尻目しりめ)” の例文
課長の村山むらやまが、まだ机の上をゴテゴテ取片づけているのを尻目しりめにかけて、役所を駈け出すと、彼は真一文字に自宅へと急ぐのであった。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は老母ばあさんのぶつぶつ言っているのを尻目しりめにかけながら座敷に上って喪心したようにどかりと尻を落してぐったりとなっていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そしてそれに近づきもし得ないでののしり騒ぐ人たちを、自分の生活とは関係のない木か石ででもあるように冷然と尻目しりめにかけた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
が、当の玄蕃允げんばのじょうは、勝助家照の憂いなどは、もとより意にもなかった。彼は直接、叔父勝家の帷幕いばくへ臨んで、居合わせた衆臣を尻目しりめ
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも誰にも恐れられてゐた「新徴組しんちようぐみ」の一人ひとりに違ひなかつた。かれは叔父を尻目しりめにかけながら、にやにや笑つて歩いてゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
女は通りがかりに自分らのほうを尻目しりめににらんで口の内で何かつぶやいた、それは Grob ! と言ったように思われた。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
既に我が身に引請んとするを暫時しばしと引留千太郎進みより否々いへ/\久八にては御座らぬと言んとするを押留おしとゞ尻目しりめかけて夫となく知らする忠義の赤心まごころ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
トお勢を尻目しりめにかけてからみ文句であてる。お勢はまた始まッたという顔色かおつきをして彼方あちらを向てしまう、文三は余儀なさそうにエヘヘ笑いをする。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼は駭いたボーイを尻目しりめにかけながら、廊下を走るように馳け過ぎて、廊下の端にある二階への階段を、烈しく駆け上ろうとしたときだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
主題の提出をい受けて、即座に豪壮絢爛けんらんきわまる変奏曲をつけ、弾き終ると、驚き呆れるモーツァルトを尻目しりめに、たつとざして外へ出てしまった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
新平はもう寺を自分のものにしたようなつもりで、大鉈おおなた一打ひとうちこしにぶちんだだけで、うらやましがる若者どもを尻目しりめにかけながら山の寺へ出かけて行った。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
尾行の警吏がくるまを飛ばして追尾し来るを尻目しりめに掛けつつ「我は既に大臣となれり」と傲語したのは最も痛快なる幕切れとして当時の青年に歓呼された。
ものいふこゑがけんどんであららかで、假初かりそめことにも婢女をんなたちをしかばし、わたしかほをば尻目しりめにおにらあそばして小言こごとおつしやらぬなれどもそのむづかしいことふては
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たった一人ひとり江戸えどうまれて江戸えどそだった吉次きちじが、ほか女形おやま尻目しりめにかけて、めきめきと売出うりだした調子ちょうしもよく、やがて二代目だいめ菊之丞きくのじょういでからは上上吉じょうじょうきち評判記ひょうばんき
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そして、一同を尻目しりめにかけて、控所ひかえじょを出て行った。止せというのに、戸部近江之介が後を追った。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ト、涙ながらに物語れば、黄金丸も不憫の者よト、くだんの鼠を慰めつつ、彼の烏円を尻目しりめにかけ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
やがて東屋氏は、驚いているわたしを尻目しりめにかけ、三田村技手へあらたまった調子で言った。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
格子こうしが開いたと思うと「今日は」と入って来たのが一人の軍曹。自分をちょっと尻目しりめにかけ
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
彼女は身請みうけされて廃業したという。朋輩が夕刊を配達してK楼にきたら、番頭さんが新聞の配達を中止してくれと云い、そのことを告げたのだという。朋輩は驚いている私を尻目しりめにかけ
朴歯の下駄 (新字新仮名) / 小山清(著)
りやくしてまをすのですが、其處そこ案内あんないもなく、づか/\とはひつてて、立状たちざま一寸ちよつとわたし尻目しりめにかけて、ひだりについた一にんがあります——山伏やまぶしか、隱者いんじやか、とおも風采ふうさいで、ものの鷹揚おうやう
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其麽そんなこといふもんぢやねえ、そんだらねえげよこしつちめえ」おつぎはちひさなこゑでいつて尻目しりめけた。與吉よきちはさういひながにしただけはぽり/\とんだ。乾燥かんさうしたひゞきが三にんくちつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
落魄おちぶれても白い物を顔へは塗りませぬとポンと突き退け二の矢を継がんとするお霜を尻目しりめにかけて俊雄はそこを立ち出で供待ちに欠伸あくびにもまた節奏ありと研究中の金太を先へ帰らせおのれは顔を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
