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掠
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かす
ふりがな文庫
“
掠
(
かす
)” の例文
水面を
掠
(
かす
)
めてとぶ時に、あの長い尾の尖端が水面を
撫
(
な
)
でて波紋を立てて行く。それが一種の
水平舵
(
すいへいだ
)
のような役目をするように見える。
浅間山麓より
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
霧は林を
掠
(
かす
)
めて飛び、道を
横
(
よこぎ
)
つて又た林に入り、
真紅
(
しんく
)
に染つた木の葉は枝を離れて二片三片馬車を追ふて舞ふ。
御者
(
ぎよしや
)
は
一鞭
(
いちべん
)
強く加へて
空知川の岸辺
(新字旧仮名)
/
国木田独歩
(著)
頬邊
(
ほつぺた
)
は、
可
(
い
)
い
鹽梅
(
あんばい
)
に
掠
(
かす
)
つたばかりなんですけれども、ぴしり/\
酷
(
ひど
)
いのが
來
(
き
)
ましたよ。
又
(
また
)
うまいんだ、
貴女
(
あなた
)
、
其
(
そ
)
の
石
(
いし
)
を
投
(
な
)
げる
手際
(
てぎは
)
が。
艶書
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
二人が育つて行くにつれ、母親にふと
危惧
(
きぐ
)
の念が
掠
(
かす
)
めた。二人があまり気の合つてゐる様子である。青春から結婚、それは
関
(
かま
)
はない。
蝙蝠
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
ホンのちょっと
掠
(
かす
)
り傷を負わされて、ひどい目に遭わされたように見せかけ、残りの原稿をすっかり自分の懐へ入れちゃったのです。
ニッケルの文鎮
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
▼ もっと見る
そして、草鞋の紐を通している時、二三人の馬上の人々が、二人の眼を
掠
(
かす
)
めて、鉄蹄の響きを残して、山の上へ影の如く過ぎ去った。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
私ども十六人が、皆、頭から石油を浴びて、左右の
袂
(
たもと
)
に火薬を入れたまま石垣を登って番兵の眼を
掠
(
かす
)
め、兵営や火薬庫に
忍込
(
しのびこ
)
みます。
近世快人伝
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
と、間もなく、その近江之介の首が
溜
(
たま
)
りへ投げ込まれて、喬之助は、それ以来、
厳
(
きび
)
しい詮議の眼を
掠
(
かす
)
めて、今に姿を現さぬのである。
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
「もう一度改めて
一
(
ウナ
)
から
三
(
トレス
)
を数えるまでに、俺の言うとおりにしなかったら容赦なく撃ち殺すぞ!」怒りで語尾が顫えて
掠
(
かす
)
れてきた。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
ええ、どうしたんだろう私は! と口惜しさ悩ましさにじれてみても、
喉
(
のど
)
まで出そうになる言葉が歯がゆくも心の奥へ
掠
(
かす
)
れてしまう。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
書窓
(
しょそう
)
から眺めると、
灰色
(
はいいろ
)
をした
小雨
(
こさめ
)
が、
噴霧器
(
ふんむき
)
で
噴
(
ふ
)
く様に、
弗
(
ふっ
)
——
弗
(
ふっ
)
と北から
中
(
なか
)
ッ
原
(
ぱら
)
の杉の森を
掠
(
かす
)
めて
斜
(
はす
)
に
幾
(
いく
)
しきりもしぶいて通る。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
朝日は既に東の山を離れ、
胡粉
(
こふん
)
の色に木立を掃いた
靄
(
もや
)
も、次第に淡く、小川の上を
掠
(
かす
)
めたものなどは、もう
疾
(
と
)
くに消えかけていた。
駈落
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
青い澄んだ空は、それをまじまじと眺めてゐる私に
眩
(
まぶ
)
しさを教へる。さうしてついとその窓を
掠
(
かす
)
めて行く何鳥かの羽裏がちらりと光る。
嘘をつく日
(旧字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
『お前も一杯やってみるか』と言った父の言葉が頭の
何処
(
どこ
)
かを
掠
(
かす
)
めた。そこで、ただ何となく『飲んでみるか』と軽く考えたのである。
酒渇記
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
取るに足らぬ女性の
嫉妬
(
しっと
)
から、
些
(
いささ
)
かの
掠
(
かす
)
り傷を受けても、彼は
怨
(
うら
)
みの
刃
(
やいば
)
を受けたように得意になり、たかだか二万
法
(
フラン
)
の借金にも、彼は
虚構の春
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
妻を盗まれた
夫
(
をつと
)
の霊、娘を
掠
(
かす
)
められた父親の霊、恋人を奪はれた若者の霊。——この河に浮き沈む無数の霊は、一人も残らず男だつた。
LOS CAPRICHOS
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
電車に乗っていてもふいと乗り合せの女のかおを目にいれると、ふしぎに家にいる女のかおが
掠
(
かす
)
めてしまうのである。暗い室がみえる。
香爐を盗む
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
