驚破すわ)” の例文
……加うるに、紫玉がかついだ装束は、貴重なる宝物ほうもつであるから、驚破すわと言わばさし掛けて濡らすまいための、鎌倉殿の内意であった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、誰も居ぬ留守に、一寸ちょっとらッしゃいよ、と手招ぎされて、驚破すわこそと思う拍子に、自然と体の震い出したのは、即ち武者震いだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それはまるで、驚破すわという一瞬が、無事におさまったことを祝福するかのような、いかにものどかな声であったが、おそらく誰も気がつかなかったであろう。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
驚破すわといわば、スグその指の下の紐釦ボタンを押さんばかりの姿勢であった。紐釦を押せば、たちまち階下から小間使なり、女中なりが駈け上って来るのは必定であった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
驚破すわ、このへんでいよいよ仏独戦争が始まったのに違いない。地球の向う側から、はるばる欧羅巴ヨーロッパくんだりまでやって来て、流れだまに当って討ち死にするのはいかにも残念。
夜半に中村屋の煙突から火の子が出たのを見て、誰しもこの折柄で昂奮していて、驚破すわまた火事よと駆けつけ『何だ中村屋か、人騒がせをしやがる』と腹を立てた人もあった。
これを見た大手先おおてさきの大小名の家来けらいは、驚破すわ、殿中に椿事ちんじがあったと云うので、立ち騒ぐ事が一通りでない。何度目付衆が出て、制しても、すぐまた、海嘯つなみのように、押し返して来る。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……加ふるに、紫玉がかついだ装束は、貴重なる宝物ほうもつであるから、驚破すわと言はばさし掛けてらすまいための、鎌倉殿の内意ないいであつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ただ驚破すわといえば、いつなん時でもスグに相手を倒すことのできる武器を身に付けている、ということがさっきからの疎通口はけぐちを失ってムシャクシャした気持の中へ
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
と同時に牛飼うしかい童部わらべを始め、御供の雑色ぞうしきたちは余りの事に、魂も消えるかと思ったのでございましょう。驚破すわと云う間もなく、さんを乱して、元来た方へ一散に逃げ出してしまいました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
部屋の前を通越とおりこして台所へ行くか、それとも万一ひょっと障子がくかと、成行なりゆきを待つの一ぷんに心の臓を縮めていると、驚破すわ、障子がガタガタと……きかけて、グッとつかえたのを其儘にして
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と一声高く、頭がちに一しつ。驚破すわと謂わば飛蒐とびかからんず、気勢きおい激しき軍夫等を一わたりずらりと見渡し、その眼を看護員に睨返ねめかえして
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女主人の制止に、仕方がないとあきらめたように、犬はウウッーと喉音こうおんを立てながら、後退あとずさりして行きました。が、驚破すわといえばまだ躍りかからんばかりの、すさまじい形相です。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
と一声高く、頭がちに一呵いっかしつ。驚破すわといはば飛蒐とびかからむず、気勢きおい激しき軍夫らを一わたりずらりと見渡し、その眼を看護員に睨返ねめかえして
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
前には八蔵驚破すわといわばと、手ぐすね引きて待懸けたり。うしろには銀平が手も無く得右衛門に一杯くわして、奪い行かむとはかりたり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
倶利伽羅を仰ぐと早や、名だたる古戦場の面影が眉に迫って、驚破すわ、松風も鯨波ときの声、山の緑も草摺くさずりを揺り揃えたる数万すまん軍兵ぐんぴょう
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先刻、あのさわぎの時は、帳場に坐っておりましたが、驚破すわというと、ただかっといたして、もうそれが、の底だか、天上だか分りません。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
跫音きようおんみだれて、スツ/\とれつゝ、ひゞきつゝ、駅員えきゐん驚破すわことありげなかほふたつ、帽子ぼうしかたひさしめて、そのまどをむづかしく覗込のぞきこむだ。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
眉も胸もなごやかになった。が、ここへ来てたたずむまで、銑吉は実は瞳を据え、唇をめて、驚破すわといわばの気構きがまえをしたのである。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大船、おおふなと申す……驚破すわや乗越す、京へ上るわ、とあわただしゅう帯を直し、棚の包を引抱ひんだいて、洋傘こうもり取るが据眼すえまなこ、きょろついて戸を出ました。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
波やや高く、風加わり、たちまち霧しぶき立つと見れば、船頭たち、驚破すわ白山よりおろすとて、巻落す帆の、きしむ音骨を裂く。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
驚破すわといふ時、綿わたすじ射切いきつたら、胸に不及およばず咽喉のんど不及およばずたまえて媼はただ一個いっこ朽木くちきの像にならうも知れぬ。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「先生方にはただの木の面形めんがたでござれども、現にてまえが試みました。驚破すわとある時、この目を通して何事も御覧が宜しい。さあ、お持ちなさるよう。」
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真砂町、と聞返すとひとしく、きっとその座に目を注いだが、驚破すわわば身をもって、影をも守らん意気組であった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さてはいかなる医学士も、驚破すわという場合に望みては、さすがに懸念のなからんやと、予は同情をひょうしたりき。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幼いものは、驚破すわというと自分の目を先にふさぐのであるから、敵の動静はよくも認めず、血迷ってただはしゃぐ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
