たつ)” の例文
夜長の折柄おりからたつの物語を御馳走に饒舌しゃべりりましょう、残念なは去年ならばもう少し面白くあわれに申しあげ軽薄けいはくな京の人イヤこれは失礼
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
縁ならぬ縁でしたが、目をかけた配下の善光寺たつが死んでみれば、まだ四十九日もたたないうちに、めでたいどころの騒ぎでない。
さびしい田舎道いなかみちほうまで、自転車じてんしゃはしらせて、二人ふたりは、散歩さんぽしました。徳蔵とくぞうさんは、たつ一にとって、じつにいさんのようながしました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
十二支というのは、子、うしとら、卯、たつうまひつじさるとりいぬの十二で、午の年とか酉の年とかいうあの呼び方なのです。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いや三月十三日のとらノ一てん(午前四時)からたつこく(午前八時)までとあるから厳密には早朝一ト煙の市街戦だったといってよい。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神戸家へ重々かさねがさね世話になるのは気の毒だと云うので、宇平一家はやはり遠い親戚に当る、添邸の山本平作方へ、八日のたつの刻過に避難した。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
上半身に十二支の内、うしとらたつうま、の七つまで、墨と朱の二色で、いとも鮮やかに彫ってあるのでした。
双方がにらみ合ってる中に、父の弟分なり乾児こぶんなりであった肴屋さかなやたつという六尺近くもある大男の豪のものが飛び出して、相手を一拉ひとひしぎにしたので
「おい、」と重く落着いて一ツうなずいた。これは下谷したや西黒門町に住んで、かしら、頭と立てらるる、たつ何とか言うのであろう。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
種吉では話にならぬから素通りして路地のおくへ行き種吉の女房にょうぼうけ合うと、女房のおたつは種吉とは大分ちがって、借金取の動作に注意の目をくばった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
立伊賀亮事にはか癪氣しやくき差起さしおこり明日の所全快ぜんくわい覺束おぼつかなく候間萬端ばんたん宜敷御頼み申也と云おく部屋へや引籠ひきこもり居たりけるさて其夜もあけたつ上刻じやうこくと成ば天一坊には八山を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
寂しい心のたつじいさんは、冬至が過ぎれば日が畳の目一つずつ永くなる、冬のあとには春が来る、と云う信仰の下に、時々竹箆たけべらで鍬の刃につく土を落しつゝ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
弟はたつと云った。辰年の生れであった。私達は三人兄弟で、兄はあらた、私はきよしで、みな祖父がつけたものであった。弟が生れたのは、三月の節句の頃であった。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
「ながらへばとらたつやしのばれん、うしとみし年今はこひしき。」それをばあたかも我が身の上をえいじたもののように幾度いくたび繰返くりかえして聞かせるのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
智者は機に投ずるを貴ぶ、帰来はすべからくたつに及ぶべし。非常の功を立てずんば、身後に誰か能く賓せん。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
たつの刻よりはじまって、うまの刻まで戦いつづけたが、二十余人の多治見勢に、二千の六波羅勢は敵しかね、要害とてない館一つを、陥落おとしかねて持てあました。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そいつは大蛇だいじゃたつといって、からだぜんたいに大蛇の刺青いれずみのある、博奕ばくち打ちなかまでは相当に顔の売れた男ですよ、あっしが御放免になって十日ばかり経った或る日
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
時に濃霧(川中島の名物)が深く立ちこめて一寸先もみえない。甲軍は越軍が川中島に来るのはたつの刻(午前八時)とかんがえ、厳然たる隊形は整えずにいたらしい。
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
造兵へ出るたつさんが肌を抜いで酒をんでいると、御酒を呑んでてよと御母さんに話す。大工の源坊げんぼう手斧ておのいでいると、何か磨いでてよと御祖母さんに知らせる。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「こんじつたつの日で、よろず新しく立つといういい日でございまするから、こんじつ以来、日本もいい運に向いてまいりましょうでございます。おめでとうございます」
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
たつこく頃より馬場へ出御しゅつぎょ、大場重玄をまん中に立たせ、清八、鷹をと御意ありしかば、清八はここぞと富士司を放つに、鷹はたちまち真一文字まいちもんじに重玄の天額をかいつかみぬ。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
うしとらたつ、——と、きゃくのないあがりかまちにこしをかけて、ひとり十二じゅん指折ゆびおかぞえていた、仮名床かなどこ亭主ていしゅ伝吉でんきちは、いきなり、いきがつまるくらいあらッぽく
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
紙幣さつと菓子との二つ取りにはおこしをおくれと手を出したる物なれば、今の稼業に誠はなくとも百人の中の一人に真からの涙をこぼして、聞いておくれ染物やのたつさんが事を
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たとえば、たつ年に生まれたるものは剛邁ごうまいの気性を有し、とら年に生まれたるものは腕力を有し、年に生まれたるものは臆病なりというごとき類は、世間にてよくいうことであります。
