こは)” の例文
こはいぢやありませんか、親分さん。お孃さんは此處から突き落されたんですね、這ひ上がるところを、上から石を落されちや——」
「廣間にお待ちしてをりませう。そして若しこはいとお思ひになつたら、一寸お呼びになりや、直ぐに這入つて行つて上げますから。」
乘り入れて二進につち三進さつちもいかなくなるか自腹の痛事あるべきなりオヽこはやと悟る人は誠にい子といふべきなりなどと横道のむだは措きこゝ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
剥出むきだし是サ此子はこはい事はない此伯父と一所に歩行々々あゆめ/\引摺ひきずり行を娘はアレ/\勘忍かんにんして下されませ母樣かゝさまが待て居ますと泣詫なきわびるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
したが、これも時代ときよとあきらめるがいぞよ。これさ、うのたかのつて世間せけんくちにか〻るではないか、そんなこははせぬものぢや
うなることかとわたし、ほんとにこはう御座いましたよ、けども御前、伯父も本心から彼様あんなこと致したのでは御座いませぬでせうと思ひますの
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「何故といつて、奥さん、女房持ちの男がこはがるのは、たつた一人の女ですが、独身者ひとりものは女全体を恐ろしがるんですからね。」
するし、何や知らんが、こはさうにうなされてるし、……えらい近所迷惑やがな、……もうちよつと気いつけるわけにいかんか
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
あれで瓦斯ぐわすきます、よる方々はう/″\瓦斯ぐわすきますから、少しも地獄ぢごくこはい事はございません。岩「へえゝ、ひらけたもんで。 ...
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
死ぬ事がこはいのだつたら、方法を考へる事だつて怖いンだから、二人の死となると、よく計画しなくちや駄目なのね……
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
なんだか見無いでもいものを見る様な気が為て、こはく成つたが、思切おもひきつて引くと、荒い音もずにすつと軽くいた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
尤も眼をいて見せたら子供はこはがる、こぶしを振廻したらねこに逃げる、雖然魂のある大人おとなに向ツては何等の利目きめが無い。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
よく見ると、そんなにこはい顔ぢやないんだけど、なんて云つたらいゝのかしら……やつぱり、気味がわるいんだわ。
モノロオグ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「危ねえ」と云ふ時どもるやうになつて、兄は何か見えない恐ろしいものでも見つめるやうにこはい眼をして室の内を見廻した。お末も妙にぎよつとした。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
「それは文といふ女のお化けです。お前もおとなしくしないと、庭のお池からかういふこはいお化けが出ますよ。」
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「ブラ/\遊んでをるごくつぶしめア、今にあん通りになるんぢや」と私にこはい凝視を投げて甲走かんばしつた声で言つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
こはがるこたあない、いきなり彼奴を引つつかまへちまへ! 何をびくびくしとるんだ? 味方は多勢だぞ。確かにこいつは悪魔ではなくて人間だ!……」
「君にも解らないぢや、仕樣が無いね。で、一體君は、さうしてゐてちつともこはいと思ふことはないかね?」
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
宗助そうすけこはくなつて、きふ日常にちじやうわれおこして、へやなかながめた。へやかすかな薄暗うすぐららされてゐた。はひなかてた線香せんかうは、まだ半分はんぶんほどしかえてゐなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
女の子が側へ戻つて行くと、こはい顏をしながら、それをはかせた。パンツだつたのである。「あの兒、病氣か?」と私が又若い女に聞く。頭ガワルイといふ返辭である。
「まあ、こはい事ぢや御座いませんか。わたくしなぞは滅多に伺ふ訳には参りませんで御座いますね」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こはく淋しくなつて、その村へ逃げ込んだやうにも見え、又村の方が道を失つて、汽車に故郷へ連れて歸つて貰ひ度さに、線路のふちに固まり合つてゐるといつた風にも見える。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
それとも、まり手輕てがるったとおおもひなさるやうならば、わざこはかほをして、にくさうにいやはう、たとひお言寄いひよりなされても。さもなくば、世界せかいかけていやとははぬ。
それは生国魂いくたま神社の境内の、さんがんでゐるといはれてこはくて近寄れなかつたくすの老木であつたり、北向八幡の境内の蓮池にはまつた時に濡れた着物を干した銀杏いちやうの木であつたり
木の都 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
こはい顔をした郵便配達は、かう言つて、一間も此方こつちから厚い封書を銀場へ投げ込むと、クルリと身体の向を変へて、靴音荒々しく、板場で焼くうなぎの匂を嗅ぎながら、暖簾のれんくゞつて去つた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
自分じぶん現世げんせおかした罪悪つみがだんだんこはくなってどうにも仕方しかたなくなりました。
むかふの一ぴきはそこで得意とくいになつて、したして手拭てぬぐひを一つべろりとめましたが、にはかにこはくなつたとみえて、おほきくくちをあけてしたをぶらさげて、まるでかぜのやうにんでかへつてきました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
人は冬をすこしこはがつてゐた、それほど冬は猛烈で手きびしかつた。
(旧字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
淫賣だといふ噂のある娘と相乘で端艇ボートに乘る位の洒落氣もあるし、段々氣心が知れて見れば、見かけのこはらしい程の事は無く、存外優しくて親切らしいところもあると思ひかけてゐたところだから
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
「あの………。」おいとは急に思出おもひだして、「小梅こうめ伯父をぢさん、どうなすつて、お酒につて羽子板屋はごいたやのおぢいさんと喧嘩けんくわしたわね。何時いつだつたか。わたしこはくなツちまツたわ。今夜こんやいらツしやればいゝのに。 ...
