北国ほっこく)” の例文
旧字:北國
暇乞のためだから別段の話しも出なかったが、ただ門弟としての物集もずめの御嬢さんと今一人北国ほっこくの人の事を繰り返して頼んで行った。
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あのやまのあちらの温泉おんせんへ、どうかつれていってください。」と、会長かいちょうが、みんなにわって、北国ほっこくからきたすずめにたのみました。
温泉へ出かけたすずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
北国ほっこく街道から西に入った黒姫山くろひめやまの裾野の中、雑木は時しもの新緑に、ひる過ぎの強烈な日の光を避けて、四辺あたりは薄暗くなっていた。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そうして光りかがやくくれないのトマト畠を想像して見た。そうした北国ほっこくの野菜畠の外光はどんなに爽快だろう。そうした畠の斜面は。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そして北国ほっこくの晴涼な、静寂な、夏休の第一日目の暁を、少女は常のように楽しい安らかな夢から、白い床の上に一人目覚めた。
咲いてゆく花 (新字新仮名) / 素木しづ(著)
鉄道が今では中仙道なかせんどうなり、北国ほっこく街道なりだ。この千曲川の沿岸に及ぼす激烈な影響には、驚かれるものがある。それは静かな農民の生活までも変えつつある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
旅人 初めは東北地方へ出かけて、那須なすの方へ行きました。それから福島の飯坂いいざかへ行って、会津あいづへ行って……。それから越後へ出て、北国ほっこくの方をまわって……。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これから大泉原おおいずみはら員弁いなべ阿下岐あげきをかけて、大垣街道。岐阜へ出たら飛騨越ひだごえで、北国ほっこく筋へも廻ろうかしら、と富田近所を三日稼いで、桑名へ来たのが昨日きのうだった。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠い北国ほっこくなぞがある。静かな夏の日に、北風が持って来る、あちらの地極世界の沈黙と憂鬱ゆううつとがある。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
ために寄った方が水道尻すいどうじり、日本堤から折れて這入はいると大門おおもん、大江戸のこれは北方に当る故北国ほっこくといった。
北国ほっこく一のゆう柴田権六勝家しばたごんろくかついえが間者、本名上部八風斎かんべはっぷうさいという者、人穴ひとあな築城ちくじょうをさぐろうがため、ここに鏃師やじりしとなって、家の床下ゆかしたから八ぽうへかくし道をつくり、ここ二星霜せいそうのあいだ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗右衛門の父祖は北国ほっこくある藩の重職にあつた。が、その藩が一不祥事の為め瓦解がかいふや、草深い武蔵野むさしのの貧農となつて身をくらました。宗右衛門の両親は、その不遇の為めに早世した。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
やがて、北国ほっこくむらや、まちに、ちらちらとさむは、ゆきるようになりました。教会きょうかいでは、そのころからストーブをたきはじめました。
天女とお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
さて散策して見た中津の町は電飾があざやかではあったが、いかにも北国ほっこくの小都市らしく、簡素で、また陰暗たるところがあった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
健三と細君との間にこんな簡単な会話が取り換わされたのち、彼はその用事を帯びて北国ほっこくのある都会へ向けて出発したという父の報知を細君から受け取った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日本中残らずとは思うが、この夏は、山深い北国ほっこく筋の、谷を渡り、峰を伝って尋ねよう、と夏休みに東京を出ました。——それっきり、行方が知れず、音沙汰おとさたなし。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北国ほっこくをめぐる旅人が、小百合火さゆりびの夜燃ゆる神通川じんつうがわを後に、二人輓ににんびきの人車くるまに揺られつつ富山の町を出て、竹藪の多い村里に白粉おしろい臭い女のさまよう上大久保かみおおくぼを過ぎると、下大久保しもおおくぼ
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
我々は北国ほっこくの関門に立っているのである。なぜというに、ここを越せばスカンジナヴィアの南のはてである。そこから偉大な半島がノルウェエゲンのみぎわや岩のある所まで延びている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
いま天下信長公のぶながこうきのちは、西に秀吉ひでよし、東に徳川とくがわ北条ほうじょう北国ほっこく柴田しばた滝川たきがわ佐々さっさ、前田のともがらあって、たがいに、中原ちゅうげんねらうといえども、いずれもまんしてはなたぬ今日こんにち
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小諸はこの傾斜に添うて、北国ほっこく街道の両側に細長く発達した町だ。本町ほんまち荒町あらまちは光岳寺を境にして左右に曲折した、おもなる商家のあるところだが、その両端に市町いちまち与良町よらまちが続いている。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ふゆになっても、むすめのきた地方ちほうは、ゆきりませんでした。いつもあたたかないい天気てんきがつづいて、北国ほっこくはる時節じせつのような景色けしきでした。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いい天気で、暖かかったけれども、北国ほっこくの事だから、厚い外套がいとうにくるまって、そして温泉宿を出た。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その肩の上にはからすが止まっている。この北国ほっこく神話の中の神のような人物は、宇宙の問題に思を潜めている。それでもまれには、あの荊の輪飾の下の扁額へんがくに目を注ぐことがあるだろう。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
