たか)” の例文
ただいずこともなく誇れるたかおもかげ眉宇びうの間に動き、一搏いっぱくして南の空遠く飛ばんとするかれが離別の詞を人々は耳そばだててけど
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
の眼たかの眼で再び函の中を調べ始めたのであったが、ちょうど木乃伊ミイラの足許に当る部分あたりから、さまざまのものが現れ始めた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
学士はそこに好い隠れ家を見つけたという風で、愛蔵するたかの羽の矢が白い的の方へ走る間、一切のことを忘れているようであった。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
神変夢想流のたか使い——鷹の翼を撃つがごとく、左右を一気に払って間髪かんぱつを入れない栄三郎、もはや今は近よる者もないと見て
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこには、すでに従者食客など数十人が、旗をささげ、たかをすえ、また狩犬をつれ、手には槍、勢子せこ棒などを持って勢揃いしていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ一ぴきたかが銀色の羽をひるがえして、空の青光を咽喉一杯にみながら、東の方へ飛んで行くばかりです。みんなは又叫びました。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「次は誰だ、字喜多うきた氏にしよう。型は当流でのたか片羽かたはだ。右肩を胸板まで切り下げる呼吸だ。用心! 行くぞ! 防いでごらん」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
乘組のりくんだふね帆柱ほばしらに、夕陽せきやうひかりびて、一ゆきごとたかきたとまつたはうつたとき連添つれそ民子たみこ如何いかかんじたらう。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
海辺に住むミサゴという一種のたかはつねに魚類を捕え食い、余ったものはこれを海岸の岩石の水たまりの中に漬けてめておく。
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
たかのぞくようなもんだと思って、そのまま黙って帰ってしまったんですが、そのお陰でぼくはすっかり神経衰弱になってしまったんですよ
街頭の偽映鏡 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「これは、まあ、結構に出来ましたな。上方へ戻っての、いい自慢ばなし——ほんに、このたかのすがたは、生きているようでありますな」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「大層な氣組だが、——まアあきらめる方が無事だらうよ。半年越し江戸中の岡つ引が、の目たかの目で探しても、尻尾をつかませない相手だ」
それはそう徽宗きそう皇帝の御筆ぎょひつというたかの一軸である。酒宴が果てて客がみな帰り去った後、夜がけてからかの狐が忍んで来た。
「これが出来たのでたかみねわしみねとが続いてゐる所が見えなくなりました。茶席など造るより、あの辺の雑木ざふきでも払へばよろしいにな。」
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そう言われて始めて弥吉は、詰所結いを望んで、児太郎の屋敷へ勤めたこと、たか狩の、くらヶ岳の池で始めて児太郎を見たことなどを話した。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
梅にうぐいすやら、浦島が子やら、たかやら、どれもどれも小さいたけの短いふくなので、天井の高い壁にかけられたのが、しり端折はしょったように見える。
普請中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ところが河井から京都の朝市の事を聞き、早朝の市日を熱心にあさった。商人がの目たかの目であさった後に吾々のような素人が行くのである。
そういう命令を出しますと、偵察機はただちに、獲物をめがけてとびおりるたかのように地上めがけてまいおりていきました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
マドレーヌは頭を上げ、見つめているジャヴェルのたかのような目付きに出会い、じっとして動かない農夫らを見、それから淋しげにほほえんだ。
秋雲の間にときとしてたかはやぶさかと思われる鳥の影を見ることはあっても、地上には一騎の胡兵こへいをも見ないのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ほんとうにたかと小すずめとのような争いであった。ちびは閉口して逃げ出すかと思うとなかなかそうでなかった。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
たかだのきつねだのたぬきだのいるところを通って、猿が歯をむいたり赤い尻を振り立てているところを抜けて、北極熊や北海道の大きな熊のいるところを通った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
森の中に、どこから出てきたのか、さるや、おおかみや、きつねや、野兎のうさぎや、鹿しかや、獅子ししや、たかや、わしなど、いろんな鳥やけだものが、あちらこちらにうずくまっているのです。
銀の笛と金の毛皮 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
長州たかの木島家までも手を廻したので、心弱い里方の父もその応対に困り果てましたが、その時祖母が
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そのほか御用のたかは人よりも貴く、御用の馬には往来の旅人も路を避くる等、すべて御用の二字を付くれば、石にてもかわらにても恐ろしく貴きもののように見え
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
二十四さした切斑きりふの矢を負い、薄切斑にたか割りあわせて作り、鹿の角を使った鏑矢かぶらやをさし添えていた。
