)” の例文
開きれば一少艾衣類凋損ひとりのむすめきものそこねたれど妍姿傷みめそこねず問うてこれ商人のむすめ母に随い塚に上り寒食をすところを虎に搏たれ逃げ来た者と知り
はて、不思議だと思いながら、抜足ぬきあしをしてそっけて行くと、不意に赤児の泣声が聞えた。よくると、其奴そいつが赤児を抱えていたのだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
茫然ぼうぜんとしたさまして、運転手が、汚れた手袋の指の破れたのをじっている。——掌に、銀貨が五六枚、キラキラと光ったのであった。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
和作は三高時代に読んだ、「朧夜おぼろよや顔に似合はぬ恋もあらん」といふ句をふと思ひ出した。そして歩きながら月の在処を凝つとた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
或る者は長靴を脱いでさかさまにして、一杯たまった砂や泥水を吐かせたり、沓下くつしたを脱いで白くふやけた自分の足をつめたりしている。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
神事じんじをはれば人々離散りさんして普光寺に入り、はじめ棄置すておきたる衣類いるゐ懐中くわいちゆう物をるに鼻帋はながみ一枚だにうする事なし、かすむれば即座そくざ神罰しんばつあるゆゑなり。
蒼鸇たかの飛ぶ時よそはなさず、鶴なら鶴の一点張りに雲をも穿うがち風にもむかって目ざす獲物の、咽喉仏のどぼとけ把攫ひっつかまでは合点せざるものなり。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かつてはわが民族の間に重くられたかと思う五月二十八日、または中世の印地打いんじうちの日として、記録にも残っている四月二十二日等
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
起してはいけないと思って、伊織はそのまま黙って、また往来をていた。——しかし、隣の部屋のやかましさは前と少しも変りはない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからると、飛んでいる中に蜘蛛の巣にかかって、ばたばたして下に落ちたのを、蟻の群に攻められたのだと想像されるのである。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
睨みたりとは、る仕方の当初を指して言ひ得る言葉なり。視る仕方の後を言ふ言葉は Annihilation の外なかるべし。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「ええ、あれだけでも速く疎開させておきたいの」と康子はとりすがるように兄のひとみつめた。と、兄の視線はちらとわきらされた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
なぜなら「知る」ものはすべて知性であるのに、感情が理智の知らないものを知るというのは、眼なくして物をる不思議であるから。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
早く顔がたい、如何様どんな顔をしているか。顔を視れば、どうせ好い心地がしないは知れていれど、それでいて只早く顔が視たい。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
宗「左様か、ウヽン……煩悩経にある睡眠、あゝ夢中むちゅうゆめじゃ、実に怖いものじゃの、あゝ悪い夢をました、悪い夢を視ました」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この引用中「よ、我なんじの顔の前にわが使をつかわす、彼汝の道を設くべし」(一の二)というのは、実はイザヤの言葉ではありません。
しかるに酒たけなわに耳熱して来ると、温鍾馗は二公子を白眼にて、叱咤しった怒号する。それから妓に琴を弾かせ、笛を吹かせて歌い出す。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
法学士の安田は、はじめからしまいまで一語いちごも言わずに、下田の子供らのうしろにたって、じっと不思議な死体をつめていた。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
おまえは精進することなくして文武にぬきんでた、おまえは世間を掌上のものとている、そのまま軽薄才士だ、それからこうも云った。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「げに月日経つことの早さよ、源叔父。ゆり殿が赤児きて磯辺に立てるをしは、われには昨日きのうのようなる心地す」老婦おうなは嘆息つきて
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
妙にバイブルには酒の譬話が多いと思っていたら、果せるかなだ、よ、酒を好む人、と非難されたとバイブルにしるされてある。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
普通の人が暗闇と思うところでも、ハッキリえる。——この異常な感覚を自覚したときのダリアの狂喜きょうきぶりは、大変なものだったろう。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勘次かんじたゞひゞきてながら容易よういめぬあつ茶碗ちやわんすゝつた。おつぎも幾年いくねんはぬ伯母をばひとなづこいやう理由わけわからぬやう容子ようすぬすた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もし愛の中にあることこゝにて肝要ならば、また汝もしよくこの愛のさがば、汝はこれらの天にこの事あるをえざるを知らむ 七六—七八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
透かしてると、そのはずれに春光館と白く染めぬいた赤い旗が、目についたので、庸三はどうせ無駄だとは思ったが行って見た。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ハンブルグは西洋に例の少ない公娼こうしょう制度の行わるる所である。ゆえに友人はその道につうなる人の案内でその制度をに行った。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
