らい)” の例文
例えば何月何日にらいが鳴って何とかいう家におっこちたという通信種を、その家の天水桶に落雷して孑孑ぼうふりが驚いたという風に書いて
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
本人はまだ知らないが、支配頭から叔父にはもう内達ないたつがあった。この一家の上をおおっていた黒雲から、とうとう怖ろしいらいが落ちた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つばから七、八分どころから引き気味に深く割りつけたので、生木を裂くらいのように、刀のは脳から肋骨あばらの何枚かまでとおって行った。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
◎お乙女あねさんはお仁王と綽名あだなされた丈け中々元気で、らいが鳴る時などは向鉢巻をして大鼓を叩いてワイ/\と騒ぐ様な人でした。
ハムーチャは少しびっくりしましたが、やがて、ようようと場所のまん中に進み出ました。四方から、らいのような拍手はくしゅが起こりました。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
らいが崩れ落ちたような大爆発が、この大汽船の横腹をぶッ裂きました。船底から脱け出した第八潜水艦の魚雷が命中したのです。
太平洋雷撃戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やがて、『君が代』の歌の中に、校長は御影みえいを奉開して、それから勅語を朗読した。万歳、万歳と人々の唱へる声はらいのやうに響き渡る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
新吉は電光いなびかりの時に顔を見られないようにすると、其の野郎もらいが嫌いだと見えてく見る事も致しません。電光の後でくらくなると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
雨中うちゅうのすき間から、一瞬間、サッと青白い光が射し込んで、畳の目をくっきり描きだすのは、らいが、ちょうど頭の上へ来ているらしい。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いや以てのほかの騒動だ。外濠そとぼりからりょういても、天守へらいが転がつても、太鼓櫓たいこやぐらの下へ屑屋がこぼれたほどではあるまいと思ふ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かどのパレエの大時鐘おほどけい、七時を打つた——みやこの上に、金無垢きんむく湖水こすゐと見える西のそら、雲かさなつてどことなく、らいのけしきの東の空。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ハッとしどおしで、眼を閉じてみたり、きもを冷やしたり、鳴り始めてから鳴り終るまで、らいさまのことばかり、考えている。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
合せて小流れとなる下るまた一二丁流は石に觸れて音あり又下る三四丁流れは岩に激して雪を散らす下ること又四五丁川となりて水聲らいの如し坂を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
たちまち海上はるかに一声のらいとどろき、物ありグーンと空中に鳴りをうって、松島の大檣たいしょうをかすめつつ、海に落ちて、二丈ばかり水をけ上げぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
得たる心地して大いに悦び今や時刻じこくと待居たりしが心のゆるみよりとろ/\と睡眠まどろむうちらいの落たる如き物音に夢はやぶれて四邊あたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼の言葉の力は相手の心に達するまでにはいたらないで、彼女はただらいにでも撃たれたように感じたばかりであった。
先生はまるでらいたれたように、口を半ばけたまま、ストオヴの側へ棒立ちになって、一二分のあいだはただ、その慓悍ひょうかんな生徒の顔ばかり眺めていた。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
らいくだかれし松のそびえて立てる」のがあり、家には戸もなく、萩薄などが生い茂っている荒廃のさまが描かれている。(原本三丁裏、四丁表の挿絵)
「ワアーッ! ワア——」と、何千人という見物人が声をあげて、パチパチと手をたたくひびきがらいのようだ。
小指一本の大試合 (新字新仮名) / 山中峯太郎(著)
「エリヤよ、予言者よ、イスラエルの神よ! この悪人を、らいとなって、即座にお打ち殺しくださりませ!」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かくて兩山相仄あひそくし、溪聲らいのごとき間を過ぐること一里餘、路は更に幾屈曲して、遂に萬山のきはまるところ、蕭々たる數軒の人家の遙かに雲中に歴落れきらくたるを認む。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
そのたびに彼は思わず立竦たちすくんだ。如何どうしても落ちずにはまぬらいの鳴り様である。何時落ちるかも知れぬと最初思うた彼は、屹度きっと落ちると覚期かくごせねばならなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
僕の近所に南蔵院なんぞういんと云う寺があるが、あすこに八十ばかりの隠居がいる。それでこの間の白雨ゆうだちの時寺内じないらいが落ちて隠居のいる庭先の松の木をいてしまった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
○およそ 菅神をまつやしろにはおほかたは雷除らいよけ護府まもりといふ物あり。此 御神雷の浮名うきなをうけ玉ひたるゆゑ、 神灵しんれいらいいみ玉ふゆゑに此まもりかならずしるしあるべし。
根こぎにされた樹木はしばらくの間、泥酔して苦しんでいる巨人のようにふらふらしていたが、やがてらいのような響きと共に、他の樹のあいだに落ちて横たわった。
