あかる)” の例文
行書で太く書いた「鳥」「蒲焼かばやき」なぞの行燈あんどうがあちらこちらに見える。たちまち左右がぱッとあかるく開けて電車は一条ひとすじの橋へと登りかけた。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
吃驚びっくりしたようにあたりを見ながら、夢に、菖蒲あやめの花を三本、つぼみなるを手に提げて、暗い処に立ってると、あかるくなって、太陽した。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あら八っちゃんどうしたんです。口をあけて御覧ごらんなさい。口をですよ。こっちを、あかるい方を向いて……ああ碁石を呑んだじゃないの」
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
何でも以前は荒尾あらを但馬守たじまのかみ様の御供押おともおしか何かを勤めた事があるさうで、お屋敷方の案内にあかるいのは、そのせゐださうでございます。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ロミオ (炬火持に對ひ)おれ炬火たいまつれい。おれにはとてかれた眞似まね出來できぬ。あんまおもいによって、いっあかるいものをたう。
やがて雨足も弱って霧があかるくなり、途切れ始めた雲の中に、遠く笠ヶ岳の頭が夢のように浮き出した時は救われたように感じた。
一ノ倉沢正面の登攀 (新字新仮名) / 小川登喜男(著)
余は室内しつないには大小種々のたなの有りし事をしんずる者なり。入り口の他にも數個すうこまど有りしなるべければ、室内しつない充分じうぶんあかるかりしならん。(續出)
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
是故にわが筆跳越をどりこえてこれをしるさじ、われらの想像は、まして言葉は、かゝる襞襀ひだにとりて色あかるきに過ればなり 二五—二七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
庭に向へる肱懸窓ひぢかけまどあかるきに敷紙しきがみひろげて、宮はひざの上に紅絹もみ引解ひきときを載せたれど、針は持たで、ものうげに火燵にもたれたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
青柳は頭顱あたまの地がやや薄く透けてみえ、あかるみで見ると、小鬢こびん白髪しらがも幾筋かちかちかしていたが、顔はてらてらして、張のある美しい目をしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
人間が見込をはづされてぽかんとしてゐる間に、いつしか十月に入り、十月も終りに近くなり、あの快い乾いた、いくらか冷えを感じさせるあかるい空気が
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
それでは空知太にお出になつたら三浦屋といふ旅人宿やどやへ上つて御覧なさい、其処の主人あるじがさういふことにあかるう御座いますから聞て御覧なつたらうがす
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「パリとちがって、こんなあかるいところでも、そんなに淋しいのですか。そのうちにまた京都へ行きましょう。」
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あらつてはかわかし/\しば/\それが反覆はんぷくされてだん/\に薄青うすあをく、さうしてやみをさへあかるくするほど純白じゆんぱくさらされた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
渓川の水は暮近い空を映してあかるかつた。二人は其の上の橋の、危なげに丸太を結つた欄干に背をもたせて列んだ。其処からはもう学校まで十一二町しかなかつた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今は其をあかる日光ひかりの中に経験する。種々いろ/\な恐しい顔、嘲り笑ふ声——およそ人種の憎悪にくしみといふことを表したものは、右からも、左からも、丑松の身を囲繞とりまいた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
此時にいたりて去年十月以来このかたくらかりし坐敷ざしきもやう/\あかるくなりて、盲人まうじんのひらきたる心地せられて、雛はかざれども桃の節供は名のみにて花はまだつぼみなり。
里俗鰡堀りぼくりゅうぼり差懸さしかかると俄然がぜん紫電一閃しでんいっせんたちまち足元があかるなった、おどろいて見ると丸太ほどの火柱が、光りを放って空中へ上る事、幾百メートルとも、測量の出来ぬくらいである
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
雨がまばらになると谷があかるくなって、正面に向い合った奥鐘山の絶壁から、忽ち一条二条続いて五、六条の大瀑布が、虚空を跳って滾々こんこんと崩落するのを木の間越しに望んだ。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
始めて洋燈ランプが移入された当時の洋燈は、パリーだとか倫敦辺ロンドンあたりで出来た舶来品で、割合にあかるいものであったが、困ることには「ほや」などがこわれても、部分的な破損を補う事が不可能で
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
朝日が母屋の上からさしていて、雨戸を開けたらかっと眼のくらむ程あかるかった。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あたりには女の子なぞが二三人で、あかるみと闇との堺をかけ廻つてさわいでゐた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
あかるそら、明い空氣、由三は暗い心の底の底まで照らされるやうな感じがした。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ああ斯くして船は思ひも掛けない白晝まつぴるまあかるい世界へ出る
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
君江はぶらぶら堀端ほりばたを歩みながら、どこか静な土手際どてぎわで電燈の光のあかるい処でもあったらもう一度読み直そうという気もしたのである。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
電燈の球は卓子テイブルの上をったまま、朱をそそいだようにさっあかくなって、ふッと消えたが、白くあかるくなったと思うと、あおい光を放つ!
