彼處あすこ)” の例文
新字:彼処
「おやもうそつちのはうつたのかい、それぢや彼處あすこたゝくんだよ」内儀かみさんはいつてわかれた。おつぎはすぐ自分じぶん裏戸口うらどぐちつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼處あすこ通拔とほりぬけねばならないとおもふと、今度こんど寒氣さむけがした。われながら、自分じぶんあやしむほどであるから、おそろしくいぬはゞかつたものである。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ、一年ばかり前に用事があつてちよつと凾館へ行きました。それぐらひなものです。彼處あすこも少しは變りましたらうな……」
修道院の秋 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「誰が、彼處あすこ彼様あんないとをかけたのだらう。」と周三は考へた。途端とたんに日はパツとかゞやいて、無花果の葉は緑のしづくこぼるかと思はれるばかり、鮮麗にきらめく。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
彼處あすこと此處とでは、まあ何といふ違ひだらう! 死者に對する考へ方のやうなものが私達祖先と西洋人とはこんなにも違つてゐるのだらうか? 私なんぞは
生者と死者 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
それでも母樣かあさまわたし何處どこへかくので御座ござりましやう、あれ彼處あすこむかひのくるままする、とてゆびさすをれば軒端のきばのもちのおほいなるくものかゝりて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「姉さん、あれ何んだね。彼處あすこに干してあるあれ。」と、私は到頭思ひ切つて、隣家の物干臺を指さした。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そして彼處あすこを行く廂髮の頭と角帽の頭顱とへ一時に衝突ぶつかつて、慥に五點は屹度取れる、などと考へる。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
モスクワへも、ペテルブルグへも、ワルシヤワへも……ワルシヤワはじつところです、わたし幸福かうふくの五年間ねんかん彼處あすこおくつたのでした、れはまちです、是非ぜひきませう、ねえきみ
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
みんなおさへても、ふるあがるやうに、寢臺ねだいうへから、天井てんじやうて、あれ/\彼處あすこへんなものがて、にらみます、とつて頂戴ちやうだい、よう、とつて頂戴ちやうだい
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼處あすこへ行つて見よう。』と、小池は大仰おほぎやうに決斷したふうに言つて、左の方へさツさと歩き出した。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
うそではないよ何時いつかおまへつたとほ上等じやうとううん馬車ばしやつてむかひにたといふさわぎだから彼處あすこうらにはられない、きつちやんそのうちに糸織いとおりぞろひを調製こしらへてあげるよとへば、いや
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いや、もない、彼處あすこつてる、貴女あなたとおはなしをするうちは、實際じつさい胴忘どうわすれに手紙てがみのことをわすれてました。……
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『あれが東光院だらう。折角せつかく行かうと思つたんだから、彼處あすこへ行つて見やう。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
今宵こよひれば如何いかにもあさましい有樣ありさま木賃泊きちんどまりになさんすやうにらうとはおもひもらぬ、わたし此人このひとおもはれて、十二のとしより十七まで明暮あけくかほあはせるたび行々ゆく/\みせ彼處あすこすわつて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
べにさいたふたツの愛々あい/\しいくちびるが、てて櫻貝さくらがひつておとするばかり、つきにちら/\と、それ、彼處あすこ此處こゝに——
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いえ、彼處あすこ供待ともまちをしました、あのてあひみんな遊廓くるわのでござりますで、看板かんばんがどれも新地組合しんちくみあひしるし麗々れい/\いてござります。ねえさんたちが心着こゝろづけたでござりませう。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
春狐子しゆんこしうでごす、彼處あすこ會席くわいせき不思議ふしぎくはせやすぜ。」とふもやうひねるのなり。
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わかしうつてるだらう、川下かはしも稻荷河原いなりがはらふ、新地しんちうらる。彼處あすこに、——遊廓いうくわくをんなが、遊藝いうげいから讀書よみかきちやはななんぞの授業じゆげふける女紅場ぢよこうばふのがあるのを
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はやいもので、せん彼處あすこいへ建續たてつゞいてことわたしたちでもわすれてる、中六番町なかろくばんちやうとほいち見附みつけまで眞直まつすぐつらぬいたひろさかは、むかしながらの帶坂おびざかと、三年坂さんねんざかあひだにあつて
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼處あすこけると、廣小路ひろこうぢかど大時計おほどけいと、松源まつげん屋根飾やねかざり派手はでせて、またはじめる。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ずらりと女學生ぢよがくせいたちをしたがへて、ほゝあごをだぶ/″\、白髮しらがうづまきかせて、反身そりみところが、なんですかねわたしには、彼處あすこる、狂人きちがひを、救助船たすけぶね濟度さいどあらはれたやうにえたんです。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
じつひとみさだめると、其處そこ此處こゝに、それ彼處あすこに、かずおびたゞしさ、したつたものは、赤蜻蛉あかとんぼ隧道トンネルくゞるのである。往來ゆききはあるが、だれがつかないらしい。ひとふたつはかへつてこぼれてかう。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼處あすこそれです。」と、少年せうねん驛夫えきふゆびさす。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
よこくるま二挺にちやうたゝぬ——彼處あすこですか。」
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「あゝ、彼處あすこ鎭守ちんじゆだ——」
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)