途絶とだ)” の例文
よる大分だいぶんけてゐた。「遼陽城頭れうやうじやうとうけて‥‥」と、さつきまで先登せんとうの一大隊だいたいはうきこえてゐた軍歌ぐんかこゑももう途絶とだえてしまつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
つい、そのころもんて——あき夕暮ゆふぐれである……何心なにごころもなく町通まちどほりをながめてつと、箒目はゝきめつたまちに、ふと前後あとさき人足ひとあし途絶とだえた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それつきり途絶とだえてしまつた。時々擦違ふ外の端艇は男と女の差向ひと見て、わざと衝突しさうな勢ひを見せてからかつたり
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
最初から画面に心を打込んでいる白雲には、その色を見て取ることができなかったが、会話がふっと途絶とだえたので気がつき
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
線路の両側に鬱蒼うっそうと続いていた森が、突然ぱったりと途絶とだえると定規で引いたような直線レールがはるか多摩川の方に白々しらじらと濡れて続いています。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
四人は犯人の足跡を乱さぬ為に、それと並行に二三間も離れた所を歩いて、五十メートル程も行くと、往復二本の靴跡はそこでパッタリ途絶とだえていた。
暖簾外の女郎屋は表口の燈火を消しているので、妓夫ぎゆうの声も女の声も、歩み過る客の足音と共に途絶とだえたまま、廓中は寝静ってタキシの響も聞えない。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼の頭の上には真夏の青空がシーンと澄み渡って蝉の声さえ途絶とだえ途絶えている。彼を見守っているものは、空地の四方を囲む樹々の幹ばかりである。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
人通りの少い青森街道を、盛岡から北へ五里、北上川に架けた船綱橋ふなたばしといふを渡つて六七町も行くと、若松の並木が途絶とだえて見すぼらしい田舍町に入る。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
竹藪の鳥渡ちよつと途絶とだえた世離よばなれた静かな好い場所を占領して、長い釣竿を二三本も水に落して、暢気のんきさうに岩魚いはなを釣つて居るつばの大きい麦稈むぎわら帽子の人もあつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
親友しんいう送出おくりだして、アンドレイ、エヒミチはまた讀書どくしよはじめるのであつた。よるしづかなんおとぬ。ときとゞまつて院長ゐんちやうとも書物しよもつうへ途絶とだえてしまつたかのやう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
人の往来がまったく途絶とだえていると見えて、これが去年踏みわけた道とおなじだとは思えないほどであった。
だが、父の意にそむいて上京した子は、潤沢じゅんたくな学費を恵まれるわけにいかず、それに加えて、父の家業も思わしくなかったために、送金は途絶とだえがちであった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
元来思想上相容れなかったので思想上の扞格かんかくが感情上の乖離となって、一時は交際が殆んど途絶とだえていた。
ちょっと客も途絶とだえたので、番頭と小僧が店頭みせさき獅噛火鉢しがみひばちを抱き合って、何やら他愛たあいもないはなしに笑いあってると、てついた土を踏む跫音が戸外そとに近づいて
話が途絶とだえる。藤さんは章坊が蒲団へ落したあんを手の平へ拾う。影法師が壁に写っている。頭が動く。やがてそれがきちんと横向きに落ちつくと、自分は目口眉毛を心でつける。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
世の中が眠ると聞こえだすあの電車のひびきももう途絶とだえました。雨戸の外にはいつの間にかあわれな虫の声が、露の秋をまた忍びやかに思い出させるような調子でかすかに鳴いています。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
向うは往来おうらい三叉みつまたになっておりまして、かたえは新利根しんとね大利根おおとねながれにて、おりしも空はどんよりと雨もよう、かすかに見ゆる田舎家いなかや盆灯籠ぼんどうろうの火もはや消えなんとし、往来ゆきゝ途絶とだえて物凄ものすご
話が暫く途絶とだえた。市平も何も言わなかった。ただ涙含ましい空気がただよった。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
こくは、草木くさきねむる、一時いちじ二時にじとのあひだ談話だんわ暫時しばし途絶とだえたとき、ふと、みゝすますと、何處いづこともなく轟々ごう/\と、あだか遠雷えんらいとゞろくがごとひゞき同時どうじ戸外こぐわいでは、猛犬稻妻まうけんいなづまがけたゝましく吠立ほえたてるので
見返りしに人影もなく丁度ちやうど往來も途絶とだえしかばその邊にて殺さんと思へども此奴きやつ勿々なか/\の曲者なれば容易たやすくうしなひ難しれども幸ひ今宵はやみにてくらさはくらしいかにも遣過やりすごしてと思ひ故意わざと腰を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
興味がはずまないままみち子は来るのが途絶とだえて、久しくしてからまたのっそりと来る。自分の家で世話をしている人間に若い男が一人いる、遊びに行かなくちゃ損だというくらいの気持ちだった。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
やがて、正成は、いちど途絶とだえたことばを、また声低くつづけていた。
けれどもこの最後の頼みも途絶とだえさうになることは度たびだつた。
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
兄の声はそこで途絶とだえてしまつた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
