“免(まぬ)” の例文
その上このまゝに差し置いて、自然公儀のお耳にも入ることになれば、宇佐美家への御とがめは免(まぬ)れません。如何でござらう、平次殿
「いや、いや。そんなことはない。けだし、風病にかかって土になることはけだしすべて吾人(ごじん)に免(まぬ)かれないことですから。けだし。」
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
但(ただ)し狸(たぬき)と赤シャツは例外である。何でこの両人が当然の義務を免(まぬ)かれるのかと聞いてみたら、奏任待遇(そうにんたいぐう)だからと云う。面白くもない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兵乱のために人を殺し財を散ずるの禍(わざわい)をば軽くしたりといえども、立国の要素たる瘠我慢(やせがまん)の士風を傷(そこな)うたるの責(せめ)は免(まぬ)かるべからず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今(いま)や我(わ)が弦月丸(げんげつまる)の指(さ)して行(ゆ)く同(おな)じ鍼路(しんろ)をば故意(わざ)と此方(こなた)に向(むかつ)て猛進(まうしん)して來(く)るのである、一分(ぷん)、二分(ふん)、三分(ぷん)の後(のち)は一大(いちだい)衝突(しようとつ)を免(まぬ)かれぬ運命(うんめい)※
さうした着物を着て世話になつた人たちの前に出るのは、私には堪らなく恥かしい氣がした。が、私はこの辱しめを免(まぬ)かれたのであつた。
「おれは山の神に訴えられて、死罪になりそうだ。しかし救いをもろもろの霊ある物に求めたから、どうにか免(まぬ)かれるだろう」
この書一度(ひとた)び世に出(い)でてより、天下(てんか)後世(こうせい)の史家(しか)をしてその拠(よ)るところを確実(かくじつ)にし、自(みず)から誤(あやま)りまた人を誤るの憂(うれい)を免(まぬ)かれしむるに足(た)るべし。
遁(のが)れたり共天罰(てんばつ)爭(いかで)か免(まぬ)かるべきと屹度(きつと)覺悟を極め我思ふ仔細(しさい)ありとて妻へ離縁状を渡し又番頭其外店の者一同へ金を與へて暇(いとま)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『この調子では俺ときゃつ等の間に激烈な競争の起るのは免(まぬ)かれ難い。その時こそ俺が優勝の地位を占めるんだ』と考えた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
斯(かく)て両人とも辛(から)ふじて世の耳目(じもく)を免(まぬ)かれ、死よりもつらしと思へる難関(なんくわん)を打越えて、ヤレ嬉しやと思ふ間もなく、郷里より母上危篤(きとく)の電報は来(きた)りぬ。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
チェーホフの亜流が誘われがちの湿っぽい感傷から、彼女が全く免(まぬ)かれているのは、強(あなが)ち緯度の違いや、ましてや時代の違いからばかりではあるまい。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
ここにいる二人の兵隊も、同僚が居住区で何をされているか、よく知っている。偶然、電報を翻訳していたそれだけの理由で、それから免(まぬ)かれている。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
笑いは泪(なみだ)より内容の低いものとせられ、当今は、喜劇(コメディ)というものが泪の裏打ちによってのみ危く抹殺(まっさつ)を免(まぬ)かれている位いであるから、道化(ファルス)の如き代物(しろもの)は
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
斉黄の輩の為さんとするところ是(かく)の如くなれば、燕王等手を袖にし息を屏(しりぞ)くるも亦(また)削奪罪責を免(まぬ)かれざらんとす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
宰相の言葉をうけて、ネルスキーは不思議に銃殺の刑から免(まぬ)かれたことを悦(よろこ)びつつ、直ちに香港に赴(おもむ)いた。
附言 角力戯(すもうぎ)は邦人の多く好むところなれども、野蛮の醜風を免(まぬ)かれざるものとす。それ人たるものは、智をこそ闘(たたか)わしむべけれ。力を闘わしむるは獣類の所業なり。
国楽を振興すべきの説 (新字新仮名) / 神田孝平(著)
この状態で新七草でも投票すれば、選挙粛正などはとても望まれぬことで、誰しも上品な句や歌になりそうな名を持つ草へ、入れたくなるのは免(まぬ)かれぬ弱点であろう。
