おおき)” の例文
……それ、十六七とばかり御承知で……肥満こえふとって身体からだおおきいから、小按摩一人肩の上で寝た処で、蟷螂かまぎっちょが留まったほどにも思わない。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また鼻から出たにしたところで、鼻先から一尺四、五寸も前へ突出つきだした食指ひとさしゆびの上へ、豆粒程のおおきさだけポタリと落ちる道理はないのだ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
尾瀬沼は海抜千六百六十五米、日光の中禅寺湖よりも四百米近く高いがおおきさは約五分の一で、深さは三十分の一に過ぎない六米弱である。
ここで目に映ずるだけの人家でも、故郷の町程のおおきさはあるように思われるのである。純一はしばらく眺めていて、深い呼吸をした。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
莫迦ばかな事を言え。ず青空を十里四方位のおおきさにって、それを圧搾して石にするんだ。石よりも堅くて青くて透徹すきとおるよ』
火星の芝居 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
丁度、旦那様の御留守、母親おふくろは奥様にばかり御目にかかったのです。奥様は未だ御若くって、おおき丸髷まるまげに結って、桃色の髪飾てがらを掛た御方でした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
着いて見ると、あなが四五畳ほどのおおきさに広がって、そこに交番くらいな小屋がある。そうしてその中に電気灯が点いている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、そのおおきさは矢張やはり五すんばかり蒼味あおみがかったちゃっぽい唐服からふくて、そしてきれいな羽根はねやしてるのでした。
此方こちらは真暗、向うにはあかりがついているので、目隠めかくしの板に拇指おやゆびほどのおおきさの節穴が丁度二ツ開いてるのがよく分った。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
潭石の下には、おおきさ針の如くなる魚が、全身、透き通るように、青く染って、ぴったりと、水底に沈んでいる。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
同じ豚でも生肉は非常に不消化だがハムにすると非常に消化がい。薩摩芋さつまいもおおきいのを食べると胸がやけるけれども裏漉うらごしにして梅干でえると胸へ持たん。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ちょうどその下の日当りにているおおきな白犬の頭を、ちょっと踏んでかろるようにさわって見たりしている。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おおきさ犬の如くなれど、何処どこやらわが同種みうちの者とも見えず。近づくままになほよく見れば、耳立ち口とがりて、まさしくこれ狐なるが、その尾のさきの毛抜けて醜し。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
山𤢖のわろはおそら和郎わろという意味であろう。で、おおきいのを山男といい、小さいのを山𤢖と云うらしいが、くは判らぬ。まだ其他そのほか山姥やまうばといい、山女郎やまじょろうと云う者もある。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
炭を買うからすこしばかり貸せといったら一俵位なら俺家おれんとこの酒屋で取って往けとおおきなこと言うから直ぐ其家そこうちで初公の名前で持て来たのだ。それだけあれば四五日はるだろう
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「うちの坊ちゃんと、いつまでも仲好くして下さいね。おおきくなったら互いに力になって頂戴。うちの坊ちゃんはお友達が少いのですから、本当にいつまでも変らないでね」
多「へい、わし十年の間粉炭こなずみを拾い集め、明き俵へむやみに詰め込んで、拝借致しやしたおおきい明き納屋へ沢山えらく打積ぶッつんで有りやすから、あれで大概たいげえ宜かんべいと思って居りやす」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すると、そこに中くらいのおおきさの汽缶車が一ついました。北山薪炭はそばへよっていって
玩具の汽缶車 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
さは走り車の輪には薄墨にぬらせ給ひておおきさのほどやなどしるしには墨をにほはせ給へりし。げにかくこそかくべかりけれ。あまりに走る車はいつかは黒さのほどやは見えはべる。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それからそれ止度とめどなく想出されて、祖母が縁先に円くなって日向ぼッこをしている格構かっこう、父が眼も鼻も一つにしておおきくしゃみようとする面相かおつき、母が襷掛たすきがけで張物をしている姿などが
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
物堅そうなその主人は、おおきい声では物も言わないような、温順おとなしい男であった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
拙い顔をしている。「驢馬ろば肖像しょうぞう」は耳け人並で全く驢馬がフロックコートを着たようだ。「何という口だろう」君は口が馬鹿におおきい。「珍世界」というのは荒刻あらぼりの仁王のように怖い顔だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
亦蓬の少き地方に贈物として大に親睦を取るの事となるあり。当地の蓬は殊におおきく且つ多く、採り易きを以て予は現今の喰料のみならず、貯うる事とも為し、或は諸方へ贈りものとして誇れり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
その上前に言ったように、おおきい美々しい鳥を殺したのだという事が、美くしい春の夜らしい心持はしながらも、何処どことなく落莫らくばくの感じがある、そこにも気の弱りを導く一つの原因はあるのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
白い火山灰層かざんばいそうのひとところが、たいらに水でがされて、あさはばの広い谷のようになっていましたが、そのそこに二つずつひづめあとのあるおおきさ五すんばかりの足あとが、いくつかつづいたりぐるっとまわったり
