ちつ)” の例文
噫、俺はアノ穴を見る恐怖おそろしさに耐へきれなくなつて、坑道の入口から少し上の、ちつと許り草があつて女郎花をみなへしの咲いた所に半日寝転んだ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それでは魔物まもの不承知ふしようちぢや。前方さきちつとも無理むりはねえ、るもらぬもの……出来でき不出来ふでき最初せえしよから、お前様めえさまたましひにあるでねえか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もつとも取返しが附いてもとの身の上になつたからつて、ちつとも好い事はない、もつと不好いけない事もあつた……で、臥反ねがへりを打つて、心の中で
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
此のぱなすやうな仕打をされたので、近子はちつ拍子抜ひやうしぬけのした氣味であつたが、んと思つたのか、また徐々そろ/\所天をつとの傍へ寄ツて
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
權三 (助十をみかへる。)おい、おれにばかり云はせてゐねえで、手前もちつとしやべれよ。かうなりあうでおたげえに係り合だ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
今お前の書いた英文を一寸見たが、全で無茶苦茶でちつとも意味が通つてゐないよ。あれぢやいろんな字を並べてるのに過ぎないね。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
わたし今迄いまゝで朝鮮猫てうせんねこ始終しじゆう露出むきだしてるなんてことちつともりませんでした、眞個ほんとらずにましたわ、ねこ露出むきだすなんてこと
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「あんた一人で東京までようおきやすか。」と母親おふくろはもう涙を一杯眼に浮べて「しげ可憫かはいさうに、おつれちつとも出来でけよらんのかいなあ。」
「まあ、貴方——いいえ、可けませんよ。ちつとお顔に出るまで二三盃続けて召上れよ。さうすると幾らかお気がれますから」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
だから日本でも俘虜が七八萬も來ましたから、ちつとは蒙古人流を試みるのも宜いかも知れない(笑聲起る)。それからして蒙古人は酷いです。
元時代の蒙古人 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
且つ俺のやうな四つ足の分際ではちつと生意気な言分だが、伊太利も豈夫まさかにウヰダやロンブロゾが舌を吐いて論ずるほど疲弊してもおるまいが
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
はなし此所こゝ迄来ても、たゞ抽象的に進んだ丈であつた。代助は言葉のうへでこそ、要領を得たが、平岡の本体を見届ける事はちつとも出来できなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
証拠人しようこにんならおつれなさい、此方こつちちつともおぼえのない事だから。甚「エヘヽヽヽ、ナニおせきさんぢやない赤いソノなんとかつたつけ、うむ、お赤飯せきはんか。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
大人には小さい人にわからない心配があるのよと言ふとね、姉さんなんかちつとも心配することなんかないぢやないか。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
恐ろしい頑固なつむじまがりの、高慢で癲癇持ちで人の気嫌なぞをちつとも気にかけない、撲ぐられてもひいひい泣いても涙を見せないやうな子であつた。
愛の詩集:03 愛の詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
「君にも解らないぢや、仕樣が無いね。で、一體君は、さうしてゐてちつともこはいと思ふことはないかね?」
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
丸で獣にちつとも違はない……それから、私は、会議所に行つて、これ/\だから注意して呉れと言つて来た
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
子供こどもなんぞちつとも可愛かあいくはありませんと威張ゐばつたことはれませんかつた。
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何れにしろ、あのロットの妻の未練がましい心配に身をまかせるのは、ちつと早すぎるつてことはあなたの常識が教へるでせう。あなたが我々に逢ふ前にどんなことを殘したか、無論僕は知りません。
聞直八それ高價たかいわしは百姓のことだから身にはすこしかまひは無い見てくれさへよければいゝほんの御祝儀しうぎざしもうちつと負て下さい道具屋否々いへ/\此品はかた代物しろものなれば夫よりは少しもひけやせんと是より暫時しばし直段ねだん押引おしひき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『其處ン所は何ともお申譯がございませんのですが、何分手前共でも迎への人が來ようなどとは、ちつとも思懸けませんでしたので。』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
併し風早學士は、ちつとも其樣なことに就いて考へなかつた。其がよしや何樣な人であツたとしても、彼の心に何んの衝動も感覺も無かツた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
いしくもまをされた。……のこらずつけやきのおあつらへは有難ありがたい、とおもふと、はうのふちをあかくしながら、あんこばかりはちつくすぐつたい。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いゝえ、やしなくッてよ』とあいちやんがひました、『ちつとも可哀相かあいさうだとはおもはないわ。わたしは「うして?」とつたのよ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
