憂目うきめ)” の例文
これは寛政かんせい御改革のみぎり山東庵京伝さんとうあんきょうでん黄表紙御法度きびょうしごはっと御触おふれを破ったため五十日の手鎖てぐさり、版元蔦屋つたや身代半減しんだいはんげんという憂目うきめを見た事なぞ
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三度おとずれたが、三度とも同じ憂目うきめに逢った。もういまでは、草田氏も覚悟をきめている。それにしても、玻璃子が不憫ふびんである。
水仙 (新字新仮名) / 太宰治(著)
翌日も翌々日もその翌日も、寄せ手はりずまに攻めよせたが、そのつど正成の奇計によって、退却させられる憂目うきめばかりを見た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『あゝ、みなわたくしわるいのだ、わたくし失策しくじつたばかりに、一同みんな此樣こん憂目うきめせることか。』とふか嘆息たんそくしたが、たちまこゝろ取直とりなほした樣子やうす
船室にりて憂目うきめいし盲翁めくらおやじの、この極楽浄土ごくらくじょうど仏性ほとけしょうの恩人と半座はんざを分つ歓喜よろこびのほどは、しるくもその面貌おももちと挙動とにあらわれたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しもいやの何のと云おうものなら、しもと憂目うきめを見るは愚かなこと、いずれかのパシャのピストルの弾をおうも知れぬところだ。
著者が獄中にあって頭上で夥しく砲丸破裂の憂目うきめを見た実験談を述べて、その時獄中の人一斉に大腹痛大下痢を催したと書いた。
芸術も仏蘭西や白耳義ベルギーの名高い大寺の建物のように、国家と国家の狂暴な戦争行為のために凌辱の憂目うきめを見る外はありません。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
もし仮に他の人であったら現今いまのわたくしのような善い人たちにかこまれることもなく、かなしい憂目うきめを見たかも分りません。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
簀巻すまきにして川へほうり込むか、生埋いきうめにして憂目うきめを見せて遣ります、姉さん今にお医者様が来ますから、確かりしてお呉んなさい
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして自分たちにいたる迄、こんな流亡の憂目うきめをみるに至ったのだという日頃の憎悪ぞうおを以て、この李唐をも、頭から軽蔑けいべつしていたからであった。
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はその景観に見とれて何度たたずんだことでしょう。私はその道を撮影したばかりに、間謀かんちょうの嫌疑を受け、度々検事に取調べられる憂目うきめを見ました。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
江口君又論ずらく、「創作壇の一の木戸きど、二の木戸、本丸も何時かは落城の憂目うきめを見ん」と。何ぞその悠悠たる。
八宝飯 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
又、本物の福田家の自動車は、どうなったのか、しや、その運転手達も、明智と同じ憂目うきめを見たのではあるまいか。アア、世にも恐るべき兇賊の手腕。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
世間の所謂いわゆる家庭教育というものは皆是ではないか。私は幸いにして親達が無教育無理想であったばかりに、型に推込まれる憂目うきめのがれて、野育ちに育った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
自分がこんな憂目うきめを見ている以上、今にきっと源十郎が割って出て、万事をつくろってくれるものと信じているのだが、源十郎はお艶のことでいっぱいで
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
役人兩三人上意とこゑかけいましめられしかば何故斯る憂目うきめ逢事あふことやら合點行ずもとより惡事のおぼえなきゆゑ我が身に於て辯解まをしわけつべけれどもわれをらざれば母の看病かんびやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
されば貫一が鴫沢の家内に於ける境遇は、決して厄介者としてひそかうとまるる如き憂目うきめふにはあらざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もはや明日あすはパーリーという第一の関門へ着くので、事もし発覚すればおのれもとらえられて獄裡ごくり憂目うきめを見なければならぬという怖れを懐いたからでしょう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
スワこそ、バッテイラで乗込んで来るぞ、うかうかしていた日には、元寇げんこうに於ける壱岐いき対馬つしま憂目うきめをこの房州が受けなければならぬ。用心のこと、用心のこと。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
生きてかかる憂目うきめ見んより死してこの苦を免かるる方はるかにまさるべしなど思ひたるは幾度もありたれど、その頃はまだ気力衰へたれど澌滅しめつするには到らざりしをもて
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
其有耶無耶そのうやむやになつた腦裏なうりに、なほ朧朦氣おぼろげた、つきひかりてらされたる、くろかげのやうなへや人々ひと/″\こそ、何年なんねんことく、かゝ憂目うきめはされつゝりしかと
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
し彼が誤つて一歩此の土地を離れた後の失職の憂目うきめを予感させるやうな夕風であつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
ちょっと温泉に行きたくなった。宿直をして、外へ出るのはいい事だか、るい事だかしらないが、こうつくねんとして重禁錮じゅうきんこ同様な憂目うきめうのは我慢の出来るもんじゃない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
えなくも身代を使い果して、とうとう分散の憂目うきめに会い、昨日きのうまでの栄華はどこへやら、少しばかり習いおぼえた三味線にすがって所も同じ大阪の町中を編笠一つでさまよいあるき
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
