あた)” の例文
而して此間にあたりて白眼天下を睥睨へいげいせる布衣ほいの学者は日本の人心を改造したり、少くとも日本人の中に福沢宗とふべき一党を形造れり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
豪傑知事安場保和やすばやすかずから福岡市の対岸にあたる向い浜(今の西戸崎とざき附近)の松原の官林を貰って薪を作り、福岡地方に売却し始めた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
文運日を追ふて隆盛におもむく時にあたりて、木くづ竹ぎれにも劣りてつまらぬ貞門の俳諧がいつまでか能く人心を喜ばしむべき。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
吾輩は先刻申す通り大事件の余瀾よらんえがきつつある。しかしてこの珍客はこの余瀾を描くにあたって逸すべからざる材料である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二十三節以下の言を発するにあたりてヨブの態度に左の如き変化ありし者と見て、その意味を解する事が容易になると思う。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
の時にあたつて、天下岌岌、生民死を救うていとまあらず、士大夫乃ち流宕かくの如し。歎ずべけんや。或は無聊の故に出づるか。(渭南文集、巻三十)
自分の今眼を塞がれて通って居る処は、浅草からの辺にあたって居るのか、唯それだけを是非とも知って見たくなった。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
晏子あんし莊公さうこうし、これこくしてれいしかのちるにあたつて、所謂いはゆる(七二)さざるはゆうもの
北村君は石坂昌孝氏の娘にあたる、みな子さんをめとって、二十五歳(?)の時には早や愛児のふさ子さんが生れて居た。
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その中を冒して突進、不動坂を駆け上がるのが髯将軍、早くも胸つき八丁の上にあたりてまたぞろ雨中でウエーウエー。
その上に前山まえやま、すこし東にあたって朝熊あさま山が見え、それを繋ぐ山と山との肩の間から、群山ぐんざん睥睨へいげいするように、突兀とっこつとして、剣のような一峰が望まれた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事物の是非を判つの常識を失はんとするにあたり、学者と論客は挙つて之に附和雷同し、余等非戦論者の言動を以て社会の秩序と安寧に害あるものと言ふ。
それなら二葉亭は旧人として小説を書くにあたっても天下国家を揮廻ふりまわしそうなもんだが、芸術となるとそうでない。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
う札幌に着くのかと思つて、時計を見ると一時を五分過ぎてゐた。窓から顔を出すと、行手にあたつて蓊乎こんもりとした木立が見え、大きい白ペンキ塗の建物も見えた。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
甲府の牢屋は甲府城の東にあたってお濠と境町の通りを隔てて相対し、三方はお組屋敷で囲まれている。そのお組屋敷の東は御代官の陣屋になっているのであります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
変事にあたり人情に基づいて行った必要なる処置であって、釈放しても帰って来る理由があってしたのであるけれども、太宗が大辟囚を縦ったのは、常の場合において
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
彼はなおその顔を見届けようと、おぼろ雪明ゆきあかり便宜たよりじっと見詰めている時、たちまち我が背後うしろあたって物の気息けはいを聴いたので、忠一は驚いてきっみかえると、物のおとは又んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此の時此の家の奥の室とも云う可き所にあたる一つの窓の戸帳とばりを内からさっと開いた者が有る、何でも遽しい余の馬の足音に驚き何事かと外を窺いた者らしい、併し其の者
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
後に負へる松杉の緑はうららかれたる空をしてそのいただきあたりてものうげにかかれる雲はねむるに似たり。そよとの風もあらぬに花はしきりに散りぬ。散る時にかろく舞ふをうぐひすは争ひて歌へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
理由の第二は、今の多事の時にあたって、二、三の有力者に託するに藩の大事を以てし、これに掣肘せいちゅうを加うることなく、当主を輔佐して臨機の処置にでしむるを有利とするからである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一日昧爽まいそう櫛沐しつもくあたリ、打門ノ声甚ダ急ナルヲ聞キ、楼欄ニツテこれヲ観ルニ、客アリ。清癯せいく鶴ノ如シ。戸ニ当リテ立ツ。スミヤカニ倒屣とうしシテ之ヲ迎フ。既ニシテ門ニ入リ名刺ヲ出ダス。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
信飛の国界にあたりて、御嶽おんたけ・乗鞍・穂高・槍の四喬岳のある事は、何人なんぴと首肯しゅこうするところ、だが槍・穂高間には、なお一万尺以上の高峰が沢山群立している、という事を知っている者はまれである。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
いわく何ぞ下り去らざると、山遂に珍重してれんかかげて出で、外面の黒きを見て、卻回きゃっかいして云く、門外黒しと。潭遂に紙燭を点じて山に度与どよせむとす。山接せむとするにあたって潭便すなわ吹滅ふきけす。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
右手にあたって遠山が鋸の歯のように尖んがった処に、黄いろな一抹の横雲が夕映の名残りを染めて見えていた。しょうはぼんやりした眼で、その横雲の方を見ながら、糧食べんとうの残りの餅をっていた。
狼の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
敵の一将を追うことはなはだ急なりしがついに及ばずして還る、信長勝三にいう、いわく、今の逃将は必ず神子田長門である、およそ追兵のはなはだ急なる時にあたっては、怯懦きょうだの士必ず反撃して死す
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
遂に辱められたるを以てうらめしとなす〉とあり、『古事記』には〈その産にあたっては八尋の和邇わにと化りて匍匐い逶蛇もこよう〉とあり、その前文に〈すべて佗国あだしくにの人は産に臨める時、本国もとつくにの形を以て産生
新しき世界に古き精神をとゞめたる明治の初年にあたりては、彼の喝破せし此主義が如何に開化党に歓迎せられて守旧党に驚愕せられたるよ。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
三山は墓標に揮毫きごうするにあたって幾度も筆を措いて躊躇ちゅうちょした。この二葉亭四迷は故人の最も憎める名であった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
すると、遥か河下にあたって百雷の轟ろくがごとき音響が地を鳴らして聞える。なんだろう? 早速吾輩が飛んでく。河に沿うておよそ三丁ばかり、一大飛瀑発見! 大滝!
