うなが)” の例文
この小説家のために一歩の発展をうながされて、開化の進路にあたる一叢ひとむら荊棘いばらを切り開いて貰ったと云わねばならんだろうと思います。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、そうしてようやく内治が調ととのったと思うと、こんどは国外からの圧迫がひしひしと、この一小国にも、旗幟きしの鮮明をうながして来た。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は何やら考込みながら、八五郎をうながしました。ものの判斷は覺束おぼつかないが、見ることと聞くことは人後に落ちない筈の八五郎です。
見送っていた法外先生と千浪は、ほっと溜息を残してしょんぼりと、うながし合って梯子段を、二階の自室へやへ帰って行こうとしている。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
小池助手は途中で、幾度も朗読をやめようかと思ったが、川手氏の目が、先を先をとうながすものだから、やっとのことで読み終った。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
治修はもう一度うながすように、同じ言葉を繰り返した。が、今度も三右衛門ははかまへ目を落したきり、容易に口を開こうともしない。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかるにこの政府を恐れて訴うることを知らず、きたなくも他人の名目を借り他人の暴威によりて返金をうながすとは卑怯なる挙動ならずや。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
帆村は私をうながして診察室を出た。調剤室はすこし離れた玄関脇にあった。その中へ入ると、プーンと痛そうなくすりの匂いが鼻をうった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかしすぐにまた弓をかわぶくろに収めてしまった。再びうながされてまた弓を取出し、あと二人をたおしたが、一人を射るごとに目をおおうた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
夫人は、奔放にそう云い放つと、青年が何う返事するかも待たないで、美奈子をうながしながら、一台の自動車に、ズン/\乗ってしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
たとへば輪に舞ふ人々が、悦び増せば、これにうながされ引かれつゝ、相共に聲を高うし、姿に樂しみを現はすごとく 一九—二一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それは絶望の叫びであって同時に覚悟の決定をうながすように聞えたから、一同は暫らく無言で酒井のかおを見ていると、酒井は
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まことによいところへ気がついてくれたと、そう思った乳母は不安がる娘をうながし立てゝ、行者ぎょうじゃに案内されながら河原へ降りて行ったのである。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「どうれ、おめえ饂飩粉うどんこなちつつてせえ、一ツ爪尻つまじりでえゝんだ、おゝえつてうな、おつぎでもえゝや、よう」とかね博勞ばくらううながした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
三左衛門は若党をうながして走るように山をおりて温泉宿ゆやどへ帰ったが、どうも不審でたまらないのですぐ宿の主翁ていしゅを呼んだ。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ロイドはそれに見惚みほれていて、着物を脱ごうとしなかった。マアガレットがうながすと、彼はそのままシャツの腕まくりをして、浴槽へ近づいて来た。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
うながし「玉江や、モー十二時だよ」玉江「オヤマア、大変にお邪魔じゃまをしましたね」と遂に両人ともいとまを告げて辞し去りぬ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
将軍が大堰川へ船遊びの際、伴船ともぶねに使う屋根船で、めったに人の手にれません。昭青年は苫を破り分けて早百合姫をその中へ入るよううながしました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
人間の生計あるいは生活あるいは品行ひんこうにおいていわゆる表裏ひょうり(ことにいわゆるなる文字を使うことに注意をうながしたい)
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
余は麦畑に踏込む犬をしかり、道草みちくさむ女児をうながし、品川堀に沿うて北へ行く。路傍みちばたの尾花は霜枯れて、かさ/\鳴って居る。丁度ちょうど七年前の此月である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
けれども熊城君。僕はなにも職業的な観賞家じゃないのだからね、猟館や瘤々した自然橋などを持ち出してまで、君達に瞑想をうながそうとする魂胆はない。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
これによって仏道へはいれと仏のうながすのをしいて知らぬふうに世の中から離脱することのできなかったために
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そんな話をしながら父は上機嫌だつたが、隣りの家主から二つ溜まつてゐる家賃の催促が来たところで、急に興ざめのした形で、妹をうながして帰つて行つた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
去って一月、また二月、保護者にうながされて書いた手紙だろうが、時々無事と疎開地生活の満足まんぞくを知らせてくる。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
