ひら)” の例文
烏賊いか椎茸しいたけ牛蒡ごぼう、凍り豆腐ぐらいを煮〆にしめにしておひらに盛るぐらいのもの。別に山独活やまうどのぬた。それに山家らしい干瓢かんぴょう味噌汁みそしる
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そりゃ今までの義理があるから、そう子供の使のように、藤尾がいやだと申しますから、ひらに御断わり申しますとは云えないからね」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三兩出て博奕友達ばくちともだちよしみだと言てひらに頼む故おれ詮方無せんかたなやいて仕舞てほねは利根川へ流したに相違は無いぜこれサ段右衞門今此彌十に顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
も少し上つて茅戸のひらに出るとしりへに女貌によほう帝釋たいしやく大眞名子おゝまなこ、太郎の山々がずらりと列ぶ。殊に女貌の美しさは表から見た比ではない。
黒岩山を探る (旧字旧仮名) / 沼井鉄太郎(著)
其他は二千百五十八米三の武尊山、二千百三十九米六のひらヶ岳、二千五十七米五の笠ヶ岳を除けば、余は皆二千米以下の山許りである。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
その時お持になつた色々の調度、箪笥、長持、総てで以て十四——一荷は一担ひとかつぎで、畢竟つまりひらたく言へば十四担ぎ有つたと申す事ぢや。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
鵞鳥がちようを。二の鵞鳥を。薄いひらめな土坡どばの上に、おすの方は高く首をげてい、めすはその雄に向って寄って行こうとするところです。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
信斎は自分の学問の底をはたいて、色々利益ためになりさうな名句を拾ひ集めては比べてみたりした。そしてやつと出来上つたのが、ひらの蓋に
おもつたる大形おほがた裕衣ゆかたひつかけおび黒繻子くろじゆすなにやらのまがひものひらぐけがところえてはずとれしこのあたりのあねさまふうなり
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いままどの右手にえぞ富士ふじが見える。火山だ。頭がひらたい。いた枕木まくらぎでこさえた小さな家がある。熊笹くまざさしげっている。植民地しょくみんちだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「全体は、ひらったく地にはりついています。そしてところどころこぶのようにもりあがっていますね。みんなまっ黒こげですよ」
宇宙の迷子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、中根なかね營庭えいていかがや眞晝まひる太陽たいやうまぶしさうに、相變あひかはらずひらべつたい、愚鈍ぐどんかほ軍曹ぐんそうはうけながらにやにやわらひをつづけてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
長刀なぎなた朽縁くちえんに倒れた。その刃のひらに、雪のたなそこを置くばかり、たよたよと崩折くずおれて、顔に片袖をおおうて泣いた。身の果と言う……身の果か。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「佐々木小次郎殿といえば、とくより耳にしておるその道の達人。知らないというものは、他愛のないもので、先刻からの失礼は、ひらに」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「成程これは無調法……十年前なら其方そなたはまだ子供でござったろう——やあ、思わぬ罪を作るところ何卒なにとぞひらにゆるして下され人違いじゃ」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それをひらたい箱へ詰めてドロップスの型を押します。譬えば銀杏いちょうで横に押すと銀杏の形ちが半分出来ます。指で押せば指の形が出来ます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「どうしたもんだおとつゝあは、おひら盛換もりけえするもなんめえな、馬鈴薯じやがいもめえいくらでもんのに」おつぎはさらたしなめるやうに
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
けれども目の下の旧市街は低い近東風のひら屋根の波つづきで、ひら屋根の上には大小の壺が置いてあるのなども見えるのである。
石油の都バクーへ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
おるいは酒を木内桜谷の膳に置き、いそいで房二郎のそばへ来て、着物と丹前をうしろから着せかけ、むすんであったひらぐけを解いて渡した。
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
思ひ切つたる大形の浴衣ゆかたに引かけ帯は黒繻子くろじゅすと何やらのまがひ物、ひらぐけが背の処に見えて言はずと知れしこのあたりの姉さま風なり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「ぜひとも、ぜひとも、日光お役の一つを、わたくしどもへお命じくださいますよう、ひら御容赦ごようしゃ、イエ、せつにお願いつかまつりまする」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
花田はひら刑事から叩きあげて、今は捜査一課に重要な地位を占め、実際の事件を手がけたかずでは、部内第一と云われていた。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これはすこひらたいがねのようなかたちをしたもので、ちひさいものは四五寸しごすんおほきいものになると四五尺しごしやくもあり、すてきにおほきなものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ながあしあるいて、ひらたいあしおよいで、からだげてあとずさりするもの、なあんだ……。」と、こう一にかってききました。
