前途ぜんと)” の例文
たうげのぼつて、案内あんないわかれた。前途ぜんとたゞ一條ひとすぢみねたにも、しろ宇宙うちうほそふ、それさへまたりしきるゆきに、る/\、あし一歩ひとあしうづもれく。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕もこのとき、前途ぜんとの大計画を思って、大興奮だいこうふんを禁ずることが出来なかった。事実上、僕が海底にトロ族の新興都市を作るその指導者になるんだ。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あらそふて之をしよくす、探検たんけん勇気ゆうき此に於てさうさうきたる、相謂て曰く前途ぜんと千百の蝮蛇まむし応に皆此の如くなるべしと。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
わたしたちの前途ぜんとに当たって、セーヌ川が大きな曲線を作って流れているのを見た。それから進んで行って、わたしたちは会う人ごとにたずね始めた。
それは、前途ぜんとにおおくの希望きぼうを持った、わか時代じだいには、ずいぶんいやにすました人だといわれたこともあった。実際じっさい気位きぐらい高くふるまっていたこともあった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「自分はなんと云う不運な性分に生れついたのだろう。」———こう考えて、己は幾度いくたびか自分の前途ぜんとを悲観した。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さうかとおもふと、其青年そのせいねん高等商業かうとうしやうげふ生徒せいとらしく、実業界じつげふかいはねのばさうと前途ぜんと抱負はうふなども微見ほのめかしてある。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
全體ぜんたいからつて、すくなくとも從來じゆうらいの四ぶんの一の手數てかずがなくなるてんからても、前途ぜんと非常ひじやう有望いうばう事業じげふであると、小六ころくまた安之助やすのすけはなしたとほりをかへした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
たまらんな、う取付けられちや!」と周三は、その貧弱ひんじやくきわまる經濟けいざい前途ぜんとむかツて、少からぬ杞憂きいういだいた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
左様さようでございますか。どんなに本人ほんにんにとりまして満足まんぞくなことでございましょう。』とはは自分じぶんのことよりも、わたくし前途ぜんとにつきてこころつかってくれるのでした。
そういうはげしい動きのなかで、幼い子どもらは麦めしをたべて、いきいきとそだった。前途ぜんとに何が待ちかまえているかをしらず、ただ成長することがうれしかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
わたしは刻々の印象に、身を任せっぱなしにした。そして自分に対してずるく立ち回って、思い出から顔をそむけたり、前途ぜんとに予感されることに目をつぶったりした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ながいあいだ、なにかにつけてじぶんの前途ぜんとをさまたげていた勝家かついえ自害じがいし、かれと策応さくおうしていた信長のぶなが遺子いし神戸信孝かんべのぶたか勇猛ゆうもう佐久間盛政さくまもりまさ毛受勝介めんじゅかつすけ、みな討死うちじにしてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしそれが本当だとすれば、天下第一を目指す彼の望も、まだまだ前途ぜんと程遠ほどとおい訳である。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
とにかく、この事については、兄自身がすべての責任を負うのが当然だと思います。道江さんもそのつもりで勇敢ゆうかんに兄にぶっつかってみてください。切に前途ぜんと光明こうみょういのります。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
さすれば学校とそれに関連した身の前途ぜんとに対する絶望のみに沈められてまい………。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
有らゆる用を足す上に、宿題を手伝ったり、試験の山をかけたりしてくれる。要するに内弟子として申分ない。しかし何よりも大切だいじな芸の方は未だ初心しょしんだから、前途ぜんと茫漠ぼうばくとしている。
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
前途ぜんと程遠ほどとおし、思いを雁山がんざんゆうべの雲にす」
わたしは二年のあいだ住みれて、いつまでもいようと思ったうちから目をそらして、はるかの前途ぜんとのぞんだ。
身代みがはりざうつくれとふ。あへ黄金こがねめ、やまくづせ、とめいずるのではいから、前途ぜんと光明くわうめいかゞやいて、こゝろあきらかにかれすくみち第一歩だいいつぽ辿たどた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
糟谷かすやつまもやっと前途ぜんとに一どうの光をみとめて、わずかに胸のおさまりがついた。長らくのくもりもようやくうすらいで、糟谷かすやの家庭にわずかな光とぬくまりとができた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
いったい何をあてにしていたのだろう? みすみす自分の前途ぜんとを台なしにするのが、どうしておそろしくなかったのだろう? そうだ、とわたしは思った、——これがこいなのだ
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
今までの悲哀ひあいや苦痛はもとより其によツて少しもげんぜられたといふわけではないが、蔽重おつかさなツたくもあひだから突然とつぜん日のひかりしたやうに、前途ぜんと一抹いちまつ光明くわうめうみとめられたやうに感じて
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「ちぇッ。運命の神様にも、おれたちの前途ぜんとがどうなるかおわかりにならないと見える」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ああ龍太郎、かれはついに、伊那丸の前途ぜんとに見きりをつけ、しゅをすて、友をすて去ったであろうか。——とすれば、龍太郎もまた、武士ぶし風上かざかみにおけない人物といわねばならぬ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれ未來ふうじられたつぼみのやうに、ひらかないさきひとれないばかりでなく、自分じぶんにもしかとはわからなかつた。宗助そうすけはたゞ洋々やう/\の二かれ前途ぜんと棚引たなびいてゐるがしただけであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかりと雖も前途ぜんとけんます/\けんにして、人跡なほ未到のはたして予定にちがはざるなきや、之をおもへば一喜一憂交々こも/\いたる、万艱をはいして前進ぜんしんし野猪のゆうを之れたつとぶのみと、一行又熊笹くまささ叢中さうちうに頭をぼつして
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
かれは、單身たんしんやままたやまけてあたらしい知己ちき前途ぜんとおもつた。蜀道しよくだう磽确かうかくとしてうたけんなるかな。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
當初たうしよ彼等かれら頭腦づなういたこたへたのは、彼等かれらあやまち安井やすゐ前途ぜんとおよぼした影響えいきやうであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
というと、卜斎ぼくさいは、なにか自分の前途ぜんとについて、だいじな方針ほうしんをかんがえかけてきたとみえ、げたる竹童ちくどうのことはともかく、どっかりと、庭石へこしをおろしてうでぐみをしてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
草津大尉の声のする方に、道後どうご少尉が、懐中電灯を照しつけてみると、なるほど、今までの赭茶あかちゃけた泥土層でいどそうは無くなって、濃い水色をした、硬そうな岩層がんそうが、冷え冷えと、前途ぜんとさえぎっていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしたちは前途ぜんとはただ原っぱを見るだけであった。
実に今回のバッタ事件及び咄喊とっかん事件は吾々われわれ心ある職員をして、ひそかにわが校将来の前途ぜんと危惧きぐの念をいだかしむるに足る珍事ちんじでありまして、吾々職員たるものはこの際ふるって自ら省りみて
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
房枝は、急に前途ぜんとに、明るい光明がかがやきだしたように思った。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
前途ぜんと朦朧もうろうとしてよぎるものが見える。青牛せいぎゅうに乗つてく。……
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これは、空爆くうばくで、爆弾の破片によってうけた傷であったのか。前額の左のところに、その気味のわるい前途ぜんとを持った傷口があったのか。そんなことを考えると、その傷口のことが、にわかに心配になった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)