石臼いしうす)” の例文
「いやいや、」ととりった。「ただじゃア、二は、うたいません。それとも、その石臼いしうすくださるなら、もう一うたいましょう。」
世に越後の七不思議なゝふしぎしようする其一ツ蒲原郡かんばらこほり妙法寺村の農家のうか炉中ろちゆうすみ石臼いしうすあなよりいづる火、人みな也として口碑かうひにつたへ諸書しよしよ散見さんけんす。
しばらく溜めて日に干しておくとカラカラになりますから擂鉢すりばちかあるいは石臼いしうすき砕いてふるい幾度いくども篩いますと立派なパン粉が出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ふゆ夜長よながに、粉挽こなひうたの一つもうたつてやつて御覽ごらんなさい。うたきな石臼いしうす夢中むちうになつて、いくらいても草臥くたぶれるといふことをりません。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「そうですね、八十貫は充分ありましょう……大きな石臼いしうすみたいですよ……そいつがジリジリ下まで降り切ってしまうと、またき上げるんです」
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
光り物と烈しい響音(天床裏を石臼いしうすでも転げるような)と哀哭あいこく悲鳴とが建物ぜんたいを包む、それは正に「化物どもが獲物を迎えて大饗宴きょうえんをひらく」
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すゝまれもせず、引返ひきかへせばふたゝ石臼いしうすだの、まつだの、屋根やねにもひさしにもにらまれる、あの、此上このうへもないいやおもひをしなければならぬのと、それもならず。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
婆さんはその実を隅の石臼いしうすの処へ持って往ってそれを入れて挽いた。蕎麦は小半時こはんときもかかると粉になってしまった。
蕎麦餅 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
悪魔は一人になったのち忌々いまいましそうにつばをするが早いか、たちまち大きい石臼いしうすになった。そうしてごろごろ転がりながら闇の中に消えせてしまった。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
火事が中風ちゅうふうばあさんに、石臼いしうすを屋外までかかえ出させたほどの目ざましい、超人間的な活動を、水夫たちに与えた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
その海の音は、離れた台所で石臼いしうすくように、かすかではあるが重苦しく、力強く、殷々いんいんとどろいて居るのである。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
穀粉の方はのち石臼いしうすくようになっても、なお女性の労働であったけれども、米搗こめつきは杵が大きな横杵に変ると、水車以前からすでに男に任せきりになって
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これはお歯黒をつけるには必ず必要の五倍子ふしの粉を売っていた店で、店の中央に石臼いしうすえて五倍子粉をっている陰陽の生人形が置いてあって人目をいたもの
まだ見たこともない大きな石臼いしうすまわるあいだから、豆が黄色な粉になって噴きこぼれて来るのや、透明な虫が、真白な瓢形ひさごがたまゆをいっぱいわらの枝に産み作ることや
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
何か手早にかまどに火を入れる、おれの近くへ石臼いしうすを持出し話しながら、白粉しろこき始める、手軽気軽で、億劫な風など毛程も見せない、おれも訳なしに話に釣り込まれた。
姪子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「一人の小さきものをつまずかすよりは、石臼いしうすくびに懸けて、海に沈めらるる方むしろ安かるべし」
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
色白で、豊滿なお染、二十歳になつたばかりの若い命が、無殘な石臼いしうすの一撃で、若さも美しさも、そして多彩な生命までも奪はれて、石つころのやうに冷たくなつて居るのです。
銭形平次捕物控:260 女臼 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
僕は石臼いしうすを背負ったような心持で帰途についた。電車に乗っても、凝っと考え込んでいて頭が上らない。実に厭なものだ。しかし斯ういう経験を以来今日まで度々繰り返している。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かかるあわれな者らがもし大人おとなである時には、たいていは社会の秩序という石臼いしうすがやって来て押しつぶしてしまうものである。しかし子供である間は、小さいからそれをのがれ得る。
この御婆さんに石臼いしうすかして見たくなった。しかしそんな注文も出来ぬから
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
六祖慧能大師えのうだいしというお方は始終石臼いしうすを背負ってお歩きになった、行くにも石臼、帰るにも石臼、悟り得ざる時も石臼、悟り得た後も石臼、寝るにも石臼、坐るにも石臼、人をするにも石臼
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
金太郎きんたろうまれたときからそれはそれはちからつよくって、もう七つ八つのころには、石臼いしうすやもみぬかのたわらぐらい、へいきでげました。大抵たいてい大人おとな相手あいてにすもうをってもけませんでした。
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
あしきを払うて助けせきこむ、一れつ済ましてかんろだい。山の中へと入り込んで、石も立木たちきも見ておいた。これの石臼いしうすは挽かねど廻わる。風の車ならなおよかろ。み吉野えしぬの、吉野えしぬの鮎。鮎こそは。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
