)” の例文
蛇嫌へびぎらいな南日君は股まで浸って上手の瀬を渉った。と所左手の屏風がへし折れて山裾からぼろぼろになった石の綿がはみ出していた。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ルンペンどもは前もって明智の逃げ道を察し、そこの出口にとかたまりになって、手に手に得物えものを持って待ち構えていたのである。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何しろと目見たいと云いますから、そんならばと云うので娘に話し、損料を借りて来る、湯に往って化粧おしまいをする、漸く出来上った。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たび書物以外に踏みだして実験をするという事になり、始めてありのままの自然に面するとなると、誠に厄介な事になって来る。
物理学実験の教授について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ここにも葛の葉がとかたまりになって茂っているところがあったが、その蔭から、異様な人物が、ヌーと姿を現したのであった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
併し、そんな事があったにも拘らず、横里鯨之進の矢留瀬苗子への接近は、同新聞社の耳目を驚かしたことはと通りではありません。
見ると二十五、六歳の遊び人ていの男が、刑吏に引きすえられ、イ……と数を読む青竹の下に、ビシビシなぐりつけられている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くちもうしたらその時分じぶんわたくしは、えかかった青松葉あおまつばが、プスプスとしろけむりたてくすぶっているような塩梅あんばいだったのでございます。
その印刷術もト通りは心得ておかねば不自由ダと思い、そこで神田錦町にあったひとつの石版印刷屋で一年程その印刷術稽古をした。
着けて、そうして口の内でくちゃくちゃやっていますね。あれじゃ蕎麦の味はないですよ。何でも、こう、としゃくいに引っ掛けてね
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
せめてと目なりとも本当のお顔をお見上げして、この世のお名残なごりに致したいというような、やる瀬のない思いに引き止められまして
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ト月過ぎタ月すぎてもこのうらみ綿々めんめんろう/\として、筑紫琴つくしごと習う隣家となりがうたう唱歌も我に引きくらべて絶ゆる事なく悲しきを、コロリン
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ト月ばかり経ったある晩、タツが銭湯に行こうとして出かかると、フイと、長屋の路地ろじをこっちへやってくる栗原の姿をみた。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
トしきり重吉のひざにもたれて笑っていたお千代は坐りなおって、「それさえ大丈夫なら安心だわ。楽しみ半分にいいじゃありませんか。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あかつきの四時か五時頃だったろう、障子の外がほんのりしらみ初めたと思ったら、どこかうしろの山の方で、不意にと声ほととぎすがいた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たびグレーの講義を聞くものは皆語学の範囲をえてその芸術的妙趣を感得し、露西亜文学の熱心なる信者とならずにはいられなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「ハヽヽヽヽ」と剛造はときは高笑ひ「商売にしてからが、矢ツ張り忠君愛国と言つたやうな流行の看板をけて行くのサ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そして、向う岸に立つてゐるもと太いアカダモの高木を、自分の札幌以來外部的にもます/\育ちあがつた姿と仰いで見た。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
若狭のと塩、石狩の新巻、あるいは燕巣えんそう、あるいは銀耳、鵞鳥がちょうの肝、キャビア、まあそんなもののうまさに似た程度のうまさであるならば
河豚食わぬ非常識 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
また、その人々のうちには、あの時いっそと思いに死んだ方がしであったなどと思った人もないとはいえない。世にいたましいことである。
九月四日 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分の悪い事をおおやけにするは余り面白くもないが、正味しょうみを言わねば事実談にならぬから、ト通り幼少以来の飲酒の歴史を語りましょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私はこれからゆっくりといきして、ゆるやかに神気を養い、更に私の画業の楽しみをつづけてゆこうかと考えています。
坊主頭は大きく頷首うなずいた。湯水の音がとしきり話しを消す。助五郎は軽石を探すような様子をしてふいと立ち上った。二人の遣り取りが続く。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「どなた!」と、まだ聞いたことのない卵のように円いなまめかしい声で呼ばれると、慌てて門へけ出しながら、ほっいきつくのであった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「ぐず/\いうこたァねえ。——日暮里を来すぎたら、こゝまで来たんだ、もう呼吸いきして田端へ出りゃァいゝ。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
