なり)” の例文
としてはおおきなものよ、大方猪ン中の王様があんな三角なりの冠をて、まちへ出て来て、そして、私の母様おっかさんの橋の上を通るのであろう。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六日間も自転車競争場の桟敷で、さばけたなりをして酒の肴のザリ蟹を剥いてるところなぞ一緒にいてぞっとする程好かったですよ。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
己の思うには当分は自分の差料にするより外に仕様がねえ、そこでそのさむれえなり恰好は己が知ってるが、安さんつらア知ってるだろうな
二人ふたりはすでにかわける砂を踏みて、今日のなぎ地曳じびきすと立ち騒ぐ漁師りょうし、貝拾う子らをあとにし、新月なりの浜を次第に人少なきかたに歩みつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「ツ、ツ、ツッ……」と、のど捕縄とりなわをつかみながら、孫兵衛だけは、つるを張られた弓のなりに、そこへ、食いとめられてしまった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大きな、笑うと目元に小皺こじわの寄る、豊頬ふっくりした如何いかにも愛嬌のある円顔で、なりも大柄だったが、何処か円味が有り、心も其通りかどが無かった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼女はみじめななりをしている。ことに色のせた靴下が、焦げた靴の上にだらしなく下っているので、なおさらその感が深い。
「このなりじゃあ眼についていけないんです、むやみに戦地のことをきかれるんでね、これがいちばん閉口です、どうかひとつ貸してください」
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
眼も遥かな下の線路に大の字なりにタタキ付けられている彼自身の死骸を見下したかのように、魂のドン底までも縮み上らせられたのであったが
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
那覇や首里を訪われるなら、そのゆかしいなりを何処にも見られるでしょう。何も貴族のみがまとうのではありません。それは庶民の風俗なのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
何者か種子を蒔く時に、文字形にそれを蒔いたと見えて種子から生い出た草花の花が文字なりに崩れずに咲いている。そしてその文字は斯うである——
死の復讐 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それがね。髪もなりも取り乱しているが、ちょいと踏めるような中年増に酌をさせて、上機嫌に何か歌っていましたよ」
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
するとそこに坐つてゐた男は、一寸眉をしかめて、口もとをへの字なりに歪めた。上人は泣き出しさうな顔をして、またその丸薬を手に取りあげた。
なにとはなしにはりをもられぬ、いとけなくて伯母をばなるひと縫物ぬひものならひつるころ衽先おくみさきつまなりなど六づかしうはれし
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
米友は口惜しがって地団太じだんだを踏みましたが、続いて同じようななりをして、同じ年頃の娘が、これも同じように頭巾で面を包んで出て来たのを見ると
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「どうも坊主にはなっておらぬらしいが、どんな風体ふうていでいても見逃がすなよ。だがどうせ立派ななりはしていないのだ」
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夕陽を避けて壁際に大の字なりに仰臥した藤吉、傍に畏る葬式彦とともに、いささか出鼻をくじかれた心持ちで、に組の頭常吉の言葉に先刻から耳を傾けている。
身躰からだではないが、君が此尫弱ひよわなりでどうしてあれだけの詩篇が出來、其詩篇が一々椋實珠むくろうじゆのやうに底光りのした鍛錬の痕を留めてをる、其精力の大さでした。
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
これを銀之助の五分刈頭、顔の色赤々として、血肥りして、なりふりも関はず腕捲うでまくりし乍ら、はなしたり笑つたりする肌合に比べたら、其二人の相違は奈何どんなであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その同勢三四十人のなりすさまじさと申したら、悪鬼羅刹あっきらせつとはこのことでございませうか、裸身の上に申訳ばかりの胴丸どうまる臑当すねあてを着けた者は半数もありますことか
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
内儀かみさん、わしどんななりにかうちてなくつちやなんねえから、そんとき家族うちきまりもつけべとおもつてんですが、お内儀かみさんまたわしこと面倒めんだうておくんなせえ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
四角なかに、円い蟹、「生きて居る間のおの/\のなり」を果敢はかなく浪の来ぬ間のすなあとつけたまでだ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
と、猫はことばをつづけて、——『わしはこの通りなりが小さくなって、わしが実は何者かということのよく分らぬ者の眼には、猫と見えるような仕儀になってしもうた。 ...
