たん)” の例文
これに加うるに中国一流の華麗豪壮な調ちょうと、哀婉あいえん切々の情、悲歌慷慨こうがいの辞句と、誇張幽幻な趣と、拍案はくあんたんの熱とを以て縷述るじゅつされてあるので
三国志:01 序 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
○英雄には髀肉ひにくたんといふ事がある。文人には筆硯生塵ひっけんちりをしょうずといふ事がある。余もこの頃「錐錆を生ず」といふ嘆を起した。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
国境を守って、松倉家からの注進を聞きながら、脾肉ひにくたんを洩しているうちに、十余日が経った。いよいよ十二月八日、上使板倉内膳正いたくらないぜんのしょうが到着した。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
吾が党、この学に従事する、ここに年ありといえども、わずかに一斑をうかがうのみにて、百科浩澣こうかん、つねに望洋ぼうようたんを免れず。実に一大事業と称すべし。
慶応義塾の記 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
斯く思いて余はほとんど震い上り世には恐ろしき夫婦もあるかなたんじたれど、此後の事は是よりもひどかりき。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
親子おやこもしくは夫婦ふうふ僅少わづか手内職てないしよくむせぶもつらき細々ほそ/\けむりを立てゝ世が世であらばのたんはつそろ旧時きうじの作者が一場いつぢやうのヤマとする所にそろひしも今時こんじは小説演劇を
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
一年ほどってから孔子が苦笑と共にたんじた。ゆうが門に入ってから自分は悪言を耳にしなくなったと。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかし、夜がけて行くと、多摩川の流れの音が、えて聞えるだけで、別段、お化けも出なければ、幽霊も現われず、あたら英雄も髀肉ひにくたんに堪えない有様です。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あわれこの人男子と生れて太棹ふとざおを弾きたらんには天晴あっぱれの名人たらんものをとたんじたという団平の意太棹は三絃芸術の極致にしてしかも男子にあらざればついに奥義おうぎ
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
客答へて曰く、栗樹は人家ちかき所にるのみ、是より深山にらば一樹をもあたはざるべしと、余又くりを食する能はざるをたんじ、炉辺ろへんくりあぶり石田君もともに大に之をくらふ宿は
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
予が新銭座しんせんざたくと先生のじゅくとは咫尺しせきにして、先生毎日のごとく出入しゅつにゅうせられ何事も打明うちあけ談ずるうち、つね幕政ばくせい敗頽はいたいたんじける。もなく先生は幕府外国方翻訳御用がいこくかたほんやくごよう出役しゅつやくを命ぜらる。
現代思潮の変遷はその迅速なること奔流ほんりゅうもただならない。あしたに見て斬新となすものゆうべには既に陳腐となっている。槿花きんかえい秋扇しゅうせんたん、今は決して宮詩をつくる詩人の間文字かんもじではない。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「立川飛行聯隊では、大分脾肉ひにくたんに、たえかねているようでは、ありませんか」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
戦後その身のかんなるがために所謂いわゆる脾肉ひにくたんえず、折柄おりから渡来とらいしたる日本人に対し、もしも日本政府にて雇入やといい若年寄わかどしより屋敷やしきのごとき邸宅ていたくに居るを得せしめなばべつかねは望まず
読者どくしやるや、とんさんと芥川あくたがは……あゝ、面影おもかげえる)さんが、しか今年ことしぐわつ東北とうほくたびしたときうみわたつて、函館はこだてまづしい洋食店やうしよくてんで、とんさんが、オムレツをふくんで、あゝ、うまい、とたん
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それより漂流中へうりうちういろ/\の艱難かんなんて、やうやこのしま漂着へうちやくしたまで有樣ありさま脱漏おちもなくかたると、ひとあるひおどろき、あるひたんじ、武村兵曹たけむらへいそう木像もくぞうのやうになつて、巨大おほきくして、いきをもかずいて
記しあるにぞ見る武左衞門一句毎くごとに或は驚き或はたんじ又悲しみ又は感じ暫時しばし言葉もいでざりしは女兒むすめの生命にかゝは大事だいじ猶豫いうよなすべき所に非ずと思へば寢衣ねまきまゝにして我家を立出で家主の門口へ行き戸を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一同は脾肉ひにくたんを発してうでをさすった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
実に怪むべく、たんずべきにあらずや。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
悵然ちょうぜんとしてたんじた。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
迷いにとらわれて、一つ所に人馬の旋風つむじを巻いていた。そこへ後ろから馬を飛ばしてきた仲達が、口々にいうたんを聞いて、さてはと悟り顔に
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
