かね)” の例文
金眸は朝よりほらこもりて、ひとうずくまりゐる処へ、かねてより称心きにいりの、聴水ちょうすいといふ古狐ふるぎつねそば伝ひに雪踏みわげて、ようやく洞の入口まで来たり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
かねて須永から聞いている内幸町うちさいわいちょうの叔父さんという人に、一応そういう方の用向で会っておきたいから紹介してくれと真面目まじめに頼んだ。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしこの大佐たいさとはかつ面會めんくわいしたこといが、かね櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさとは無二むに親友しんいうで、また、わたくしためには終世しゆうせいわするゝこと出來できない
その家の庭で、供養をしてやった、何しろこういう風に、人の思いというものは恐ろしいものと、自分もかねて人から聞いていたが
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
くらかねるも二君に仕へぬ我魂魄わがたましひ武士の本意と思へどもにあぢきなき浮世うきよかなと一人涙を流したるとはがたりの心の中思ひやられてあはれなり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
けどが女が人殺の直接のエジェンシー(働き)と云う事は無い、と云って己も是だけは少し明解しかねるけれどナニ失望するには及ばぬ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
かねという十八の娘、その晩のうちに呼んでくると、もとの主人出雲のお筆にあって、手をとりあって泣いてよろこびました。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ましてX夫人はかねてから文人達の会合等に一種の遊興的気分をいて歩く有閑婦人だった。善良な婦人で葉子はむしろ好感を
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何程なんぼすれつからしなんだんべかねさんは、他人ひとのこと本當ほんたうに」とおつぎは手桶てをけいてみづうかんだあをかきかね博勞ばくらうげた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
聞惚ききとれて居升と、主人はます/\得意に商買口をきく、見たりきいたりして居る私はかねての決心も何もかも忘れ果てゝむやみと風琴が欲しくなり
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
見送の人々は勝三郎の姉ふさ、いそ、てる、勝久、勝ふみ、藤二郎とうじろう、それに師匠の家にいるかねさんという男、上総屋かずさやの親方、以上八人であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これは小生わたくしの父が、眼前まのあたりに見届けたとは申しかねるが、直接にその本人から聞取った一種の怪談で今はむかし文久の頃の事。その思召おぼしめしで御覧を願う。
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
殊に娘のかねに対しては、飼犬よりもさらに忠実だった。娘はこの時すでに婿を迎えて、誰も羨むような夫婦仲であった。
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かねて自分とは普通一片いっぺんの師匠以上に親しんでおったので、ある時などは私のとこへ逃げてきて相談をした事もあった、私もすこぶる同情にえなかったが
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
気ばらし旁々かたがた無音むおん払いをかねて金儲けと一挙三得のうまい旅行だ。手近の碼頭から次々にと上流の方へ足を伸ばして行く。
所がかねての宿願を達して学問修業とあるから、自分の本心に訴えて何としても飲むことは出来ず、滞留一年のあいだ、死んだ気になって禁酒しました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
湖畔亭は、その名の示すごとく、遊覧客の旅館であると同時に、附近の町や村から、日帰りで遊びに来る人々のためには、料亭をもかねているのでした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
林子平も尊王の功なし攘夷の功あり。かねて御話し申し候高山、蒲生、対馬の雨森伯陽、魚屋の八兵衛の類は、実に大切の人なり、各神牌しんぱいを設くべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それは近江のおかねである。この女のことは江戸時代に芝居しばい所作事しょさごとなどにも出ているし、絵草子にもえがかれている。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かねが涙ながら來し頃は早暮て、七間間口に並びしてふちんもん並の附合つきあひも廣く、此處一町はやみの夜ならず金屏きんびやうの松盛ふる色を示前に支配人のたちつ居つ
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
お糸は今夜かねてから話のしてある葭町よしちょう芸者屋げいしゃやまで出掛けて相談をして来るという事で、その道中どうちゅうをば二人一緒に話しながら歩こうと約束したのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
當の本人のゐない時は、三田はしきりに其ひととなりをほめたが、その批評は女達には信じかねる事ばかりだつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
尻餅しりもちついて驚くところを、狐憑きつねつきめ忌々いまいましい、と駄力だぢからばかりは近江おうみのおかね、顔は子供の福笑戯ふくわらいに眼をつけゆがめた多福面おかめのごとき房州出らしき下婢おさんの憤怒
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
悪くそんな奴がはびこると、たちまち、能職が謡屋をかねるような事が出来しゅったいする。私がこのままで我を通せば、餓鬼、畜生と言われても、明日の舞台は天人だ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
○さて御若年より数階すかい給ひて後、寛平くわんびやう九年御年五十三権大納言右□将をかねらる。此時時平しへい大納言ににんぜられ左□将を兼、 菅神と並び立て執政しつせいたり。
