玄関げんかん)” の例文
旧字:玄關
ひだりれたところに応接室おうせつしつ喫煙室きつえんしつかといふやうな部屋へやまどすこしあいてゐて人影ひとかげしてゐたが、そこをぎると玄関げんかんがあつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
丁度ちょうど、六時十五分前に一台の人力車じんりきしゃがすうっと西洋軒せいようけん玄関げんかんにとまりました。みんなはそれ来たっと玄関にならんでむかえました。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
るりをしきつめたみちをとおって、さんごでかざった玄関げんかんはいって、めのうでかためた廊下ろうかつたわって、おくおく大広間おおひろまへとおりました。
田原藤太 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かねは、玄関げんかんわきのだなをけて、くつをしました。そして、オーバーシューズをはめてみますと、すこしちいさいようです。
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
父がマレーフスキイ伯爵はくしゃくうでをとって、広間を横ぎって玄関げんかんの方へ連れ出し、従僕じゅうぼくのいる前で、冷やかにこう言い渡したのである。——
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
おしゃべりに夢中むちゅうになっていた村人たちは、その男がいつのまにか、その部屋へやから玄関げんかんにでてきていたのに、いっこうに気づかなかった。
山嵐はそうですかと玄関げんかんまで出て行ったが、やがて帰って来て、君、生徒が祝勝会の余興を見に行かないかってさそいに来たんだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家には、小さな玄関げんかんと、小さなりっぱな居間いまと、ベッドのおいてある小べやがありました。それに、台所だいどころ食堂しょくどうもあります。
どこか上品じょうひんで、ものごしのしずかなたびさむらいが、森閑しんかんとしている御岳みたけ社家しゃけ玄関げんかんにたって、取次とりつぎをかいしてこう申しれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
技師はげきしているから花前の花前たるところにいっこう気がつかない。技師はたまりかねたか、ここでは話ができないといって玄関げんかんへまわった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
するとそこで院長いんちょうは六号室ごうしつであるとき、にわからすぐ別室べっしつり、玄関げんかん立留たちとどまると、丁度ちょうどこう話声はなしごえきこえたので。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
僕は係員かかりいんの先生やお医者さんにもことさら注意を頼んで、その教場を去って再び玄関げんかんに来たときは、母なる人の姿もくるまの影も跡が見えなかった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
もうそのころには、塾生たちは、室内の掃除整頓をすべて終わって、最後に、廊下や、玄関げんかんや、そのほかの出入り口の掃除にかかっているところだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わたくしこころからほがらかな気分きぶんになって、ふたたれい小娘こむすめみちびかれて玄関げんかんで、そこからはただ一途中とちゅう通過つうかして、無事ぶじ自分じぶんやま修行場しゅぎょうばもどりました。
玄関げんかんの出入口と書いてある硝子戸ガラスどを引くと寄宿舎のように長い廊下ろうかが一本横につらぬいていて、それに並行へいこうして、六じょうの部屋が三ツ、鳥の箱のように並んでいる。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
段々だんだんをのぼり、しきいをこえて、玄関げんかんにはいりました。部屋の戸はしまっていましたが、すみのほうに、ネコが出はいりできるくらいのあながあいていました。
だんこくを移して、いとまを告げて去らんとすれば、先生なおしばしと引留ひきとめられしが、やがて玄関げんかんまで送り出られたるぞ、あにらんや、これ一生いっしょう永訣えいけつならんとは。
「ただいま。」といって、玄関げんかんにはいると、ちょうどそこに、ねえさんの光子さんが立っていました。
超人ニコラ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
林太郎はおそるおそるその玄関げんかんへはいって、まっ白なまる天井てんじょうに大きな電灯がともっている下に立ち
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
その声をきくと、こんどは大石先生のほうが、思わず気をつけのようになって玄関げんかんに出ていった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
保吉はとうとう小径伝いに玄関げんかんの前の広場へ出た。そこには戦利品の大砲が二門、松や笹の中に並んでいる。ちょいと砲身に耳を当てて見たら、何だか息の通る音がした。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
玄関げんかんへ入り、その荷物を置いたうしろから顔をだした、しわ雀斑そばかすだらけの母に、「ほら、背広まで貰ったんだよ」と手をッこんで、出してみせようとしたが手触てざわりもありません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
どうしたのかしら? と、赤とんぼが考えたとき、玄関げんかんからだれび出して来ました。
赤とんぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
つなまきの刀をその儘にして、源伍兵衛をしりへに、ふとり気味の身体を玄関げんかんへ運んだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
清兵衛は、うれしくてたまらない様子で、これに朝月あさづきという名をつけ、もとより、うまやなどなかったので、かたむいた家の玄関げんかんに、屋根をさしかけて、そこをこの朝月の小屋にした。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
