自己じこ)” の例文
間斷かんだんなく消耗せうまうして肉體にくたい缺損けつそん補給ほきふするために攝取せつしゆする食料しよくれうは一わんいへどこと/″\自己じこ慘憺さんたんたる勞力らうりよくの一いてるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
自己じこ現在げんざいつて經濟界けいざいかいつと變化へんくわしてるにかゝはらずれにたいして充分じうぶん理解りかいのないのがむしろより重大ぢうだいなる原因げんいんである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
友を救うためには、自己じこ危難きなんをかえりみるべきでない、義侠ぎきょうの血をうけた富士男の意気いきは、りんぜんとして五体にみちた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そして、ごまかしの誘惑ゆうわくや、一宣伝せんでんにとりことなるのを警戒けいかいし、自己じこしんずるひと投票とうひょうしようとしたのであります。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれはじつとしてゐられなかつた。うしなはれようとする人気にんき取返とりかへさうとして、かれらに世界的せかいてき自己じこ宣伝せんでんして、圧倒的あつたうてき名声めいせい盛返もりかへさうとかんがへた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そうしてこういうことが、自己じこ天職てんしょくからみてもかえってとうといのじゃないかなど考えながら、ますますになって農民にしたしむことをつとめた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
これは、ひと讀書どくしようへばかりではない。んでも、自己じここしゑてかゝらなければ、をとこでもをんなでも、一しやう精神上せいしんじやう奴隷どれいとなつてんでほかいのだ。
読書の態度 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼等かれら自己じここゝろのある部分ぶぶんに、ひとえない結核性けつかくせいおそろしいものがひそんでゐるのを、ほのかに自覺じかくしながら、わざとらぬがほたがひつてとしすごした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
歐米諸國をうべいしよこく寸尺すんしやく土地とちいへど自己じこ領分りようぶんとなさんときそひあらそひ、こゝに、一個いつこ無人島むじんとうでもあつて
俺だつて一個の人間であつて見れば、何時まで自己じこ没却ぼつきやくして、此様に苦しむでゐる、ことあ有りやしない。一つはねを伸して、此のあやふやな境遇きやうぐうを脱けて見やうじやないか。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ひさしぶりで孤獨こどく生活せいくわつつてる、これも病氣びやうきのおかげかもれない。色々いろ/\なことをかんがへてひさしぶりで自己じこ存在そんざい自覺じかくしたやうながする。これはまつた孤獨こどくのおかげだらうとおもふ。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
世には蓬的よもぎてき自己じこを有して居る人も少くは無い、若し蓬的自己を有して居る人ならば、自己を沒卻して仕舞つて、自己より卓絶した人、即ち自己が然樣さう有り度いと望むやうな人に隨從して
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
重役へ願ひしが自己じこ言状いひじやうを立んとて取上られずよんどころなく今朝直願に及びしが是又御親子の御愛情あいじやうひかされ給ひ筋違すぢちがひの事重役を蔑如べつじよし大法に背くとの趣きにて重き上意をかうむり予は閉門へいもん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今此処から三里へだてゝ居る家の妻の顔が歴々と彼の眼に見えた。彼は電光の如く自己じこの生涯を省みた。其れはうつくしくない半生であった。妻に対する負債ふさいの数々も、緋の文字もじをもて書いた様に顕れた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
たかうするものはいやしくせられ自己じこいやしくするものはたかくせられん。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自己じこ詮議せんぎ
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
假令たとひ他人たにんためにはかなしいでもの一じつだけは自己じこ生活せいくわつからはなれて若干じやくかん人々ひとびとと一しよ集合しふがふすることが彼等かれらにはむし愉快ゆくわいな一にちでなければならぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
代助が黙然もくねんとして、自己じこは何のため此世このよなかうまれてたかを考へるのはう云ふ時であつた。彼は今迄何遍も此大問題をとらへて、かれ眼前がんぜんに据ゑ付けて見た。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まへべたごと政府せいふ自己じこ買取かひとつた在外正貨ざいぐわいせいくわとクレデイツトにつてかねあはせて相當さうたう巨額きよがくかねつてるのであるから、この在外ざいぐわい資金しきん爲替資金かはせしきんとして利用りようすれば
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
「そうです。人間は自己じこを忘れたところに真生命しんせいめいがあるのだ。君にしてはその病を忘れたところに君の生命があるのだ。いわんや君は文学という君の天地を持ってるではないか。」
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
いまの時代は自己じこ点張てんばりでは生きてゆけない、少年はたがいにひじをとり、かたをならべて、共同戦線に立たねばならぬのだ、ひとりの滅亡めつぼうは万人の滅亡だ、ひとりの損害そんがいは万人の損害だ
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
俺が死んだらうする? 其のくせお前は、俺の體が虚弱きよじやくだとか、俺の性質が陰氣いんきだとかツて、絶えず俺のことを罵倒ばたうしてゐる、罵倒しながら、おれに依ツて自己じこ存立そんりつを安全にしてゐるのだから
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
丁度ちやうどそれは子孫しそん繁殖はんしよく自己じこ防禦ばうぎよとの必要ひつえうまつたわすれさせられたなし接木つぎきが、おほきなとげみきにもえだにもたなくつたやうに、恐怖おそれ彼等かれらつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
其時そのときかれひとことかんがへる餘裕よゆううしなつて、こと/″\自己じこ本位ほんゐになつてゐた。今迄いままで忍耐にんたいわたつてた。これからは積極的せききよくてき人世觀じんせいくわんつくへなければならなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
地方公共團體ちほうこうきようだんたい財政ざいせいまたかくごときものである、しかして國民こくみんはどうであるかとふと、自己じこつて經濟状態けいざいじやうたいたいする自覺じかくがないのである、さうかんがへてるとれを個人こじんたとへてへば
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
小六ころく實際じつさいこんなようをするのを、内心ないしんではおほいに輕蔑けいべつしてゐた。ことに昨今さくこん自分じぶんむなくかれた境遇きやうぐうからして、此際このさい多少たせう自己じこ侮辱ぶじよくしてゐるかのくわんいだいて雜巾ざふきんにしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
正気の自己じこの一部分を切りはなして、其儘の姿すがたとして、知らぬに夢のなかゆづり渡す方がおもむきがあると思つたからである。同時に、此作用は気狂きちがひになる時の状態と似て居はせぬかと考へ付いた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)