斯様かようあわただしい際に斯様な話を持ち出すのも如何いかがであるけれども、自分が神戸を去るにあたって一番心懸りなのは、何とかして自分の力でと思っていた雪子お嬢さんの御縁を
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
北村君は又芝公園へ移ったが、其処そこは紅葉館の裏手にあたる処で、土地が高く樹木が欝蒼とした具合が、北村君の性質によくかなったという事は、書いたものの中にも出ている。
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ぶんいはく、『しゆわかうしてくにうたがひ、大臣だいじんいまかず、百せいしんぜず、ときあたつてこれぞくせんこれわれぞくせん』と。默然もくぜんたることややひさしうしていはく、『これぞくせん』
闇中に跳躍する事なきにあらず、是時このときあたつて、わが身心には秩序なく、系統なく、思慮なく、分別なく、只一気の盲動するに任ずるのみ、若し海嘯地震を以て人意にあらずとせば
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
南にあたりて箒川ははきがわゆるめぐれるかはらに臨み、しては、水石すいせき粼々りんりんたるをもてあそび、仰げば西に、富士、喜十六きじゆうろく翠巒すいらんと対して、清風座に満ち、そでの沢を落来おちくる流は、二十丈の絶壁に懸りて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
余は曙覧を論ずるにあたりて実にその褒貶ほうへんに迷えり。もしそれ曙覧の人品性行に至りては磊々落々らいらいらくらく世間の名利に拘束せられず、正を守り義を取り俯仰ふぎょう天地にじざる、けだし絶無僅有きんゆうの人なり。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
太閤ノ時ニあたリ、其ノ天下ニ布列スル者、おほむネ希世ノ雄也、而シテことごとク其ノ用ヲ為シテ敢ヘテそむカシメザルハ必ズ術有ラン、いはク其意ニあたル也、曰ク其意ノ外ニ出ヅル也——程度で尽きるだろう。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
維新の始めにあたりてや、所謂智識を世界に求むるの精神は沛乎はいことして抑ゆべからず。天下の人心は飢渇の如く新しき思想新しき智識を追求めたり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
河原の温泉を過ぎて吾妻川の峡谷をさかのぼれば、前面にあたりて何となく物凄き一大魔形の山が見える。
椿岳及び寒月が淡島と名乗るは維新の新政にあたって町人もまた苗字みょうじを戸籍に登録した時、屋号の淡島屋が世間に通りがイイというので淡島と改称したので、本姓は服部はっとりであった。
たちまち兵営の門前にあたりて人の叫ぶが聞えぬ、間貫一は二人の曲者くせものに囲れたるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
青門老圃らうほひとり一室の中に坐し、冥思めいし遐捜かさうす、両頬せきを発し火の如く、喉間こうかん咯々かく/\声あるに至る、稿をしょくし日を積まざれば出でず、思を構ふるの時にあたつて大苦あるものの如し、既に来れば則ち大喜
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
先刻松林の奥から見えたのは、ちょうどその月の真下にあたって、最も強く光っている部分なのである。その海の部分は、単に光るばかりでなく、光りつつ針金をじるように動いているのが分る。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
われく、君子くんしおのれらざるもの(五二)くつして、おのれものぶと。われ縲紲るゐせつうちるにあたり、(五三)かれわれらず。(五四)夫子ふうしすで(五五)感寤かんごし、われあがなへり、おのれるなり。
しかしてその鬱屈にあたつてや
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
而して其人と事を論ずるにあたつても彼れには決して気を以て人を圧するが如きこと無く、静かにして而もちひさき声にて微笑しながら語るなりき。余は之に反せり。
透谷全集を読む (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
この偏寄かたよった下層興味にしばしば誤まられて、例えば婦人を観察するにあたっても、英語の出来るお嬢さんや女学校出の若い奥さんは人形同様で何の役にも立たないと頭からけなしつけ
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
虚子の小説を評するにあたっては是丈これだけの事を述べる必要があると思う。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吾人は我教会にかくの如き空論家多きものありと曰はず。教師に空論の説教を為す者ありと曰はず。しかれども今日の時にあたりて何人も自ら此点に就て省みるの必要は必ず有りと信ずる者也。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
眉山が債権者と折衝するにあたって相談対手あいてとしたのはもっぱらこの男で、世帯を畳んだ時に身の廻りのものを預けたのもこの男の家なら、放浪から帰ると直ぐたよったのもこの男の家であった。
しかるにこの大勢力ある金港堂が一大小説雑誌を発行するにあたって如何いかなる大作家でも招き得られるのにやっ二十歳はたちを越えたばかりの美妙をへいして主筆の椅子いすを与えたのは美妙の人気が十分読者を
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)