かん)” の例文
かんのそばに、つくえがひとつありました。その上にあかりが四つと、パンのかたまりが四つ、それにブドウしゅが四本のせてありました。
ふとみると、本堂のまんなかに、死んだ人を入れたかんが、ふたをあけたまま置いてありました。まだお葬式がすんでいなかったのです。
それはかんなか空氣くうき侵入しんにゆうしてくさやすいが、直接ちよくせつ土中どちゆううづめるとき空氣くうきにくいので、かへってよく保存ほぞんされるのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
さむかぜなかを、この老人ろうじんあるいてきました。棺屋かんやまえにさしかかって、ふと、その店先みせさきにあったかんや、花輪はなわれると
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その弊所をごく分りやすく一口に御話すれば生きたものをわざと四角四面のかんの中へ入れてことさらに融通がかないようにするからである。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伊勢屋新兵衛の顔には、一瞬躊躇ちゅうちょの色が浮びましたが、思い定めた様子でかんの側に近づくと、しばらく物も言わずに突っ立っておりました。
×子の墓とった新しい石碑に対して追慕ついぼの感じは起らないで、石の下のかんの中でうじに喰われている死骸の醜さが胸に浮んだ。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
むねに組みあわせた手にもたせようとしたが、冷たい手はもうそれをうけとってはくれず、チエノワはすべってかんの底に落ちた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
もうかんにでもはいってしまいそうですよ。ああ、それからもう一つ用事がありました。これがいちばん大事なことなんですの。
しかしながらかんおおうて名すなわち定まるで、いわゆる明治文壇における子規子の価値は、吾々の云々をまって知るを要せぬことになりました。
子規と和歌 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
巨男おおおとこは、死んだ魔女まじょを白いかんにおさめて、椰子やしの木の根もとにうめました。そして、すぐ白鳥をつれて森の家を出ました。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
彼が荒木造りのかんを根こそぎ掘出して、芝生の上に引っぱり出させた頃には星影さびしい夕空をからりとのぞかせていた。
その翌々日、M伯爵家の門を二つのかんが出た。いうまでもなく、不幸なる夢遊病者彦太郎とその父親を納めたものである。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それだのに、私はあの人に経帷布きょうかたびらを着せる代りに、セメント袋を着せているのですわ! あの人はかんに入らないで回転窯かいてんがまの中へ入ってしまいましたわ。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
神職 ……居眠りいたいて、ものもあろうず、かんふたを打つよりも可忌いまわしい、鉄槌かなづちを落し、くぎこぼす——釘は?……
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは、たずねるマネキン人形の首の破片はへんと思われるものが、なくなった男の死体のはいっていたかんのうしろのところに、散らばって落ちていたことだ。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
普通の人についてもその真価は即座そくざに決することは出来ぬ。まずは七、八年はかかる。むかしの人のいったごとく人生はかんおおうて始めて定まるものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かれらは白いさらし木綿で包んだままの、小さなかんを担いでいた。たぶん赤児の葬いであろう。誰もものを云わず、まるで影絵のように、黙って通り過ぎたのであった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これより鳳山亭ののぼりみち、いづみある処に近き荼毘所とびじょあとを見る。石を二行にぎょうに積みて、其間の土をりてかまどとし、その上にけたの如く薪をし、これをかんするところとす。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
という言葉に、龍太郎がそのほうへすすんで行くと、小船の上には、ひとつのかんがのせてある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
堅い石のかんの中に置いてすらどうかと思われるようなものを、まして漆もはいっていない木の箱の中に納めたのですから、よくいく日もちこたえようとは掛念けねんされましたが
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのうち読経どきょうの切れ目へ来ると、校長の佐佐木中将はおもむろに少佐の寝棺ねがんの前へ進んだ。白い綸子りんずおおわれたかんはちょうど須弥壇しゅみだんを正面にして本堂の入り口に安置してある。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくし懐剣かいけん何卒どうぞこのままわたくしと一しょかんなかおさめていただきとうございますが……。』するとはは即座そくざわたくしねがいれて、『そのとおりにしてあげますから安心あんしんするように……。』
二二 佐々木氏の曾祖母そうそぼ年よりて死去せし時、かんに取りおさめ親族の者集まりきてその夜は一同座敷にて寝たり。死者の娘にて乱心のため離縁せられたる婦人もまたその中にありき。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
荻原は隣家りんかおきなに注意せられて万寿寺に往ってみると浴室の後ろに魂屋たまやがあって、かんの前に二階堂左衛門尉政宣の息女弥子吟松院冷月居尼ぎんしょういんれいげつきょにとし、そばに古き伽婢子とぎぼうこがあって浅茅あさぢと云う名を書き
