今迄いままで)” の例文
が、瑠璃子が、そう声をかけた瞬間、今迄いままでしずかであった父が、にわかに立ち上って、何かをしているらしい様子が、アリ/\と感ぜられた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
たゞ、今迄いままでの経験で、アジトを襲われたり、アジトに変なことがあったりしたら直ぐ出掛けて行ける宿所を作って置かなければならない。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
併し、それにしても、彼はどうしてこんな分り切ったことを今迄いままで気附かずにいたのでしょう。実に不思議と云わねばなりません。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なんにもしないであすんでるんでせう。地面ぢめん家作かさくつて」と御米およねこたへた。このこたへ今迄いままでにもう何遍なんべん宗助そうすけむかつてかへされたものであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
国道沿線に五六軒の家作かさくを建てたりして裕福に暮らしていたのだったが、福子のことでは大分今迄いままでに手を焼いていた。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さても平野村甚左衞門方に世話せわに成居るお三婆は此事をきくよりおほひなげかなしみ先年御誕生ごたんじやうの若君の今迄いままでも御存命におはしまさば將軍の御落胤おんおとしだねなれば何樣いかやうなる立身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたくしはついふらふらとあがりましたが、不思議ふしぎにそれっきり病人びょうにんらしい気持きもちせてしまい、同時どうじ今迄いままでいてあった寝具類しんぐるいけむりのようにえてしまいました。
そこでみなさんはこれからも、大人になってもうそをつかず人をそねまず私共狐の今迄いままでの悪い評判をすっかり無くしてしまふだらうと思ひます。閉会の辞です。
雪渡り (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
この夏僕のところへ、山形やまがた県から手紙が来た。手紙を出した人は、山崎操やまざきみさをと云ふ人だつた。これが今迄いままで、手紙を貰つたこともなければつたこともない人だつた。
偽者二題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
真実まことありたけ智慧ちえありたけつくして御恩を報ぜんとするにつけて慕わしさも一入ひとしおまさり、心という者一つあらたそうたるように、今迄いままでかまわざりし形容なりふり、いつか繕う気になって
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
アヽおい源八げんぱちさん、源八げんぱちさん、アヽ死んだ、うも此金このかねがあるんで今迄いままで死切しにきれずにたんだナ
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は今迄いままで日記をつけたことがなく、この二十日間ほどの日記の後は再び日記をつけていない。
いつの間にかクシベシは今迄いままでのような襤褸ぼろのではない、新しい着物を着ていましたが、クシベシは、「こんなもので、これだけで足りるものか?」とぶつぶつ独言を言いながら
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
午後ごゞ十五ふんにゴールデンゲートをぎてから、今迄いままでにもう何時間なんじかんつたとおもふぞ。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
懷中時計くわいちうどけい海水かいすいひたされて、最早もはやものようにはらぬが、とき午前ごぜんの十と十一とのあひだであらう、此時このとき不圖ふと心付こゝろづくと、今迄いままでは、たゞなみのまに/\たゞよつてるとのみおもつてつた端艇たんてい
とく今迄いままでゐたいへつぶれたときにさうである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
勝平が、今迄いままで金で買い得た女性の美しさは、この少女の前では、皆偽物だった。金で買い得るものと思っていたものは、皆贋物にせものだったのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
小六ころく御米およね今朝けさから今迄いままで樣子やうすくと、じつあまねむいので、十一時半頃じはんごろめしつてたのだが、夫迄それまで御米およね熟睡じゆくすゐしてゐたのだとふ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それを見ると、今迄いままで夢の様に思われた彼女の美しさが、にわかに生々しい現実味を伴って、私に迫って来るのであった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、彼女は今迄いままでよりモット色々なことをおッくうがり、ものごとをしつこく考えてみるということをしなくなった。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
そこでみなさんはこれからも、大人になってもうそをつかず人をそねまず私共狐の今迄いままでの悪い評判をすっかり無くしてしまうだろうと思います。閉会の辞です。
雪渡り (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