それは多くの農夫の為に、一日の疲労つかれねぎらふやうにも、楽しい休息やすみうながすやうにも聞える。まだ野に残つて働いて居る人々は、いづれも仕事を急ぎ初めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
らに二氏の答書をうながしたる手簡しゅかんならびに二氏のこれに答えたる返書を後に附記して、読者の参考に供す。
瘠我慢の説:01 序 (新字新仮名) / 石河幹明(著)
しかして若きダルガスのこの言を実際にためしてみましたところが実にそのとおりでありました。小樅はある程度まで大樅の成長をうながすの能力ちからを持っております。
こう言って、二人はいくらかその時分のことの追憶の興にうながされたように、じっと互に顔を見合わした。
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
こ行こ。」妹の貞子は、二人をうながし、さっさと歩いて、そうして、ただもう、にこにこしている。
律子と貞子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
無理むりこらへてうしろを振返ふりかへつてようといふ元氣げんきもないが、むず/\するのでかんがへるやうに、小首こくびをふつて、うながところあるごとく、はれぼつたいで、巡査じゆんさ見上みあげた。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
新しき時代がうながしつくらしめるすべてのものが過去に比較して劣るとも優っておらぬかぎり、われわれは丁度かの沈滞せる英国の画界を覚醒したロセッチ一派の如く
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふねがまた一間半けんはんばかりきしはなれたとき玄竹げんちく下男げなんうながして兩掛りやうがけをかつがせ、大急おほいそぎできしけて
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さては彼、東京に永住せんとするにやあらん、棄て置きなば、いよいよ帰国の念を減ぜしむべしとて、国許くにもとより父の病気に托して帰国をうながし来ることいとしきりなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
をはつて、少年せうねんだまつて點頭うなづくのをましやりつゝ、三人みたりうながして船室キヤビンた。
「先刻から殿がおたずねでござる。早うあれへお越しなされ」と、清治はうながすように重ねて言った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
翌朝フエデリゴは博士マレツチイと共に我客舍に來てうながし立て、打ち連れて馬車に上りぬ。車は拿破里ナポリの入江をめぐりて行くに、爽かなる朝風は海の面より吹き來れり。
此事このこと教師きようし父兄ふけい注意ちゆういうながすとともにわが小國民しようこくみんに、むかつても直接ちよくせついましめてきたいことである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
洋々やう/\たるナイルかは荒漠くわうばくたるサハラの沙漠さばく是等これらおほい化物思想ばけものしさう發達はつたつうながした。埃及えじぷと神樣かみさまには化物ばけもの澤山たくさんある。しかこれ希臘ぎりしやくと餘程よほどことなり、かへつて日本にほんる。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
もう一度俊亮がうながした。俊三はやはり返事をしない。そして相変らずお芳に何か囁いている。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
方孝孺堅くけいを守りて勤王きんのうの師のきたたすくるを待ち、事し急ならば、車駕しゃがしょくみゆきして、後挙を為さんことを請う。時に斉泰せいたい広徳こうとくはしり、黄子澄は蘇州そしゅうに奔り、徴兵をうながす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
老人は、まだ夢のような心地ここちでいる次郎七と五郎八とをうながして、村へ帰ってゆきました。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
私は姉が両側の飾窓シヨウウインドの前に立つたり、見世物の看板を眺めながら立つて居たりするのが、憎らしく自烈じれつたくてならなかつた。併し姉をうながして帰らうとするにも行く所がなかつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
更にそのような歴史的発展や政治的変革をうながす要因についても、それを一義的に種族闘争に求めたり、あるいは階級闘争に求めたりする説のあることは、前に述べた通りである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
村瀬の腕だつた。明子は村瀬と一つ影になつて失踪しっそうした。白痴的なこの最後の芝居が、一つの決定をうながすことになつた。彼等の失踪の翌夜、伊曾と劉子の情死が行はれたのである。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
んなことはなしてくれながら、おじいさんはわたくしうながしてやま修行場しゅぎょうば出掛でかけたとおもうと、そのまま一途中とちゅうして、たちまち一ぼうはるかなる、ひろひろ野原のはらしまいました。
一人を追躡ついじょうして銀明水ぎんめいすいかたわらまで来りしに、吹雪一層烈しく、大に悩み居る折柄、二人は予らに面会をおわりて下るにい、しきりに危険なる由を手真似てまねして引返すべきことをうながせしかば
その調子がいかにも黒人くろうとじみてゐて、今迄の努力の廢止をうながす絶對の合圖となつた。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
彼は自分をうながしたてるように、明日に迫る月末の苦しさを一度に思い起してみた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
『さァ、はやく』と帽子屋ばうしやうながして、『それでないと、またまへねむつてしまふからさ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
と、そばから主人しゅじんうながされると、づいたように、また、せっせとはたらきました。
ちょうと三つの石 (新字新仮名) / 小川未明(著)