はじ)” の例文
「ヤイ、ジョージ! きさまはおれに、はじをかかせたな、みんなの前で、さいそくなんかしやがって、こい! もすこし前へこい!」
小指一本の大試合 (新字新仮名) / 山中峯太郎(著)
先に述べた友人は少年ながらもこの事を知りしゆえなぐらるるままにはじしのんで去った。今にしてこれをかえりみれば気の毒だと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
今日は捕り方が来るだろうか? 明日は縄目のはじに逢おうか? ——このことが彼の心持ちを、さらに憂欝にするのであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とおきになりました。けれどもはちかつぎは、自分じぶんのほんとうの身分みぶんをいえば、おとうさんのはじになることをおもって、ただ
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
この上ははじを忍び、あえて満都まんと嘲笑ちょうしょうに耐えて、しっかりした推理の足場を組みたてて事件の真相をつかまなければならない。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今這入って来た倭文子はと見ると、なき谷山二郎に対する、罪深い仕うちをはじてか、しょんぼりとうなだれて、消えも入りたい風情ふぜいに見えた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「畜生! あいつなにをいやがるだろう、へんなことをいったらめちゃめちゃに攻撃していつかの復讐ふくしゅうをし、満座の前ではじをかかしてやろう」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
医者のルーシンというのが、あのとき庭でわたしに小っぴどくはじをかかした例の浅黒い男であることはわかったが、あとはみんな初対面だった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
生涯しょうがいに一度か二度の大患に相応するほどの深さも厚さもない経験を、はじとも思わず無邪気に重ねつつ移って行くうちに
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ガンベッタは曰く「看よ看よいつか汝に向かってセダンのはずかしめ、パリ城下のはじをばひとたびすすがずしておくべきか」
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「おしろちかくをうろついているとは、不敵なやつ。尋常にせねばなわをうつぞ、甲斐源氏かいげんじ御曹司おんぞうし縄目なわめを、はじとおもわば、神妙しんみょうにあるきたまえ——」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ひとはどうでも、若様はいけません。花岡家の若様がおカンニングを遊ばしてはお家のはじになります。それよりも落第する方がよっぽどいいです」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「まあ、わたしはやってみる。こうなれば、はじ外聞がいぶんもない。明日あすからでも、まちかどって、しゃく八をくつもりだ。」
青い草 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と額に押頂くと、得ならずえんなるもののかおりに、魂はくうになりながら、恐怖おそれはじとに、かれは、ずるずると膝で退さがった。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰かがその訳を聞くと、神様の仲間では人間に姿を見られることは、この上もないはじとしてあったのだそうです。
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
事の実際をいえば弱宋じゃくそうの大事すでに去り、百戦必敗ひっぱいもとより疑うべきにあらず、むしろはじしのんで一日もちょう氏のまつりそんしたるこそ利益なるに似たれども
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかも切れ切れに叫ぶのを聞けば、あなたが死ぬか夫が死ぬか、どちらか一人死んでくれ、二人の男にはじを見せるのは、死ぬよりもつらいと云うのです。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あえはじず、その有様をらせ、そのまた写真を公然と新聞に掲げていたのが、ようやく影を見せなくなったのは、やっと、大正十二年大震後のことではないか。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そのSHがしばらくすると、つて彼方あなたたくまえつて、和服姿わふくすがた東洋人とうようじんらしい憂鬱ゆううつはじらひの表情へうぜうで、自作じさくうたひだした。みなれにみゝかたむけた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
十字架じゅうじかがそれを証明しているんだ。だから、悲壮感は決してはじではない。むしろ悲壮感のない生活が恥なんだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
正義にじゅんじた父をただの犬死にさせ、あのえられないほどなはじな最後にも相当していたような、醜い人間にしてしまおうとするのか。(俊寛につめ寄せる)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
んでもいいから、あたしのいったとおりにしておくれ。あたしゃきょうくらい、はじをかいたこたァありゃしない。もう口惜くやしくッて、口惜くやしくッて。……」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「すっかりふくをぬがしちまったんだよ。あのやぶけたシャツをてたら、いいはじさらしをするとこだった。」
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
余は鰥寡孤独かんかこどくうれいに沈むもの、或は貧困縷衣るいにして人目ひとめはばかるもの、或は罪にはじ暗処あんしょに神のゆるしを求むるもののもとを問い、ナザレの耶蘇いえすの貧と孤独とめぐみとを語らん
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
妾と夫婦の契約をなしたる葉石は、いうまでもなく、妻子さいし眷属けんぞく国許くにもとのこし置きたる人々さえ、様々の口実を設けては賤妓せんぎもてあそぶをはじとせず、ついには磯山の如き