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わたしも一しよかんれよとてきわけもなくりし姿すがたのあくまであどけなきが不愍ふびんにて、もとよりれたのまねば義務ぎむといふすぢもなく、おんをきせての野心やしんもなけれどれより以來いらい百事萬端ひやくじばんたん
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
眼が暗さに慣れるにつれ、中に散乱した彫像ちょうぞう、器具の類や、周囲の浮彫うきぼり壁画へきがなどが、ぼうっと眼前に浮上うきあがって来た。かんふたを取られたまま投出され、埴輪人形ウシャブチの首が二つ三つ、傍にころがっている。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「このかんを、わたしにゆずってくれませんか。そのかわりわたしは、なんでも、おまえさんたちのほしいと思うものをやるから。」
いま目のまえの黒いかんのなかにあるスフィンクスも、死ぬつい三日まえ書いた、次のことばでそのこたえをあたえているのです。
それは、かんなかにあった七めんかがみが、一まいだけくさらずに、いまもひかっているが、あとは六つとも、さびて、ぼろぼろになっていたことだ。
うずめられた鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼らはおまえの名のために静かに死んでゆく、静かに消えてゆく。そうして、かんのかなたにはただ死以外の何ものをも見いださないだろう。
何分なにぶん空氣くうきかんなか侵入しんにゆうするので、今日こんにちこれをけててもほねのこつてゐるのはごくまれであつて、わづかにのこつてゐるくらゐであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「細かい字で書けるだけ一面に書いて下さい。あとから六字ずつを短冊形たんざくがたってかんの中へ散らしにして入れるんですから」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
じゃによってわし等はこれから直ちに令状と鋤と手斧をたずさえて山へ登った上、かんを発掘しようかとこう云うんです
「僕は麗子がこんな美しい生物いきものだという事を、今の今まで気づかなかったのだ。それにこの奇怪な美しいポーズ。かんに入れてしまうのはおしいと思ったのだ」
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
娘の死骸は、検屍けんしが済んで、かんの中に納めてありますが、一度のぞいて、平次もゾッと身体をふるわせました。
「クイーン・メリー号が無事にかえってくるなんて、まるで死人がかんの中に生きかえったようなものだね」
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小糠雨こぬかあめこまかいのが、衣服きものの上から毛穴をとおして、骨にむやうで、天窓あたまは重くなる、草鞋わらじは切れる、疲労つかれは出る、しずくる、あゝ、新しいむしろがあつたら、かんの中へでも寝たいと思つた
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
四月二十八日にはそれまで館の居間の床板とこいたを引き放って、土中に置いてあったかんき上げて、江戸からの指図さしずによって、飽田郡あきたごおり春日村かすがむら岫雲院しゅううんいん遺骸いがい荼毗だびにして、高麗門こうらいもんの外の山に葬った。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かの英国の誇りとするシャフツベリーきょうは、身は名流であり、一家は巨万の富を積み、娯楽ごらくに世を渡る資格をそなえておりながら、中学校時代乞食こじきの葬式の途中かんから死骸しがいのおちるのを見て
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
小さなかんができてくると、提灯ちょうちんは八津の顔のそばに入れてやった。八津がもって遊んでいた貝がらや紙人形もそばにおいた。悲しみがきゅうにおしよせてきて、大吉も並木も声をあげて泣いた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
答「いや、何よりの大供養なりと信じます。かんおおって定まるとか。生きとし生ける者のほんとの声を、尊氏さまも今は千万部のおきょうよりは、泉下せんかで聞きたいとしておられるものと存じまする」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三日の後に開いて見るとかんからであった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこで、若者は死人をかんからだして、火のそばへつれていきました。そして、じぶんがそこにすわって、そのひざに死人をのせました。
金色きんいろにかがやく、かんせた自動車じどうしゃは、ぬかるみのみちをいくたびか、みぎひだりにおどりながら、火葬場かそうじょうほうへとはしったのです。
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし二週たって、子供が鵞口瘡がこうそうのために死んだときには、自分でその子を小さいかんに納めて、深い憂愁の面もちでじっとそれを眺めていた。
またそのぎにはいしあはせてかんつくることをしないで、ふたとは別々べつ/\として、いしをくりいて、おほきなかんつくるように進歩しんぽしてました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そうしてへやのまんなかに、黒いかんがおいてありました。そのなかで、学生は死んで、しずかに眠っていたのでした。
「さあ、そっくりしている様だが、まあ待ちなさい」探偵はかんの中に横わる黒ずんだ腐れ骸骨がいこつの上に乗しかかるようにして見ながらしわがれ声で云った。
そして、エジプトの部屋においてあるミイラのかんを見たいというので、部屋にはいることをゆるしたのです。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)