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私は「夜」というものがこはかつた。何故にこんな明るい晝のあとから「夜」といふ厭な恐ろしいものが見えるのか、私は疑つた、さうして乳母の胸にひしと抱きついては眼の色も變るまでわなないたものだ。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
其故それゆゑ郵便局いうびんきよくくのはこはいとふは一ぱん評判ひやうばん
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その高いすすまじりのほのほをもつといやがれこはいと思へ
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
速度の速い、いろんな車がこはくてならぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ちつともこはい事はないんですよ。』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「これやあ、こはくつて通れんわい」
「昨日は石を抱かされたとよ、三度も目を廻して、腰から下が寒天かんてんのやうに碎かれても、口を割らないさうだ、女の剛情なのはこはいぜ」
「どんなこはいことが起りましたの?」と彼女は云つた。「仰しやつて頂戴! どんな惡い事でもすぐお聞きしなければなりませんわ。」
へえゝの見えないうちかへつておどろきませんでした、うでも勝手にしねえとりましたから、いたらなんだかこはくツてちつとも歩けません。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
老女としよりの方が実はこはいのサ」と、松島の呵々大笑かゝたいせうして盃を挙ぐるを、「まア、お口のお悪いことねエ」とお熊も笑ひつ「何卒松島さんお盃はお隣へ——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
憎らしいとか、こはいとかぢやないの。なんか、かう、すかすかした、興醒めな気持しか起らないのね。どういふんでせう、それが、かうなつたんだわ……。
モノロオグ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
周三は、畫室を出ると、また父に取捕まつて、首根くびねつこを押へ付けて置いてめ付けられるのがこはいのだ。で、しん氣臭いのをおつこちへて、穴籠と定めて了ふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「危いのこはいのつて、子供にはうつかりして居られやしない。お末の奴、今朝あぶなく昇汞しようこうを飲む所さ……あれを飲んで居て見ろ、今頃はもうお陀仏様なんだ」
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
も見ずに迯行にげゆきしが殘りし二人は顏見合せこはい者見たしのたとへの如く何樣どんな人やらよくんと思へば何分おそろしく小一町手前てまへたゝずみしがつれの男は聲をかけいつその事田町とほりを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そりやこはいよ。何もも怖いよ。そして頭が痛くなる、漠然とした恐怖——そしてどうしていゝのか、どう自分の生活といふものを考へていゝのか、どう自分の心持を
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
神を怖れなかつたソクラテスも、女の舌だけは身慄みぶるひしてこはがつたといふが、その女のなかで一番皮肉な、啄木鳥きつつきのやうな舌を持つてゐるのが婆芸者といふ一階級である。
出はなれたり梅花道人いかにしてかおくれて到らずさてこそ弱りて跡へ殘りしならん足は長けれど役にはたゝず長足道こはし馬乘らぬとは此事だと無理を云ふうちオイ/\諸君の荷物を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
旦那さまに安心してゐる奥さまつて、清潔で綺麗ね。善いひとを不幸にするのはこはいわ……
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
本當ほんたうに、こはいもんですね。もとはあんな寐入ねいつたぢやなかつたが——どうも燥急はしやぎるくらゐ活溌くわつぱつでしたからね。それが二三ねんないうちに、まるべつひとやうけちまつて。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
侍童 (傍を向きて)こんな墓原はかはら一人ひとりってゐるのはこはらしい、が、ま、やってよう。