あぶ)” の例文
いつこの川辺かわべのおれたちのかえされてしまうかわかったものでない。あぶないとなったら、どこへかしをしなけりゃならん。
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
この千度参りを村の人にしてもらって、あぶない命を取りとめたという者の話なども、注意しておれば折り折りは聞くことができる。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
どうもおかしな奴だな、今、ああして俺らが後ろへ飛んだ時に、手前がもう一太刀追っかけて来ると、実は俺らもあぶなかったんだ。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ではなんとしても、おれもひとりとなり、そちもひとりとなり、他の者どももみなばらばらとなって、退散せねばあぶないというのか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうどわたしたちがヴァルセをたとうとしたその日、大きな石炭のかけらが、アルキシーの手に落ちて、あぶなくその指をくだきかけた。
それそばてはあぶさうもとで幾度いくたびはりはこびやうを間違まちがつていたこともあつたが、しまひには身體からだにしつくりふやうにつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
して見ると不信用なのは自分だけで、だいぶ長蔵さんからこいつはあぶないなとにらまれていたのかも知れない。好いつらの皮だ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
水流つるさんや、おえもよっぽど用心しねえとあぶねえぞ。丸十の繁から俺は聴いたんだが、お前えは飛んだ依怙贔負えこひいきの仕事を
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
あぶなぃ。だれだ、刀抜いだのは。まだ町さも来なぃに早ぁじゃ。」怪物かいぶつ青仮面あおかめんをかぶった清介せいすけ威張いばってさけんでいます。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
花を、あぶない所に行って取って来て呉れた、ただ、それだけなのだけれど、百合を見るときには、きっと坑夫を思い出す。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
我々から見るとあぶなくてしかたのない肉体上の無防禦むぼうぎょも、つまりは、師の精神にとって別にたいした影響はないのである。
沼南夫人のジャラクラした姿態なりふりや極彩色の化粧を一度でも見た人は貞操が足駄あしだ穿いて玉乗たまのりをするよりもあぶなッかしいのを誰でも感ずるだろう。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
十二月の三日のよる、同行のものは中根のうちに集まることになっていたゆえ僕も叔父のうちに出かけた、おっかさんはあぶなかろうと止めにかかったが
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その左膳の全身から、眼に見えぬ飛沫ひまつのような剣気が、ほとばしり出て……萩乃は、何かしらあぶない感じで、そっと雪洞ぼんぼりを、壁ぎわへ置きかえた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
所詮しょせん生命いのちさえもあぶないという恐ろしい修羅場しゅらじょうになっておりますから「これでは、どうも仕方がない。生命あっての物種ものだねだ。何もかもほうり出してしまえ」
『おつ魂消たまぎえた/\、あぶなく生命いのちぼうところだつた。』と流石さすが武村兵曹たけむらへいそうきもをつぶして、くつ片足かたあしでゝたが、あし幸福さひはひにも御無事ごぶじであつた。
その手紙のつづきには、男の大厄たいやくと言わるる前後の年ごろに達した時は、とりわけその勘弁がなくてはあぶないとは、あの吉左衛門が生前の話にもよく出た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「私のこと、対世間的なことになると逸作は何でもあぶながります」って私言ったの。こんな事も抒情的なの。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
『何とはア、此處ア瀬が迅えだで、子供等にやあぶねえもんせえ。去年もはア……』と、暢氣のんきに喋り立てる。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
かれ立停たちどまつて、つゆは、しとゞきながらみづれたかはらごとき、ごつ/\といしならべたのが、引傾ひつかしいであぶなツかしい大屋根おほやねを、すぎごしみねしたにひとりながめて
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さういふところに、現代のあぶなさがあり、男の不安があるのだといふ風に考へないわけに行かなかつた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
空気銃は小学校時代の夢想むそうだったが、お父さんがあぶながって買ってくれなかった。いまそれが自由に使えるのである。学友でも子供だ。自分の楽しみが先に立つ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
少年は両手で屋根につかまり、あぶなげな様子でうずくまって、兵士らの壁の彼方かなたを笑いながら見渡し、そしてまた群集のほうへ、揚々たるふうで振り向いていた。
度々たびたび方々で人をいたり怪我をさせたので大分評判が悪く、したがって乗るのもあぶながってだんだん乗客が減ったので、とうとうほんの僅かの間でやめてしまいました。
銀座は昔からハイカラな所 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
滝夜叉たきやしゃが、すっかり恋にうちまかされ、相手にすがって、うっとりするときでも、どうも今にも懐中から刃ものが飛出しそうで、おれにゃあぶなくってならなかった
