縁起えんぎ)” の例文
菅公かんこうが幽霊となって、時平ときひらのところへ化けて出るところをかいた、天神縁起えんぎの菅公の幽霊は、生前の菅公をそのままにかいてある。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
真鍮しんちゅうの小判だの肖像入しょうぞういりの黄財布だのを福の縁起えんぎだといって見物に売るという噂を耳にした、お蘭は立っても居てもいられなかった。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
事ここに至った縁起えんぎを述べ、その悦びを仏天に感謝し、かつは上人彼みずからの徳に帰すことをねがい、ここに短き筆をきたく思います。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
古い伽藍がらん地主神じぬしがみが、猟人の形で案内をせられ、またとどまって守護したもうという縁起えんぎは、高野だけでは決してないのであります。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
縁起えんぎでもないことだが、ゆうべわたしは、上下じょうげが一ぽんのこらず、けてしまったゆめました。なさけないが、所詮しょせん太夫たゆうたすかるまい
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
縁起えんぎでもねえ、……しかし、婆さんや、お迎が来たら、そんな、あとの心配なんかしねえで、いつでも心持よう行つてくらつしやい、や。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
そののちになって、くろ百合ゆりは、北海道辺ほっかいどうへんに、まれにあるということをきました。あまり、縁起えんぎのよいはなでないということもいたのです。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もつとも、加州かしう金石かないはから——蓮如上人れんによしやうにん縁起えんぎのうち、よめおどしの道場だうぢやう吉崎よしざきみなと小女郎こぢよらう三國みくにつて、かなさきかよ百噸ひやくとん以下いか汽船きせんはあつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またここの八幡宮は、源頼義が参籠さんろうして、四方の兇徒を討ち平げ、諸民を安からしめたという縁起えんぎがある。その縁起もよい。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つかまつった。折も折り、まことに縁起えんぎでもない誤ち、何んとも拙者方家人せっしゃかたかじん粗忽そこつ。ウウ荒木氏、松原氏、ママお気を悪くなされぬように……
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お札の降った家では幸福があるとして、もちをつくやら、四斗樽しとだるをあけるやら、それを一同に振る舞って非常な縁起えんぎを祝った。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大事なお客様です、よろこんでいただこうと思いまして、何から何まで手落ちのないようにいたしました。それだのに縁起えんぎでもないことをおっしゃる。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
いてるとイヤハヤ無※ばかはなし! 西洋せいようでもいろ/\と縁起えんぎかたひとはあるが、この老女らうぢよのやうなのはまアめづらしからう。
それはいねはな模擬なぞらつたので、いねはなが一ぱいひらやうとの縁起えんぎであつた。かね博勞ばくらうれをきふ土間どまりてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もし鶴屋さん、縁起えんぎでもねえ。そんな薄気味の悪い話はきつい禁句だ。そんな事をいいなさると何だかいても立ってもいられないような気がします。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼女は、スキャチャード先生にうや/\しくお辭儀をして、その縁起えんぎの惡い道具を差出した。そして彼女は靜かに云ひつけられもしないのに前掛をとつた。
「こりゃア、このせつ流行はやり縁起えんぎまわしの大黒絵じゃありませんか。……これが、いってえ、どうだというんです」
さればこそみこともこゝに垂跡すゐしやくまし/\たれ。此御神の縁起えんぎあるひ灵験れいげん神宝じんはうるゐ記すべき㕝あまたあれどもしばらくこゝにはぶく
縁起えんぎの悪いことお云いでないよ、面白くもない。そんなことを云っているより勢いよくサッと飲んで、そしていい考案かんがえでも出してくれなくちゃあ困るよ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これ新幡随院濡れ仏の縁起えんぎで、此の物語も少しは勧善懲悪かんぜんちょうあくの道を助くる事もやと、かく長々とおきゝにいれました。
仏教の流布に反対して亡ぼされた物部もののべ一族の領地領民をその経済的基礎としたものであるが、その当時の寺の組織として後代の縁起えんぎの語るところによると
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「さあ、おまえたちも、わしについて、早く上陸するのじゃ。こんな縁起えんぎのわるい船は、すこしでも早くおりたがいいぞ。さあ、わしについてくるのじゃ」
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この万年青は、隠居が永年丹誠したもので「入舟いりぶね」という名前までついていた。その親株から子分けしてもらって、孫たちが一鉢ずつ縁起えんぎもらったものだった。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
日本の智慧ちえの火がこの国の蒙昧もうまいなるくらがりを照すところの道具となる縁起えんぎでもあろうかなどと、馬鹿な考えを起してうかうか散歩しながらある店頭みせさきへ来ました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「ええ、これはわざわいを転じてさいわいとする代りに、福を転じて禍とする、縁起えんぎの悪い聖母だと云う事ですよ。」
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
