よろ)” の例文
鉄甲によろわれた氷の皮膚の下にも、やはり親の血は熱くたぎっているのだ。そうさとると、郎党の金王丸もまた、鎌田正清につづいて
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
焚火の前には彼より先に熊の胴服を寛々と着て小手こて脛当すねあてで身をよろった、頬髯ほおひげの黒い、総髪の一人の荒武者が腰かけていたが、数馬
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひさしはずれにのぞいただけで、影さす程にはあらねども、と見れば尊き光かな、裸身はだみに颯と白銀しろがねよろったように二の腕あたりあおずんだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さうして引きさかれた眠りを顏に浮べながら、誰もかも半ばよろひ、半ば裸かのまま、部屋から部屋へ、よくから翼へと駈けめぐり、階段を搜してゐた。
けれどもその人は模造の革でこしらえて、その表面にエナメルを塗り、指ではじくとぱかぱかと味気ない音のする皮膚でもって急によろわれ出した気がするのです。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そんなものをよろって、風に吹かれる案山子かかしのように、安定を欠いた身体からだが、壇の上に、フラフラして居るのです。
かく身体はいかめしくよろっているのに、頭は法体で、面目が崩れている。お銀様としても、それを、崩れているとよりほかは見ようがありませんでした。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しひの木の姿は美しい。幹や枝はどんな線にも大きい底力を示してゐる。その上枝をよろつた葉も鋼鉄のやうに光つてゐる。この葉は露霜つゆじもも落すことは出来ない。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
堅くよろった筈の心の、ごく狭い弱味を誤たずねらって、何故それらは鋭い刃を立てて来ようとするのか。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
イエスはこの祈りに身をよろうて、神の国のため最後の一戦に臨み給うているのです。弟子たる者同じく信仰の武具を執って、師のあとに続かなければならぬではありませんか。
そのとき彼は遠い森のなかの谷あいで、氷雪によろった自然に立ち向かっているのである。彼は夜明けの明星とともにやっと彼のうまやに帰るが、そのまま休みも眠りもしないでふたたび旅立つ。
耳をろうするばかりの轟々ごうごうたるエンジンの地響を打たせ、威風堂々と乗り込み来たったのは、豪猪やまあらしの如き鋭いとげうごめかす巨大なる野生仙人掌さぼてんをもって、全身隙間なくよろいたる一台の植物性大戦車タンク
いつも雪のように白くなっている、それも胸から以下は、隙き間もないように青い木をよろっていて、麓には川楊の森林が、みどりの葉を、川のおもてにさばいている、梓川は温泉宿の前まで来るうちに
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
わたくしは飛石は庭をよろうているものであることを熟々つくづく感じている。
庭をつくる人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
見ればよろへる神の子の
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
世はまさにさかしまである。よろうた御林の兵(近衛軍)は大将の郗慮ちりょを先頭に禁園犯すべからざる所まで、無造作になだれこんで行った。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乳のふくらみを卓子テエブルに近く寄せて朗かに莞爾にっこりした。そのよそおい四辺あたりを払って、泰西の物語に聞く、少年の騎士ナイトさわやかよろったようだ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
危険がって止める冬次郎や熊太郎、二人の言葉を笑って排し、必ず田沼の寝首掻こうと、忍び姿に身をよろい、今来かかったところなのであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けれどもその人は模造の革でこしらへて、その表面にヱナメルを塗り、指ではじくとぱか/\と味気ない音のする皮膚で以て急によろはれ出した気がするのです。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
黒木長者の雇人が二三十人、木刀や手槍てやりまで持出して、地蔵様を屋敷内に移そうとすると、土地の人は、くわ、鎌、竹槍でよろって、そうはさせねえという騒ぎ。
荒あらしい木の皮によろわれた幹は何も始めは現していない。が、次第にその上に世界に君臨した神々の顔が一つずつ鮮かに浮んで来る。最後には受難の基督キリストの顔。
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二人の巨男おおおとこを見るに、結髪を黄色の布で包んでいるし、胴には鉄甲をよろい、脚には獣皮の靴をはき、腰には大剣を横たえている。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤地あかぢ蜀紅しよくこうなんど錦襴きんらん直垂ひたゝれうへへ、草摺くさずりいて、さつく/\とよろふがごと繰擴くりひろがつて、ひとおもかげ立昇たちのぼる、遠近をちこち夕煙ゆふけむりは、むらさきめて裾濃すそごなびく。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
千年も経たかと思われるような、二かかえから三抱えもある、杉やひのきかしの巨木で、あたりは隙なくよろわれていて、空など蒼い帯のようであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黒木長者の雇人が二、三十人、木刀や手槍まで持出して、地藏樣を屋敷内に移さうとすると、土地の人は、くは、鎌、竹槍でよろつて、さうはさせねえと言ふ騷ぎ。
口論や、なぐり合いは、日常茶飯事であるし、何か事ある時は、身をよろい、武器をひっさげて、戦をもする当時の僧であった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういいながら平八は、再び堤を横切って、元いた方へ引き返したが、巨大な一本の桜の古木が、雪をよろって立っている根もとへ、一閑斎を案内した。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と見るとしゃちに似て、彼が城の天守に金銀をよろった諸侯なるに対して、これは赤合羽あかがっぱまとった下郎が、蒼黒あおぐろい魚身を、血に底光りしつつ、ずしずしと揺られていた。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
