まさ)” の例文
女扇の竹青きに紫の珠を鏤めたらん姿して、日に日によそほひまさる、草菖蒲といふなりとぞ。よし何にてもあれ、我がいとほしのものかな。
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今の苦労を恋しがる心もづべし、かく形よく生れたる身の不幸ふしやはせ、不相応の縁につながれて幾らの苦労をさする事と哀れさのまされども
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのあいだというものは年ごとに咲く花は年ごとに散って行っても、また年ごとにびんの毛の白さは年ごとに刻まれるひたいしわと共にまさって行っても
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
されどもの香烟の酔ひ醒めの心地狂ほしさはなか/\に切先きつさきの冴え昔にまさる心地して、血に餓うるとは是をや云ふらむ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何時いつもながら若々として、神々しきばかりの光沢つやみなぎれど、流石さすが頭髪かしら去年こぞの春よりも又た一ときは白くなりまさりたり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
付け其上に悴惣内夫婦の者を殺したる爰な大惡人あくにんめと泣聲に成て窘付きめつけれども九助はたゞとぢて物言ず居たりしは誠に覺悟を極しと見えいとゞあはれまさりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
風も雨も、海岸のこの一角に、その全力をあつめたかのように、益々ますます吹きすさび降りまさった。が瑠璃子は人と人との必死の戦いのために、そうした暴風雨の音をも、聞き流すことが出来た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ねぬる夜の夢をはかなみまどろめばいやはかなにもなりまさるかな (同、業平)
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼女は乾したいわしのようにほそれきって、すこしばかりの粥と青白い乳や、たまには果物などをたべた。ただその瞳が異様に廓大かくだいされていて、光は床につかない前よりも鋭くなりまさっていたのである。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「けれど重右衛門の身に取つては、むしろこの少女をとめの手——宇宙に唯一人の同情者なるこの自然児の手に親しく火葬せらるゝのが何んなに本意であるか知れぬ。否、これにまさる導師は恐らく求めても他にるまい」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
いま苦勞くらうこひしがるこゝろづべし、かたちよくうまれたる不幸ふしやはせ不相應ふさうおうゑんにつながれていくらの苦勞くらうをさすることあはれさのまされども
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此方こなた差覗さしのぞくような気がして、筋骨すじぼねも、ひしひしとしめつけられるばかり身に染みた、女の事が……こうした人懐しさにいやまさる。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その下へ二人して降り行くに一度倒ふれしマリア像は自から共に立ち帰りたるらし。階段は真の闇となりて足音のみぞ、おどろ/\しくよりまさりける。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しこと小西屋のよめと爲といふともはづかしからぬ女なりと長三郎は殊更ことさら戀慕こひしたふ心のまさりゆき夫婦は夫とも意附こゝろづか醫師いしやの言たる言葉を信とし縁談えんだんことわり此騷動さうどうに及びたるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
断頭台くびきりだいひと築く音なき音にもまさりたり。
千葉ちば貴孃あなたいてりますと言上ごんじようすれば、おゝ可愛かわいをとこ奧樣おくさま御贔負ごひゐきまさりて、おこゝろづけのほどいままでよりはいとゞしうりぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かつひと一人ひとりいなければ、真昼の様な月夜とも想われよう。長閑のどかさはしかし野にも山にもまさって、あらゆる白砂はくさおもかげは、あたたかい霧に似ている。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両親に疎まれ、他人にあなづられて、心のひがみ愈々まさつのるのみなりしが、たゞ学問と、武芸の道のみは人並外れて出精し、藩内の若侍にして、わが右に出づる者無し。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ば吉兵衞と改め出精しゆつせいして奉公しける程に利發者りはつものなれば物の用に立事古參こさんの者にまさりければ程なく番頭ばんとう三人の中にて吉兵衞きちべゑには一番上席じやうせきとなり毎日々々細川家ほそかはけ御館おやかたへ參り御用を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
星のかずにもまさりしに。
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
雨上あまあがりの広田圃ひろたんぼを見るような、ふなどじょうの洪水めいたが、そのじめじめとして、陰気な、湿っぽい、ぬるぬるした、不気味さは、大河おおかわ出水でみずすごいにまさる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
心安こゝろやすきまゝの駄々だゞゆるして可愛かわいさはなほ日頃ひごろまさるべし。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
逢魔あふまときの薄暗がりより漸次しだいに元気衰へつ、に入りて雨の降り出づるに薄ら淋しくなりまさりぬ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこねもして愛想あいそづかしのたねにもならばはぬにまさらさぞかしきみさまこそ無情つれなしともおもこゝろに二不孝ふかうらねど父樣とゝさまはゝさまなんおほせらるゝとも他處よそほかの良人をつともつべき八重やへ一生いつしやう良人をつとたずとふものからとはおのづかことなりて關係かゝはることなく心安こゝろやすかるべし浦山うらやましやと浦山うらやまるゝわれ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「恐らく不老長寿の薬になる——近頃はやる、性の補強剤に効能のまさること万々だろう。」
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とゝさま二の御懇意ごこんいとてはづかしき手前てまへ薄茶うすちやぷくまゐらせそめしが中々なか/\物思ものおもひにて帛紗ふくささばきのしづこゝろなくりぬるなりさてもお姿すがたものがたき御氣象ごきしようとやいま若者わかものめづらしとて父樣とゝさまのおあそばすごとわがことならねどおもあかみて其坐そのざにも得堪えたへねどしたはしさのかずまさりぬりながら和女そなたにすらふははじめてはぬこゝろ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ますます可懐なつかしさはまさったけれども、これまでと違って玉司子爵梓氏となってからは、やしきを出入の送迎も仰々しく、往来ゆききの人の目にも着く、湯島のそぞろ歩行あるきは次第に日を
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これはいささか稚気を帯びた。が、にれぜんのほとり、菩提樹ぼだいじゅの蔭に、釈尊にはじめて捧げたものは何であろう。菩薩の壇にビスケットも、あるいは臘八ろうはちかゆまさろうも知れない。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
逢うが別れの今世こんじょうに、臨終いまわのなごりをおしむため、華燭かしょく銀燈輝いて、見返る空に月のごとき、若竹座を忍んで出た、慈善市バザアの光を思うにつけても、横町の後暗さは冥土よみじにもまさるのみか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
てまえども身柄、鬼神を信ぜぬと云うもいかがですが、軽忽かるはずみ天窓あたまからあやしくして、さる御令嬢を、ひきがえる、土蜘蛛の変化へんげ同然に心得ましたのは、俗にそれ……棕櫚箒しゅろぼうきが鬼、にもまさった狼狽うろたえ方
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三ツ四ツ年紀としもたけ、ろうたさも、なおまさりながら、やや人にれ、世に馴れて、その芥溜ごみためといえりし間、浮世のなみに浮沈みの、さすらいの消息の、ほぼ伝えらるるものがあったのである。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
梓は幾ほどもなく仏文の手紙を得て、この隠家かくれがを出て、再び寄宿舎の卓子テイブルにバイロンの詩集をひもどいて粛然とする身になったが、もとより可懐なつかしい天神下はますます床しいものと成りまさったのである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はぬがふにいやまさると娘氣むすめぎやさしいところ
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)