辣腕らつわん剽悍ひょうかんとの点においては近代これに比肩ひけんする者無しとたんぜられているひと。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たとえば医学の如きは、日本にてその由来も久しく、したがってその術も他の諸科に超越するものなれども、今日の有様を見れば、西洋の日新をうて、つねに及ばざるのたんをまぬかれず。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
徳用無類と雖も煩さくしつッこくボンヤリして気がきかず能く堪うべきに非ざるなり。児孫は老父を慰め団欒の楽しみをなすと雖障子はいつも穴だらけなり。荘子そうし既に塗抹詩書とまつししょたんをなせり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
備中びつちうおどろたんじ、無事ぶじわたてた按摩あんまを、床几しやうぎちか召寄めしよせて
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
艦橋かんけうのぼき。 ほしあほぎてたんずらく。
なにがさて、髀肉ひにくたんをもらしながら、伊那丸いなまるのゆるしがでぬため、いままでジッとうでをさすっていた人々、くさりをとかれた獅子ししのようないきおいだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃まではなんのといっても私にはまだ若い気が残っていた。四十の声を聞いて日記雑録など筆を執るごとにしきりに老来のたんをなしたのも、思えばなお全く老いるにはいたらなかった証拠であろう。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そう慰めながらも、一面には、自分の本質のうちに、なお慰めきれない髀肉ひにくたんが常にあるらしく見られる彼であった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
龍太郎りゅうたろうしかり、小文治こぶんじしかり、蔦之助つたのすけ忍剣にんけんも、髀肉ひにくたんをもらしながら、四本のくさりでとめられた四ひきひょうのような眼光がんこうをそろえて両肱りょうひじっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何、何。……このうらみ、このたん、もし年ありて再び来らば、潯陽じんようの水をくれないに。……だれだろう。こんなものを
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけて将軍家には、大奥の花にも見飽いてもおられようし、その眼にかなう程なとなると、容易ではない。——いや世間に絶無かもしれぬと、わしがたんじた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このところ髀肉ひにくたんにたえないのは張飛であった。常に錦甲きんこうを身に飾って、玄徳や孔明のそばに立ち、お行儀のよい並び大名としているには適しない彼であった。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを、思いがけない蹉跌さてつで聞きながしている愚連隊たちは、いかにも髀肉ひにくたんじるように振りかえって
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なさず、髀肉ひにくたんをかこちいたり、明日、みずから出でて、思うさま戦い、まず黄忠を生捕って見しょう
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「変事があったら、すぐ駈けて来て、門をたたけ。うちのかかゅうどどのは、そういう折を待ってござるが、出会わないので、毎日、髀肉ひにくたんをもらしているくらいだ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、髀肉ひにくたんじて、兄にも人にも洩らしているほど、武勇にかけても、人におくれぬ自信はあった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すけたんじた。そして身をひるがえすやいな、湊川の川尻のほうへ逸散いっさんに駈け去った。——同時に、彼の姿が、或る一合図を、足利勢のすべてへ告げていたことでもあったか。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……だから、貴公が、北国の僻地へきちに生れたというたんも、何もなげくにはあたらない。自分は一生、北辺の一隅から動くまいと思っても、天下がうごく、時雲は案外、はやいものです
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、われながらその不出来なのをたんじて、その夜、床に入ってからも種々工夫をらしていたが、卒然そつぜん悟るところがあって、起き出でてまた、描き出したということである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんなに怒るかと思いのほか、曹操は堂中の諸士をかえりみて、たん久しゅうした。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ただ髀肉ひにくたんにたえないのは、この場合にきて拙者の左腕うでだ」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
髀肉ひにくたん——ということばがあるな。知っておるじゃろう」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき、たんずるようにいったのは竹童ちくどうだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
林冲も病尉遅びょううっちも、おもわずたんを発した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、舌打ちならして、たんじていた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このうらみ、このたん
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)