許嫁いひなづけ)” の例文
お輝は十六、美しく可愛らしく、幼々うひ/\しく、そしていぢらしい娘ですが、許嫁いひなづけの兵三郎が殺されて、その悲歎は目も當てられません。
恥を包まず申上げるが、じつは自分が生れも付かぬ松皮疱瘡になつたため、幼いときからの許嫁いひなづけは、急に縁談を、破談にして来た。
吉原百人斬り (新字旧仮名) / 正岡容(著)
れに、長二、私の許嫁いひなづけで亡くなつた、お前の義伯をぢさんも来るの、其れにうしてお前もたまには来て呉れる、斯様こんな嬉しいことがありますか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
我はこれを愛すること許嫁いひなづけつまを愛するが如くならず。されどその人の婦とならんをば、われまた冷に傍より看ること能はざりしならん。
不埒ふらちならずやこそ零落おちぶれたれ許嫁いひなづけえんきれしならずまこと其心そのこゝろならうつくしく立派りつぱれてやりたしれるといへば貧乏世帶びんぼふじよたいのカンテラのあぶら
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
みづ江と紋吉が許嫁いひなづけであるといふのは、この二人の父親達がまだ軽症で東京に生活してゐた頃に定められたのであつた。
青春の天刑病者達 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
年紀としわかし……許嫁いひなづけか、なにか、へておもひとでも、入院にふゐんしてて、療治れうぢとゞかなかつたところから、無理むりとはつても、世間せけんには愚癡ぐちからおこる、人怨ひとうらみ。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
息子の士行しかう氏が洋行から帰つて来た時、博士はぽんたの娘で士行氏と許嫁いひなづけの養女国子さんと、くだんのフロツクコートを取り揃へて士行氏に呉れようとした。
四幕目にキニゼイと云ふ妙な名の若侍が彌五郎の娘である許嫁いひなづけの愛情にほだされて、今宵こよひに迫る仇打かたきうち首途かどでに随分思ひ切つて非武人的に未練な所を見せる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
許嫁いひなづけの男の両親のもとに家事見習に行つてゐるその娘から、このところ一寸ちよつと便が来ない。このわたしを忘れて、目新らしい生活に夢中になつてゐるのかしらん。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
幼少のころ私と許嫁いひなづけになつてゐた、昔の道楽医学生の彼は、晩酌後の機嫌のいゝ顔をして、少し背を丸くしながら出て来た。大分もういゝ年な筈だのに、案外若々しい。
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
「おれはあした戦死するのだ。」大尉はつぶやきながら、許嫁いひなづけのゐる杜の方にあたまを曲げました。
烏の北斗七星 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
中にも肉慾は長老がひどく恐ろしいものだと云つて戒めてくれたのに、自分が平気でそれを絶つてゐられるのが嬉しかつた。只許嫁いひなづけのマリイの事を思ひ出すと煩悶する。
幼少から親に別れてこの鴫沢の世話になつてゐて、其処そこの娘と許嫁いひなづけ……似てゐる、似てゐる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
小泉がよろめく所を、右の脇腹わきはらつきを一本食はせた。東組与力小泉淵次郎えんじらうは十八歳を一期いちごとして、陰謀第一の犠牲としていのちおとした。花のやうな許嫁いひなづけの妻があつたさうである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
若し今の儘にて行を改めざる時は、ブレエメンに在る許嫁いひなづけの良人は定めて不幸に感ずるならむと存じ候。彼日フリツチイは某君なにがしくんと小生の妻を捨ておきて、いづれへか立去りし由に候。
然し自分の許嫁いひなづけが他人に心を移したのは、猶情ないだらう。うらなり君の事を思ふと、団子は愚か、三日位断食しても不平はこぼせない訳だ。本当に人間程宛にならないものはない。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
つひに私は無我夢中に逆上して、家へ出入りするお常婆を介して、正式に許嫁いひなづけの間にして貰へるやう私の父母に当つて見てくれと頼んだ。一方私はにはかに気を配つて父や母を大切にし出した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
和歌子の方はちよつぴりロマンスめいた許嫁いひなづけの期間といふものがあつたので、その当座は弘子の方で引け目を感じてゐたが、しばらくたつて、お互に新婚の打明け話をしあつてみると、案外
すべてを得るは難し (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
その Williウイリー許嫁いひなづけの娘が一人ゐて、やはり媼の家に同居して居つた。若者も小柄であるが、娘も小柄で丸い可哀らしい顔をしてゐた。しかるに、娘と媼の間がどうもうまく行かぬらしい。
日本媼 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「埋葬曲」は洋琴ピアノ作曲家として何人なんびとも企て及ばざる Chopin が藝術の極致を示したもので、波蘭土革命ポーランドかくめいの騷亂に殉死した一青年の埋葬に戀する許嫁いひなづけ少女をとめが會葬の人々の立去つたあと
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
予はこの時に至つて、始めて本多子爵と明子とが、既に許嫁いひなづけの約ありしにも関らず、かの、満村恭平が黄金の威に圧せられて、遂に破約のむ無きに至りしを知りぬ。予が心、あにいきどほりを加へざらんや。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
よしやお前が私の許嫁いひなづけであつたにしても
幸福が遅く来たなら (新字旧仮名) / 生田春月(著)
從容しようようとして死の許嫁いひなづけたる肉身にくしんから叫べ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
