たわら)” の例文
あまり勉強家の方ではなく、店員の内緒話によると受持教師の宅へ砂糖をたわらで贈ったが、それでもなお落第したとかいう話であった。
としちゃんは、はしっていって、どこからか米俵こめだわらいたのをげてきました。はらててあったとみえて、たわらしもでぬれていました。
雪の降った日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
首は、鈍い音をたてて、彼の足許あしもところがった。次いで、首のない彼の身体は、たわらを投げつけたように、どうとその場に地響をうって倒れた。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あくる朝早く駐在の巡査おまわりさんが来て調べたら、たわらを積んで行ったらしい車の輪のあとが、雨あがりの土にハッキリついていた。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
他人ひとばいしてせはしい勘次かんじがだん/\にりつゝあるたわら内容ないようにしてひどをしつゝ戸口とぐち出入でいりするのを卯平うへいるのがいやかつつらかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と、ある日、おとうさんは背中せなかをたたきながら、地主じぬしの長者屋敷やしきへ納める小作米こさくまいたわらを、せっせとくらにつけていました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ところがここにまた、天満てんま浪人の常木鴻山こうざんたわら一八郎などと申す者あって、江戸の隠密どもと結託けったくなし、御当家の内秘を探りにかかっております
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また大和丹波市近処に捕え来て牀下ゆかしたうと、眼小さく体たわらのように短大となり、転がり来て握り飯を食うに、すこぶる迂鈍うどんなるを見たと語った人あり。
そういう中でも田植の日の飯米はんまいなどは、かたい家では早くからしらげてたわらにして、用意して置くものが今でもある。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
入口にはいつもの魚屋があって、塩鮭しおざけのきたないたわらだの、くしゃくしゃになったいわしのつらだのが台にのり、のきには赤ぐろいゆで章魚だこが、五つつるしてありました。
山男の四月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
長者でもないくせに、たわら扶持ふちをしないからだと、言われればそれまでだけれど、何、私だって、もう十羽殖えたぐらいは、それだけ御馳走を増すつもりでいるのに。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある日米たわら脊負せおひて五六町へだてたる中村といふへゆく、そのみち三国海道みくにかいだうなれば人あしもしげし。
行きすりに不図目にとまった馬子まご風流ふうりゅうたわらに白い梅の枝がしてある。白い蝶が一つ、黒に青紋あおもんのある蝶が一つ、花にもつれて何処までもひら/\飛んでいて行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
がしかし小次郎が立ちあがって、構えているのであったならば、すぐにこの太刀を下すことができたが、あたかも転がって行くたわらのように、小次郎は地上を転がっていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、すぐに、後から後から、ほかの雀も下りて来ます。時をはかって、チロをさっと放してやると、チロはたわらの上に飛び上がりますが、雀の方が早く、ぱっと逃げたあとです。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そのとき、一人のせた若者が、生薑しょうがを噛みつつ木槵樹もくろじゅの下へ現れた。彼は破れた軽い麻鞋おぐつを、水に浸ったたわらのように重々しく運びながら、次第に草玉の茂みの方へ近か寄って来た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
転がった者は町役人にうけ手形を入れさして、たわらを解いてゆるしてやった。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あのたわらの冠せてある水溜りをうまく越しますように
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おのが命をたわらにつめる
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
炭焼すみやきじいさんの、まご秀吉ひできちは、よく祖父そふ手助てだすけをして、やまからたわらはこぶために、村端むらはずれ坂道さかみちのぼったり、くだったりしました。
しいたげられた天才 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だからおまえたちもこれからこころれかえて分相応ぶんそうおうに、ひとてたもののこりや、たわらからこぼれたおこめまめひろって、いのちをつなぐことにしてはどうだ。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いつかたわら一八郎に、今度のことは目的が大きい、必ずケチな目明し根性を出すなよ、といわれてもいたが、こんな物が目に触れると検索心けんさくしんがムラムラする。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卯平うへいるから不器用ぶきよう容子ようすをしてて、おそろしく手先てさきわざ器用きよう性來たちであつた。それでかれ仕事しごとるとつてからは方々はう/″\やとはれてたわらんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