驚破すわ、驚破、その短銃たんづつという煙草入を意気込んで持直した、いざとなると、やっぱり、辻町が敵なのか。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
這奴しゃつ等が群り居た、土間の雨に、引挘ひきむしられたきぬあやを、驚破すわや、蹂躙ふみにじられた美しいひとかと見ると、帯ばかり、扱帯しごきばかり、花片はなびらばかり、葉ばかりぞ乱れたる。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
横薙よこなぎやいばが抜けると、そのもの、長髪をざっとさばく。驚破すわ天窓あたまから押潰おしつぶすよと、思うにず、二丈ふたたけばかりの仙人先生、ぐしゃとひしげて、ぴしゃりとのめずる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
来て、途中頭の上の火事に慌てながら、驚破すわや見舞、と駆込んで、台所口へ廻ったのが、赤熊と一足違い。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
驚破すわ、そのまぎれに、見物の群集ぐんじゅの中から、頃合ころあいなものを引攫ひきさらつて、空からストンと、怪我けがをせぬやうにおといた。が、丁度ちょうど西の丸の太鼓櫓たいこやぐらの下の空地だ、真昼間まっぴるま
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
驚破すわやとって行き見れば、この時しも得三が犠牲いけにえを手玉に取りて、いきみ殺しみなぶりおれる処なりし。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
驚破すわといへば、おとさんず心もせ、はじめの一念いちねんく忘れて、にありといふ古社ふるやしろ、其のあやしみを聞かうともせず、のあたりに車を廻すあからさまなおうなの形も
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
恐らく驚破すわといって跳ね起きて、別荘中、上を下へ騒いだ中に、襯衣を着けて一つ一つそのこはぜを掛けたくらい、落着いていたものは、この人物ばかりであろう。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
怪しと思いて立ち帰り人に語る。驚破すわとて、さそいつれ行きて見るに、女同じ処にあり。容易たやすわたるべきにあらざれば、ただゆびさして打騒ぐ。かかる事二日三日になりぬ。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
驚破すわ、この時、われは目をねむりて、まっしぐらにその手元に衝入つきいりしが、膝を敷いて茫然たりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
糸七は、南瓜の葉をかぶらんばかり、驚破すわといえば躍越えて遁げるつもりの植木屋の竹垣について、すすきの根にかくれて、蝦蟇がまのようにしゃがんで、遁げた抜けがらの巣を——うかがえば——
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
要こそあれと身を翻して、早くも洞中に潜むとともに、ともしびの主は間近に来りぬ。一個の婦人なり。予は燈影を見しはじめより、今夜こよい満願に当るべき咒詛主の、驚破すわや来ると思いしなりき。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気が気でないのは、時がおくれて驚破すわと言ったら、赤い実を吸え、と言ったは心細い——一時半時いっときはんじを争うんだ。もし、ひょんな事があるとすると——どう思う、どう思う、源助、考慮かんがえは。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立花はめず、おくせず、驚破すわといわば、手釦てぼたん、襟飾を隠して、あらゆるものを見ないでおこうと、胸を据えて、しずか女童めのわらわに従うと、空はらはらと星になったは、雲の切れたのではない。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
居ずまいの乱るるはだに、くれない点滴したたりは、血でない、蛍の首でした。が、筆は我ながらメスより鋭く、双の乳房を、驚破すわ切落したように、立てていた片膝なり、思わず、どうと尻もちをいた。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、縄目は見る目に忍びないから、きぬを掛けたこのまま、留南奇とめきく、絵で見た伏籠ふせごを念じながら、もろ手を、ずかと袖裏へ。驚破すわ、ほんのりと、暖い。ぶんと薫った、石の肌のやわらかさ。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御出入おでいりの商人、職人、盆栽のお見出しに預りたる植木屋までが、驚破すわ鎌倉とはせ参じ、玄関狭しと詰懸け詰懸け、一夜ひとよ眠らで明くる頃、門内へ引込みたる母衣懸ほろがけの人力車、彼はと見れば
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
湯宿々々に埋伏まいふくして、妖鬼ようきごとを圧したが、日金颪に気候の激変、時こそ来たれと万弩まんど一発、驚破すわ! 鎌倉の声とともに、十方から呼吸を合はせ、七転八倒のさわぎに紛れて、妻子珍宝つかみ次第。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……いきおいはさりながら、ものすごいくらい庭の雨戸を圧して、ばさばさ鉢前の南天まで押寄せた敵に対して、驚破すわや、かかれと、木戸を開いて切ってづべき矢種はないので、逸雄はやりおの面々歯噛はがみをしながら
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
驚破すわけだものか、人間か。いずれこの邸を踏倒そう屋根住居ずまいしてござる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
這奴しゃつ窓硝子まどがらす小春日こはるび日向ひなたにしろじろと、光沢つやただよわして、怪しく光って、ト構えたていが、何事をか企謀たくらんでいそうで、その企謀たくらみの整うと同時に、驚破すわ事を、仕出来しでかしそうでならなかったのである。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雷鳴に、ほとんいなんとした人々の耳に、驚破すわや、天地一つの声。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が海をいだいた出崎の隅だけ朗かな青空……でも、何だか、もう一ぬぐぬぐいを掛けたいように底が澄まず、ちょうど海のはてと思う処に、あるかなし墨を引いたくもりわたって、驚破すわと云うとずんずん押出して
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
驚破すわ泳ぐ、とその時、池川の縁側では大勢が喝采した。——
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)