うらみ)” の例文
こちとらの大家さんが高い家賃を取上げてたまさかに一杯飲ます、こりゃ何もなさけじゃねえ、いわば口塞くちふさぎ賄賂まいないさ、うらみを聞くまいための猿轡さるぐつわだ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第十五条 うらみを構へあだを報ずるは、野蛮の陋習にして卑劣の行為なり。恥辱をそそぎ名誉を全うするには、すべからく公明の手段をえらむべし。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
流しの押込みでなきやうらみのある人間の仕業しわざだ。主人が雨戸を開けてやつたところを見ると、流しの押込みでないことも判り切つて居る。
六郷川の中洲の蘆間にただ一度のちぎりから、海賊の娘と旗本の若殿との間に、業病ごうびょうの感染。悪因縁あくいんねんうらみは今も仰々子ぎょうぎょうしが語り伝えている。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
因より正當せいたうの腕をふるつてまうけるのでは無い、惡い智惠ちえしぼツてフンだくるのだ………だから他のうらみひもする。併し金はまつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
うらみ籠めたる男の声に、お照はさながら電気に打たれたらん如く、全身ぶるぶると顫わせしが、ついに思切おもいきりて握りし仙太の手を放しつ。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
捨るぞや強面つれなきおやうらみなせぞたゞ此上は善人よきひとに拾ひ上られ成長せば其人樣を父母と思ひて孝行かうかうつくすべしと暫時しばし涙にくれたりしがかゝる姿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
君江はこの年月随分みだらな生活はして来たものの、しかしそれほど人からうらみを受けるような悪いことをした覚えは、どう考えて見てもない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
質樸しつぼくな職人気質かたぎから平八郎がくはだての私欲を離れた処に感心したので、ひて与党に入れられたうらみを忘れて、生死を共にする気になつたのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あきらかな世の中でございますが、昔は幽霊が出るのはたゝりがあるからだうらみの一念三世さんぜに伝わると申す因縁話を度々たび/″\承まわりました事がございます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「やい、勘作さん、おまえさんのようなじょうなしがどこにある、おまえさんはなんのうらみがあって、私の仕事の邪魔をした」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
……それは一つの本、それとうらみです。私は山村を訪問して、先代からのという、古い蔵書の目録を見せてもらいました。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
臣ひそかに恐る、数世すうせいの後は尾大びだいふるわず、しかして後に之が地を削りて之が権を奪わば、すなわち其のうらみを起すこと、漢の七国、晋の諸王の如くならん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さうして挙句あげくがこんな事に成つたのも、想へばみんな那奴のお蔭だ。ええ、くやしい! 私はきつと執着とつついても、このうらみは返してるから、覚えてゐるが可い!
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その目的もくてきおよそ三つにわかつことが出來できる。一はうらみはうずるためで一ばんこわい。二は恩愛おんあいためむしろいぢらしい。三は述懷的じゆつくわいてきである。一のれいかぞふるにいとまがない。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
それが仮りに他人からうらみを受けているものとすれば、やはりピストルと同じ位に古い因縁であったばかりでなく
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分の樫の棒にうらみを持つ、不逞の奴等や、回々フイ/\教徒を取りひしいで呉れるものと、一人ぎめにきめこんでいた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
うらみぶる意気込すさまじく「おのれ久吉」にて、右手は内懐より出して片袖をつかみ、左手にて右の腕首をひじとの中ほどを握り、右の足を高欄にかけしまませりあがる。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
恥、うらみ、無念——あらゆる胸揺むなゆらをんで、きっと、決意をした唇から、静は、遂にそう答えた。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、清姫のうらみの権化——大蛇の姿が現われた。大蛇は、鐘を静かに蟠囲ばんいした。尾を挙げては、鐘をたたいた。その度に火炎が物凄く散った。時が経った。大蛇は去った。
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
これがために彼に対してうらみいだくこととなったが、終に或機会をもって、彼は新宗教を輸入唱導して国教を顛覆し、且つまた詭弁を弄して青年の思想を惑乱する者である
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
とらへてくれう。……やい、モンタギューめ、破廉恥はれんち所行しょぎゃうめい。うらみ死骸むくろにまでおよぼさうとは、墮地獄だぢごく人非人にんぴにんめ、引立ひきたつる、尋常じんじゃういてい。けてはおかぬぞ。
なんとなく春のうらみを訴えるような「無語歌」と一つにとけ合って流れ漂って行くのであった。
春寒 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
すべてのうらみ、すべてのいきどおり、すべてのうれいかなしみとはこのえん、この憤、この憂と悲の極端より生ずる慰藉いしゃと共に九十一種の題辞となって今になおる者の心を寒からしめている。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うらみむくいもない御当家へ参つて、こんなことを申上げる私は可なり苦しい思ひを致してゐるのでございます。然し、これも全く、使はれてゐます主人の命令でございますから。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