変化へんげの正体を見届けたような心持で、覚えず其顔を見詰めると、お民の方でもじろりと僕の顔を尻目しりめにかけて壁の懸物へと視線をそらせたが、その瞬間僕の目に映じたお民の容貌の冷静なことと
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「そうだ」と帆村は首領のおどろくのを尻目しりめにかけて喋りつづけた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
七兵衛は、銀ごしらえの脇差を尻目しりめにかけて通ると
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
尻目しりめで見ている。優越感があるようである。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
客は栄吉の方を尻目しりめにかけて
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
葉子は冷然として、の下にうつむいてきちんとすわっている妹を尻目しりめにかけた。愛子はしとやかに頭を下げて従順に座を立って行った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
黒いやつはピストルをつきつけて、老人のような笑い声を立てながら、立ちすくむ伊志田氏を尻目しりめに、悠々と部屋のそとへ姿を消してしまった。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夫人の顔が、さすが蒼白そうはくに転ずるのを尻目しりめにかけながら、信一郎は、素早く部屋を出ようとした。が、それを見ると、夫人はきっとなって呼び止めた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すると男女の客が二人ふたり、僕等の顔を尻目しりめにかけながら、「何か匀ひますね」「うん、糞臭くそくさいな」などと話しはじめた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
人々がいろいろ手を尽して介抱すると、まもなく息を吹き返したが、今度は、よろよろっと起き上ると、人々の呆然ぼうぜんとした顔を尻目しりめに、舞を舞い始めた。
お峯を泣かせし今朝とは変りて父が顔色いかにとばかり、折々見やる尻目しりめおそろし、父は静かに金庫の間へ立ちしがやがて五十円束一つ持ち来て、これは貴様に遣るではなし
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
咲耶子さくやこも四勇士も、あッ、しまった! と階段へ追いすがってきたが、呂宋兵衛はそれを尻目しりめにかけて、早くも塔の扉をひらき、そのなかへ風のごとく姿をすいこませてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さうかあ、そんぢやわるかつたつけなぢいそんぢやいまえてやつかんなよ」おつぎは勘次かんじ壁際かべぎはをけから先刻さつきのよりははるかに多量たりやうふくろれてやつた。さうしておつぎは勘次かんじ尻目しりめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
お町の大地に崩折れるのを尻目しりめ
もうだいぶ酒の気のまわった倉地は、女の肉感をそそり立てるようなにおいを部屋へやじゅうにまき散らす葉巻をふかしながら、葉子を尻目しりめにかけた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
心配そうな鳥羽院や、ざまあ見やがれとでもいった公卿たちを尻目しりめにかけて、彼の弁舌はさわやかであった。
みねなかかせし今朝けさとはかはりてちゝかほいろいかにとばかり、折々をり/\やる尻目しりめおそろし、ちゝしづかに金庫きんこちしがやがて五十ゑんたば一つて、これは貴樣きさまるではなし
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
尻目しりめかけ打笑ひまだ行ぬかと大音にしかつけられ口惜くちをしながら詮方なく凄然々々すご/\我が家へ立戻たちもどりぬ跡に長庵はうき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
時たま思ひ出したやうにはたはたと団扇うちはづかひするか、巻煙草まきたばこの灰を払つては又火をつけて手にもつてゐる位なもの、絶えず尻目しりめに雪子のかたを眺めて困つたものですなと言ふばかり
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
流し詫入わびいるていこそ笑止せうしけれ長庵は忠兵衞を尻目しりめにかけだまれ忠兵衞いらざるなんぢ噪々おしやべりより我が舊疵ふるきず
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
えず尻目しりめ雪子ゆきこかたながめてこまつたものですなとふばかり、あゝ此樣こんことりましたらはやくに方法はうはふつたのでしやうがいまつては駟馬しめおよばずです、植村うゑむら可愛想かあいさうことでした
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いゑ中々なか/\そのやうに遠方ゑんはうことばかりでは御座ござりませぬ、追々おひ/\にと衣紋ゑもんいて咳拂せきばらひすれば、小間使こまづかすこかほあかくして似合頃にあひごろうへ惡口わるくちふくなにすやらと尻目しりめにらめば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
尻目しりめにかけて振むかふともせぬ横顔をにらんで、能い加減に人を馬鹿にしろ、黙つてゐれば能い事にして悪口雑言は何の事だ、知人しつたひとなら菓子位子供にくれるに不思議もなく、貰ふたとて何が悪るい
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
尻目しりめにかけてふりむかふともせぬ横顏よこがほにらんで、加減かげんひと馬鹿ばかにしろ、だまつてればことにして惡口雜言あくこうざうごんなんことだ、知人しつたひとなら菓子位くわしぐらい子供こどもにくれるに不思議ふしぎもなく、もらふたとてなにるい
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)