永護様という変態な神様の縁起えんぎは、大よそこういったようなもので、二人は例の伯耆の安綱を坊主持ちにして、高尾の山の飯綱の社から、浅草鳥越まで行く間に
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれど、實際じつさいはそれこそ麻雀マージヤン人達ひとたち魅惑みわくする面白おもしろさなので、だれしもすこしそれにしたしんでくるといつとなくそのそのとき縁起えんぎまでかつぐやうになるのも愉快ゆくわいである。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
縁起えんぎをいうと、その昔、隅田川すみだがわをまだ宮戸川といった頃、土師臣中知はじのおみなかともといえる人、家来の檜熊ひのくま浜成はまなり竹成たけなりという両人の者を従え、この大河に網打ちに出掛けたところ
そんな縁起えんぎの惡いことは聽き度くないと言つてもお孃さんは承知しなかつたんです。そして、私の耳を引つ張つたり、肩を押へたりして、無理にも聽かせて居りました
ず十三人の順序が抽せんによって定められました。すると、どうであろう、わがM大尉エムたいい縁起えんぎ悪くも最後の十三番となりました。西洋では十三という数をみきらいます。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
先生は福の神様のお生れ変りで、いつもニコニコしておいでになるから縁起えんぎがよいと申しましてね。どこの店でも心の中で先生のお出でを願っているので御座いますよ先生……
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
京都瑞泉寺ずいせんじ縁起えんぎに依れば、順慶の歿後、此の石塔は洪水のために崩れてしまい、跡を訪う者もなかったのを、慶長十六年角倉了以すみくらりょういが高瀬川を開くに当ってその荒廃せるを哀れみ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
上も高地も同じ意味を二つかさねただけで、この地を支配している水や河という意義がない、穂高山麓の宮川の池の辺に穂高神社がまつってある、その縁起えんぎると、伊邪那岐命いざなぎのみことの御児
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
縁起えんぎがいいやつだから村中で池の中に飼ってやろう、という相談がまとまりました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
わたくしはここに『江戸鑑図目録えどかんずもくろく』の作られた縁起えんぎを知ることを得たのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あれでも昆布がとれるのかって。いやな子供だな。おい、縁起えんぎでもないぞ。取れもしないところにどうして工場なんか建てるんだ。取れるともさ。現におれはじめ沢山のものがそれでくらしを
現世げんせ人達ひとたちかられば、というものはなにやら薄気味うすきみのわるい、なにやら縁起えんぎでもないものにおもわれるでございましょうが、わたくしどもかられば、それは一ぴきまゆやぶってるのにもるいした
“浅草寺縁起えんぎニ曰ク往昔土師臣真中知檜前内茂成ト宮戸川ニ出漁シテ聖観世音ノ尊像ヲ網中ニ得驚喜措ク能ハズ草堂ニ安置シ礼拝供養くようシタリ。コノ地ハ実ニ其ノ遺跡ニシテ浅草寺草創ノ浄域ナリ。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
(『唯識論ゆいしきろん』に曰く、「この識性は無始のときよりこのかた、刹那刹那に果生ずれば因滅す。果生ずるがゆえに断にあらず、因滅するがゆえに常にあらず、断にもあらず常にもあらず、これ縁起えんぎの理なるが故なり」と)
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
縁起えんぎでもない」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ええ、そうよ。黄金虫こがねむしだから、たんすにれてしまっておくと、縁起えんぎがいいと、おかあさんがおっしゃってよ。」と、久代ひさよさんがいいました。
玉虫のおばさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
土間から表へかけて、いっぱいに下駄がはみ出したところは、縁起えんぎでもないが、まるでお通夜のようだと言いたい景色。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さればこそみこともこゝに垂跡すゐしやくまし/\たれ。此御神の縁起えんぎあるひ灵験れいげん神宝じんはうるゐ記すべき㕝あまたあれどもしばらくこゝにはぶく
だよ、つてつからはやてくろなんてはれたにや縁起えんぎでもねえから」ぢいさんはつめあたまいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
淫祠は大抵その縁起えんぎとまたはその効験こうけんのあまりに荒唐無稽こうとうむけいな事から、何となく滑稽の趣を伴わすものである。
おや、旦那だんなくおでなさいましたね、金吹町かねふきちやうさんまアらつしやいましたね、今年ことし元日ぐわんじつから縁起えんぎい事ね。乙「とき昼飯ひるめし支度したくをしてちよいと一ぱいおくれ。 ...
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「見納めだなんて、縁起えんぎでもない事を云わぬがいい。また、いつだって江戸へ来られるじゃないか」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『あゝ、あゝ、縁起えんぎでもない、南無阿彌陀佛なむあみだぶつ! このふね惡魔あくまみいつなければよいが。』とつぶやいた。
そのてんでとりわけ物事ものごと縁起えんぎかつ支那人しなじん如何いか苦心くしん焦慮せうりよするかはいろいろかたられてゐることだが、まつたほかのことでは如何いかなるかつでもないぼく麻雀マージヤンとなると
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
れば平日ひごろまでに臆病おくびやうならざるはいも、船出ふなでさいかく縁起えんぎいはひ、御幣ごへいかつぐもおほかり。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)