自動車が傍を
掠
(
かす
)
めて走り電車は後ろの方で激しく警笛を鳴らす。その音がようやく耳にはいると彼は黙ったまま静かによけるのだった。
天馬
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
『どの点から見ても、意地悪で、高慢ちきな老爺だ』そういう考えがミウーソフの頭を
掠
(
かす
)
めた。概して彼は非常に不機嫌であった。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
高く
架
(
か
)
けられた絵のやうな橋、綺麗な
衣服
(
きもの
)
を着て其上を通つて行く女、ぶつつかりはしないかと思はれるほど近く
掠
(
かす
)
めて行く多くの舟
朝
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
罵声
(
ばせい
)
が子路に向って飛び、無数の石や棒が子路の
身体
(
からだ
)
に当った。敵の
戟
(
ほこ
)
の
尖端
(
さき
)
が
頬
(
ほお
)
を
掠
(
かす
)
めた。
纓
(
えい
)
(冠の
紐
(
ひも
)
)が
断
(
き
)
れて、冠が落ちかかる。
弟子
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
少し
微
(
かす
)
かではあるが、善く調子の合った歌が聞える。面白げに歌っている声が
掠
(
かす
)
めて通るので、木立の葉がゆらぐような心持ちがする。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
此時
(
このとき
)
家
(
いへ
)
の
戸
(
と
)
が
開
(
あ
)
いて、
大
(
おほ
)
きな
皿
(
さら
)
が
歩兵
(
ほへい
)
の
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
を
眞直
(
まつすぐ
)
に、それから
鼻
(
はな
)
の
尖
(
さき
)
を
掠
(
かす
)
つて、
背後
(
うしろ
)
にあつた一
本
(
ぽん
)
の
木
(
き
)
に
當
(
あた
)
つて
粉々
(
こな/″\
)
に
破
(
こわ
)
れました。
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
見
(
み
)
ると、
太陽
(
たいやう
)
がキラ/\と
輝
(
かゞや
)
いて
居
(
を
)
る
東
(
ひがし
)
の
方
(
ほう
)
の、
赤裸
(
あかはだか
)
の
山
(
やま
)
の
頂
(
いたゞき
)
を
斜
(
なゝめ
)
に
掠
(
かす
)
めて、
一個
(
いつこ
)
の
大輕氣球
(
だいけいききゆう
)
が
風
(
かぜ
)
のまに/\
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
飛
(
と
)
んで
來
(
き
)
た。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
それはむしろ薄い小形の本だったので、ついほかのものの
向側
(
むこうがわ
)
へ落ちたなり埃だらけになって、
今日
(
きょう
)
まで僕の眼を
掠
(
かす
)
めていたのである。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
欺
(
だま
)
し討になし其金を
奪
(
うば
)
ひ
取
(
とり
)
夫
(
それ
)
而已成
(
のみなら
)
ず文妹富を
欺
(
あざむ
)
きて遊女に賣渡し同人の身の代金三十兩を
掠
(
かす
)
め
取
(
とり
)
其後十兵衞
後家
(
ごけ
)
安
(
やす
)
を己れが惡事
露顯
(
ろけん
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
言下
(
ごんか
)
に
勿焉
(
こつえん
)
と消えし
刃
(
やいば
)
の光は、早くも宮が
乱鬢
(
らんびん
)
を
掠
(
かす
)
めて
顕
(
あらは
)
れぬ。
啊呀
(
あなや
)
と貫一の
号
(
さけ
)
ぶ時、
妙
(
いし
)
くも彼は
跂起
(
はねお
)
きざまに突来る
鋩
(
きつさき
)
を
危
(
あやふ
)
く
外
(
はづ
)
して
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
花にはあらで得ならぬ匂ひ、そよ吹く
風毎
(
かぜごと
)
に
素袍
(
すはう
)
の袖を
掠
(
かす
)
むれば、末座に
竝
(
な
)
み居る
若侍等
(
わかざむらひたち
)
の亂れもせぬ衣髮をつくろふも
可笑
(
をか
)
し。
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
一岩を踏むと、二つも三つも動く、中には
戛々
(
かつかつ
)
と音して、後続者の足もとを
掠
(
かす
)
め、渓谷に躍って行くので、皆横列になって危険を避ける。
穂高岳槍ヶ岳縦走記
(新字新仮名)
/
鵜殿正雄
(著)
いえいえ、
祠堂金
(
しどうきん
)
を初め、お山詣での方々の懐中を
掠
(
かす
)
めておりますことも、みな玄長様のお差しがねじゃとか言うてでござります
旗本退屈男:06 第六話 身延に現れた退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
で、先づ先輩からといふので、その蓄音機をかけると、尾崎氏の吹込演説は
感冒
(
かぜ
)
を引いたやうな
掠
(
かす
)
めた声で
喇叭
(
ラツパ
)
から流れて出る。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
絣
(
かすり
)
は「飛白」とも書き、また「綛」「纃」などの字も用いますが、「かすり」は「
掠
(
かす
)
る」という言葉に由来するものであります。
手仕事の日本
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
朝日は、今ようやく向いの建物の頭を
掠
(
かす
)