「伯母さん、かねてお話した通り、偉い女性ひとに相違ありませぬがネ、——伯母さんより十歳とをも上のお姿さんですよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
と騒ぎまわる連中も居たが、そんな事ではいつでも先に立つ例のむこきずかねが、この時に限って妙に落付いて
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
略解りゃくげに、「袖のなれにしとは、年経て袖のなれしと、その男の馴来なれこしとをかね言ひて、君も我もよはひのおとろへ行につけて、したしみのことになれるを言へり」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
小村井に入りし時、かねて見知れる老人の、これも竿の袋を肩にし、疲れし脚曳きて帰るに、追ひ及びぬ。
釣好隠居の懺悔 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
そして御予定通り正十二時、かねて御休息所に充てられてあった台ヶ原の北原家の玄関にお着きになった。
父様とうさま、私は真実ほんとに父様のなのでしょうか。』とかねて思い定めて置いた通り、単刀直入に問いました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
長「ウム、初めて自分の身の上を知った、道理で此の疵のことをいうとお母が涙ぐんだのだ……かね……己の外聞げいぶんになるから此の事ア決してひとに云ってくれるなよ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「こんな子でも人間ですよ、まさか金鎖かなぐさりつないどくわけにもいかないでしょ」そして彼女は二人の若者たちに云った、「もういいよ、鉄さんにかねさん、御苦労さま」
されどかねての決心なり、明くれば友人のねんごろに引き止むるをも聴かず、暇乞いとまごいして大阪に向かいぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ローンジをかねた美しい主館おもやの食堂では、窓に近い明るい場所にテーブルを構えて、深谷夫人と黒塚、洋吉の三人が、悲嘆のうちにも、もう和やかな食事を始めていた。
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
それ故に善悪可否巧拙と評するももとより画然たる区別あるに非ず、巧の極端と拙の極端とはごうまぎるる所あらねど、巧と拙との中間にある者は巧とも拙とも申しかね候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かねや? おっかさんは? お客? そう、どなた? 国のかたなの?——お千鶴さん、今日はゆっくりしていいのでしょう。兼や、お千鶴さんに何かごちそうしておあげな」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
やつてるのが、こないだ伊太利から帰つて来たんですよ。鈴原すゞはらかね子つていふんです。ご存じないでせう。切符を押しつけられたもんだから、ひとつ利用しようと思つて……
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
貧しきをいたわり、弱きを助け、また世の好漢おとこどもとのまじわりも厚く、かねて剣技に達し、棒をよく使うが、そんな武力沙汰は、まだ一度も表にひけらして人に示したことはない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、豊雄が真女児のことを云うと、あによめは、「男子おのこのひとり寝し給うが、かねていとおしかりつるに、いとよきことぞ」と云ってその太郎に豊雄に女のできたことを話した。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
状貌じょうぼう醜怪しゅうかいなるに九助大いに怖れを為し、是やかねて赤倉に住むと聞きしオホヒトならんと思ひ急ぎ遁げんとせしが、過ちて石につまずき転び落ちて、かえりて大人の傍に倒れたり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
昨日きのふけふとは思はざりしを」とのこの句はちょっと不意打ふいうちをせられて、あわてたようにも聞こゆるけれども、もし彼にして「つひに行く道」をかねて聞いておらなかったならば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
先生その大意たいいを人より聞きいいいわく、かねてより幕末外交の顛末てんまつ記載きさいせんとして志をはたさず、今評論の誤謬ごびゅうを正すめその一端をかたしとて、当時の事情をくことすこぶつまびらかなり。
文学士富尾木知佳とみをきともよし氏は東京音楽学校の教授で、かねてまた邦楽調査会の委員である。
一と朝起きぬきに松尾へった、松尾のかね鍛冶が頼みつけで、懇意だから、出来合があったら取ってくる積りで、日が高くなると熱くてたまんねから、朝飯前に帰ってくる積りで出掛けた
姪子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
つまり、はじめ一寸骰子を振り、人がよく見ないうちに「五だ。もう一度」と言ってすばやく骰子をとりあげて振り「十三!」とか言ってかねて隠して置いた牌のところを取り込むのである。
麻雀インチキ物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かねて決心の手綱を引き締めて出発して来たのだが、こうそれからそれへ、とぼとぼと擂鉢のふちをたどりながら行手の難路におもいを及ぼすと夥しい危惧の念に打たれずには居られなかった。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
かねやはどうしたか知ら、お母さん、と、弘少年がふとそんなことを云った。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
村の人々は、何故なぜ、母が子を殺して自殺したかを疑った。この上他人に迷惑をかけまいと思ってか? うえと寒さに堪えかねてか? 中にはこう言ったものがあった。昔は武士の家庭に育った娘だ。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
あいちやんもこれにはなんとも抗辯こうべんかねて、今度こんどほかことはじめました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)