隅の方には、葉の細い柿の樹が一本、くの字なりにひよろりとしてゐる。らぬ柿の樹だ。其の下に地を掘ツた向ふの家の芥溜が垣根越しに見える。少し離れて臺所も見える。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
赤土の急勾配、溝のごとくになり、すべって転ぶ事も幾回なるを知らず、足を大の字なりに拡げて両側の草を踏みつつ、ヨタヨタ進まねば容易に登る事の出来ぬ場所も五、六町。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
サンパンと云う船がここかしこに浮かんでなりに合しては大き過ぎるぐらいなを上げている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
財布の中へつぶてか何か入れて置いて、人の頭へ叩きつけて、ざまあ見やがれ、彼様あんな汚いなり
東の辰さんの家では、なりは小さいが気前の好い男振りの好い岩公が音頭とりで、「人里ひとざとはなれた三軒屋でも、ソレ、住めば都の風がゥくゥ、ドッコイ」歌声うたごえにぎやかにばったばた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
すなはち、そのまゝ、モーニングなりでわたくしは百花園へ乗込んだのである。
(新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
家の近所では女中達が未だしどけないなりをして彼方此方で門を開けていた。
朝起の人達 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ちょッとああいったようなね、くびつきでしたの。」女は下の人込みの中から、なりのいい五分刈り頭を見つけ出して、目をしおしおさせた。笹村もこそばゆいような体を前へ乗り出して見下した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
三角なり街燈がいたうの鉄の支ちゆうによろけかかつて腰をつき
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「あれ、お前さん。そんななりで」
山吹やまぶきかさに挿すべき枝のなり
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
さかしきこゝろきよなり
花枕 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
防がんやうなく只濡ひたぬれなるに脊はまた汗なり一里に足らぬ峠なれど急上きふのぼりの急下きふくだりなれば大辟易の形となりぬやがて峠へ上りつきて餅屋にて云々しか/″\なりの者は通らずやと聞けば先におくだりになりましたと云ふさては梅花道人も谷へは落ちざりしかと安心しくだりとならば嶮しとて一跳ひとはねにせんものと雨を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
可哀かあいや我故身形みなりかまはず此寒空このさむそらあはせ一ツ寒き樣子は見せねども此頃は苦勞の故か面痩おもやせも見えて一入ひとしほ不便に思ふなり今宵は何方いづかたへ行しにや最早初更しよや近きにもどねば晝は身なり窶然みすぼらしく金の才覺さいかくにも出歩行あるかれぬ故夜に入て才覺に出行しか女の夜道は不用心ぶようじんもし惡者わるもの出會であはぬか提灯ちやうちんは持ち行しか是と云も皆我が身のある故なり生甲斐いきがひもなき身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
な、三日月なりだろう、この界隈かいわいでちっとでも後暗いことのある者は、あれを知らぬは無いくらいだ。といえば八蔵はしたり顔にて
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一体角力取すもうとりの愛敬というものは大きいなりこわらしい姿で太い声の中に、なんとなく一寸ちょっと愛敬のあるものでのさり/\と歩いて参りまして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
親船には恐怖と大寂だいじゃくが残った。松兵衛と新吉とは、最前からひたいをすりつけてしまったまま、らいにうたれたようにうッ伏したなりとなっていた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うそまことか九十九辛棒しんぼうをなさりませ、きくのおりき鑄型いがたはいつたおんなでござんせぬ、またなりのかはることもありまするといふ、旦那だんなかへりときい朋輩ほうばいをんな
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お佐代さんはなりふりに構わず働いている。それでも「岡の小町」と言われた昔のおもかげはどこやらにある。このころ黒木孫右衛門というものが仲平に逢いに来た。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ゲエテはその『狐の裁判』で、「猫はなりこそ小さいが、分別もあり、哲学をも知つてゐる。」と言つた。
その同勢三四十人のなりすさまじさと申したら、悪鬼羅刹あっきらせつとはこのことでございましょうか、裸身の上に申訳ばかりの胴丸どうまる臑当すねあてを着けた者は半数もありますことか
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
正しく仕える身であるから、彼らはみだらなりを慎む。相応しき体を整え、謹ましく衣を染める。おごる風情は器らしき姿ではない。華かに過ぎるなら、仕える心にもとるではないか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
火の海の表面から湧き起った仄黄色ほのきいろい水蒸気と、煙と、焔の一団が、渦巻き合いながら中空のやみへ消え入ると、あとに等身大の大の字なりの黒い斑点が残っていたが、それとてもやがて又
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
皆具かいぐ取鎧とりよろうて草摺長くさずりながにザックと着なした大鎧おおよろいで茶室へも通れまいし、又如何に茶に招かれたにしてもただちに其場より修羅のちまたに踏込もうというのにはかま肩衣かたぎぬで、其肩衣の鯨も抜いたようななりも変である。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なりでみると相当な店の隠居らしいがな」
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すでについたるなり
第二海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほほう生れかわって娑婆しゃばへ出たから、争われねえ、島田の姉さんがむつぎにくるまったなりになった、はははは、縫上げをするように腕を
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)