ある北国ほっこくの患者は入院以後病勢がしだいにつのるので、附添つきそい息子むすこが心配して、大晦日おおみそかになって、無理に郷里に連れて帰ったら、汽車がまだ先へ着かないうちに途中で死んでしまった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ときしも、羽柴筑前守秀吉はしばちくぜんのかみひでよしは、北国ほっこく柴田権六しばたごんろくをうつ小手しらべに、南海なんかいゆう滝川一益たきがわかずます桑名くわなしろを、エイヤ、エイヤ、血けむり石火矢いしびやで、めぬいているまッさいちゅうなのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの信州の追分は今ではびれ果ててしまいましたが、昔は中仙道と北国ほっこく筋との追分でしてね。沓掛くつかけや軽井沢と並んで浅間三宿といったのだそうです。大名行列で随分盛んだったでしょう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
あるれない、北国ほっこくむらに、あれはてたおてらがありました。そのおてらのあるところは、小高こだかくなった、さびしいところでありました。
娘と大きな鐘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こしの海は、雲の模様に隠れながら、青い糸の縫目を見せて、北国ほっこくの山々は、皆黄昏たそがれの袖を連ねた。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
樺太はやはり冬にべきところだと思う。私はここで童謡はできるかも知れないと思えるが、北国ほっこく風の民謡は到底作れそうにもない。夏は南国だ、熾烈しれつで、あの深刻な悩気とすてばちの気分は。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そのうち、あいにくゆきがふりだしました。北国ほっこくふゆ天気てんきほど、あてにならぬものはありません。たちまちゆきはつもって、みちをふさぎました。
きつねをおがんだ人たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
海も山も、ひとしく遠い。小県凡杯は——北国ほっこくの産で、父も母もその処の土となった。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こちらは、うめはなきかけているが、そしてゆきひとつないが、北国ほっこくは、けてもれても、ゆきっているのであります。
おきくと弟 (新字新仮名) / 小川未明(著)
にぎわいますのは花の時分、盛夏三伏さんぷくころおい、唯今はもう九月中旬、秋のはじめで、北国ほっこくは早く涼風すずかぜが立ますから、これが逗留とうりゅうの客と云う程の者もなく、二階も下も伽藍堂がらんどう、たまたまのお客は
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちに、彼女かのじょらは、このちいさな北国ほっこくまちにもわかれをげて、とお西にしくにして、旅立たびだたなければならぬがきました。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この前歯の処ウを、上下うえした噛合かみあわせて、一寸のすきも無いのウを、雄や、(と云うのが北国ほっこく辺のものらしい)と云うですが、一分一寸ですから、いていても、ふさいでいても分らんのうです。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北国ほっこくの暗い空も、一皮むけたように明るくなった。春雨がシトシトと降る時節となった。海棠かいどうの花はつやっぽくほころび、八重桜のつぼみも柔かに朱を差す。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もう床の入りました座敷のふすまは暗し、また雪と申すのが御存じの通り、当館切っての北国ほっこくで、廊下も、それはしからず陰気だそうでござりますので、わしどもでも手さぐりでヒヤリとします。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それには、すこしでもたくさんってゆくほうがもうかりますから、おとこは、根気こんきよくさびしい北国ほっこく町々まちまちあるいていました。
宝石商 (新字新仮名) / 小川未明(著)
北国ほっこくの秋の祭——十月です。半ば頃、その祭に呼ばれて親類へ行った。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは、はるおそい、ゆきふか北国ほっこくはなしであります。あるのこと太郎たろうは、おじいさんのかえってくるのをっていました。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)
西洋の書物には無いそうで、日本にも珍らしかろう。書いたものには、ただ北国ほっこくの高山で、人跡の到らない処に在るというんだから、昔はまあ、仙人か神様ばかり眺めるものだと思った位だろうよ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
博士はかせは、へやへはいってきた小田おださんに、こんどの旅行りょこう北国ほっこくや、いろいろ経験けいけんしたことを、くわしくはなしました。
うずめられた鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
北国ほっこくにおいても、旅館の設備においては、第一と世に知られたこの武生のうちでも、その随一の旅館の娘で、二十六の年に、その頃の近国の知事のおもいものになりました……めかけとこそ言え、情深なさけぶかく、やさしいのを
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これから、この文句もんくは、なが北国ほっこくのこって、子供こどもたちが、いまでも夕焼ゆうやぞらると、そのうたをうたうのであります。
北の不思議な話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
気咎きとがめに、二日ばかり、手繰り寄せらるる思いをしながら、あえてくのをはばかったが——また不思議に北国ほっこくにも日和が続いた——三日めの同じ頃、魂がふッと墓を抜けて出ると、向うの桃に影もない。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
来年、この北国ほっこくの山や野が若々しい緑でおおわれて、早咲の山桜の花が散って、遠野に白いけむり棚曳たなびいて、桃の花が咲く時分にならなければ帰って来ない。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そりゃい、北国ほっこく一だろ。」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、何人なんぴとも、彼女かのじょくるしいむねのうちをるものがなかったのです。北国ほっこくの三がつは、まだゆきや、あられがって、雲行くもゆきがけわしかったのであります。
海のまぼろし (新字新仮名) / 小川未明(著)
くらばんに、北国ほっこくうみ航海こうかいするふねが、たまたまこのあたりをとおりますと、どこからともなく、わかおんなうたこえが、こえてくることがあるといいました。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そうかなあ、空気くうきんでいるんだね。」と、まだらない北国ほっこくをふしぎなところのようにおもうのでした。
さか立ち小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)