役者のこしらえを話さなくちゃ、筋の通しようはないじゃありませんか、——そのちょいと伝法でんぽうなのが、滅法界野暮ったい武家風の刺繍ししゅう沢山なお振袖か何かよろって、横っ坐りになって
ところが、討ちとった馬を調べてみたら、馬の一頭一頭、その全身は細かい網鎖あみぐさりでつつまれ、すべてひづめのほかはよろわれておる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは毎年の慣例しきたりで七月十五日の早朝あさまだきにご神体の幕屋まくやがひらかれるのである。そうして黄金の甲冑かっちゅうで体をよろった宗介様を一同謹んで拝するのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
亀井かめい片岡かたおか鷲尾わしのお、四天王の松は、畑中はたなかあぜ四処よところに、雲をよろい、繇糸ゆるぎいとの風を浴びつつ、あるものは粛々しゅくしゅくとして衣河ころもがわに枝をそびやかし、あるものは恋々れんれんとして、高館たかだちこずえを伏せたのが
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「俺と一緒に來るがいゝ。毬栗いがぐりは嚴重によろつてゐても、剥きやうがあるものだ」
しかもその先頭には、法衣ころも姿に腹巻をよろった大きな和尚が、戒刀かいとうき、禅杖ぜんじょうを掻い込み眼のさめるような白馬にまたがって来るのであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取り付けてある鋼鉄はがねの環、それとて尋常なものではない、無数の鋭い金属性の棘で、よろわれたところの環である。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さっと揺れ、ぱっと散って、星一ツ一ツ鳴るかとばかり、白銀しろがね黄金こがね、水晶、珊瑚珠さんごじゅ透間すきまもなくよろうたるが、月に照添うに露たがわず、されば冥土よみじの色ならず、真珠のながれを渡ると覚えて
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「俺と一緒に来るがいい。毬栗いがぐりは厳重によろっていても、きようがあるものだ」
畜生を相手とするのはかなしいが一戦もぜひあるまい。尊氏もよろってとう。なんじ師直、よく我に一矢いっしを放ッてみせ得るか
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
厳重に雨戸でよろわれている。そこは怪盗七福神組だ。そこまで素早く走ったが、神妙を極めた潜行ぶりで、葉擦れの音も立てなければ、足音一つ立てなかった。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しずくを帯びて、人待石——巨石の割目に茂った、露草の花、たでくれないも、ここに腰掛けたという判官のその山伏の姿よりは、さわやかによろうたる、色よき縅毛おどしげを思わせて、黄金こがねの太刀も草摺くさずりも鳴るよ
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
話さなくちや、筋の通しやうはないぢやありませんか、——そのちよいと傳法なのが滅法界野暮つ度い、武家風の刺繍ししう澤山なお振袖か何んかよろつて、横つ坐りになつて、繪草紙か何んか讀んでゐるんだから、親分の前だが——
「うむ。まずよろうたる武者つわもの、七々四十九人を選び、みなくろき旗を持ち、みな皁きころもを着て、いのりの帳外を守護せしめい」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
破れ雨戸でビッシリよろわれ、屋内は黄昏たそがれのように暗かったが、一枚だけが開いていて、明るい春の正午の陽があふれるようにみなぎっている、庭の景色が眺められた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
驚破すは秋草あきぐさに、あやかしのついてさふらふぞ、と身構みがまへしたるほどこそあれ、安下宿やすげしゆくむすめ書生しよせいとして、出來合できあひらしき夫婦ふうふきたりしが、當歳たうさいばかりの嬰兒あかんぼを、をとこが、小手こてのやうにしろシヤツをよろへる
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かれは、従えて来た扈従こじゅうの武者群を、左右にひらかせ、その中央に、武威ぶいをこらした盛装せいそうよろわれた自身を置き——きっと、此方こなたを見まもっていた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
塀外の木立ちと高い厚い土塀と、そうして内側のこの植え込みとで、こう厳重によろわれたんでは、屋敷内で何を企てようと、外からは見えもしなければ聞こえもしない。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あとはどう来たか、こわい姿、すごい者の路をさえぎってあらわるるたびに、娘は私を背後うしろかばうて、その鎌を差翳さしかざし、すっくと立つと、よろうた姫神ひめがみのように頼母たのもしいにつけ、雲の消えるように路が開けてずんずんと。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっともっと大きなものすら踏み越えてゆく決心なのだ、女々めめしくてはこれからの万難の一つも越えられまいと、自身を叱って自身の心をかたくよろう。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして屈強な若者ばかりが、手に手に弓矢をひっ掴み、籠手こて脛当すねあてで身をよろい、往来を縦横に駆け廻わりながら、顔を空の方へ振り向け振り向け、こう口々に叫んでいる。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いづれ美人びじんにはえんなき衆生しゆじやうそれうれしく、外廓そとぐるわみぎに、やがてちひさき鳥居とりゐくゞれば、まる石垣いしがききふたかく、したたちまほりふかく、みづはやゝれたりといへども、枯蘆かれあしかやたぐひ細路ほそみちをかけて、しもよろ
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)