風呂敷ふろしき)” の例文
毎日毎日、母はそうしてつないだ三つか四つの麻糸のたま風呂敷ふろしきに包んで、わずかな工賃をもらいに弟を背負っては出かけるのだった。
お母さんは、ものの二つのひつと、達二たつじの小さな弁当べんとうとを紙にくるんで、それをみんな一緒いっしょに大きなぬの風呂敷ふろしきつつみました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その瘤の先が風呂敷ふろしきの結び目の様にキュッとしぼんでいるのは、一見外科手術の痕で、この乞食が癩病患者ではないことを語るものだ。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
島の女の人の風習らしいが、正代も風呂敷ふろしきや何かの布れでいつもすっぽりと頭を包む。まるでロシアの農婦のかぶるプラトオクのようだ。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
其處そこ風呂敷ふろしきひぢなりに引挾ひつぱさんだ、いろ淺黒あさぐろい、はりのある、きりゝとしたかほの、びん引緊ひきしめて、おたばこぼんはまためづらしい。……
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
倅と相談をした翌日、老人は桐の箱を風呂敷ふろしきに包んで朝早くから出た。そうして四時頃になって、また桐の箱を持って帰って来た。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
重箱ぢうばこに入風呂敷ふろしきに包みて和吉に脊負せおはせて待間まつま程なく長三郎は身姿みなりを繕ひ部屋の中より立出たちいで來り兩親始め忠兵衞にも挨拶あいさつ成て和吉を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
絵の具箱へスケッチ板を一枚入れて、それと座ぶとん代わりの古い布切れとを風呂敷ふろしきで包み隠したのをかかえて市内電車で巣鴨すがもまで行った。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
すると、——おのずから目をました。はまだ明け切らずにいるのであろう。風呂敷ふろしきに包んだ電燈は薄暗い光を落している。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
日が暮れる迄には、まだ、だいぶ間が在る。私は熊本君から風呂敷ふろしきを借りて、それに脱ぎ捨てた着物を包み、佐伯に持たせて
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
机の上に在った二三冊のノートのようなものを、風呂敷ふろしきに包んでしまうと、彼は父に一寸ちょっと目礼して、飛鳥のようにへやからけ出そうとした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ぬすんだつちわけぢやねえが、ふたとつてところなんだよ」さういつてばあさん風呂敷ふろしき四隅よすみつかんで圍爐裏ゐろりそばつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
網棚あみだなの上の風呂敷ふろしきの中には、お母さんから托された、お祝いの品が包んである。昨日、お母さんと二人で、新宿へ出てととのえた品であった。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
縫物をどういう風にした場合かという事はこれだけでは判らぬが、あるいは風呂敷ふろしきにくるんで雨中持って歩いておるような場合でもあろうか。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
と清水粂之助の指さす部屋の一隅には、まぎれもないこけ猿の茶壺が、古びた桐箱にはいり、鬱金うこん風呂敷ふろしきに包まれて——。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
買つて来られるさア! 風呂敷ふろしきもつて、市場に行つて、お金を出して、包んでもらふんさ。純子姉ちやんはね、おじやがと、さやゑんどうなんだよ。
母の日 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
ことに村を出るまでは、顔を知った人たちにあうたびに、顔がぽっとあかくなって、いっそ大きい風呂敷ふろしきにでも胡弓を包んで来ればよかったと思った。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
風呂敷ふろしきの中から地獄壺を出して、与一の耳の辺でってみせた事が大きいそぶりであっただけに私は閉口してしまった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
彼は先刻からりそろえておいた七、八冊のさし絵入りの漢書——それは皆彼の父が丹精たんせいして手に入れたものであった——を風呂敷ふろしきに包み、また
欝金うこん風呂敷ふろしきつつんで、ひざうえしっかかかえたのは、亭主ていしゅ松江しょうこう今度こんど森田屋もりたやのおせんの狂言きょうげん上演じょうえんするについて、春信はるのぶいえ日参にっさんしてりて
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「バスケットだの、かばんだの、風呂敷ふろしき包みだの、大分持って行ったんですよ。実は昨日、つまらないことでちょっと喧嘩けんかしたもんですから、………」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
妻は、模様も分らなくなった風呂敷ふろしきを三角に折って露西亜ロシアじんのようにほおかむりをして、赤坊を背中に背負いこんで、せっせと小枝や根っこを拾った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お糸は縮緬ちりめん風呂敷ふろしきにつつんだ菓子折を出した。長吉は呆気あっけに取られたさまで物もいわずにお糸の姿を目戍みまもっている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
天子は驚いてそれを調べてみると、旒冕そべん糜藁きびわらしんで編んだもので、袞竜こんりょうの服は敗れた黄ろな風呂敷ふろしきであった。天子は王給諌が人をいるのを怒った。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
それにまた猿の方でも、風呂敷ふろしきにいっぱい米と野菜とをもらっていったためか、それきり姿を見せませんでした。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