めて、低いそしてほの温い日ざしを、南向きの厚い
硝子
(
ガラス
)
の入った窓越しにこの部屋へ注入して来た。
鞄らしくない鞄
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
夏の陽が対岸の
檜山
(
ひのきやま
)
の
梢
(
こずえ
)
の向こうへ沈んでしまうと
蝙蝠
(
こうもり
)
が
宵闇
(
よいやみ
)
の家々の屋根を、
掠
(
かす
)
めるようにして飛び廻わり、藪原は夜になるのであった。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
すっと空を
掠
(
かす
)
めて、炬火の光を長く
尾
(
お
)
に引きながら、
程離
(
ほどはな
)
れた大河の淵へ落ちこんで、そのまま見えなくなってしまいました。
彗星の話
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
脂肪の多い
蒼白
(
あおじろ
)
い肉体が章一の頭を
掠
(
かす
)
めた。章一は目黒駅の片隅に人の視線を避けて己を待っている彼女のことを思いだした。
一握の髪の毛
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
夜更けでも陰気な雨の日でも、先生のこの音だけはいつも円々としていて、決して
濡
(
ぬ
)
れた感じや
掠
(
かす
)
れた響きをたてることがないのであった。
勉強記
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
そうすれば、あなたも私の目を
掠
(
かす
)
める必要がなくなって、正々堂々でしょう。どうせ矩を越えようなんて
思召
(
おぼしめし
)
はないんですから
四十不惑
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
早くも
裂帛
(
れっぱく
)
の気合とともに、ピシーリ。圓生の手の白い碁石が小圓太のほうへ投げつけられていた。危うく碁石は耳許を
掠
(
かす
)
って後へ落ちた。
小説 円朝
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
君側の奸を
掃
(
はら
)
わんとすと云うと
雖
(
いえど
)
も、詔無くして兵を起し、威を
恣
(
ほしいまま
)
にして地を
掠
(
かす
)
む。
其
(
その
)
辞
(
じ
)
は
則
(
すなわ
)
ち可なるも、其実は則ち非なり。
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
その中で、時折翼のような影が
過
(
よぎ
)
って行くけれども、たぶん
大鴉
(
おおがらす
)
の群が、円華窓の外を
掠
(
かす
)
めて、尖塔の
振鐘
(
ピール
)
の上に戻って行くからであろう。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
『あれ、
向
(
むか
)
うの
峰
(
みね
)
を
掠
(
かす
)
めて、
白
(
しろ
)
い、
大
(
おお
)
きな
竜神
(
りゅうじん
)
さんが、
眼
(
め
)
にもとまらぬ
迅
(
はや
)
さで
横
(
よこ
)
に
飛
(
と
)
んで
行
(
ゆ
)
かれる……あの
凄
(
すご
)
い
眼
(
め
)
の
色
(
いろ
)
……。』
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
目近かく仰ぎ上げる頂上を
掠
(
かす
)
めて、白い雲が飛んでは碧空に吸われるように消える。岩燕が鏑矢のような音たてて
翔
(
と
)
び
交
(
か
)
う。
案内人風景
(新字新仮名)
/
百瀬慎太郎
、
黒部溯郎
(著)
と、眼の前に、ふわりと、雪の粉が落ちる……七月末の炎天である……直ぐ、水に吸い込まれて消える……また、頬を
掠
(
かす
)
めて、ふわりと飛ぶ。
白峰山脈縦断記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
敵の本拠は仕方がないとしても、然らざる所に放火して財宝を
掠
(
かす
)
め歩いたのは、全く武士以下の歩卒の所業であった。即ち足軽の
跋扈
(
ばっこ
)
である。
応仁の乱
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
俺は自分の持物のようにリュックを
易々
(
やすやす
)
と
掠
(
かす
)
めていたのだ。これはどういうことだろう。そう思うと俺はちょっと惑乱した。
蜆
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
そしてビレラフォンは、カイミアラを
掠
(
かす
)
めて行く時、二つの残った首の一つをめがけて、またさっと一太刀斬りつけました。
ワンダ・ブック――少年・少女のために――
(新字新仮名)
/
ナサニエル・ホーソーン
(著)
かくて彼等は彼を百餘の
鐡鉤
(
かぎ
)
に噛ませ、こゝは汝のかくれて踊る處なれば、盜みうべくば目を
掠
(
かす
)
めてなせといふ 五二—五四
神曲:01 地獄
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
これはギリシアのテッサリアの山林に住んだ蛮民全身毛深く時に里邑を犯し婦女を
掠
(
かす
)
めたが、山中に住み馴れただけあって善く菜物を
識
(
し
)
った。
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
その次は鼻で皿の中から
香
(
こう
)
ばしい
匂
(
にお
)
いが鼻を
掠
(
かす
)
めればそこで一段の食慾を起す。悪い匂いが鼻を
衝
(
つ
)
いたら
忽
(
たちま
)
ち胸が悪くなる。
食道楽:冬の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
掠
漢検準1級
部首:⼿
11画
“掠”を含む語句
掠奪
劫掠
掠取
剽掠
奪掠
雑兵劫掠
侵掠
寇掠
拷掠
掠傷
掠疵
掠奪焚焼
掠賊
掠過
掠領
攻掠
殺伐掠奪
殺損奪掠
盜掠
虜掠
...