上半身を両手で支えて、ジロジロと眼を見開いてみると、自分の頭の上には誰の仕業かわからないが、湿っぽい木炭のたわらが一枚、横すじかいに載せてあった。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
たわらという言葉の意味および起こりは、まだ是からの研究事項であるが、以前は束把そくはによって稲をかぞえ、またえいすなわち穂首を揃えて、貯蔵運搬の用としたものが
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それが五、六人ただ半日の仕事しごとなのだ。塩水選をする間は父はそこらの冬の間のごみをあつめていた。もみができると父は細長ほそながくきれいにわらを通してんだたわらにつめて中へつめた。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
無礼ぶれいものめとかたをつきたるゆゑたわら脊負せおひていかでたまるべき、雪の中へよこさまにまろたふれしに、武士も又人になげられしごとたふれければ、田中の者はおきあとも見ずしていそぎゆきけり。
女がさきになってアンペラのたわらを積んである傍を通って土手へ出た。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女は家にいてそのたわらを編むのがその役目だった。
昨年さくねん、ご当地とうちで、おどおりいたしましたむすめは、さる地方ちほうにおいて、たわらかさねまするさいに、腹帯はらおびれて、非業ひごう最期さいごげました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それかられは傭人やとひにんにもいてやれないのだからおまへがよければつてつてあきにでもなつたら糯粟もちあはすこしもかへせと二三はひつた粳粟うるちあはたわらとを一つにつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
常木つねき先生を初めたわら様、ご恩をこうむる俺までが一生仕事の阿波の秘密! オ、やつ、大股になって急ぎだしたな
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田のなかで草をとっていたお百姓ひゃくしょうたちは、馬方うまかたのかげも見えないのに、たわらをつけた馬だけが、のこのこ、畑道はたけみちをあるいて行くうしろ姿すがたを、みんなふしぎそうに見送っていました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
現在はたいていお菓子かしもちを与えて帰すだけだが、かたい家では表口おもてぐちたわらをならべその上に花嫁をすわらせて、しりを打つまねをしてもらう土地も他県にはあり、または子のないのをなげく女が
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たわらえはじめると、おじいさんは脊中せなかをあたためたり、まえほうをあぶったり、からだをぐるぐるといろいろにまわして、すこしでもよくあたたまろうとしていました。
雪の降った日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
階下したには、米搗臼こめつきうすだの、ふるいだの奥には又ぎっしりたわらが積み込んであるが、梯子を上ると、四坪ほどの床にむしろが敷いてあって、行燈もある、火鉢もある、茶も沸く。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金太郎きんたろうまれたときからそれはそれはちからつよくって、もう七つ八つのころには、石臼いしうすやもみぬかのたわらぐらい、へいきでげました。大抵たいてい大人おとな相手あいてにすもうをってもけませんでした。
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「そういうことをするわるいものもいるが、そんなことをしない、いいひともたくさんある。」と、おじいさんは、さっきのぬれたたわらが、もうえそうになったので
雪の降った日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ここで自分が助からねば、せっかく握った大事件の曙光しょこう、再び無明むみょうに帰して、常木先生もたわら様も終生社会の侮蔑ぶべつに包まれて、不遇の闇に生涯を送らなければなるまい。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と竹童もふいをったが、むなぐらをつかんでいた手をはなさなかったので、足をみはずした勢いで、蛾次郎もろともに、ゴロゴロゴロと、二つのからだが、たわらのように
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おんなはらうえに、おもたわらいくつもかさねる光景こうけいであります。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
合歓ねむの木の下で、鋭いやじりにかすめられた時から、自分へも、たわら一八郎と同じ運命が訪れてきたなと直覚して、覚悟はきめているかれだったが、話し半ばに、剣の音を聞くと
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天満組てんまぐみ三人のうち、たわら一八郎は阿波屋敷に捕えられ、鴻山はぬきや屋敷を去って以来、紀州の奥にでも隠れているのだろうという噂をきいたままで、今は、実際のもくろみにかかって働いているのは
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)