まっくらな家の中を、人々は盲のように手でさぐりながら、水甕みずがめや、石臼いしうす大黒柱だいこくばしらをさぐりあてるのであった。すこしぜいたくな家では、おかみさんが嫁入よめいりのとき持って来た行燈あんどんを使うのであった。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
もみする石臼いしうすの音、近所となりにごろごろとゆるぎむれば
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
仲間なかま石臼いしうすはちくり
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
するととりりてたので、二十にんこなひきおとこは、そうががかりで、「ヨイショ、ヨイショ!」とぼうでもって石臼いしうすたかげました。
山家育やまがそだちの石臼いしうす爐邊ろばた夜業よなべをするのがきで、ひゞや『あかぎれ』のれたいとはずにはたらくものゝいお友達ともだちでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
清水から一坂上り口に、まき、漬ものおけ石臼いしうすなんどを投遣なげやりにした物置の破納屋やれなやが、炭焼小屋に見えるまで、あたりはしずかに、人の往来ゆききはまるでない。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おらっちの将軍家を乗っ取ろうとはいけっぷてえ畜生だ、石臼いしうすで粉にひいてあべ川にしてしまえ。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから鳥を出し、骨と肉を別にして上肉ばかりを石臼いしうすいて裏漉うらごしへかけるが鳥の肉を裏漉にするのは少々骨が折れるよ。西洋風の真鍮しんちゅうの裏漉はぐに破れていかん。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
石臼いしうすが入ってから後も、大豆だいずなどはネバシビキが多く、豆腐以外にもその用途はいろいろあった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
平次の指す下には、古い石臼いしうすが二つ、半分は土に埋まつて藪の中に捨てゝあつたのです。
威勢の好い蒼白あおじろい光が燃えて、豆をひく石臼いしうすや豆腐釜などを照らした。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そうって、扉口とぐち拍子ひょうしに、ドシーン! ととり石臼いしうすあたまうえおとしたので、おかあさんはぺしゃんこにつぶれてしまいました。
進まれもせず、引返ひきかえせば再び石臼いしうすだの、松の葉だの、屋根にもひさしにもにらまれる、あの、このうえもないいやおもいをしなければならぬのと、それもならず。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
初代の家内が内職に豆腐屋までして、夜通し石臼いしうすをひき、夜一夜安気に眠らなかったというようなことは、だんだん遠い夢物語のようになって行った。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これを持ちて沼に行き教えのごとく手を叩きしに、果して若き女いでて手紙を受け取り、その礼なりとてきわめて小さき石臼いしうすをくれたり。米を一粒入れてまわせば下より黄金づ。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
にわとりのササミを一旦いったん肉挽器械にくひききかいで挽いて石臼いしうすいてよく筋を取って裏漉うらごしに致します。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「今度も耳の中に疊針が打ち込んでありますよ。尤もあの番頭はイキが良かつたから、疊針だけでは心細いと思つたか、頭を石臼いしうすで打つて、猿蟹合戰のお猿みたいにお鉢を割られて居ますがね」
出して、この米も味噌もちゃんと買って来たんだぜ、嘘だと思うならいってきいてみねえ、この下の柘榴ざくろの花の咲いている百姓家だ、石臼いしうすみてえに肥えたかみさんからちゃんと買って来たんだから
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とうさんのおうち石臼いしうす青豆あをまめくのが自慢じまんでした。それを黄粉きなこにして、家中うちぢうのものに御馳走ごちさうするのが自慢じまんでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
姫様ひいさまから、御坊へお引出ものなさる。……あの、黄金こがね白銀しろがね、米、あわわきこぼれる、石臼いしうす重量おもみが響きますかい。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが四日目にその藤六が殺された、——離屋のお富のところへ忍んで行つた歸り、上から石臼いしうすが落ちるやうにして置いたのは誰だらう。あの石臼を長押なげしの上に載せるのは、女や子供ではない。
がら/\がら/\ 石臼いしうすがら/\
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かみさんはまたかみさんで、内職に豆腐屋をして、三、四人の幼いものを控えながら夜通し石臼いしうすをひいた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「いざまず……これへ。」と口も気もともに軽い、が、起居たちい石臼いしうす引摺ひきずるように、どしどしする。——ああ、無理はない、脚気かっけがある。夜あかしはしても、朝湯には行けないのである。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石臼いしうすもあり、俎板まないたあり、灯のない行燈あんどうも三ツ四ツ、あたかも人のない道具市。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
樣子やうすを、間近まぢかながら、どくのある見向みむけず、呪詛のろひらしきしはぶきもしないで、ずべりとまど仰向あふむいて、やまひかほの、泥濘ぬかるみからげた石臼いしうすほどのおもいのを、ぢつとさゝへて病人びやうにん奇特きどくである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)