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それ所か、あかるい空気洋燈ランプの光を囲んで、しばらく膳に向っているあいだに、彼の細君の溌剌はつらつたる才気は、すっかり私を敬服させてしまいました。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
思いがけなくも此処ここで、今まで試みた事のない技術をうまく使ったという喜びが、皆の顔をあかるくした。
一ノ倉沢正面の登攀 (新字新仮名) / 小川登喜男(著)
此時にいたりて去年十月以来このかたくらかりし坐敷ざしきもやう/\あかるくなりて、盲人まうじんのひらきたる心地せられて、雛はかざれども桃の節供は名のみにて花はまだつぼみなり。
私が想像した黒部の谷は、想ったよりあかるい谷であったが、此処ここは想ったよりも暗い所であった。
黒部峡谷 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
我等はこゝの一隅かたほとり、廣きあかるき高き處に退きてすべてのものを見るをえたりき 一一五—一一七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
お島は頭脳あたまが一時にかっとして来た。女達の姿の動いているあかるいそこいらに、旋風つむじがおこったような気がした。そしてじっとうつむいていると、体がぞくぞくして来て為方しかたがなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いたる所が透いて、あかるく、からりとした空気の中を時々つんと強い山の匂ひがした。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
満枝はたちまち声ををさめて、物思はしげに差俯さしうつむき、莨盆のふちをばもてあそべるやうに煙管きせるもてきざみを打ちてゐたり。折しも電燈の光のにはかくらむに驚きて顔をあぐれば、又もとの如く一間ひとまあかるうなりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今宵こよひ陋屋らうをくにて、明星みょうじゃうかゞやき、暗天やみぞらをさへもあかるらすを御覽ごらんあれ。
元禄時代の如きは非常にあかるい気持があったがやはり江戸時代は暗かった。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
それは今、私がこの邸を退きますと、もう隅々まで家中があかるくなる。明さんも思い直して、またここを出て旅行たび立ちをなさいます。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
陰気な燈火ともしびの下で大福帳だいふくちょう出入でいり金高きんだかを書き入れるよりも、川添いのあかるい二階家で洒落本しゃれほんを読む方がいかに面白かったであろう。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
立てきった障子しょうじにはうららかな日の光がさして、嵯峨さがたる老木の梅の影が、何間なんげんかのあかるみを、右の端から左の端まで画の如くあざやかに領している。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
日は大分前に落ちてゐるが、空はまだすつきりとあかるい。路の傍の青田の上にうす青い影のやうなものが一面に漂つて、どこからか煙の匂ひがする。土堤から河辺に下りる路は狭く急だ。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
ト日があたってあたたたかそうな、あかる腰障子こししょうじの内に、前刻さっきから静かに水を掻廻かきまわ気勢けはいがして居たが、ばったりといって、下駄げたの音。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
陰気いんき燈火ともしびの下で大福帳だいふくちやう出入でいり金高きんだかを書き入れるよりも、川添かはぞひのあかるい二階洒落本しやれほんを読むはうがいかに面白おもしろかつたであらう。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかもその途端に一層私をおびえさせたのは、突然あたりが赤々とあかるくなって、火事を想わせるような煙のにおいがぷんと鼻を打った事でございます。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
があたつてあたたかさうな、あかる腰障子こししやうじうちに、前刻さつきからしづかにみづ掻𢌞かきまは氣勢けはひがしてたが、ばつたりといつて、下駄げたおと
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
日本の冬のあかるさとあたゝかさとはおそらくは多島海の牧神をしてこゝに来り遊ばしむるも猶快き夢を見させる魅力があつたであらう。
冬日の窓 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
しかしその陶然と赤くなつた顔は、この索寞さくばくとした部屋の空気が、あかるくなるかと思ふ程、男らしい活力にあふれてゐた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
兼太郎のあけた窓の明りで二階中は勿論もちろんの事、梯子段はしごだんの下までぱっとあかるくなった処からこのの女房は兼太郎の起きた事を知ったのである。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかも梅の影がさして、窓がぽつとあかるくなる時、えん蚊遣かやりなびく時、折に触れた今までに、つい其夜そのよの如くの高かつた事はないのである。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
元姫君もとひめぎみと云われた宗教むねのりの内室さえ、武芸の道にはあかるかった。まして宗教のたしなみに、おろそかな所などのあるべき筈はない。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたしは何の聯絡もなく、ふと村の娘があかるい昼中に好きな男と忍逢ふのは、野中のかう云ふ場所かも知れないと思つたのです。
畦道 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)