“出向(でむ)” の例文
已(や)むなくんば、蒼(あを)い空(そら)の下(した)と思つてゐたが、此天気では夫(それ)も覚束なかつた。と云つて、平岡の家(いへ)へ出向(でむ)く気は始めから無(な)かつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もの凄(すご)いと言(い)つては、濱野(はまの)さんが、家内(かない)と一所(いつしよ)に何(なに)か罐詰(くわんづめ)のものでもあるまいかと、四谷通(よつやどほり)へ夜(よ)に入(はひ)つて出向(でむ)いた時(とき)だつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
じつは、殿(との)さまのご使用(しよう)あそばされる茶(ちゃ)わんを、念(ねん)に念(ねん)を入(い)れて造(つく)ってもらいたい。それがために出向(でむ)いたのだ。
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)
ちっとも速(はや)く返事(へんじ)が聞(き)き度(た)くて、帳場格子(ちょうばこうし)と二階(かい)の間(あいだ)を、九十九度(ど)も通(かよ)った挙句(あげく)、とうとう辛抱(しんぼう)が出来(でき)なくなったばっかりに、ここまで出向(でむ)いて来(き)た始末(しまつ)さ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
と仰(おほ)せられました。その女官(じよかん)がさっそく竹取(たけと)りの翁(おきな)の家(いへ)に出向(でむ)いて勅旨(ちよくし)を述(の)べ、ぜひ姫(ひめ)に逢(あ)ひたいといふと、翁(おきな)はかしこまつてそれを姫(ひめ)にとりつぎました。ところが姫(ひめ)は
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
立(た)て一寸(いつすん)の猶豫(ゆうよ)もならぬとそれは/\畫(ゑ)にもかゝれぬ談(だん)じやうお前(まへ)にも料簡(れうけん)あることゝやうやうに言延(いひの)べて歸(かへ)ります迄(まで)と頼(たの)んでは置(お)いたれどマアどうしたら宜(よ)からうか思案(しあん)して見(み)てくだされと小聲(こごゑ)ながらもおろ/\涙(なみだ)お案(あん)じなされますな何(ど)うにかなります今夜(こんや)は大分(だいぶ)更(ふ)けましたから明日(あした)早々(さう/\)出向(でむ)きまして談合(はなしあ)ひを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けれども彼(かれ)は自身(じしん)に家主(やぬし)の宅(たく)へ出向(でむ)いてそれを聞(き)き糺(たゞ)す勇氣(ゆうき)を有(も)たなかつた。間接(かんせつ)にそれを御米(およね)に問(と)ふことは猶(なほ)出來(でき)なかつた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
六月(ぐわつ)の末(すゑ)であつた。府下(ふか)澁谷(しぶや)邊(へん)に或(ある)茶話會(さわくわい)があつて、斯(こ)の工學士(こうがくし)が其(そ)の席(せき)に臨(のぞ)むのに、私(わたし)は誘(さそ)はれて一日(あるひ)出向(でむ)いた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
お座敷(ざしき)よといわれれば、三度(ど)に一度(ど)は出向(でむ)いて行(い)って、笑顔(えがお)のひとつも見(み)せねばならず、そのたび毎(ごと)に、ああいやだ、こんな家業(かぎょう)はきょうは止(よ)そうか、明日(あす)やめようかと思(おも)うものの、さて未練(みれん)は舞台(ぶたい)。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
牛込(うしごめ)の方(はう)へは、隨分(ずゐぶん)しばらく不沙汰(ぶさた)をして居(ゐ)た。しばらくと言(い)ふが幾年(いくねん)かに成(な)る。このあひだ、水上(みなかみ)さんに誘(さそ)はれて、神樂坂(かぐらざか)の川鐵(かはてつ)(鳥屋(とりや))へ、晩御飯(ばんごはん)を食(た)べに出向(でむ)いた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
時間勵行(じかんれいかう)。水上(みなかみ)さんは丸(まる)の内(うち)の會社(くわいしや)からすぐに出向(でむ)く。元園町(もとぞのちやう)の雪岱(せつたい)さんは出(で)さきから參會(さんくわい)と。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
人(ひと)ごみの避難所(ひなんじよ)へすぐ出向(でむ)いて、荷物(にもつ)の持(も)ち運(はこ)びをがたり/\やつたが、いゝ立(た)て前(まへ)になる。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
とひよつこり、ひよこり、ひよつこりと歩行(ある)き出(だ)す……案山子(かゝし)どもの出向(でむ)くのが、祠(ほこら)の方(はう)へ、雪枝(ゆきえ)の来(き)た路(みち)の方角(はうがく)に当(あた)る。向(むか)ふを指(さ)して城(じやう)ヶ沼(ぬま)へ身投(みな)げに行(ゆ)くのでは無(な)いらしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
短躯小身(たんくせうしん)なりと雖(いへど)も、かうして新聞(しんぶん)から出向(でむ)く上(うへ)は、紋着(もんつき)と袴(はかま)のたしなみはなくてなるまいが、酔(よ)つ払(ぱら)つた年賀(ねんが)でなし、風呂敷包(ふろしきつゝみ)で背負(しよ)ひもならずと、……友(とも)だちは持(も)つべきもの
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
御懇情(ごこんじやう)はもとよりでございますが、あなたは保勝会(ほしようくわい)を代表(だいへう)なすつて、湖(みづうみ)の景勝(けいしよう)顕揚(けんよう)のために、御尽力(ごじんりよく)をなすつたので、私(わたし)が、日日社(にちにちしや)より旅費(りよひ)を頂戴(ちやうだい)に及(およ)んで、遥々(はる/″\)と出向(でむ)きましたのも
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
午飯(おひる)に、けんちんを食(た)べて吐(は)いた。——夏(なつ)の事(こと)だし、先生(せんせい)の令夫人(れいふじん)が心配(しんぱい)をなすつて、お實家方(さとかた)がお醫師(いしや)だから、玉章(ふみ)を頂(いたゞ)いて出向(でむ)くと、診察(しんさつ)して、打傾(うちかたむ)いて、又(また)一封(いつぷう)の返信(へんしよ)を授(さづ)けられた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
またいつも影(かげ)の形(かたち)に添(そ)ふやうな小笠原氏(をがさはらし)のゐなかつたのは、土地(とち)の名物(めいぶつ)とて、蕎麦切(そばきり)を夕餉(ゆふげ)の振舞(ふるまひ)に、その用意(ようい)に出向(でむ)いたので、今頃(いまごろ)は、手(て)を貸(か)して麺棒(めんぼう)に腕(うで)まくりをしてゐやうも知(し)れない。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
又(また)てく/\と沼(ぬま)へ出向(でむ)く、と一刷(ひとは)け刷(は)いた霞(かすみ)の上(うへ)へ、遠山(とほやま)の峰(みね)より高(たか)く引揚(ひきあ)げた、四手(よつで)を解(と)いて沈(しづ)めたが、何(ど)の道(みち)持(も)つては帰(かへ)られぬ獲物(えもの)なれば、断念(あきら)めて、鯉(こひ)が黄金(きん)で鮒(ふな)が銀(ぎん)でも、一向(いつかう)に気(き)に留(と)めず
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)