真昼のお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
女学生たちのゆう飯の膳に出たものは、山女やまめの塩焼と豆腐のつゆとひらとで、平の椀には湯葉と油揚あぶらげきのことが盛ってあった。
山椒魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひらははんぺんにしょうず、初茸はつたけはおろしあえにしょうず、いや、お坪がよかろうずと腰をまげ、あたふたと家もせましと慌てまわるのである。
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
パンははじめ純粋なトウモロコシ粉と塩とで作った——正にホーケーキ〔綿畠用の鍬のひらで焼いたことにちなむ〕であった。
私は近頃これを簡単に「ひらの者」「平の物」「平の茶」という風に種々の面で用いたい気持が強い。「平」は、当り前のものという義なのである。
改めて民藝について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
安心して任せられる人(自分の相談相手になつてくれる人、自分の代理もできるやうな人、ひらたく云へば、会社の取締役が十分に勤まるやうな人)
此段御承引ごしよういん無之これなきに於ては、仮令たとひ、医は仁術なりと申し候へども、神仏の冥罰みやうばつも恐しく候へば、検脈の儀ひらに御断り申候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
恐々こわごわさしのぞいて、恐々探しましたが、丁度格子窓の出ッ張りの下にひらみついているのですから、分る筈はないのです。
九郎右衛門は渋りながら下関から舟に乗って、十二月十二日の朝播磨国室津むろのつに着いた。そしてその日のうちに姫路の城下ひらまちの稲田屋に這入はいった。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
実に鬼に金棒かなぼうでありまして、もとより、あなたをひらの党員では決しておきません、これは既に内定していることでありまして、幹事長になって貰い
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
何卒どうかお母さん得心してすみやかに承諾して下さい、僕が媒介なこうどする、お聞済きゝずみなれば誠に満足で、何うかひらに御承知を願いたい
と言って、膳部を押し出したのを見ると、お椀も、ひらも、小鉢、小皿も相当整って、一台の膳部に二人前がものは並べてある、しかも相当凝っている。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いよいよ、聖上行幸に相成りましたので、幹部の人たちは御迎えを致し、御巡覧の間我々ひらの審査員は休憩室の方へ追い出され、静粛にしておりました。
真白いひらに紫色の葡萄の粒が重って乗っていたその美しさを僕は今でもはっきりと思い出すことが出来ます。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
面白いことにはこうして出来る結晶は大抵天然の雪と同じ位の大きさのものである。一つ手のひら位の大きさの雪を作って見たいと思うがなかなか出来ない。
雪を作る話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
浪花ぶし語りみたい仙台ひらはかまをつけた深水の演説のつぎに、チョッキの胸に金ぐさりをからませた高坂が演壇にでて、永井柳太郎ばりの大アクセントで
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
あのおひら長芋ながいものやうな、好い男の八百石取が、あんな下司げすな雜言を吐かうとは、平次も豫想外だつたでせう。
渠がまた八丁堀へ行つた時は、もうお鳥は例の六疊敷をかたづけて、角火鉢にかけたゆきひらの下を吹いてゐた。
……それはタッタ今、寝台からすべり降りたまんまジッとしていたものらしい。リノリウム張りの床の上に足のひらを当てて、尺蠖しゃくとりむしのように一本立ちをしていた。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「むっ」と喉音こうおん潜めた気合。掛けると同時に一躍した。ピカリ剣光、狙いは胸、身をひらめかして片手突き!
二人町奴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ごくひらたい言葉でいえば、いわゆるかれの長を採ってわれの短を補うたという訳で、文学なり美術なり、あるいは種々のものの長を採ったが、仏教の教義から起り
女子教育の目的 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
南から北へ、小さな低いひらたい島から、大きな高い島の方へ進み近よったという方が少しは考えやすい。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
まつたく或時は、涙とよだれと鼻と汗で、ひらべつたくなつてしまつて起きあがられない事もあつた。
お灸 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
ルピック夫人は手のひらでぶつ。ルピック氏は新聞でなぐる。それから、足でる。ピラムは、なぐられるのがこわさに、腹を床にすりつけ、鼻を下に向け、やたらに吠える。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
世間では十日も前からうわさがあったが、社員は燈台下暗とうだいもとくらしで、沼南の腹心はあるいは知っていたかも知らぬが、ひらの社員は受渡しの済んだ当日になっても知らなかった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼の言葉は、言葉としては立派だったが、その調子は、全くひらあやまりにあやまるのと同じだった。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
膳を運び、飯櫃めしびつを運んで来た婆さんは、「どうぞよろしく」とそのまま引き下がった。見ればこれも旧式の、ひらもあれば壺もある、さすがに汁には泥も沈んでいない。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)