稀に遊びに来ては甘藷いもを洗ったり、外竈そとへっついいて見たり、実地の飯事ままごとを面白がったが、然し東京の玄関げんかんから下駄ばきで尻からげ、やっとこさに荷物脊負せおうて立出る田舎の叔父の姿を見送っては
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と呼ぶ声が玄関げんかんからきこえた。郵便物と新聞は正三しょうぞう君がとりつぐ役だ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
氏の家へ半月程前の夕刻玄関げんかんかせぎの盗人が入りました。ふと気が付いた家人かじん一勢いっせいに騒ぎ立てましたが、氏は逃げ行く盗人の後姿うしろすがたを見るくらいにしなが突立つったったまま一歩も追おうとはしませんでした。
家の玄関げんかんへつくと、車夫がとても威勢いせいい大きな声で、『オ帰リイ』とさけぶ。すると家中の者がぞろぞろ出て来る。妻や女中たちが、玄関の畳にならび坐って、『お帰り遊ばせ』とお辞儀じぎをする。
ばらばらと玄関げんかんに五、六人の影があらわれた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それで、玄関げんかんに立っている番人に
これにたいして、かねもおかあさんも感心かんしんしてしまいました。そして、二人ふたりは、いっしょに玄関げんかんしてきておれいをいったのでした。
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
ところが清にも別段の考えもなかったようだ。ただ手車てぐるまへ乗って、立派な玄関げんかんのある家をこしらえるに相違そういないと云った。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ジョバンニは玄関げんかんを上って行きますとジョバンニのお母さんがすぐ入口のへやに白いきれかぶってやすんでいたのでした。ジョバンニは窓をあけました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と、いいつけ、玄関げんかん石段いしだんをあがりかけた。とたんに、いぬはひときわ高くうなり声をあげ、ぱっと男の手にかみついた。
すこぎ、ミハイル、アウエリヤヌイチはかえらんとて立上たちあがり、玄関げんかん毛皮けがわ外套がいとう引掛ひっかけながら溜息ためいきしてうた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ある日、和尚おしょうさんは、御法事ごほうじばれて行って、小僧こぞう一人ひとりでお留守番るすばんをしていました。おきょうみながら、うとうと居眠いねむりをしていますと、玄関げんかん
和尚さんと小僧 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「だまれ、へらず口の達者たっしゃなやつだ。いつまでお玄関げんかんに立ちはだかっていると、つまみだすからそのつもりでおれ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつも塾生たちがつくまえから、庫裡くり玄関げんかんにちょこなんとすわりこみ、いかにも待ちどおしそうにしていた。そしていよいよ塾生たちの顔が見えると
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
主人はなつかしげに無造作むぞうさにこういって玄関げんかんがりはなに立った。近眼きんがんの、すこぶる度の強そうな眼鏡で格子こうしの外をのぞくように、君、はいらんかという。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
玄関げんかんに出たとき、じぶんの木靴きぐつはどこにあるかと見まわしました。いままで部屋の中では、靴下くつしたしかはいていなかったのですからね。少年は心のうちに思いました。
父は、鞭をわきへほうりだして、あわてて玄関げんかんの段々をけあがると、家の中へとびんだ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
御殿ごてん玄関げんかん黒塗くろぬりりのおおきな式台しきだいづくり、そして上方うえひさしはしら長押なげしなどはみなのさめるような丹塗にぬり、またかべ白塗しろぬりでございますから、すべての配合はいごうがいかにも華美はでで、明朗ほがらか
と同時に、もうおなご先生のことなどかなぐり捨てて、小走りになった。いつも見るくせになっている県道ぞいの宿屋の玄関げんかんの大時計が、いつもより十分ほどすすんでいたからだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
僕は巻煙草の吸いさしを投げつけ、控室の向うにある刑務所の玄関げんかんへ歩いて行った。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕が各教場を通って廊下ろうかに出て、玄関げんかんの側をあゆんで来ると、ちらりと眼にうつったものは、分館の玄関のわきに一台の人力車の傍に立っている車挽くるまひきと、これをへだつること一間ばかり傍に
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
林太郎さんのおっかさんは、もう病気びょうきもよくなり、少しは外へもでられるようになっていましたので、おとっつあんがたずねたというしらせをうけると、ひとりで玄関げんかんへでていきました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
玄関げんかんの食卓には、墓場から盗って来たのであろうもも色の芍薬しゃくやくが一輪コップに差してあった。二人は夢中むちゅうで食べた。実に美しくつつましい食慾しょくよくである。彼女は犬のように満ちたりた眼をしている。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ある、だれか玄関げんかんへきたようなけはいがしたので、あねてみると、っていたのが兵隊へいたいすがたのあにだったので、あねは、びっくりして
兄の声 (新字新仮名) / 小川未明(著)
赤シャツは一人ものだが、教頭だけに下宿はとくのむかしに引きはらって立派な玄関げんかんを構えている。家賃は九円五拾銭じっせんだそうだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)