許嫁いひなづけさへあるならん。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
お前の可愛い許嫁いひなづけ
長長秋夜 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
この変つた姿で歸つたら、この月のうちには祝言をしようと言ふことになつて居た、許嫁いひなづけのお新はどんなに驚き歎くことでせう。
たのみてあやにかけたる許嫁いひなづけのえにしおやなりなり同舅同士あひやけどうしなり不足ふそくしなあらばたまへと彼方かなたにばかり親切しんせつ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かりにも先生せんせいんだ貴下あなたむかつて、うそへません。……一度いちどやう、是非ぜひたい。うまれない以前いぜんから雪枝ゆきえ身躰からだとは、許嫁いひなづけ約束やくそくがあるやうな土地とちです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
姫は早や天に許嫁いひなづけし給ひて、御名さへエリザベツタと改まりぬ。我は姫の群集の上に投じ給ふ最後の一瞥を望み見たり。一人の故參の尼は姫の手を引きて入りぬ。
と小林氏の子息に私語さゝやき申しさふらふ。光るにたはぶるると覚えて心もうれしくさふらひき。この港に許嫁いひなづけを見給ふ三人みたりの花嫁の君の顔のぞき見ずやと云ふ人のありしはたれさふらひけん。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
兼吉との婦人とは幼少時代からの許嫁いひなづけであつたのです、しかるに成人するにおよんで、婦人の母と云ふが、職工風情ふぜいの妻にしたのでは自分等の安楽が出来ないと云ふので
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ステパンは許嫁いひなづけの女の情夫が、若し帝でなくて、外の誰かであつたら、きつと殺さずには置かなかつただらう。ところがそれが帝である。自分の神のやうに敬つてゐる帝である。
この男は幼少のころ許嫁いひなづけであつた私になんの未練も興味も持たないで、あのお房さんのことを今だに忘れないでゐるのか、と思ふとちよつと憎らしかつたが、それは不思議でない。
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
お常には許嫁いひなづけがあつたが、恋をする身には許嫁などは、文久銭ほどの価値ねうちもなかつた。
烏の大尉は、矢のやうにさいかちの枝にりました。その枝に、さつきからじつととまつて、ものを案じてゐる烏があります。それはいちばん声のいゝ砲艦で、烏の大尉の許嫁いひなづけでした。
烏の北斗七星 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
田代 なんだと云ふと、実はこれこれで、日本に許嫁いひなづけがある。
昨今横浜異聞(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
お前の可愛い許嫁いひなづけ
その後ろから覗くやうに、齒の根も合はぬ樣子で板の間に立つた美しい娘は、萬吉の許嫁いひなづけで、久藏の娘お染と、——これも後で解りました。
少女をとめは若き男の許嫁いひなづけよめなりしならん。顏ばせつやゝかに、目なざし涼しかりき。男をば木にくゝりたり。女は猶處子なりき。われはサヱルリ侯に扮することを得たり。
其処そこ多勢おほぜいの義士が誘ひに来て散散さんざんに辱めた上飽迄あくまでも躊躇して居るキニゼイに告別して行つて仕舞しまふと、キニゼイ先生もつひに決心して許嫁いひなづけ突除つきのけ同志のあとを追つてく。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
おやおやとの許嫁いひなづけでも、十年じふねんちか雙方さうはう不沙汰ぶさたると、一寸ちよつと樣子やうすわかかねる。いはん叔父をぢをひとで腰掛こしかけた團子屋だんごやであるから、本郷ほんがうんで藤村ふぢむら買物かひものをするやうなわけにはゆかぬ。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あしたから、また許嫁いひなづけといつしよに、演習ができるのです。あんまりうれしいので、たびたびくちばしを大きくあけて、まつ赤に日光に透かせましたが、それも砲艦長は横を向いて見逃がしてゐました。
烏の北斗七星 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
オヽおもしろし覺悟かくごとはなん覺悟かくご許嫁いひなづけ約束やくそくいてしゝとのおのぞみかそれは此方このはうよりもねがことなりなんまはりくどい申上まをしあぐることのさふらふ一通ひととほりも二通ふたとほりもることならずのちとはいはずまへにてれてるべしれてらん他人たにんになるは造作ぞうさもなしと嘲笑あざわらむねうちくは何物なにもの
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女房の友達とその許嫁いひなづけを救ふ爲といふよりは、町方一とうの面目の爲に、萬七を向うに廻して手柄を爭ふのもまた已むを得ない破目だつたのです。
当時たうじ飛鳥とぶとりちるとふ、おめかけ一人ひとりつてたが、ふね焼出やけだしたのは、ぬしさしつたとほりでがす。——めかけふのが、祖父殿おんぢいどん許嫁いひなづけつたともへば、馴染なじみだとも風説うはさしたゞね。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
金之進の許嫁いひなづけといふことになつて居りますが、骨と皮とで作られたやうな、非凡な不きりやうで、二十歳の若さで毛程の魅力も美しさもありません。
驚破すはやと、母屋おもやより許嫁いひなづけあにぶんのけつくるに、みさしたるふみせもあへずきててる、しをりはぎ濡縁ぬれえんえだ浪打なみうちて、徒渉かちわたりすべからず、ありはすたらひなかたすけのせつゝ、してのがるゝ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「成程、——ところで、編笠乞食との間柄は何だらう。兄妹きやうだいとか、許嫁いひなづけとか、話ぶりで見當は付かなかつたらうか」
娘のおこのが近頃與三郎に熱くなつてゐるので、許嫁いひなづけの金次郎が面白くないのは評判の通りだが、金次郎は根がしつかり者で、人などを殺すやうな男ぢやない。