はたしてロロー殿下や長良川博士は、これからどんな憂目うきめにあうのだろうか。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ロミオが自害じがいでもなされたか? これ、あいってや、そのあいといふ一言ひとことが、たゞ一目ひとめひところ毒龍コカトリスにもまして、おそろしい憂目うきめする。其樣そのやう羽目はめとならば、わし最早もう駄目だめぢゃ。
永い間、十年近い間、耕吉の放埒ほうらつから憂目うきめをかけられ、その上三人の子まで産まされている細君は、今さら彼が郷里に引っこむ気になったという動機に対して、むしろ軽蔑の念を抱いていた。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
攻めてくるばかりだ。反抗しても、所詮は敗北の憂目うきめを見るにきまっている
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
一同立往生の憂目うきめを見た事だろうと思うと、思わずほっとしたものだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
不用意に露宿するような憂目うきめも見ず、麓にちかい木立道を提灯ちょうちんの明りにみちびかれ、やがて親切なある農家の広い縁がわに腰を掛け、星を隠して巨人のように屹立している真暗な武甲山を仰ぎながら
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
立山中腹ブナの小屋においてテントを置いたまま退去の憂目うきめをみた。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
……しかし、かんがえて見れば、お献上の品に手をかければ、軽くて打首うちくび、重けりゃ獄門。……そうなりゃ、かえって伜に憂目うきめを見させるわけ。……ああ、やめにしようと、トボトボと引きかえした。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いや、まかり間違えば、作者にとっては全くもって致命的な、黙殺という憂目うきめに逢うかも知れないのである。しかし、それやこれやが如何いかに辛くても、やはり主人公のことに話を戻さなければなるまい。
殊更最前さいぜんも云うた通りぞっこん善女ぜんにょと感じて居る御前おまえ憂目うきめ余所よそにするは一寸の虫にも五分の意地が承知せぬ、御前の云わぬ訳も先後あとさきを考えて大方は分って居るからかくも私の云事いうことついたがよい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
貧しきも老の憂目うきめもふた親にわがつらかりしむくいなるらん
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
兄さんには、学校の入学試験でも何でも、どうも試験を甘く見すぎる傾向がある。入学試験に落ちた憂目うきめを見た事がないからかも知れない。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あだかも人のうなるような……いやうなるのだ。誰か同じくあしを負って、もしくは腹に弾丸たまって、置去おきざり憂目うきめを見ている奴が其処らにるのではあるまいか。
明智小五郎はこの憂目うきめを見るのがいやさに、腹痛を起したのだ。彼にはあのとき薄々それが分っていたのだ。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
虫が好過よすぎらあ——神尾さん、あんたのおかげで、罪もねえ奥様や、また弟御おとうとごや伊豆伍夫婦まで召し捕られてつい御詮議せんぎ憂目うきめを見ていなさるのを、あんたは
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あれという声、啊呀あなやと姉上の叫びたまいしと、わが覚ゆる声の、猫をば見たまいて驚きたまいしならばし。さなくて残忍なる養子のために憂目うきめ見たまいしならばいかにせむ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のがれねば二人とも如何なる憂目うきめに逢んも知れ難し少も早く落付おちつき給へと云ば友次郎は何か仔細しさいは分らねども然らばとて手ばや草鞋わらぢはかしむればお花も有合の草鞋を足に引掛ひつかけ二人手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その有耶無耶うやむやになった脳裡のうりに、なお朧朦気おぼろげた、つきひかりてらされたる、くろかげのようなこのへや人々ひとびとこそ、何年なんねんうことはく、かかる憂目うきめわされつつありしかと
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
残忍な試験に供せらるるだけの憂目うきめは免れることを得て、いずれへか逃げ去りました。
図らずも夫文治が赦免という有難き日に親のかたきを知り、多年の欝憤うっぷんらさばやと夫と共に旅立ちして、敵討かたきうち旅路たびじを渡る山中にて、なんの因果か神罰か、かゝる憂目うきめの身となりしぞ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わたくしが、世の常の白拍子しらびょうしのように、判官様へ無情つれなくあれば、年老いたあなたに、こんな艱苦かんくはおかけしないでもよいのに……私の婦道みさおのために……お母様までを、憂目うきめに追いやって
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恐ろしい恐ろしい巻き奉書だ、幕府の有司ゆうしの手に渡ったら、上は徳大寺大納言様から、数十人の公卿方のお命が消えてしまわないものでもない。のみならず下は俺のような廃者すたりものさえも憂目うきめ
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さうしてとてもこの罰の中つたからだでは、今更どうかうと思つても、願なんぞのかなふと云ふのは愚な事、だ未だ憂目うきめを見た上に思死おもひじにに死にでも為なければ、私のごうめつしないのでせうから
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何がさて空想でくらんでいた此方このほうの眼にそのなみだ這入はいるものか、おれの心一ツで親女房に憂目うきめを見するという事に其時はツイ気が付かなんだが、今となってう漸う眼が覚めた。
いかなる前生の悪業あくごうありてかかる憂目うきめに遭うかと生きる望も消えて、菊之助をほうむった後には共にわずらい寝たきりになって、猿の吉兵衛は夜も眠らずまめまめしく二人を看護し
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)