そして些と娘の方を見て、「ですから私等も、とつ頃は可成かなりに暮してゐたものなんですが、此う落魄おちぶれちやくそですね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
すると妙な口つきをしてくちびるを動かしていましたが、急に両手を開いて指を折ってと読んでとう、十一と飛ばし、顔をあげてまじめに
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
何処どこなにして歩いたものか、それともじっとところ立止たちどまっていたものか、道にしたらわずかに三四ちょうのところだが、そこを徘徊はいかいしていたものらしい。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
横浜へ来てから、さんざん着きってしまった子供の衣類や、古片ふるぎれ我楽多がらくたのような物がまたこおりも二タ梱も殖えた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さて、この村からすじ浄法寺じょうほうじへとぬける街道がある。今でもそうだが、多くの者がわんだとか片口かたくちだとか木皿だとかをになって市日いちびへと出かけてゆく。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
自分がいつも燐寸マッチを探す場所、燐寸マッチの燐がもえる瞬間にちらッと部屋のなかに放たれる最初の一瞥、——そうしたことが、窓からと思いに飛び降りて
わたり四方を見まわしておいて、まっすぐに宿へ帰ると、給仕にちょっとからだをささえられながら階段を登って、さっさと自分の部屋へ入ってしまった。
大方は雨漏に朽ち腐れて、柱ばかり参差しんしと立ち、畳は破れ天井裂け、戸障子も無き部屋どもの、昔はさこそとしのばるるがいと数うるにえず。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
学年始めの式の朝登校すると、控所でかたまりになつて誰かれの成績を批評し合つてゐた中の一人が、私を弥次やじると即座に、一同はわつと声をそろへて笑つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
たとひ草菴樹下そうあんじゅげにてもあれ、法門の一句をも思量し、ときの坐禅をもぎょうぜんこそ、誠の仏法興隆にてあらめ。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ギンはがっかりして、もうおうちへかえろうと思いました。すると、ふいにとむれの牛が湖水の中からうき上って、のこのことこちらへ向って歩いて来ました。
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
その指をかぞへるに「一イ二ウ三イ」とやらず「に」とゆくのも、へんに可笑しかつた。
初代桂春団治研究 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
なにごとにもすぢなる乙女氣をとめぎには無理むりならねど、さりとはなげかはしきまよひなり、かくしたしくひてしたしくかたりて、いさむべきはいさなぐさむべきはなぐさめてやりたし
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そしてわずかと月ほどの間に、あの療養地のN海岸で偶然にも、K君と相識ったというような、一面識もない私にお手紙をくださるようになったのだと思います。
Kの昇天:或はKの溺死 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
ほとんどくちくことも出來できませんでした、やつとのことで左手ゆんでかけすこしばかりみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
って行く。あしが地になずんで、うごきするごとに痛さはこらえきれないほど。うんうんという唸声うめきごえ、それがやがて泣声になるけれど、それにもめげずにって行く。やッと這付はいつく。
そののちさいわつきばかりは何の変事もおこらなかった、がさすがにその当座は夜分便所に行く事だけは出来なかった、そのうち時日じじつったし職務上種々しゅじゅな事があったので
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
「ところで昨夜のことは何も知らないと仰言る——では、一体何う云うわけでと晩の中に髪の毛がそんなに真白になったのですね?」しかしミラは一ごんも答えなかった。
目撃者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それで發掘場はつくつばめぐりしてると、珍把手ちんとつて珍破片ちんはへんすくなからずなかに、大々土瓶だい/″\どびん口邊こうへんの、もつと複雜ふくざつなる破片はへんる。完全くわんぜんつたら懸價無かけねなしの天下てんかぴんだ。
この輩のごときは、かかる多事紛雑たじふんざつの際に何か仕事しごとしてあたかも一杯の酒をればみずからこれを愉快ゆかいとするものにして、ただ当人銘々めいめい好事心こうずしんより出でたるに過ぎず。
挑戦の面白味もきわ増して来るのと、読者の側になんとなく落着いた気分が与えられて来るのとでその挿入が甚だ時宜を得ており、非常に効果的であると思って感心した。
今のみつともない手ちがひが、彼の頭の中をあつさりと掻き掻き廻したのである。時々、ウウと低い唸り声を発した。自分が怒つたそも/\の原因は、もう忘れてしまつた。
四人 (新字旧仮名) / 芥川多加志(著)
彼は、ミキサーに引いてあるゴムホースの水で、ず顔や手を洗った。そして弁当箱を首に巻きつけて、一杯飲んで食うことを専門に考えながら、彼の長屋へ帰って行った。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
仮令たとひ良人にゆるし難き大失策があつても、基督の精神を以て其の罪をゆるす、と夫人の理想はまア出たいのであるが、かゝへあれど柳は柳哉、幾程いくら基督の精神を持つてゐる令夫人でも
未亡人と人道問題 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
私のお話し申すとおりお聞きなすつて下さいまし、これまでもあなた様へこそ御無心を