うる)” の例文
中央には富嶽のうるわしい姿を中心に山脈があい連り、幾多の河川や湖沼がその間を縫い、下には模様のように平野の裳裾もすそが広がります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「わたくしとても何気ない朝のうるわしさには、こころからうれしくぞんじています。貞時さまのおせきのこえまで覚えましてございます。」
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
さま/″\の聲下界にてうるはしきふしとなるごとく、さま/″\のくらゐわが世にてこの諸〻の球の間のうるはしきしらべとゝのふ 一二四—一二六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
彼女の許しなしにはついに咲く機会のなかつたにちがひない菊の花なのだ。折角せっかくこんなうるはしさに花咲いた菊を今更どこへ置かうかと思ひまどつた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
十五になつた大柄の少年は、年上の主人筋の娘、——世にもうるはしいお縫に、やるせないあこがれを感じて居たのでせう。
一つには緋縮緬ひぢりめんの着物を着せ、一つには紫縮緬の着物を着せ、腰に下げた將棊しやうぎの駒の形の迷子札には、うるはしい墨色で名前まで書いてあるのだ。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
としころ廿六七、まゆうるはしい口元くちもとやさしい丁度ちやうど天女てんによやう美人びじんわたくし一目ひとめて、この夫人ふじんその容姿すがたごとく、こゝろうるはしく、にも高貴けだか婦人ふじんおもつた。
あけぼのの美はこの世における最上の美ともいうべきもの、ことに古代文学にはこれを讃美したうるわしき文字が多いのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
あたりの殺風景に負けてもいずに、あのうるわしい花を咲かせているのである。花は笑っている。微笑ではない。
此地には長寿ちょうじゅの人他処よそに比べて多く、女も此地生れなるは品よくして色うるわしく、心ざま言葉つきも優しき方なるが多きよし、気候水土の美なればなるべし。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
余は此町のうるわしさに殆ど不平の念を起し藻西が何故身の程をもかえりみず此町を撰びたるやとまで恨み初めぬ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
幹形、木理もくめうるはしいと云つたところで、大森林のメルクシ松を、世界の何処へ売り出さうと云ふのだ……。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
少なくともおれの感情……おれの最もうるわしい感情を、おれがおれの胸の奥底へおし隠してこのかた、おれはその感情を汲み出そう汲み出そうと藻掻もがきつづけた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
法林道場の問答 今度は法林道場というやはりうるわしい樹のしげった花も咲いて居るところの道場へみな寄り集まるんです。そこにも同じく銀砂が敷いてあるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
是はどうも御自身におでは恐入りましたね、誠にどうもおうるわしい事でありますな、へゝゝ、なに腹の立つ訳ではないが、ちょっと三人で花見という訳でもなく
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「健気なご精進よ」といったが、若い沙弥たちには、玉日のうるわしさと、綽空の幸福そうな落着きとが、とかく、眼にさわった。うらやましいと思わずにいられなかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼に見えない面影おもかげながら、それを思い浮べると、肉附のよい、血色のうるわしい、細い眼に無限の優しみを持った、年増盛りであったことを思いやらないわけにはゆきません。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そらあをかつた。それはきつ風雪ふうせつれた翌朝よくてうがいつもさうであるやうに、なにぬぐはれてきよあをかつた。混沌こんとんとしてくるつたゆきのあとのはれ空位そらぐらひまたなくうるはしいものはない。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ある明方あけがた、須利耶さまが鉄砲てっぽうをもったご自分の従弟いとこのかたとご一緒いっしょに、野原を歩いていられました。地面じめんはごくうるわしい青い石で、空がぼうっと白く見え、雪もまぢかでございました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
三つになったばかりの早春死んだ女児の、みめうるわしく心もやさしく、釣糸噛み切って逃げたなまずは呑舟どんしゅうの魚くらいにも見えるとか、忘却の淵に引きずり込まれた五、六行の言葉