勝手かつてしなにいていた、縁側えんがはについてようとすると、途絶とだえてたのが、ばたりとあたツて、二三つゞけさまにばさ、ばさ、ばさ。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
公園きのチンピラ共の外は、大抵たいてい帰って了い、お客様も二三人来たかと思うと、あとが途絶とだえる様になった。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
騒ぎはますます大きくなって、古市の町はひっくり返りそうで、さしもの参宮道が一時は全く途絶とだえてしまう。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
親友しんゆう送出おくりだして、アンドレイ、エヒミチはまた読書どくしょはじめるのであった。よるしずかなんおともせぬ。ときとどまって院長いんちょうとも書物しょもつうえ途絶とだえてしまったかのよう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ひさしかたぶきたるだいなる家屋の幾箇いくつとなく其道を挾みて立てる、旅亭の古看板の幾年月の塵埃ちりほこりに黒みてわづかに軒に認めらるゝ、かたはら際立きはだちて白く夏繭なつまゆの籠の日に光れる、驛のところどころ家屋途絶とだえて
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
「一度お伺いしなくっちゃわるいと思っていたんですけど、ついお処がわからなかったもんで……。」と女はあたりを見廻し停留場にも人影がなく通過とおりすぎえんタクもちょっと途絶とだえているのを幸い
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その時に正木博士の言葉が途絶とだえて、何やらカチッという音がした。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
はれくもりまたつきとなり、かぜとなり——ゆきには途絶とだえる——往來わうらいのなかを、がた/\ぐるまも、車上しやじやうにして、悠暢いうちやうと、はなとりきつゝとほる。……
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自動車が速度をゆるめて、大きくカーヴしたかと思うと、今までチラチラと窓をかすめていた街燈の光が、パッタリ途絶とだえて、両側が真暗闇になった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小西新蔵が、ちょっと枕を立て直す……そこで二人の会話が、また五分間ばかり途絶とだえる。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しらけて、しばらく言葉ことば途絶とだえたうちに所在しよざいがないので、うたうたひの太夫たいふ退屈たいくつをしたとえてかほまへ行燈あんどう吸込すひこむやうな大欠伸おほあくびをしたから。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
縁日えんにちにでも行くらしい人通りが、暫く続いたり、それが途絶とだえると、支那蕎麦屋そばやの哀れげなチャルメラのが聞えたりして、いつの間にか夜が更けたのである。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それから二人の会話が少し途絶とだえていると、その時、不意に腰障子の外から
座が白けて、しばらく言葉が途絶とだえたうちに所在がないので、唄うたいの太夫たゆう退屈たいくつをしたとみえて、顔の前の行燈あんどうを吸い込むような大欠伸おおあくびをしたから。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
別段悪いことでもないし、若しそれを拒絶したら学資が途絶とだえるので、僕は何の考えもなくこの申出もうしいでを承諾した。そうして、僕の呪われた研究が始まったのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
独言が途絶とだえて、馬のポクポクと歩く音が林の中へひっそりと響いて行く。
とぼけてになれ、そのみゝつてみゝづくのかげになれ、とかしてゐると、五月さつきやみがあつし、なみおと途絶とだゆるか、かねこえず、しんとする。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
恋人でなくても、相手の冷淡はねたましいものだ。僕は心にもない音信の途絶とだえを済まない事に思った。と云って、何もそれだからこの手紙を書き出したのではない。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そう思って見ると、この間少しばかり途絶とだえていたあやしの神楽太鼓が、またしても、三国みくにの裏山にあたって響きはじめたことです。そうして夜ごとに、山の奥へ奥へと響き進んで行くようです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで、側にいた奴が、無理に受話器をかけたと見えて、バッタリ声が途絶とだえてしまった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あ、いいえ。」と言つたが、すぐ又稚児ちごの事が胸に浮んだ。それなり一時いちじ言葉が途絶とだえる。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
途絶とだえた寝息がまたすやすやと聞える。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ですが、らつしやらないでもいんですか。お約束やくそくでもあつたんだと——うにか出來できさうなものですがね、——また不思議ふしぎ人足ひとあし途絶とだえましたな。こんなことつてないはずです。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そうした人通りが一寸ちょっと途絶とだえて、空地がからっぽになっていた時でした、ですから自然私も注意した訳でしょうが、一方のすみのアーク燈の鉄柱の所へ、ヒョッコリ一人の人物が現れたのです。
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこでちょっと話が途絶とだえました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)