黒縮緬くろちりめん)” の例文
黒縮緬くろちりめんの羽織に、利休茶りきゅうちゃのやわらか着衣もの、けばけばしく金のかかった帯や持物を身につけて、ぞろりと、納まり返っているではないか。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒縮緬くろちりめん羽織はおり唐繻子たうじゆすおびめ、小さい絹張きぬばり蝙蝠傘かうもりがさそばに置き、後丸あとまるののめりに本天ほんてん鼻緒はなをのすがつた駒下駄こまげたいた小粋こいき婦人ふじんが、女
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
黒縮緬くろちりめんの羽織の着こなしと云ひ、丸髷まるまげの似つかはしさと云ひ、何処どこの奥さんであらう、私さへも見それるほどめかしてゐた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
きつて來りつゝ居合はせし善六に向ひたづぬる樣に昨日年頃としのころ十八九の女の黒縮緬くろちりめんに八丈の小袖を襲着かさねぎせしがもし此道筋このみちすぢを通りしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
黒縮緬くろちりめんの羽織いかめしい、この相撲取の中でも群を抜いたかっぷくと貫禄に見えるのを、これも劣らぬ幕内力士らしい十数名が取りついて、遮二無二
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紗綾形さやがたの地紋のある黒縮緬くろちりめんでそれを製し、鈴屋衣すずのやごろもととなえて歌会あるいは講書の席上などの式服に着用した人であるが、その袖口そでぐちには紫縮緬の裏を付けて
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二三軒隣では、人品骨柄じんぴんこつがら天晴あっぱれ黒縮緬くろちりめんの羽織でも着せたいのが、悲愴ひそうなる声を揚げて、ほとんど歎願に及ぶ。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところどころに織り出した黒縮緬くろちりめんの羽織に、地味な藍色がかった薄いだんだら格子ごうしのお召の着物をきて
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
十一日にりよは中奥目見なかおくめみえに出て、「御紋附黒縮緬くろちりめん紅裏真綿添もみうらまわたそひ白羽二重一重しろはぶたへひとかさね」と菓子一折とをたまわった。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
黒縮緬くろちりめんの三つ紋をがたに着こなして、くすんだ半襟はんえりに、まげばかりを古風につやつやと光らしている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夫人の遺骸いがいは、十畳間の中央に、裾模様すそもよう黒縮緬くろちりめん、紋附を逆さまに掛けられて、静に横たわって居た。譲吉は、おもむろに遺骸の傍に進んだ。そして両手を突いて頭を下げた。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
重そうな黒縮緬くろちりめんの羽織が、で肩の円味をそのままに見せて、抜け上るような色白の襟足えりあしに、藤色の半襟がきちんとからみついて手絡てがらも同じ色なのがうつりよく似合っていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこにはもう僕のほかにも薄縁うすべりを張った腰かけの上に何人も腰をおろしていた。しかし一番目立ったのは黒縮緬くろちりめんの羽織をひっかけ、何か雑誌を読んでいる三十四五の女だった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
髪は白元結もとゆいできりりと巻いた大髻おおたぶさで、白繻子しろじゅすの下着に褐色無地の定紋附羽二重じょうもんつきはぶたえ小袖、献上博多白地独鈷とっこの角帯に藍棒縞仙台平あいぼうじませんだいひらの裏附のはかま黒縮緬くろちりめんの紋附羽織に白紐しろひもを胸高に結び
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
坊主頭に黄八丈のあわせ黒縮緬くろちりめんの羽織に短いのを一本きめて、読めそうもない漢文の傷寒論しょうかんろんふところにし、幇間ほうかんと仲人を渡世にしている医者は、その頃の江戸には少なくなかったのです。
後向うしろむきだったから、顔は分らなかったが、根下ねさがりの銀杏返いちょうがえしで、黒縮緬くろちりめんだか何だかの小さな紋の附いた羽織を着て、ベタリと坐ってる後姿が何となく好かったが、私がお神さんと物を言ってる間
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
黒縮緬くろちりめんの羽織に夢想裏むそううら光琳風こうりんふうの春の野を色入いろいりに染めて、納戸縞なんどじまの御召の下に濃小豆こいあづき更紗縮緬さらさちりめん紫根七糸しこんしちん楽器尽がつきつくしの昼夜帯して、半襟はんえりは色糸のぬひある肉色なるが、えりの白きをにほはすやうにて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
唯一つ、背の低い私にはちょっと手の届きかねる高い棚の上に、直径が七八センチもあろうと思われる大きい銀玉ぎんだまが載っていた、その銀玉は、黒縮緬くろちりめんらしい厚い座布団ざぶとんを敷いてにぶい光を放っていた。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
父は歎息たんそくして、無理は無い、居愁ゐづらくもあらう、困つた中に成つたものよと暫時しばらく阿関おせきの顔を眺めしが、大丸髷おほまるまげ金輪きんわの根を巻きて黒縮緬くろちりめんの羽織何の惜しげもなく、我が娘ながらもいつしか調ふ奥様風
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
西京さいきやう大坂おほさか芸妓げいこまゐつてりましたが、みな丸髷まるまげ黒縮緬くろちりめん羽織はおり一寸ちよつと黒紗くろしやれをひつけてりまして、様子やうす奥様然おくさまぜんとしたこしらへで
