出向でむ)” の例文
むなくんば、あをそらしたと思つてゐたが、此天気ではそれも覚束なかつた。と云つて、平岡のいへ出向でむく気は始めからかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ものすごいとつては、濱野はまのさんが、家内かない一所いつしよなに罐詰くわんづめのものでもあるまいかと、四谷通よつやどほりはひつて出向でむいたときだつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
じつは、殿とのさまのご使用しようあそばされるちゃわんを、ねんねんれてつくってもらいたい。それがために出向でむいたのだ。
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)
ちっともはや返事へんじくて、帳場格子ちょうばこうしと二かいあいだを、九十九かよった挙句あげく、とうとう辛抱しんぼう出来できなくなったばっかりに、ここまで出向でむいて始末しまつさ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
おほせられました。その女官じよかんがさっそく竹取たけとりのおきないへ出向でむいて勅旨ちよくしべ、ぜひひめひたいといふと、おきなはかしこまつてそれをひめにとりつぎました。ところがひめ
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
一寸いつすん猶豫ゆうよもならぬとそれは/\にもかゝれぬだんじやうおまへにも料簡れうけんあることゝやうやうに言延いひのべてかへりますまでたのんではいたれどマアどうしたらからうか思案しあんしててくだされと小聲こごゑながらもおろ/\なみだあんじなされますなうにかなります今夜こんや大分だいぶけましたから明日あした早々さう/\出向でむきまして談合はなしあひを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けれどもかれ自身じしん家主やぬしたく出向でむいてそれをたゞ勇氣ゆうきたなかつた。間接かんせつにそれを御米およねふことはなほ出來できなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ぐわつすゑであつた。府下ふか澁谷しぶやへんある茶話會さわくわいがあつて、工學士こうがくしせきのぞむのに、わたしさそはれて一日あるひ出向でむいた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
座敷ざしきよといわれれば、三に一出向でむいてって、笑顔えがおのひとつもせねばならず、そのたびごとに、ああいやだ、こんな家業かぎょうはきょうはそうか、明日あすやめようかとおもうものの、さて未練みれん舞台ぶたい
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
牛込うしごめはうへは、隨分ずゐぶんしばらく不沙汰ぶさたをしてた。しばらくとふが幾年いくねんかにる。このあひだ、水上みなかみさんにさそはれて、神樂坂かぐらざか川鐵かはてつ鳥屋とりや)へ、晩御飯ばんごはんべに出向でむいた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
時間勵行じかんれいかう水上みなかみさんはまるうち會社くわいしやからすぐに出向でむく。元園町もとぞのちやう雪岱せつたいさんはさきから參會さんくわいと。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひとごみの避難所ひなんじよへすぐ出向でむいて、荷物にもつはこびをがたり/\やつたが、いゝまへになる。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とひよつこり、ひよこり、ひよつこりと歩行あるす……案山子かゝしどもの出向でむくのが、ほこらはうへ、雪枝ゆきえみち方角はうがくあたる。むかふをしてじやうぬま身投みなげにくのではいらしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
短躯小身たんくせうしんなりといへども、かうして新聞しんぶんから出向でむうへは、紋着もんつきはかまのたしなみはなくてなるまいが、ぱらつた年賀ねんがでなし、風呂敷包ふろしきつゝみ背負しよひもならずと、……ともだちはつべきもの
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御懇情ごこんじやうはもとよりでございますが、あなたは保勝会ほしようくわい代表だいへうなすつて、みづうみ景勝けいしよう顕揚けんようのために、御尽力ごじんりよくをなすつたので、わたしが、日日社にちにちしやより旅費りよひ頂戴ちやうだいおよんで、遥々はる/″\出向でむきましたのも
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
午飯おひるに、けんちんをべていた。——なつことだし、先生せんせい令夫人れいふじん心配しんぱいをなすつて、お實家方さとかたがお醫師いしやだから、玉章ふみいたゞいて出向でむくと、診察しんさつして、打傾うちかたむいて、また一封いつぷう返信へんしよさづけられた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またいつもかげかたちふやうな小笠原氏をがさはらしのゐなかつたのは、土地とち名物めいぶつとて、蕎麦切そばきり夕餉ゆふげ振舞ふるまひに、その用意ようい出向でむいたので、今頃いまごろは、して麺棒めんぼううでまくりをしてゐやうもれない。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またてく/\とぬま出向でむく、と一刷ひとはいたかすみうへへ、遠山とほやまみねよりたか引揚ひきあげた、四手よつでいてしづめたが、みちつてはかへられぬ獲物えものなれば、断念あきらめて、こひ黄金きんふなぎんでも、一向いつかうめず
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)