妖怪学一斑 (新字新仮名) / 井上円了(著)
掘り起した土の中からはどうかするとかわいらしい貝割葉かいわればが見つかりましたが、それはすもものたねについて出てくるやつでした。わたしたちの学校にはたつさんという小使いがいます。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
朝のたつどき(午前七時—九時)に初めてその前列を見て、夕のとりどき(午後五時—七時)にいたる頃、その全部がようやく行き尽くしたのであって、その長さ実に幾里であるか判らない。
たつの刻からうまの刻になって始めて脱稿だっこうした。王者はそれを見て非常に悦んだ。
織成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
眼玉の大きいところから蜻蛉のたつと呼ばれている中年者が住んでいるが、去年の夏、女郎上りのかかあに死なれてからは、昼は家にごろごろして日暮れから夜鳴饂飩よなきうどんを売りに出ているとのこと。
一人の女と一人の女形おやま、その美しい円味まるみ、匂いこぼれるようななまめかしさ、悩ましさはともかくとして、おりふし「青楼十二時」でもひもどいて、たつこくの画面に打衝ぶつかると、ハタと彼は
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そこへ米より三つ上のたつという子が帰って来た。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
たつです」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
穏当おとなしくなって姪子めいっこを売るのではない養女だかめかけだか知らぬが百両で縁をきっれろという人にばかりの事、それをおたつ間夫まぶでもあるか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
新しく善光寺たつなる配下が一枚わき役として加わり、名人、伝六、善光寺辰と、およそ古今に類のない変人ぞろいの捕物とりもの陣を敷きまして
そして時刻のたつこく(午前八時)の頃としなれば、遠く、下京しもぎょうの本能寺から、貝の音は聞えて、——一番隊、二番隊、三番隊、四番隊と
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十二がつ日曜日にちようびでした。かぜのないしずかなお天気てんきであります。たつ一は、午後ごごから、××のへいってみようとおもいました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
夏痩は、たつくちといふ温泉の、叔母の家で、従姉いとこの処へわきから包ものがとゞいた。其上包になつて読売新聞が一枚。
いろ扱ひ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あれは札差ふださし檀那衆だんなしゅ悪作劇いたずらをしておいでなすったところへ、おたつさんが飛び込んでお出なすったのでございます。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
煙管きせるくわえて、後手うしろで組んで、起きぬけに田の水を見るたつじいさんの眼に、露だらけの早稲わせが一夜に一寸も伸びて見える。昨日花を見た茄子なすが、明日はもうもげる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
中には六十を越して、中風で身動きもならぬ母親のおたつが、眠るとも覚めるともなく寝ているのでしょう。
かくて又享保きやうほ二年五月廿六日双方さうはう共明廿七日たつこく評定ひやうぢやう所へまかり出べき旨差紙さしがみあり依て願人相手方のこらず評定所腰掛こしかけ未明みめいより相つめる抑も評定所に於て吟味ぎんみのありしは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ちょうど、その時分、とら門際もんぎわたつくちに工部省で建てた工部学校というものが出来ました。
「それは失礼」と松次郎は登に気取った会釈をし、伊蔵に云った、「おまえはたつと銀を呼んで、ここで待っていておくれ、いいよ、一人で大丈夫、私も高田屋の松次郎だよ」
紙幣さつ菓子くわしとの二つりにはおこしをおれとしたるものなれば、いま稼業かげうまことはなくとも百にんなか一人ひとりしんからのなみだをこぼして、いておくれ染物そめものやのたつさんがこと
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
十年前の言草なんか誰が覚えているものか、しかしあの石塔に帰泉院殿きせんいんでん黄鶴大居士こうかくだいこじ安永五年たつ正月とってあったのだけはいまだに記憶している。あの石塔は古雅に出来ていたよ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おっとった。そのあしがられちゃかなわない。たつどん、うらたらいみずみな」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
朝来小雨有之候へどもたつの下刻より春雷を催し、やや、晴れ間相きざし候折から——村郷士梁瀬やなせ金十郎殿より、迎への馬差し遣はされ、検脈致し呉れ候様、申し越され候間、早速馬上にて
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たつのやつア走りながら刺子さしこを着て、もう行っちめえやがった。はええ野郎だ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「どうで私の話だから昔のことだよ。そのつもりで聴いて貰わなけりゃあならないが……。江戸時代の天保三年、これは丑年じゃあないたつ年で、例の鼠小僧次郎吉が召捕りになった年だが、その正月二日の朝の出来事だ。」
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いいえ、こないだたつのふた七日なのかの日にね、あんまり気がめいってならねえから、通りの釈場にいったら講釈師がいったんですよ。
珠運しゅうんは段々と平面板ひらいた彫浮ほりうかべるおたつの像、元よりたれに頼まれしにもあらねば細工料取らんとにもあらず、ただ恋しさに余りての業
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)