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「上品な、どこかの、若殿様でもあるようなおとこで、お忍び遊びという寸法らしく、黒縮緬くろちりめん頭巾ずきんをかぶったまま、酒をのんでいたというんです」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたりまえの黒縮緬くろちりめんの女頭巾を、ぐるぐるとまいて山法師のかとうを見るように、眼ばかり出したものです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
黒縮緬くろちりめん紋着もんつきかさねて、霞を腰に、前へすらりと結んだ姿は、あたかもし、小児こどもの丈にすそいて、振袖長く、影も三尺、左右に水が垂れるばかり、その不思議ななまめかしさは
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分のさいめるのはおかしいようであるが、僕はこの時ほど細君を美しいと思った事はなかった。もろ肌を脱いで石鹸でみがき上げた皮膚がぴかついて黒縮緬くろちりめんの羽織と反映している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
流行はやり醫者だな。ちよいと好い男の坊主頭で黄八丈に黒縮緬くろちりめんがよく似合ふ——」
「どうだネ。お前のふるい友達で、誰か可羨うらやましいような人が有るかネ。ホラ、黒縮緬くろちりめんの羽織を着て、一度お前のとこへ訪ねて来た人が有ったろう。あの人も見違えるほどお婆さんに成ったネ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ちゝ歎息たんそくして、無理むりい、居愁ゐづらくもあらう、こまつたなかつたものよと暫時しばらく阿關おせきかほながめしが、大丸髷おほまるまげ金輪きんわきて黒縮緬くろちりめん羽織はをりなんしげもなく、むすめながらもいつしか調とゝの奧樣風おくさまふう
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此の頃の老妓は中々見識のあったもので、只今湯に出かけまする姿ゆえ、平常着ふだんぎの上へ黒縮緬くろちりめんの羽織を引ッかけ、糠袋に手拭を持ってお村のうちの門口へ立ちまして
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それは黒の井桁いげたの紋付の羽織と着物を重ねていたが、かおと頭は黒縮緬くろちりめん頭巾ずきんで隠していたから。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……上衣コオト無しで、座敷着の上へ黒縮緬くろちりめん紋着もんつきの羽織を着て、胸へ片袖、温容しとやかつまを取る、かさねたもすそしっとりと重そうに、不断さえ、分けて今夜は、何となく、柳を杖にかせたい
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
チャラリ、チャラリと雪踏を鳴らして、今、銀五郎の左を横目づかいにすれ違った黒縮緬くろちりめんの十夜頭巾は、五、六けん行き過ぎてから、そっと足の穿き物をぬぎ、樹の根方へ押しやッた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柏手かしわでを打って鈴を鳴らして御賽銭おさいせんをなげ込んだ後姿が、見ているにこっちへ逆戻ぎゃくもどりをする。黒縮緬くろちりめんがしわの紋をつけた意気な芸者がすれ違うときに、高柳君の方に一瞥いちべつ秋波しゅうはを送った。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黄八丈のあわせに、黒縮緬くろちりめんの十徳、医者とも宗匠とも、幇間たいこもちともつかぬ風格で
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
文金ぶんきん高髷たかまげ唐土手もろこしで黄八丈きはちじょう小袖こそでで、黒縮緬くろちりめんに小さい紋の付いた羽織を着た、人品じんぴんのいゝこしらえで、美くしいと世間の評判娘、年は十八だが、世間知らずのうぶな娘が
明治十二三年頃めいぢじふにさんねんごろ出版しゆつぱんだとおもふ——澤村田之助曙双紙さはむらたのすけあけぼのさうし合卷がふくわんものの、淡彩たんさい口繪くちゑに、黒縮緬くろちりめん羽織はおり撫肩なでがたけて、衣裝いしやうつまつた、座敷ざしきがへりらしい、微醉ほろよひ婀娜あだなのが
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
黒縮緬くろちりめんの頭巾、鉄漿染おはぐろぞめの羽織。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ズツと頭巾ずきんを取るととしころは廿五六にもなりませうか、色の浅黒あさぐろい髪の毛の光沢つやいちよいと銀杏返いてふがへしにひまして、京縮緬きやうちりめん小紋織こもんおり衣類いるゐうへには黒縮緬くろちりめんの小さいもんつい羽織はおり
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
黒縮緬くろちりめんひともん羽織はおり足袋たび跣足はだしをとこ盲縞めくらじま腹掛はらがけ股引もゝひきいろどりある七福神しちふくじん模樣もやうりたる丈長たけなが刺子さしこたり。これは素跣足すはだし入交いりちがひになり、引違ひきちがひ、立交たちかはりて二人ふたりとも傍目わきめらず。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
人懐ひとなつッこいといったような調子で、光起にせな捻向ねじむけると、うなじを伸して黒縮緬くろちりめんの羽織の裏、くれないなるを片落しに背筋のななめに見ゆるまで、抜衣紋ぬきえもんすべらかした、肌の色の蒼白あおじろいのが、殊に干からびて
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時、黒縮緬くろちりめんの一ツ紋。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)