「恰で包圍攻撃(ほういこうげき)を喰つてゐるんだ!」と嗟嘆(さたん)して、此うしてゐては、遂(つひ)に自滅(じめつ)を免(まぬ)かれぬと思ふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
流星は長い間の伝統を維持して来ただけに、構造製作が原始的であるのは免(まぬ)かれ難い。しかもここ数年中止していた挙句(あげく)のことで、余計不手際(ふてぎわ)になったのであろう。それでも鶴見は満足した。
どうせ前世(ぜんせ)の羯摩(カルマ)(業力(ごうりき))の結果、免(まぬ)かれぬ因縁(いんねん)があればブータンの間道を取ろうが桃溪(とうけい)の間道を取ろうが、運命は一つであると考えたからで、幸い事を誤らずにここまで着くことが出来た。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
とまれそのため葉之助は、一時死から免(まぬ)がれることが出来た。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
汝(なんじ)も運命のしもとを免(まぬ)がれ得ぬ不運児か。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
もし両親の小供に対する態度が小供を馬鹿にしている、茶化していると云い得べくんば写生文家もまたこの非難を免(まぬ)かれぬかも知れぬ。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
下士の輩(はい)は漸(ようや)く産を立てて衣食の患(うれい)を免(まぬ)かるる者多し。すでに衣食を得て寸暇(すんか)あれば、上士の教育を羨(うらや)まざるを得ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
早く免(まぬ)かれ度(たく)寧(いつ)そ未來(みらい)へ參りなば此苦しみも有まじと存じ斷念(あきらめ)て罪を身に引請(ひきうけ)白状(はくじやう)仕つり候なり其實は人を殺し金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
幸福(さひはひ)にも吾等(われら)の家(いへ)は、斷崖(だんがい)の絶頂(ぜつてう)に建(た)てられて居(を)つたので、此(この)恐(おそ)る可(べ)き惡魔(あくま)の犧牲(ぎせい)となる事(こと)丈(だ)けは免(まぬ)かれた。
これが果てしもなしに続くときは、彼の私財が尽きてしまうか、あるいは重要書類をうしなった罪に服するか、二つに一つは免(まぬ)かれないであろうと危ぶまれた。
砲弾(ほうだん)にて破損せる古き穀倉の内部、辛(から)くも全滅(ぜんめつ)を免(まぬ)かれしバナナン軍団、マルトン原の臨時幕営(ばくえい)。
饑餓陣営:一幕 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
唯(た)だその命名につきて一場(いちぢやう)の奇談あり、迷信の謗(そし)り免(まぬ)かれずとも、事実なれば記(しる)しおくべし。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
長い間輕業小屋で鍛(きた)へた強靭(きやうじん)な身體と、恐ろしい氣轉とで、ともすれば平次と八五郎の手を免(まぬ)れて逃出さうとしましたが、久し振りに錢形平次の掌から投げられた五六枚の錢に
つまりは普通の人間をただありのままの姿に描(えが)くのであるから、道徳に関する方面の行為も疵瑕(しか)交出するということは免(まぬ)かれない。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すでに他人の忠勇(ちゅうゆう)を嘉(よ)みするときは、同時に自(みず)から省(かえり)みて聊(いささ)か不愉快(ふゆかい)を感ずるもまた人生の至情(しじょう)に免(まぬ)かるべからざるところなれば、その心事を推察(すいさつ)するに
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
『もう無益(だめ)だ/\、とても沈沒(ちんぼつ)は免(まぬ)かれない。』と船員(せんゐん)一同(いちどう)はすでに本船(ほんせん)の運命(うんめい)を見捨(みす)てたのである。
ただその命名につきて一場(いちじょう)の奇談あり、迷信の謗(そし)り免(まぬ)かれずとも、事実なれば記(しる)しおくべし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