相当な身分の男がただ一人の妻を愛して、何かにおそれているたかのように、じっと一所を見守っているようなのに似た私を、どんなに人が笑っていることだろう。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼女は藤色の衣をまとい、首からは翡翠ひすい勾玉まがたまをかけ垂し、その頭には瑪瑙めのうをつらねた玉鬘たまかずらをかけて、両肱りょうひじには磨かれたたかくちばしで造られた一対のくしろを付けていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
たかの白羽の矢が次郎兵衛の家の屋根を素通りしてそのおむかいの習字のお師匠の詫住わびずまいしている家の屋根のぺんぺん草をかきわけてぐさとつきささったのである。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
最早もう人気ひとけは全く絶えて、近くなる時斗満の川音を聞くばかり。たかなぞ落ちて居る。みちまれに渓流を横ぎり、多く雑木林ぞうきばやし穿うがち、時にじめ/\した湿地ヤチを渉る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
雀や文鳥のようにくちばしとがって三角に突き出た方でなく、むしろたかのように嘴が割合に小さく強く引きしまって尖端が鍵に曲り、眼も文鳥のように平らに横に附かず
木彫ウソを作った時 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
假初かりそめ愚痴ぐち新年着はるぎ御座ござりませぬよし大方おほかたまをせしを、やがあわれみてのたまはもの茂助もすけ天地てんちはいして、ひとたか定紋でうもんいたづらにをつけぬ、何事なにごとくて奧樣おくさま
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何か日本に固有こゆうな思想が一つでもありはせぬかと、の目たかの目で、本邦ほんぽうの制度やら歴史やらを調べると、神道しんとうだけは純粋じゅんすいなる大和やまと民族の思想であることがわかる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
実朝さねともの「四方よもけだものすらだにも」はやや理窟めきて聞ゆる「も」にて「老い行くたかの羽ばたきもせず」「あら鷹も君が御鳥屋みとやに」の二つはややこれに似たる者に有之候。
あきまろに答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
とびが出るか、たかが出るか、難産中で今日いまの処は何とも言へぬが、三十三四の、脂肪切あぶらぎつた未亡人を主人公に、五六十回続けて見ようと思ふが、問題が問題であるから
未亡人と人道問題 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
これはたかつかいが鷹を呼ぶ時にもそういったそうだから、烏だけに限った語ではないらしい。青森県の上北部ではシナイシナイ、もしくはコーロコロという家もある。
さ、いつごろ安房守あわのかみに叙爵したっけかな——トニカク、とびたかを産んだのか、いや、この親にしてこの子ありか、人間の万事はわからぬものだ、と神尾が思いました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうして、これまで注文した分には、たか雉子きじ鴛鴦おしどり、鶴、うずらなど……もう、それぞれ諸家の手で取り掛かったものもあり、また出来掛かっている物もあるのだという。
まるで、たかが獲物をねらふ時の智恵とそつくり同じだよ。弱いうさぎが鷹に文句が云へないやうに、鋏を椅子のうへに放り出しておいた君はこの子に文句は云へないんだよ。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
まるで、このホテルのほかに世界がないように、互いにの目たかの目で他人を見張っている。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もっと音色ねいろうつくしいわり毛並けなみ案外あんがいつまらないとりで、あるとき不図ふとちかくのえだにとまっているところをると、おほきさは鳩位はとぐらい幾分いくぶん現界げんかいたかて、頚部けいぶながえていました。
「今でも若いつもりですよ。可哀想かわいそうに」放したたかはまたそれかかる。すこしも油断がならん。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はの目たかの目で、左右の人々に一々眼をくばりながら橋を渡った。けれど玄の姿は一向見当らなかった。嘘を言うはずがないがと不審に思いながら私は橋を一渡りした。
たかへる小鳥の如く身動みうごき得為えせで押付けられたる貫一を、風早はさすがに憫然あはれと見遣りて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「おもしろいな」と光辰は面白くなさそうな声で云った、「では、たかも弓も使わないのか」
若き日の摂津守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その飛び方によって、私はそれをたかだと思った。氷原の南端は狭いみさきのように、その尖端が細まって海中に突出している。この岬の麓へ来た時に、一行は足を停めてしまった。
の目たかの目油断なく必死となりてみずから励み、今しも一人の若佼わかものに彫物の画を描きやらんと余念もなしにいしところへ、野猪いのししよりもなお疾く塵土ほこりを蹴立てて飛び来し清吉。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
対手の人も、たかの爪のようにのびて、しかも真黒な爪あかがたまっている自分の五つの爪を眺めた。他の者たちもあきれた。だが、当然驚かなければならない医者が平然としていた。
そう言って、たかのようなすごいずるい目を光らせながら、その場を去って行きました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
その他の各社とも何かしら読者を惹き付ける大記事は無いか……洪水おおみずは出ないか……炭坑は爆発しないか……どこかに特別記事とくだねは転がっていないか……との目たかの目になっていた。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)