すでに同一感情と生活意識の上に立って生きて居るとしますれば一つのものをべ、同じ所を、なるべく同じ所に居たいのはあたりまえです。
自由な個性と欲望の豊かな氾濫、光と線による自分のかたの構成の体系の誇示なのである。それは、しかし永遠の体系ではありえなかった。
美学入門 (新字新仮名) / 中井正一(著)
是等これら知識階級の人達が宗教登山者の如く、多くの山を登り、独自の立場から山を、山を観察するようになったとしたら如何なったろう。
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ひそかに世情をるに、近来は政治の議論ようやかまびすしくして、社会の公権即ち政権の受授につき、これを守らんとする者もまた取らんとする者も
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こうした御慣れなさらない山家住やまがずまいのことですから、さて暮して見れば、都で聞いた田舎生活いなかぐらし静和しずかさと来て寂寥さびしさ苦痛つらさとは何程どれほど相違ちがいでしょう。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
妙信 (若僧のもの問えるを知らざるがごとく、すでに鐘楼の鐘を仰ぎて憎しげに)みんなこの鐘が出来たばかりよ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
十二月庚午かのえうまついたち、皇太子片岡に遊行いでます。時に飢ゑたるひと道のほとりせり。りて姓名かばねなを問ひたまふ。而してまをさず。皇太子飲食をしものを与へたまふ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
よ、わが愛する者の姿みゆ。視よ、山をとび、おかおどりこえ来る。わが愛する者はしかのごとく、また小鹿のごとし)
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「三面の仙境には、江戸にいる頃から憧憬あこがれておりました。そこをぜひ画道修業の為に、ておきとう御座りまする」
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
中將は南洲のげんて曰ふ、しいかな、天下の一勇將を失へりと、流涕りうていすること之を久しうせり。あゝ公私情盡せり。
注ニ寒甚シク夜気霧ノ如ク木上ニ凝ル。あしたニ起キテコレヲレバ雪ノ如シ。斉人コレヲ霿淞トイフ。詩仏ノコノ作アルイハ南豊ノ詩ト駢伝へんでんスベキ也。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この篇の稿るや、先生一本を写し、これをふところにして翁を本所ほんじょの宅におとないしに、翁は老病の、視力もおとろえ物をるにすこぶる困難の様子なりしかば
瘠我慢の説:01 序 (新字新仮名) / 石河幹明(著)
バアトンが第一巻を此のスタインホイザアにけんじてゐるのを以てても、二人ふたり道中話だうちうばなしがどんなであつたかは分る。
殿の眼鏡は時代の底の流れと、海の外をる御用にのみ役立つと思っていたのに、人の情の涙をもおしかくす御役に立つことを初めて知ったのである。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
そのほかには誰かが未亡人に接近していたという事実もないのであったから、もちろん嬢はこの事実を、重くた。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
貫一はまばたきてゐたり。宮は窮して彼に会釈さへかねつ。娘気の可羞はづかしさにかくあるとのみ思へる唯継は、ますます寄添ひつつ、舌怠したたるきまでにことばやはらげて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二人は馬に騎ろうと思ッて、近づく群をよくればこれは野馬のむれではなくて、大変だ、敵、足利の騎馬武者だ。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
時に九月天高く露清く、山むなしく、月あきらかに、仰いで星斗せいとればみな光大ひかりだい、たまたま人の上にあるがごとし、窓間そうかんたけ数十竿かん、相摩戞まかつして声切々せつせつやまず。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
迫りるべからざるほどの気高い美しさをそなえているので、毎度、見馴みなれている町筋の町人どもも、その都度、吐胸とむねをつかれるような息苦しさを感じて
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「あんまりそんな真似をすると、謝絶ことわッてやるからいい。ああ、自由ままにならないもんだことねえ」と、吉里は西宮をつくづくて、うつむいて溜息をく。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
いはんや如何なる俗事物もこれを冷眼にる時は、そのこれを冷眼に視る処において多少の雅趣を生ずるをや。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
あまつさえ自分一人が幸運に舌鼓したつづみを打って一つなべ突付つッついた糟糠そうこうの仲の同人の四苦八苦の経営を余所々々よそよそしく冷やかにた態度と決して穏当おだやかでなかったから
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
悪人を探す為に善人を迄も疑い、見ぬ振をしてぬす、聞かぬ様をして偸みきく、人を見れば盗坊どろぼうと思えちょうおそろしき誡めを職業の虎の巻とし果は疑うにとまらで
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
倭文子は、三谷の肩に手を置いて、頬と頬とがすれ合う程も、近々と相手の顔をつめながら、マアよかったといわぬばかりに、美しく美しく笑って見せた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)