貴方あなた大變たいへんだつてくせに、ちつとも大變たいへんらしいこゑぢやなくつてよ」と御米およねあとから冗談半分じようだんはんぶんにわざ/\注意ちゆういしたくらゐである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこどこちつと考へたら、あれぎり家出をして了ふなんて、あんなまあ面抵つらあてがましい仕打振をするつてが有るものかね。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「かう云つとけばお母さんは安心なさるでせう。この手紙を出したつてちつともあなたに迷惑になりやしないわね。」
母と子 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
あれはコになつてる歯磨をますで買つて来て竜脳りゆうなうちつとばかり交ぜて箱詰にして一と晩置くとプンと好い香がする
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
へえゝの見えないうちかへつておどろきませんでした、うでも勝手にしねえとりましたから、いたらなんだかこはくツてちつとも歩けません。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「近頃は本なぞちつとも読みませんさ。世間は私や門野かどの君を——」とそばに居合はせた門野幾之進氏を一寸振り返つて
もうちつとだから怠けてはいけない。(上のかたに向つて團扇をあげる。)さあ、さあ、早く引いた、引いた。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
捕虜となつて働かされて居る奴は退却すると殺すと云ふので、何方にしても殺されるからまあちつとでも働いて活かして貰はうといふので働く。城の方を守つて居る人は愈〻困る。
元時代の蒙古人 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
其樣そんところかへるにあたるものかちつともおつかないこといからわたしうちなさい、みんなも心配しんぱいすることなん此子このこぐらゐのもの二人ふたり三人さんにん臺所だいどころいたならべておまんまべさせるに文句もんくるものか
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
みんな面白れえ人達だ。ちつとも可恐おつかねえ事ねえ。」
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
「フン、どうして君はさうかな。ちつとも漠然とした恐怖なんかぢやないんだよ。明瞭な恐怖なんぢやないか。恐ろしい事實なんだよ。最も明瞭にして恐ろしい事實なんだよ。それが君に解らないといふのは僕にはどうも不思議でならん」
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
『其処ン所は何ともお申訳がございませんのですが、何分手前共でも迎への人が来ようなどとは、ちつとも思懸けませんでしたので。』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
先方さき足袋跣足たびはだしで、或家あるいへて、——ちつとほいが、これからところに、もりのあるなかかくれてつたきり一人ひとり身動みうごきも出來できないでるんです。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何を見てもしづむ光彩くわうさいである。それで妙に氣がくづれてちつとも氣がツ立たぬ處へしんとしたうちなかから、ギコ/\、バイヲリンをこする響が起る。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
わたくしにもなんのこつたか、ちつともわからなかつたんですが、安之助やすのすけ講釋かうしやくいてはじめて、おやさうかいとやうわけでしてね。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「そんな事を言はずに自分もちつ気凛きりつとするが可い、帯の下へ時計の垂下ぶらさがつてゐるなどは威厳を損じるぢやないか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
『えゝ、つててよ!』とあいちやんがさけびました、この最後さいご言葉ことばには頓着とんちやくせずに。『それは植物しよくぶつだわ。ちつとも人間にんげんのやうな恰好かつかうをしちやなくつてよ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
家の者は男は皆んな東京や大阪や、名所見物をしとるし、温泉へも行つたりしとるのに、辰さんばかりはちつとも旅行しとらんのぢやから、氣の毒に思はれる。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
助十 そりやあちつとも知らなかつた。(又かんがへて。)やい、手前。おれ達をかつぐのぢやあねえか。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
投機や株の売買も商売の一つだからつてもいが、ちつと道徳を重んじて呉れないと困る
青年実業家 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
大きな体躯なりをしてながら、道具だうぐちつともおぼえやアしねえ、親の恩を忘れちやアまんぞ。弥
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いやちつとも。」と漱石氏は残り惜しさうな顔をして言つた。「なか/\面白かつたよ。」
門を出て右へ曲ると、智惠子はちつと學校を振返つて見て、『氣障きざな男だ。』と心に言つた。故もない微笑がチラリと口元に漂ふ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
るなんて、……るなんて、うしたんだらう。真個まつたくいて自分じぶんでもおどろいた。しらんでたもの。何時いつけたかちつともらん。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
げるよりほかが無いから、あとの事なんか考へてゐる暇が無い。自分はちつとのすきを見てあとをも見ずにすたこら駈出した。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「あれだから偉大な暗闇くらやみだ。何でも読んでゐる。けれどもちつともひからない。もう少し流行はやるものを読んで、もう少し出娑婆でしやばつて呉れるといがな」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)