今迄いままで書いた一聯いちれんの文章も一望のうちに視野におさめることが出来る、そういう状態にいない限り観念を文字に変えて表わすことに難渋するということをさとらざるを得なかった。
文字と速力と文学 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
知ずやと仰せ有ければ流石さすが不敵ふてきの段右衞門もたゞ茫然ばうぜんとして暫時しばらく物をも言ず俯向うつむきて居たりしが何思ひけんぬつくと顏をあげ今迄いままでつゝみ隱せし我が惡行あくぎやう成程穀屋平兵衞を殺害し金子百兩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ところが、さういふ風にして一二枚書いてゐるうちに、沼波瓊音ぬなみけいおん氏が丁度ちやうどそれと同じやうな小説(?)を書いてゐるのを見ると、今迄いままでの計画で書く気がすつかりなくなつてしまつた。
そのころ私は気紛きまぐれなかんがえから、今迄いままで自分の身のまわりをつつんで居たにぎやかな雰囲気ふんいきを遠ざかって、いろいろの関係で交際を続けて居た男や女の圏内から、ひそかに逃れ出ようと思い
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其頃そのころ弦月丸げんげつまるが、今迄いままでほど澤山たくさんの、黄金わうごん眞珠しんじゆとを搭載たふさいして、ネープルスかう出發しゆつぱつして、東洋とうやうむかふといふのは評判ひやうばんでしたが、たれおそ海蛇丸かいだまるが、ひそかにその舷側そば停泊ていはくして
あなたがわたくし守護霊しゅごれいであるとっしゃるなら、何故なぜもっとはやくおましにならなかったのでございますか? 今迄いままでわたくしはお爺様じいさまばかりをつえともはしらともたよりにして、心細こころぼそおくってりましたが
父の大事などには、今迄いままで一度も口出しなどをしたことのない彼女も、恐ろしい危機に、つい平生のたしなみを忘れてしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そうでしたか。僕は上野駅で変な自動車に押込まれたことは覚えていますが、すると今迄いままで気を失っていたのでしょうか。それにしても、どうして僕を
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ありや一體いつたいなにをするをとこなんだい」と宗助そうすけいた。このとひ今迄いままで幾度いくたび御米およねむかつてかへされたものであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それから私達は六百人の首切にそなえるために、今迄いままで入れていたどっちかと云えば工新式のビラをやめて、ビラと工場新聞を分けて独立さすことにした。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
とすると、矢張この空地に根気よくうずくまっていて、リリーがここを通りかかる偶然の機会をとらえるより外はないのであるが、しかし今迄いままで待って駄目だめなら、とても今夜は覚つかない。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いきどほり我が家へしのび入て種々しゆ/″\ぬすにげんとするをりお竹に見付みつけられし故殺したるならとくよりは思ひけれども是ぞと云ふ見定みさだめたる事なければ今迄いままでひかへたり最早證據あればかれ天命てんめいのがれぬ處なるにより早速さつそく願書ぐわんしよ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ところが、その半年ばかり前からというものは、私は朝々の出勤を、今迄いままで程はいやに思わぬ様になっていた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
代助はながら、自分の近き未来をうなるものだらうと考へた。うして打遣うちやつて置けば、是非共よめもらはなければならなくなる。よめはもう今迄いままで大分だいぶことわつてゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いくら歩いても一つ所をんでいるようである。砂地と云うものがこんなに歩きにくいとは今迄いままでかつて感じなかった。おまけに、前とは違ってわずかの間に路が何遍も左へ曲ったり右へ折れたりする。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今迄いままでの例によると、賊の予告は必ず実行されるのです。この紙切れがどういう径路を取って舞い込んで来たにもせよ。書かれてある文句は恐らく信用していいでしょう。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
じんだから」と云つた。今迄いままで日のとほんだ空気のしたで、うごかしてゐた所為せゐで、ほゝところほてつて見えた。それが額際ひたひぎは何時いつもの様に蒼白あをしろかはつてゐるあたりに、あせが少し煮染にじした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
沼のまわりは、少しの余地も残さず、ただちに森が囲んでいた。そのどちらの方角を見渡しても、末はあやめも知れぬ闇となり、今迄いままで私の歩いて来たのより浅い森はない様に見えた。
火星の運河 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これが今迄いままでの下宿屋であったら、仮令たとえ押入れの中に同じような棚があっても、壁がひどく汚れていたり、天井に蜘蛛くもの巣が張っていたりして、一寸その中へ寝る気にはならなかったのでしょうが
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)