あら)” の例文
おおこれらすべての司祭輩よ! 陛下がこれら緇衣しいの手より我らを解放せらるる時にあらずんば、伯爵よ、事みなそのよろしきを得じ。
室は綺麗きれいに掃除されたり。床の間の掛物、花瓶かびん挿花さしばな、置物の工合なんど高雅に見えて一入ひとしおの趣きあるは書生上りの中川がたしなみあらず。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
釣を好むは糸を垂れて弦振動の発生をたのしむなり。いや弦振動の発生をたのしむにあらず、文王の声の波動を期待するのにあったろう。
軍用鮫 (新字新仮名) / 海野十三(著)
(七九)閭巷りよかうひとおこなひてんとほつするものは、(八〇)青雲せいうんくにあらずんば、いづくんぞく(名ヲ)後世こうせいかん
何故なぜと言ッて見給え、局員四十有余名と言やア大層のようだけれども、みんな腰の曲ッた老爺じいさんあらざれば気のかないやつばかりだろう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ポオの引用したエトワール紙(事実ではニューヨーク・ブラザー・ジョネーザン紙)の「死体はマリーにあらず」という議論は、恐らく
電話に出ていた相手の男性……白鷹先生にあらざる白鷹先生は、彼女の説明通りに、如何にも快活らしい朗らかな声の持主であった。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
他意あるにあらず、貴国実業家代表諸公に敬意を表し、併せて余の職業を遂行せん為に候。此段このだん予め閣下の意を得たく一書を呈し候。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私が新銭座に一寸ちょいと住居すまいの時(新銭座塾にあらず)、誰方どなたか知らないが御目に掛りたいといっておさむらいが参りましたと下女が取次とりつぎするから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
われ有るにあらざれど、この痛みどこより来るか。古人の悩んだこんな悩ましさも、十数年来まだ梶から取り去られていなかった。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その草染くさぞめの左の袖に、はらはらと五片三片いつひらみひらくれないを点じたのは、山鳥やまどり抜羽ぬけはか、あらず、ちょうか、あらず、蜘蛛くもか、あらず、桜の花のこぼれたのである。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「一、魚の序文。二、魚は食べたし金はなし。三、魚は愛するものにあらず食するものなり。四、めじまぐろ、さばかれい、いしもち、小鯛こだい。」
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
当時はあからさまに言ひがたき事なきにあらざりしかど十年一昔ひとむかしの今となりては、いかに慎みなきわが筆とて最早もはわざわいを人に及さざるべし。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
甚だよろしくないといって制しおさえたけれども聞かないで、尚この一念義を主張したから法然は幸西を我が弟子にあらずとして擯出ひんしゅつした。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
時により、智深にも仏心なきにあらずだぞ——と、彼はそれからというもの毎日、むしろ彼らの現われるのが、心待ちに待たれた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なおしからざるを申せば、帝ふるき事を語りたまいて、なんじ亮にあらずというや、とおおす。亮胸ふさがりて答うるあたわず、こくして地に伏す。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この歌の左に、「春日遅遅として、鶬鶊ひばり正にく。悽惆せいちうの意、歌にあらずば、はらひ難し。りて此の歌を作り、ちて締緒ていしよぶ」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
見張りはじめてより幾程いくほども無く余は目科の振舞にと怪しくかつ恐ろしげなる事あるを見てうせろくな人にはあらずと思いたり、其事はほかならず
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
数日之後ひをへて、皇太子近習者つかまつるものを召して、かたりて曰く、先の日、道に臥せる飢者は、其れ凡人ただびとあらじ、必ず真人ひじりならむ。使を遣して視しめたまふ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
エホバよりまずサタンに向って、「なんじ心を用いてわがしもべヨブを見しや、彼の如くまったくかつ正しくて神を畏れ悪に遠ざかるひとあらざるなり」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ムラサキ科のチサノキは関東地には無いから無論この品にあらざる事はすぐに推想が出来るが、しかし時とするとそれを間違えている人もある。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
その罪の恐ろしさは、なかなかあがなうべきすべのあるべきにあらず、今もなお亡き父上や兄上に向かいて、心にびぬ日とてはなし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
これより先九月五日、十月五日両度の吟味に吟味役までつぶさに申立てたるに、死を決して要諫ようかんす、必ずしも刺違え、切払い等の策あるにあらず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この時に当って真実の仏教をもってその欠乏を満たすにあらずんば、今日大乗仏教国の我々の義務が立たない。面目が立たない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
本来この筆記は単に記憶に存したる事実を思い出ずるまゝに語りしものなれば、あたかも一場の談話にして、もとより事の詳細をくしたるにあらず。