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ひとり沈思のあゆみを築山の彼方あなた、紅葉うるはしき所に運びぬ、会衆の笑ひ興ずる声々も、いと遠く隔りて、こずゑに来鳴く雀の歌ものどかに、目を挙ぐれば雪の不二峰ふじがね、近く松林の上に其いただきを見せて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しか伸一先生しんいちせんせい老先生らうせんせいうるはしき性情せいじやうけてさらにこれをあたらしくみがげた人物じんぶつとして此小學校このせうがくかう監督かんとく我々われ/\第二だいに權藏ごんざうとなつて教導けうだうされたのです。權藏ごんざうこゝろざしもつと完全くわんぜん成就じやうじゆされました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ここいらから武子さんが、うるわしい武子だけでなく、同情と、人気とその人のもつ才能とが一つになって、注目される婦人となった。武子さんはいよいよ光り、良致さんはよく言われなかった。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
御氣色みけしきいとゞうるはしくいますが如くおもほえて
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
しかもあの通りうるわしい女人なのに。
断層顔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うるはしき人ごゑは湾にあつまる。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うるはしかりし
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
大聲おほごゑ搖醒ゆりさますものがあるので、おどろいてさますと、此時このときまつたれて、部室へや玻璃窓がらすまどたうして、ながむるうみおもには、うるはしき星影ほしかげがチラ々々とうつつてつた。
その他縞と絣とをよく合せ、「手縞てじま」と呼ぶものが好んで織られました。これらの織物類はいろどりの多い点でまたがらうるわしい点で、染物と競うほどの美しさを示しました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
当館とうやかたへ将軍家のおりを仰ぐたび、歌舞にお給仕に、何かのお目なぐさみにもと、年来、眉目みめうるわしいものは召抱えて来たが、さてさて天下にすくないのは美人であった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その容姿うるはしくして都はづかし、三絃さみ胡弓こきゅうならぬ歌うたひて、余念なく居りけるを、参詣の人、彼が麗はしき顔色かんばせに心をとられて銭を投掛くること雨の降り霧の飛ぶが如くなるを
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まれには国々のうるわしき少女おとめを、花のようにめるおもわ、月の光りのように照れるおもてとうたって、肌のつや極めてうるわしく、額広く、うれいの影などは露ほどもなく、輝きわたりたる面差おもざし晴々として
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
日常いつもさうおもふんですの、貴嬢の深い心の底にほんとに恋といふものがないんだらうかと——学校こゝに居た頃の貴嬢のことは私、く知つててよ、貴嬢の御心は、だ亡き阿母おつかさんおもうるはしききよき愛にあふれて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
うるはしき息の如く。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うるわしき歌姫うたひめ
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
きよらかなみづ滾々こん/\いづながれて、其邊そのへん草木くさきいろさへ一段いちだんうるはしい、此處こゝ一休憩ひとやすみこしをおろしたのは、かれこれ午後ごゝの五ちかく、不思議ふしぎなるひゞきやうやちかくなつた。
御年十六歳、さすが歴々の事なれば、容顔かんばせうるはしく、はだへ白雪はくせつに似たり、きよさ、余人に優れ、家の名を惜み、父の最期まで心に懸け、比類なきの働き、感ぜぬはなかりけり
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
篠田君が果して我々同志を売るものか如何どうか知れるではないか、——同君が賤業婦人を救ひ出すのは珍らしいことではない、加之しかのみならず諸君は之を称讃してうるはしき社会的救済事業と認めて来たでは無いか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「いつもながら、うるわしいご機嫌を拝しまして、郷左、何よりもうれしく存じ上げまする」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大寨たいさいの初秋は、水清く、山うるわしく、また酒が美味うまかった。宋江はよく晁蓋ちょうがいと時事を語り、また涼夜りょうや灯火ともしびっては、書窓の下にかの三巻の天書をひもどき、呉用とともにその研鑽けんさんふけっていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうかもしれない」ちょっと、うるわしい眉をひそめて——
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)