かに父衛侯のを聞いた。
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
然れば澄見の下がり候後は「まりや」様の画像の前に、およそ一刻に一度づつは「おらつしよ」と申すおん祈りを一心にお捧げ遊ばされ候。
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
御前ごぜん谷の下およそ一里ばかりにして、内蔵助くらのすけ谷と相対して東から落ち込む沢といえば、赤沢である。すなわち栂谷は赤沢と同じ沢であることが分る。
A いよ/\馬鹿ばかだなア此奴こいつは。およそ、洒落しやれ皮肉ひにく諷刺ふうしるゐ説明せつめいしてなんになる。刺身さしみにワサビをけてやうなもんぢやないか。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
停るも道理や三十九番館の前にはおよそ二三百の人集り巡査の制止をも聞かずして推合おしあえる程なれば馬車は一歩だも進み得ぬなり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
まへにもべたやうに、金解禁きんかいきん準備中じゆんびちうに、海外かいぐわいから思惑投機おもわくとうきごときは、その巨額きよがくならざることもおよあきらかになつてることであるから
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
苦痛にあれ、困窮にあれ、窮愁きゅうしゅうにあれ、およそ人生の行路にあたるものはすなわち文学で、それらをめ得たものが文学者である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
およそ何の題にて俳句を作るも無造作に一題五、六十句作れるほどならば俳句は誰にでもたやすく作れる誠につまらぬ者なるべし。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
およそ人種または時代を異にせる芸術に接して能くその性質を明かにせんと欲すればづそのものに密接して怪訝かいがの念を去らしむるにあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
およそ人事を区処くしょする、まさずその結局をおもんぱかり、しかして後に手を下すべし、かじきの舟をなかれ、まときのを発するなかれ」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
およそ当今美術とか称えまする書画彫刻蒔絵まきえなどに上手というは昔から随分沢山ありますが、名人という者はまことにまれなものでございます。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
およぜいかたきは、もつくことるのかたきにあらざるなり(五七)またべんあきらかにするのかたきにあらざるなり
旅亭やどや禿頭はげあたまをしへられたやうに、人馬じんば徃來ゆきゝしげ街道かいだう西にしへ/\とおよそ四五ちやうある十字街よつかどひだりまがつて、三軒目げんめ立派りつぱ煉瓦造れんぐわづくりの一構ひとかまへ
その後憲法を変える事およそ十一回。故に大体憲法はいかなる内容を持つべきかという事は、仏国人の頭には明白に解って居る。
左隣りは分廻しで描いたが如き円顔に眼鏡をのせている Miss YWCA とでも云うべきおよそ月並な女学生、その他見渡したところ
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
およそ屋舎十の四、池水九の三、菜園八の二、芹田きんでん七の一、とあるので全般の様子は想いやられるが、芹田七の一がおもしろい。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
従って百姓弥之助は植民は即ち宗教だという先入主から離れるわけに行かぬ、およそ侵略とは根本から種苗を異にしたものが即ち植民である。
実に過去に於て、こうして焼き棄てた原稿が、およそ二千枚にもなってるだろう。僕はそれを考えると、今でもげっそりとしてせてしまう。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
北條時宗むかえ撃って大いにこれやぶったことは、およそ歴史を知るほどの人は所謂いわゆる元寇げんこうえき」として、たれそらんじている所である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
(三)ナニ僕より角の多いやつがおる。馬鹿いいたもうな。およそ世界わ広しといえども、僕より余計に角をもった奴わないはずだ。
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
仏教の盛んな土地だけに、町全体の雰囲気には近代のにおいが全くなく、科学などというものには、およそ無縁の土地であった。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
およそありとしあらゆる物、皆その間に秩序を有す、しかしてこれは、宇宙を神の如くならしむる形式ぞかし 一〇三—一〇五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
階段を降りておよそ三間ばかり進んだと思うころ、彼らは壁のようなものにばったりと進路を遮られた。捜ってみると、それはドアであるらしい。
凍るアラベスク (新字新仮名) / 妹尾アキ夫(著)
日本はそれ以来およそ半世紀の間に、どんなに心をまた姿を変えてしまったでありましょう。古いものは流され、新しいものは迎えられました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「成程、そう云えば少し変だね。併し何故賊が足跡を重ねまいと、そんな苦労をしなければならなかったのだね。およそ意味がないじゃないか」
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
軍勢が多いのか、少いのか、わかりかねますが、およそこの七日八日の間というものは野も山も武者で埋まってしまいました。
法学博士山田三良さぶろう君の補助を得て、現行の法例を起草した際、この法例という題号の由来を調べてみたところ、およそ次のようなものであった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
およそ三分ばかり彼は黙って見つめて居たが、急にその呼吸がはげしくなり出した。ヨードホルムのにおいが室内に漂った。
肉腫 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「やるか」と叫びながら、叢林の中から背後の暗がりから、合せておよそ三十人ばかりの人数がばらばらと前後へと詰めた。
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私に与えられた勉強部屋は屋根裏の、大きな梁木のむき出しになったおよそ美というイデーとかかわりのないものであった。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「七、八年も坑夫をしていれば、およそ四、五年間位はッ続けに真暗闇まっくらやみの底にいて、一度だって太陽を拝まなかったことになる、四、五年も!」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
学校から田辺の家まではおよそ二里ばかりあるが、それくらいの道を歩いて通うことは一書生の身に取って何でも無かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)