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
およぎは出来たが、川水の落口で、激浪にまれて、まさにおぼれようとした時、おおきな魚に抱かれたと思って、浅瀬へ刎出はねだされて助かった。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
形は真丸で、おおきさは径三寸位から一尺に及ぶものもあったらしく、大さに従って相当な厚みがあり、中央に穴が明いていた、つまり輪なのである。
初旅の大菩薩連嶺 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
これは狸穴まみあなの支社の客間で見たものと同じだから、一対いっついを二つに分けたものだろうと思った。そのほかには長い幕の上に、おおきな額がかかっていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おおきさは普通ふつうじゃくもあろうか……しかし伸縮しんしゅく自由自在じゆうじざいであるから、わばおおきさがっていようなものじゃ……。
自分の一身を修め自分の一家をととのえる事も出来ない人が一国の政治を論議するなんぞとおおきな顔をしているし
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
去就の自由がまだあるのなんのと、覚束ない分疏いいわけをして見るものの、いかなる詭弁きべん的見解を以てしても、その自由のおおきさが距離の反比例に加わるとは思われない。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
処はいち監獄署かんごくしょの裏手で、この近所では見付みつきのややおおきい門構え、高い樹木がこんもりとしげっていますから、近辺で父の名前をお聞きになれば、すぐにそれと分りましょう。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今度の仏像ぶつぞう御首みぐしをしくじるなんと予感しておおきにショゲていても、何のあやまちも無く仕上って、かえってめられたことなんぞもありました。そう気にすることも無いものサ。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
羽子板のおおきさが六尺三寸と云うので、まさか、朝飯前には中々持ち切れません、それでカチーリ/\と突きますが、く突けたもので、親のおしえより役者の押絵の方が大事だと見えて
トハ言ッたがおおきにへこんだので大笑いとなる。不図お政は文三の方を振向いて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
すこぶおおきいもので、おそらく舞楽のおもてかとも思われる。頼家の仮面めんというのは、頼家所蔵のおもてという意味か、あるいは頼家その人にせたる仮面めんか、それは判然はっきり解らぬが、多分前者であろうと察せられる。
むかし深山みやまの奥に、一匹の虎住みけり。幾星霜いくとしつきをや経たりけん、からだ尋常よのつねこうしよりもおおきく、まなこは百錬の鏡を欺き、ひげ一束ひとつかの針に似て、一度ひとたびゆれば声山谷さんこくとどろかして、こずえの鳥も落ちなんばかり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
其処そこで寄附金じゃがおおきな口が二三ふたつみつ残ってはいないかね?」
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
豆粒程のおおきさの生々しい血汐ちしおである。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
そこへ、中仕切なかじきりの障子が、次のあかりにほのめいて、二枚見えた。真中まんなかへ、ぱっと映ったのが、大坊主の額の出た、唇のおおきい影法師。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ秩父山脈が首都に近い割合に、相当の高さと深さとおおきさとを有し、麓に一ノ瀬、梓山、栃本などの愛すき山村を抱いて、二、三泊の旅行ならば
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
するとむこうに見える柳の下で、真裸まっぱだかな男が三人代る代るおおき沢庵石たくあんいしの持ち上げくらをしていた。やっと云うのは両手へ力を入れて差し上げる時の声なんだよ。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そう注意ちゅういされているうちに、もうわたくしには蝶々ちょうちょうのような羽翼はねをつけた、おおきさはやっと二三ずんから三四寸位すんくらいの、可愛かわいらしい小人こびとむれがちらちらうつってたのでした。
夏のゆうべには縁の下からおおきひきがえるが湿った青苔あおごけの上にその腹を引摺ひきずりながら歩き出る。家の主人あるじ石菖せきしょうや金魚の水鉢を縁側に置いて楽しむのも大抵はこの手水鉢の近くである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
○普通の品とおおきさとにて計算すれば味噌汁一杯に飯三杯はおよそ三百五十カロリー位に相当す。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
右手に鐘楼しょうろうがあって、小高い基礎いしずえの周囲には風が吹寄せた木の葉が黄色くまたはあか湿いろを見せており、中ぐらいなおおきさの鐘が、ようやせまる暮色の中に、裾は緑青ろくしょうの吹いた明るさと
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
伊「あい/\、あゝ今少し寝付いた処だのに、おおきな声をして起しちゃアいやだよ」
常からむくむくした鳥であるのが、羽を立てて体をふくらまして、いつもの二倍位のおおきさになって、首だけ動かしてあちこちを見ている。茶碗を洗っていた婆あさんが来て鳥の横腹をつつく。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
昨夜さくやおおきに失敬しました」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
としてはおおきなものよ、大方猪ン中の王様があんな三角なりの冠をて、まちへ出て来て、そして、私の母様おっかさんの橋の上を通るのであろう。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)