いにしへより此の毒にあたる人、幾許いくばくといふ事をしらず。死してみづちとなり、或は霹靂はたたがみふるうてうらみむくたぐひは、其の肉をししびし(ほ)にするとも飽くべからず。さるためしはまれなり。
自分は平生露西亜の新聞や雑誌を読んで論調を察するに、露西亜人の日本に対する睚眦がいさいうらみは結んでなかなか解けない。時来らば今と戦争しようという意気込は十分見えている。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
今更のようにお敏を疑ったのが恥しくもなって来ますし、また一方ではこの自分に何のうらみもないお島婆さんが、何故そんな作略をめぐらすのだか、不思議で仕方がなかったそうです。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
昨の汝が松風名月のうらみとこしなへに盡きず……なりしを知るものにして、今來つて此盛裝せる汝に對するあらば、誰かまた我と共にひざまづいて、汝を讃するの辭なきに苦しまざるものあらむ。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
松本はこぶしを固めてつくゑを打ちつ「実にしからん奴だ、其事は僕もあらかじめ行徳君に注意したことがあつたが、行徳君は無雑作むざふさに打ち消して仕舞しまつた——八ツ裂きにしても此のうらみれない」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかしながら事実は彼らの思いと異なる。神に対してうらみの語を放つは、勿論もちろんその人の魂の健全を語ることではない。しかしこれ冷かなる批評家よりもかえって神に近きを示すものである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「何をもってそしりむる、いわ無弁むべん。何をもってうらみとどむる、いわく争わず」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
持って見て二本一度にかつげると思えば、一緒にしてわきへ寄せる。約に背いて例えば二本に握り飯一つしか与えなかったりすると、非常に怒って永くそのうらみを忘れない。愚直なる者だと述べている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたしはあの肥つた人に、恩もうらみもありませんけれど、あの人があまりじまんをしたり、かつてなことをしたりするのは、よくないことだと思つてゐます。承知しました。あの人が困るやうなことを
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
おもうに文三、昇にこそうらみはあれ、昇に怨みられる覚えは更にない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
男は恋のため、女はうらみのため、互に相会う不可思議な闘争!
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
伯夷叔斉はくいしゅくせいは旧悪をおもわず、うらみこれを用いてまれなり。
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ははあ、其奴ぁお岩さんのうらみだ」
隠亡堀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
澄めるうらみをなにかせん
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そんな張合はりあいの無い心中などをするより、どうせ死ぬなら憎いかたきに引っ掻きでも宜いからこしらえて、万に一つのうらみでも晴らしてやり度い
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
この人は、婦人おんなしいたげた罪を知って、朝に晩にしもと折檻せっかんを受けたいのです。一つは世界の女にかわって、私がそのうらみを晴らしましょう。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孤身飄然ひょうぜん、異郷にあって更に孤客となるのうらみなく、到る処の青山せいざんこれ墳墓地ふんぼのちともいいたいほど意気すこぶる豪なるところがあったが今その十年の昔と
あの奥さんを失うかなしみから出た不平ではない。自己を愛する心が傷つけられた不平に過ぎない。大村が恩もなくうらみもなく別れた女の話をしたっけ。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
失望しつはう煩悶はんもんとがごツちやになツてへず胸頭むなさき押掛おしかける………其の苦惱くなう、其のうらみ、誰にうつたへやうと思ツても訴へる對手あひてがない。喧嘩けんくわは、ひとりだ。悪腕わるあがき
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
太祖の智にして事ここでず、詔を遺して諸王の情を屈するは解すからず。人の情屈すればすなわち悦ばず、悦ばざれば則ちうらみいだき他を責むるに至る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
宮は慄然りつぜんとして振仰ぎしが、荒尾の鋭きまなじりは貫一がうらみうつりたりやと、その見る前に身の措所無おきどころな打竦うちすくみたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
故に女は男に比るにおろかにて、目前もくぜんなるしかるべきことをも知らず、又人の誹るべき事をも弁えず、我夫我子の災と成るべきことをも知らず、とがもなき人をうらみいか呪詛のろ
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
新「あゝ因縁は恐しいもの、三年あとにお園を殺したも押切、今又押切へ踏掛けてそのためにおれが縄に掛って引かれるとは、お園のうらみが身にまとってかくの如くになること」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
よい目に逢ったかも知れませんが……何のうらみか存じませぬが、このようなひどい事を致しました者が捕えられましたならば、ざきにしてやりたい位に思います(落涙)。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
うらみむくいもない御当家へ参って、こんなことを申上げる私は可なり苦しい思いを致しているのでございます。しかし、これも全く、使われています主人の命令でございますから。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)