取迯(とりにが)しては假令(たとへ)訴(うつた)へ出るとも此身の科(とが)は免(まぬ)かれ難し殊(こと)には一人旅(ひとりたび)は泊(とめ)ぬ御大法(ごたいはふ)なり女は善六の頼みなれば云譯(いひわけ)も立(たつ)べけれど侍(さふら)ひの方は此方の落度(おちど)は遁(のが)れ難し所詮(しよせん)此事は蔽(かく)すに如(しか)じと家内の者共に殘(のこら)ず口留(くちどめ)して邊(あたり)の血も灑拭(ふきぬぐ)ひ死骸は幸ひ此頃植(うゑ)し庭の梅の木を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
無論それは一時的のものに過ぎなかった。けれども当然自分の上に向けられるべき夫の猜疑(さいぎ)の眼(め)から、彼女は運よく免(まぬ)かれたのである。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
国会開設、改進々歩が国の為(た)めに利益なればこそ善(よ)けれ、是(こ)れが実際の不利益ならば、私は現世の罪は免(まぬ)かれても死後閻魔(えんま)の庁で酷(ひど)い目に逢う筈(はず)でしょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかも空虚の譏(そしり)を免(まぬ)かれるように、誰が見ても内発的であると認めるような推移をやろうとすればこれまた由々しき結果に陥(おちい)るのであります。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かつ当時流行の有志者が藩政を専(もっぱら)にすることなくして、その内実は禄を重んずるの種族が禄制を適宜(てきぎ)にしたるが故(ゆえ)に、諸藩に普通なる家禄平均の災(わざわい)を免(まぬ)がれたるなり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
幸に細君が女として持って生れた好奇心のために、この厄運(やくうん)を免(まぬ)かれたのは迷亭の機転と云わんよりむしろ僥倖(ぎょうこう)の仕合せだと吾輩は看破した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或はその印鑑を与えて万一危急のときはこの印鑑を官軍に示して一時を免(まぬ)かれよと云う者あり。
故社員の一言今尚精神 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
辭退(じたい)をして其(その)席(せき)へ顏(かほ)を出(だ)す不面目丈(ふめんもくだけ)は漸(やつ)と免(まぬ)かれた樣(やう)なものゝ、其(その)晩(ばん)主人(しゆじん)が何(なに)かの機會(はずみ)につい自分(じぶん)の名(な)を二人(ふたり)に洩(も)らさないとは限(かぎ)らなかつた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その身は宗教の坊主と云えば自(おのず)から辱(はずか)しめを免(まぬ)かるゝこともあらんかと、自分に宗教の信心(しんじん)はなくして、子を思うの心より坊主にしようなどゝ種々(しゅじゅ)無量に考えたことがあるが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
第二の解脱法は常人(じょうじん)の解脱法である。常人の解脱法は拘泥を免(まぬ)かるるのではない、拘泥せねばならぬような苦しい地位に身を置くのを避けるのである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一時の兵禍(へいか)を免(まぬ)かれしめたると、万世(ばんせい)の士気を傷(きず)つけたると、その功罪相償(あいつぐな)うべきや。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
辞退をしてその席へ顔を出す不面目だけはやっと免(まぬ)かれたようなものの、その晩主人が何かの機会(はずみ)につい自分の名を二人に洩(も)らさないとは限らなかった。
門 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幸(さいわい)にして我慶應義塾はこの辺に於て聊(いささ)か他に異なる所のものを存して、鉄砲洲以来今日に至るまで固有の気品を維持して、凡俗卑屈の譏(そしり)を免(まぬ)かれたることなれども、元来無形の談にして
彼はただ饗宴(きょうえん)に招かれない局外者として、酔う事を禁じられたごとくに、また酔う事を免(まぬ)かれた人であった。
門 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私方に飛込んで助かった事さえありましたが、この物騒な危ない中にも、大童(おおわら)と松倉(まつくら)はどうやら斯(こ)うやら久しく免(まぬ)かれて居て、私は素(もと)より懇意(こんい)だからその居処(いどころ)も知(しっ)て居れば私の家にも来る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)