菅原道真の霊がらいになって、御所の近くに来てあばれた日は、ちょうど稲荷大明神が当番であって、雲に乗って現れてこれを防ぎ、十分にその威力を振わせなかった。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
外に出て一応各部署を点検し終わると、ふたたび幕営に入り、らいのごとき鼾声かんせいを立てて熟睡した。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
風落ちたれど波なお高く沖はらいとどろくようなる音し磯打つ波砕けて飛沫しぶき雨のごとし。人々荒跡を見廻るうち小舟一そう岩の上に打上げられてなかば砕けしまま残れるを見出しぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
らいのごとくさわつ数千の反対者を眼前がんぜんならべて、平然とかまえて、いかに罵詈讒謗ばりざんぼうあびせても、どこのそらを風が吹くていの顔付きで落着き払って議事を進行せしめたその態度と
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ミンチン女史の声もらいのようでした。とふいに、女史は裾を蹴って廊下に飛び出して来ました。女史はセエラを見ると、困った顔をしました。あの声を聞かれて困ったのでした。
やがて稲妻が鋭くひらめき、ゆるやかならいの響につれて、ポツリポツリと大きな雨の粒が落ちて来た。あれほど好く晴れていた夕方の天気は、いつの間にか変ってしまったのである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ごゑらいのようにつよく、いかにも高山こうざんいたゞきにとりにふさはしい丈夫じようぶそうなとりです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
もしもらいが鳴り出して、赤い帆に暴風が吹き付けたらば、船はきっとくつがえってしまったかも知れない程に、船上の人間たちは、生のために戦う意志もなく、ただ全くぽかんとしていた。
しかしまた腹立易はらだちッぽおとこで、だれ郵便局ゆうびんきょくもので、反対はんたいでもするとか、同意どういでもせぬとか、理屈りくつでもならべようものなら、真赤まっかになって、全身ぜんしんふるわして怒立おこりたち、らいのようなこえ
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
『もとへ!』とらいのやうなこゑ女王樣ぢよわうさまさけばれました。人々ひと/″\たがひ衝突ぶつかりまはりながら、四方八方しはうはつぱうけめぐりました。しばらくしてみんなが各々おの/\もと位置ゐちにつくや、競技ゲームはじまりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
福岡市湊町みなとまちの下宿に帰って二三時間のあいだらいの如き鼾声かんせいを放って熟睡していた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ます目結めゆいらい源氏香図げんじこうずなどの模様は、平行線として知覚されることが必ずしも不可能でない。殊に縦に連繋れんけいした場合がそうである。したがってまた「いき」である可能性をもっている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
ぼくはもう今すぐでもおらいさんにつぶされて、または噴火ふんかを足もとから引っぱり出して、またはいさぎよく風にたおされて、またはノアの洪水こうずいをひっかぶって、んでしまおうと言うんですよ。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いづれもうれしさうにして、ふね近付ちかづいてるのを、退けるやうにして、天滿與力てんまよりききにふねへ、雪駄せつたあしまたんだ。途端とたん玄竹げんちくはいつにないらいのやうに高聲たかごゑで、叱咜したした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さすがにかの欧米の天にらいの如く響きわたりたる此等楽聖が深潭しんたんの胸をしぼりし天籟てんらいの遺韻をつたへて、耳まづしき我らにはこの一小機械子の声さへ、猶あたゝかき天苑の余光の如くにおぼえぬ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
この夜、吉岡髯将軍ビール二杯呑んだところが早速酔っ払ってしまい、自分から注文した名物の羊羹ようかんが来たのも知らずに、鼾声かんせいらいのごとくグーグームニャムニャ。木川子と吾輩二人で一皿を平らぐ。
支那の昔の人もこれを維摩の一黙いちもくらいのごとしなどと讃めております。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大体、健康な金五郎は、寝つきはすこぶるよい方で、横になったかと思うと、すぐにいびきをかくのが癖であったが、このときも、まもなく、らいのような大鼾が、暁近い空気を震動させて、湧き起った。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
大谷川となつて瀧の水が流れ出す東の一方を除いては、三方は翠峯青嶂に包まれてゐるその中央の高處から雪とらいと轟いて、岩壁にもさはらずに一線に懸空的に落ちて來るのが華嚴の壯觀である。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
わたつみのそらはとほけどかたまれるくもなかよりらい鳴りきこゆ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ほほの花白くむらがる夜明がたひむがしの空にらいはとどろく
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
この時らいのとどろくごとく、大いなる音ひびきわたる。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
らいの後 かみなり蝶が村へくる
山果集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
らいに裂かれし樹は花咲かじ
らいのどよみに現はれぬ。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)