かしこにかれらの歌へるはバッコにあらずペアーナにあらず、三一みつひとつ言る神のさが、及び一となれる神人かみひと二のさがなりき 二五—二七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
コロボツクルの男子中はたして衣服をつけざる者有りとせばアイヌはじつに其無作法ぶさはふおどろきしならん。氣候の寒暖かんだんは衣服の有無を决定けつていするものにあらず。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
ワーニャ (笑いながら)いや、ブラボー、ブラボー……お説は一々ごもっともだが、疑問の余地もなきにしもあらずだね。
万葉の国なり。長編小説などの国にはあらず。小説家たる君、まず異国人になりたまえ。あれも、これも、と工合ぐあいには、断じていかぬよう也。
これに次ぐにヌーマの立法をもってするにあらずんば、到底他日の世界帝国の基を開くことが出来なかったに相違あるまい。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
あに明治の思想界を形容すべき絶好の辞にあらずや。優々閑々たる幕府時代の文学史を修めて明治の文学史に入る者いづくんぞ目眩し心悸しんきせざるを得んや。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
明治年代の教育法は、維新前の教育法を継承せるものにあらずして、全く新軌道を取れるものなれば、その事業の宏大なることもまた否むべからず。
我が教育の欠陥 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
紙筆しひつ硯机けんき煙管キセル巾櫛きんしつの類より、炉中の火、硯池けんちの水に至るまで、その主の許可あるにあらずして使用することを許さず
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
日向国飫肥おび領の山中にて、近き年菟道弓うじゆみにて怪しきものを取りたり。惣身そうしん女の形にして色ことのほか白く黒髪長くして赤裸なり。人に似て人にあらず。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
されども妻はく知れり、彼の微笑を弄するは、必ずしも、人のこれを弄するにあらざる時に於いてしばしばするを。彼は今それかあらぬかを疑へるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
理窟が文学にあらずとは古今の人、東西の人ことごとく一致したる定義にて、もし理窟をも文学なりと申す人あらば、それは大方日本の歌よみならんと存候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
幸いにして此の機を利用して、抜本塞源そくげんの英断を行うもの国軍の中より出現するにあらずんば、更に〔幾度か此の不祥事を繰り返すに止ま〕るであろう。
二・二六事件に就て (新字新仮名) / 河合栄治郎(著)
山も谷も恐るるところにあらず、どこまでもこの道を辿たどってニースまで行き着こう、と、二人で固く誓いを立て、また蹌踉そうろうたる前進を続けるのであった。
其方儀養子やうし又七にきずつけあまつさへ不義の申かけ致候樣下女きくに申つける段人にはゝたるのおこなひにあら不埓ふらち至極しごくつき遠島ゑんたうつく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼は十七八の少年か何かのように、我にもあらず、頬が熱くほてるのを感じた。夫人に対して、張り詰めていた心持が、ともすれば揺ぎ始めようとする。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ヘルンの文学に出る日本婦人のモデルは、多くその妻にあらずば姑の老婦人だといわれてるが、すくなくともヘルンは、この点での好運にめぐまれていた。
呉羽之介は我にもあら戦慄せんりつしました。そして今迄の自分の罪悪がのろわしく、その呪わしい罪の源となった、かの絵姿が堪えがたく呪わしく成るのでした。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それから最後に、「いずれその中に行く」と私が書いたに対して、「謀面ぼうめんは今時機にあらず、やがて折あるべし、」
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
公平とは読んで字の如く一見甚だ明かなるが如くなれど、細かに考ふれば真に公平を保つは容易のことにあらず。
仏教史家に一言す (新字旧仮名) / 津田左右吉小竹主(著)
忍びて捨ておくべきにあらず。また大君(将軍)は已に糸を産せざる南方の大名と不和を起したれば、今また此方の勢ある大名の言を用ひざる事を得ざるべし
尊攘戦略史 (新字新仮名) / 服部之総(著)
おのれたまあらざることをおそれるがゆえに、あえて刻苦してみがこうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々ろくろくとしてかわらに伍することも出来なかった。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
未熟みじゅくながらも妾が代りて師匠となりいかにもして彼が望みを達せしめんと欲するなり、汝等が知る所にあらくこの場を去るべしと毅然きぜんとして云い放ちければ
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この権太は大和国下市村の男なるに、芝居にて江戸風の大いなせにすることにつきては、すでに前人も不審を懐きし所なるが、ひらきは深くとがむべきにもあらざるべし。
足袋たび股引もゝひき支度したくながらに答へたるに人々ひと/\そのしをらしきを感じ合ひしがしをらしとはもと此世このよのものにあらずしをらしきがゆゑ此男このをとこ此世このよ車夫しやふとは落ちしなるべし。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
人類に本具の良智良能、換言すれば、その理性自然の命ずる法則に従ってかくの如き雑婚が決して人類の発達を助くるゆえんのものにあらざるを悟了ごりょうするに至った。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)