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
私はあやうく声を立てるところであった。最前の手紙の中の文句に……私の生命いのちあぶない……今一人の相棒の生命いのちも駄目になる……とあったのを思い出したからである。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は押しこめられてある桝の縁へ、あぶなつかしさうに手をかけ、うつむいて判事の問を待つて居た。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
眼が鏡の中で笑ふ、剃刀が咽喉の薄い皮膚を辷る、あぶない、グツと突つ込んだらおまへは其儘寂滅だ。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
甚兵衛はあぶながりましたが、さる大丈夫だいじょうぶだというものですから、そのいうとおりにしたがいました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それで今後もあぶなかしく思われてならない。こんなふうに言ってしまおうとは思わなかったことですが、院が私を頼みがいなく思召すだろうと思うことが苦痛ですからね。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
そんなあぶないことには手を着けないことにして、ここでは自分がこれまで書いた七、八十種の脚本に就いて、一種の経験談のようなものを書きならべて見ようかとも思ったが
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いえ、そんな事をすると、坊やの命があぶないと思つて、——それにたつた十兩ですから」
堪忍かんにんをし、なんおもつても先方さき大勢おほぜい此方こつちみなよわいものばかり、大人おとなでさへしかねたにかなはぬはれてる、れでも怪我けがのないは仕合しあはせ此上このうへ途中とちうまちぶせがあぶない
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
がんのみだれてとき伏兵ふくへいがあるしるしだということは、匡房まさふさきょうからおそわった兵学へいがくほんにあることだ。おかげあぶないところをたすかった。だから学問がくもんはしなければならないものだ。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
血が失せるかとおもわれるほど、冷いやりとする、向う岸に着いて、根曲り竹を掻きわけ、宮川の池にかけた丸木橋を、あぶなっかしく渡って、嘉門次の小舎へ来た、小舎のわきに
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
で、もう二度と、あんなあぶないことは起るはずがないと固く信じていらっしゃいます。
やんちゃオートバイ (新字新仮名) / 木内高音(著)
あぶないと車掌が絶叫したのもおそし早し、上りの電車が運悪く地をうごかしてやってきたので、たちまちその黒い大きい一塊物は、あなやという間に、三、四間ずるずるとられて
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ゆえに、よく有り勝ちなあぶというものがなく、安んじて鑑賞できるのである。
それを皆があぶながって留めたほどに人々の頭は地震でいっぱいであった。岩波は小石川の家が古いために必ず倒壊したろうことを思って、子供の身の上を心配しつつ自転車を飛ばした。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
つきのおくまとは、詰者つめもの白浪しらなみの深きたくみにあたりしはのちの話のたねしまあぶないことで……(ドン/\/\/\はげしき水音みづおと)あつたよなア——これでまづ今晩こんばんはこれぎり——。
「正直者が一番あぶねえだ。少し時間におくれたりすると、直ぐ無分別をやるからな」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
自分のキ印には気がつかんで——『軍曹どのあぶの御座ります』僕が云うたら
戦話 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
「何しろあの連中のすることは雲にでも乗るようで、あぶなくてしようがない」
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
料理人 (声)何を乱暴するんだ、いけねえったら、放せ、あッあぶねえッ。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
かつて一度も人手を離れて家の外を歩いたことのなかった私は、烈しい車馬の往来があぶなっかしくて、せっかく出た門の柱にかじり付いて不可思議な世間の活動を臆病おくびょうな眼で見ているのであった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
無論むろん如何いかなる事のあるとも、そのために日本の存立をあぶのうする事は無いかも知れぬけれども、なお甚だ恐るべきものがある。今日日本の国際貿易に於てその額の大なる、支那に過ぐる処はない。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
あまりの痛さにあぶなく悲鳴をあげるところだつたが、いやいや、西班牙といふ國には今だに騎士道が行はれてゐるのだから、屹度これは至高の位に登る際に受ける騎士の作法に違ひないと思つて
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
退いとくれやっしゃ。衝突しまっせ。あぶのおまっせ。」
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
あぶないと見たら、地べたへもぐり込む用意をしている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「もし、お嬢様じょうさま。おあぶのうござります」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)