乙吉は幾度も係官の前に迷惑をかけたことをしゃし、屍体は持参じさん棺桶かんおけおさめ所持品は風呂敷ふろしきに包んで帰りかけた。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「お茶を持ってまいりませんで」と女中は風呂敷ふろしき解きて夏蜜柑なつみかん、袋入りの乾菓子ひがし、折り詰めの巻鮓まきずしなど取り出す。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
小さな風呂敷ふろしき包みを一つ持っただけで、もう芝栗が出さかる季節だというのに洗いざらした浴衣ゆかた一枚であらわれ、そのまま篠咲の家にいすわってしまった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
背には風呂敷ふろしき包み、紺の脚絆きゃはんも長旅の塵埃にまみれて、いかにも疲れ果てたというふうであったが——立ち留まって、あとを追いかけてきた田舎娘を待った。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それが私のおかしな意地であったが、とにかく、象牙彫りをやって、それを風呂敷ふろしきに包んで牙商の店頭へ売りに行くなぞは身をられてもいやなことであった。
と獣医は屠手に言付けて、大きな風呂敷ふろしき包を見るような臓腑を片付けさしたが、その辺の柱の下には赤い牝牛の尻尾、皮、小さな二つの角なぞが残っていた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
天秤てんびんの先へ風呂敷ふろしきようのものをくくしつけ肩へ掛けてくるもの、軽身に懐手ふところでしてくるもの、声高こわだかに元気な話をして通るもの、いずれも大回転の波動かと思われ
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そういって私は懐中ふところから、ちょうど折よく持ち合わしていた紫めりんすの風呂敷ふろしきの畳んだのを取り出して
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
前にすわっている五十余りのやみ商人らしい男が、風呂敷ふろしきを窓にあてがっているが、どうもうまくとまらない。
硝子を破る者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それからお父様は、着換きがへだの足袋だの、学校道具だのを風呂敷ふろしきに包んで、愚助に脊負しよはせて、お寺へつれて行きました。それを見た和尚様は、にこにこ笑ひながら
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
いつか、きたないなりをして、かみをもじゃもじゃにしたそれはそれは小さな女の子が、よごれた風呂敷ふろしきづつみをぶらさげて、店の前にたっていたことがありました。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
二人は間もなく宿を出て、葉子自身は花模様の小浜の小袖こそでを一枚、風呂敷ふろしきに包んで抱えて庸三の家へ帰って来た。彼女はなるべく金の問題から遠ざかっていたかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たてかけしかさのころころところががりいづるを、いま/\しいやつめと腹立はらたたしげにいひて、取止とりとめんとばすに、ひざせてきし小包こづゝ意久地いくぢもなくちて、風呂敷ふろしきどろ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
名もお花さんと云うそうだ。妻が少し語をまじえて、何もないのでむらさきメレンスの風呂敷ふろしきをやった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
土地の人とはまるまる疎遠そえんでもなかった。若狭わかさ・越前などでは河原に風呂敷ふろしき油紙の小屋をけてしばらく住み、ことわりをいってその辺の竹や藤葛ふじかずらってわずかの工作をした。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すぐ風呂敷ふろしきの結び目がずつとけてしまつて、うしろへ荷物をはふり出し、すぐ匕首あひくちいて追剥おひはぎたゝかふくらゐでなければ、とて薬屋くすりや出来できませぬ、わたしけば大丈夫でございます
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お前をちょっとためしたところよ。おい、風呂敷ふろしきを解いてくんな、あつらえ物を見てえからの」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
気の強い母は、ぼくの顔をみるなり、みつくように、「あったかえ」と訊ねました。ぼくは無言で、荷物のところへ行くと、蒲団はすでにたたんで、風呂敷ふろしきが、上にっています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
小さい風呂敷ふろしき包を持った、バーからバーを廻って歩く少年らしいのが、変にゆっくり歩き出したな、と思う間もなく、冷たいアスファルトの上に、ころんと横になってしまったのだ。
睡魔 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「アア、あの水引の掛けてあった竹刀しないでございましょう。——それと、お風呂敷ふろしき
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さような所業は何かしら非常な悪徳の一つとさえ見做みなされていて、えて行うものは、夜陰に乗じて、カンヴァスを風呂敷ふろしきにつつみ、そっと先生の門をたたくといった具合であったらしい。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
丁度こちらの三枝さんの奥さんが此処ここのヴェランダに出て新聞を見ていますと、きたない風呂敷ふろしき包を肩にぶらさげ、蝙蝠傘こうもりがさを手にした婆さんがきょときょとしながら庭先へはいって来るので
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
『すっかり忘れていた、失敬失敬、それよりか君に見せたい物があるのだ、』と風呂敷ふろしきに包んでその下をまた新聞紙で包んである、画板がはんを取り出して、時田に渡した。時田は黙って見ていたが
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
爺さんは鶴を入れた風呂敷ふろしきの包みをとかずに、かう言ひました。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
毎日馴染なじみの家をぐるぐるまわって歩いているうちには、背中の荷がだんだんかろくなって、しまいにこん風呂敷ふろしき真田紐さなだひもだけが残る。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)