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そうなれば、お父さんの受けたはじも立派にそそぐことが出来るというものだ……しかしね、文麻呂。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
すると、粉ひきの親方が、おまえは食卓についてはいけない、きものがぼろぼろだからな、だれか他人ひとが来でもしたら、とんだはじをかかなくちゃならないと言いました。
松山さんは、「大坂ダイハンだけ困るんじゃねえぞ。ボオト部全体のはじだからな」とぼくをにらみつけます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ただかたきはどこまでも報いねばならないので、そのしるしに土を少しって来たのです。このくらいのはじを与えたのならば、後世こうせいだれにもはばかることはありますまいから
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「これはまた大仰おおぎょうな。試合は真剣の争いにあらず、勝負は時の運なれば、勝ったりとて負けたりとて、はじでもほまれでもござるまい、まして一家の破滅などとは合点がてんなりがたき」
貧窮ひんきゅう友人ゆうじん扶助たすけあたえぬのをはじとしていたとか、愉快ゆかい行軍こうぐんや、戦争せんそうなどのあったこと、面白おもしろ人間にんげん面白おもしろ婦人ふじんのあったこと、また高加索カフカズところじつにいい土地とち
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すると松江は、はじらいとよろこびを、こんどはからだじゅうで示すかのようにかたをくねらせて
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
はじず 東南より海を入て 江の中三里 逝江の潮をたたふ 嶋々の数を盡して そばたつものは天を
まよひし邪正じやしやうがたし、鑑定かんてい一重ひとへ御眼鏡おめがねまかさんのみと、はじたるいろもなくべらるゝに、母君はゝぎみ一トたびあきれもしつおどろきもせしものゝ、くまで熱心ねんしんきはまりには
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なまじ人に迷惑めいわくをかけはじさらすよりもうこの道で立つことをふっつりあきらめたがよかろう
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「われを救いたまえ、君。わがはじなき人とならんを。母はわが彼の言葉に従わねばとて、われを打ちき。父は死にたり。明日あすは葬らではかなわぬに、家に一銭のたくわえだになし」
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そしていっぱいに気兼きがねやはじ緊張きんちょうした老人ろうじんかなしくこくりといきむ音がまたした。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
尋ねた人も別段その人にはじかしたのどうのという考えもない。「いやこりゃ私のところではる物だから売れない。」「ああそうですか」といったような調子で一向平気です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その覺悟は矢張りしツかりした自我主義で、この根本を侵されない以上は、毫もはじることはなかつたと。そして自分を知らない妻の言葉を非常の侮蔑と見て、突ツかかるやうに怒鳴つた。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
第一、どうあっても負けられない。日本のはじになる。柔道の力というものをばかにされる。だが、正面と正面に向き合って、拳闘選手けんとうせんしゅのものすごい打撃だげきを受け留めることは絶対ぜったいにできない。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
はじをかいちゃったわよ。ひどい恥をかきました。顔から火が出る、などの形容はなまぬるい。草原をころげ廻って、わあっと叫びたい、と言っても未だ足りない。サムエル後書にありました。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
おきんの亭主ていしゅはかつて北浜きたはまで羽振りが良くおきんを落籍ひかして死んだ女房の後釜にえた途端に没落ぼつらくしたが、おきんは現在のヤトナ周旋屋、亭主ははじをしのんで北浜の取引所へ書記に雇われて
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
若い町の作曲家は穴へでも入りたいようなはじをかかなければならなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「日本武士が朝鮮ちょうせんまできて、うえ死にしたとあってははじだ。きって出ろ」
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
たれも他に知る気遣いは有るまいと思いましたが、実はお千代に恋慕を云いかけたをはじしめられた恋の意趣いし、お千代の顔に疵を付け、縁付えんづきの出来ぬようにと存じまして、家の宝を自分で毀し
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
会稽かいけいはじをそそいだその声は、何時までも波の上に響いていた。
「私はそれについては何んにもはじる事はないんですの、またそれについて私が特別に悲しんでるという事もありませんのよ。けれどあなたは、私の知った事でもないのに、やたらに怖くて仕方のないことがあるといったらあなたはどうお考えになりますの?」
「おまえをきらう人たちが、お嫁合よめあわせということをやって、おまえはじをかかせようとしている。どうしたらいいだろうね。」
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それにこの荒れはてた工場については、数箇月前のことであるが、はじ上塗うわぬりのようなかんばしくない事件がおこった。
骸骨館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
真昼まひるの道も、真っ暗だった。環は、はじに打たれて、陽も見られなかった。往来の人に、顔も見られるのも嫌だった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)