枯木かれき)” の例文
森は雪におおわれて真白まっしろになりました。高い大きな枯木かれきの上で、カラスが拡声器をすえて、今しきりに、こんなことをしゃべっています。
ペンギン鳥の歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
こんな事を言ひ/\、樵夫きこりやつ枯木かれきり倒すと、なかから土でこさへたふくろの形をした物が、三つまでころころと転がり出した。
窓をあけてみると、ぱっと朝日の光がさしていて、向こうの桜の木立のなかの大きな一本の枯木かれきが、切りたおされかかっているところでした。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
初冬しよとうこずゑあわたゞしくわたつてそれからしばらさわいだまゝのちはたわすれてまれおもしたやうに枯木かれきえだかせた西風にしかぜ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
なぜといえば、彼は、刑場へ来る途中、すでに、刀も待たず、枯木かれきの折れるように、死ぬともみえず老衰で死んでいた。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その川端かわばたいわやれた枯木かれきをようやく燃しつつ溪流の清水しみずで茶をこしらえて飲み、それからまただんだん降ってダカルポ(白岩村はくがんそん)という所に出ました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
苦しい長い旅のために、巨男おおおとこはやつれはてて枯木かれきのようになりました。しかしそれでもゆるされなかったんです。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
枯木かれきのような鑑哲が、ヒョイヒョイとお辞儀をして外へ出ると、其処にはションボリ待って居た若い女が一人
そればかりでなく泥面子どろめんこ古煉瓦ふるれんがの破片を砕いて溶かして絵具とし、枯木かれきの枝を折って筆とした事もあった。
およそ何事においても行きづまれるは見悪みにくきものなるが、ことに理想において行きづまり、若い気のなくなった人は、まるで枯木かれきに弾力なきにひとしく実にみすぼらしい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ういたしましてお蔭様かげさまで助かりましてございます。女「そこにがありますよ、焚付たきつけがありますから。囲炉裡ゐろりなか枯木かれきれフーツとくとどつとあがりました。 ...
いのちのかぎりなれば夫婦ふうふこゑをあげほうい/\と哭叫なきさけべども、往来ゆきゝの人もなく人家じんかにもとほければたすくる人なく、手足こゞへ枯木かれきのごとく暴風ばうふう吹僵ふきたふされ、夫婦ふうふかしらならべて雪中にたふしゝけり。
皆之を押臥わうぐわし其上に木葉或はむしろきて臥床となす、炉をかんとするに枯木かれきほとんどなし、立木を伐倒きりたをして之をくすふ、火容易やうゐうつらず、寒気かんき空腹くうふくしのぶの困難亦甚しと云ふべし
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
東皐子とうくわうしはそれをいて、手紙てがみで『おもなほしていかとり枯木かれきに二とまる』とつて寄越よこす。幻翁げんおうもすゝめる。のゝしりながらもじつきたいので、また出掛でかける。相變あひかはらずなにい。
此の頭三三八何ばかりの物ぞ。此の戸口に充満みちみちて、雪を積みたるよりも白くきら々しく、まなこかがみの如く、つの枯木かれきごと、三たけ余りの口を開き、くれなゐの舌をいて、只一のみに飲むらんいきほひをなす。
まづ學問がくもんといふたところおんな大底たいていあんなもの、理化學政法りくわがくせいはうなどヽびられては、およめさまのくちにいよ/\とほざかるべし、だい皮相ひさう學問がくもん枯木かれきつくばなしたもおなじにて眞心まことひとよろこはぬもの
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
父のように大海の泡沫ほうまつのなかに消えて姿を見せない死、おばあさんのようにみほうけて枯木かれきのようになってたおれた生涯しょうがい昨日きのうまで元気だったのが一夜のうちに夢のように消えてしまった
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
いつも枯木かれきをつついて食べ物を見つけるのに苦労をしなければならぬ。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
みづはなれて、すれちがつて、背後うしろなる木納屋きなやてかけたすうぽん材木ざいもくなかえた、トタンにみとめたのは、緑青ろくしやうつたやうなおもてひかる、くちとがつた、手足てあし枯木かれきのやうな異人いじんであつた。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「そのどっさりおりますことと申しますと、群がり集まった足はちょうどすすきの原のすすきのようでございますし、群がったつのは、ちょうど枯木かれきの林のようでございます」と韓袋からぶくろは申しあげました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
かれふゆになつてまたおこりかけた僂痲質斯レウマチスおそれてきはめてそろ/\とはこんだ。利根川とねがはわたつてからは枯木かれきはやし索寞さくばくとして連續れんぞくしつゝかれんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
枯木かれきのやうな鑑哲が、ヒヨイヒヨイとお辭儀をして外へ出ると、其處にはシヨンボリ待つて居た若い女が一人
むかし支唐禅師ぜんじといふ坊さんが、行脚あんぎやをして出羽の国へ往つた。そして土地ところ禅寺ぜんでら逗留とうりうしてゐるうち、その寺の後方うしろに大きな椎の木の枯木かれきがあるのを発見めつけた。
空しく壮図を抱いて中途にして幽冥ゆうめいに入る千秋の遺恨は死の瞬間までももだえて死切れなかったろうが、生中なまなかに小さい文壇の名を歌われて枯木かれきの如く畳の上に朽ち果てるよりは
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そのせきは、冬の夜、枯木かれきのうれをならす風の音のように、ヒュウヒュウいった。
うた時計 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
きに月日つきひながからんことらや、何事なにごともさらさらとてヽ、からず面白おもしろからずくらしたきねがひなるに、春風はるかぜふけばはなめかしき、枯木かれきならぬこヽろのくるしさよ、あはつききか此胸このむねはるけたきにと
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はだかの枯木かれきが残ってるだけでした。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
雪降りて枯木かれきに花は開きつる
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
珍しい枯木かれきに見えよう。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
枯木かれきはやしのぼ煙草たばこけぶりれたまゝすつといそいでえだからんで消散せうさんするのもかくさずに空洞からりとしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
孫右衞門は枯木かれきのやうな手を振りながら、淋しく笑ふのです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
さらでもおいてはひがむものとかいはんやひんにやつれにやつれひとうらめしくなかつらくけてはなげれてはいかこゝろ晴間はれまなければさまでには病氣びやうきながら何時いつなほるべき景色けしきもなくあはれ枯木かれきたる儀右衞門夫婦ぎゑもんふうふちわびしきは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)