叔父をぢ)” の例文
「おやそうさん、少時しばらく御目おめゝらないうちに、大變たいへん御老おふけなすつたこと」といふ一句いつくであつた。御米およね其折そのをりはじめて叔父をぢ夫婦ふうふ紹介せうかいされた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これがむかし本陣ほんぢんだと叔父をぢつただゞつぴろ中土間なかどまおくけた小座敷こざしきで、おひらについた長芋ながいも厚切あつぎりも、大鮪おほまぐろ刺身さしみあたらしさもおぼえてる。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕は小学時代にも「大溝おほどぶ」の側を通る度にこの叔父をぢの話を思ひ出した。叔父は「御維新」以前には新刀無念流しんたうむねんりう剣客けんかくだつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すると幼女えうぢよが、叔父をぢさんと一しよでなければかへらぬといふ。さらば、叔母達をばたちきへかへるが、それでもいかとふに、それにてもしといふ。
姉妹きやうだいが世話する叔父をぢさんの子供は二人とも男の児で、年少したの方はふみちやんと言つて、六歳の悪戯盛いたづらざかりであつた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
叔父をぢさん/\、獅子しゝなんかのほうでは、屹度きつと私共わたくしども怪物ばけものだとおもつてるんでせうよ。』とさけんだがまつた左樣さうかもれぬ 暫時しばし其處此處そここゝかくれに、たかくし
始めて知ツたのは由三が十四五、女が十一二の頃で、其の頃由三は叔父をぢの家に養はれてゐた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
此人の乱行らんぎやうの一ツをいはば、叔父をぢたる大納言国経卿くにつねきやう年老としおい叔母をばたる北の方は年若く業平なりひら孫女まごむすめにて絶世ぜつせい美人びじんなり。時平是に恋々れん/\す、夫人ふじんもまたをつとおいたるをきらふの心あり。
上私し先年駿河國するがのくに阿部川村に母と一所に居十一歳の節一人の出家しゆつけ勾引かどはかされ宇都うつ地藏堂ぢざうだうまで引行ひきゆかれし處幸ひ向ふよりまゐたび人のあるにより時に取ての作意さくいにて小杉こすぎ叔父をぢ樣とこゑ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
叔父をぢちやん、何処へくの、自動車へ乗つて。」
夜汽車よぎしや新橋しんばしいたときは、ひさりに叔父をぢ夫婦ふうふかほたが、夫婦ふうふとも所爲せゐれやかないろには宗助そうすけうつらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
よ、ほか人一個ひとひとりらぬ畑中はたなか其所そこにわびしき天幕てんとりて、るやらずのなかる。それで叔母達をばたちるとも、叔父をぢとも此所こゝとゞまるといふ。
能樂師のうがくし松本金太郎まつもときんたらう叔父をぢてきは、どうふはもとより、うした豆府とうふだいのすきで、したがつて家中うちぢうみなたしなんだ。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此人の乱行らんぎやうの一ツをいはば、叔父をぢたる大納言国経卿くにつねきやう年老としおい叔母をばたる北の方は年若く業平なりひら孫女まごむすめにて絶世ぜつせい美人びじんなり。時平是に恋々れん/\す、夫人ふじんもまたをつとおいたるをきらふの心あり。
僕の叔父をぢは十何歳かの時に年にも似合はない大小を差し、この溝の前にしやがんだまま、長い釣竿つりざををのばしてゐた。すると誰か叔父の刀にぴしりと鞘当さやあてをしかけた者があつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すくひ呉同道致し同人宅まで立歸りし處只今節より申上し通り阿部川村のてうと申者のむすめ節が居合をりあはせ藤八は同人叔父をぢなる由うけたまはり候處其翌日藤八申には水呑村まで送り度はぞんずれどもよんどころなき用事あるにより用心のため所持しよぢの金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
宗助そうすけ佐伯さへきことをそれなりはふつて仕舞しまつた。たんなる無心むしんは、自分じぶん過去くわこたいしても、叔父をぢむかつてせるものでないと、宗助そうすけかんがへてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それから清水港しみづみなととほつて、江尻えじりると、もう大分だいぶん以前いぜんるが、神田かんだ叔父をぢ一所いつしよとき、わざとハイカラの旅館りよくわんげて、道中繪だうちうゑのやうな海道筋かいだうすぢ町屋まちやなか
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その為にも「お隣の先生」の御寿命ごじゆみやうのいやながに長からんことを祈り奉る。香取先生にも何かと御厄介になること多し。時には叔父をぢ一人ひとり持ちたる気になり、甘つたれることもなきにあらず。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
はなし如何にも差迫さしせまりたる體に見せければ兩人とも流石さすが伯父をぢのことゆゑ兩親ふたおやとも此叔父をぢ殺害ころされしとは夢にも知らず特に母が病氣ときゝ姉妹はらから二人にて心一ぱい出來できほど合力がふりよくに及びければ強慾がうよく非道ひだうの長庵は能き事に思ひ毎日々々の樣に無心に行ける程にはては丁山小夜衣も持餘もてあましてことわりを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
名物めいぶつかねく、——まへにも一度いちど神田かんだ叔父をぢと、天王寺てんわうじを、とき相坂あひざかはうからて、今戸いまどあたり𢌞まは途中とちうを、こゝでやすんだことがある。が、う七八ねんにもなつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わが徳川家とくがはけ瓦解ぐわかいのちは多からぬ扶持ふちさへ失ひければ、朝あさのけむりの立つべくもあらず、父ぎみ、叔父をぢぎみ道に立ちて家財のたぐひすら売りたまひけるとぞ。おほぢの脇差わきざしもあとをとどめず。
臘梅 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おやおやとの許嫁いひなづけでも、十年じふねんちか雙方さうはう不沙汰ぶさたると、一寸ちよつと樣子やうすわかかねる。いはん叔父をぢをひとで腰掛こしかけた團子屋だんごやであるから、本郷ほんがうんで藤村ふぢむら買物かひものをするやうなわけにはゆかぬ。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その叔父をぢ十年じふねんばかりまへ、七十一で故人こじんになつたが、ほその以前いぜん……こめりやう六升ろくしようでさへ、なかさわがしいとつた、諸物價しよぶつかやすとき月末げつまつ豆府屋とうふやはらひ七圓なゝゑんした。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、手酌てじやくひつかけながら叔父をぢつた——ふる旅籠はたご可懷なつかしい。……
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)